第54問
「さて、行くぞ。明久、ムッツリーニ」
俺がそう言って立ち上がると明久とムッツリーニは
「OK。覗きだね」
「……任せておけ」
覗きに行くものだと思っている馬鹿2人の頭を思いっきり殴りつける
「馬鹿か!魔王を覗くと言うことが死に直結するとわからんのか!」
「……そうだね。僕はまだ死にたくないや」
「……俺も」
しょぼんとする2人に
「では試験用紙を奪取する。そして女子と同じ部屋にならないように尽力するぞ」
俺は翔子に、ムッツリーニは工藤に、明久は島田と姫路と秀吉に狙われている、誰と同じ部屋になっても死に直面する事態にしかならない。だからそれを防ぐ為に行動しよう」
死にたくない2人は俺の提案を受け入れた。誰だって死にたくは無いのでこれは当然だ
「「了解」」
そうして俺達は翔子の部屋へと向かったその途中で
『上手く行けば明久君を……』
『雄二を……』
『ふふふふ……虐めるのも楽しいよね……』
『いけない。明久は私が護らないと』
『龍也さんが居ないもんなぁ』
『正直面白くないよね』
『黙れ、死ね。私の兄ちゃんに色目使うな』
『兄貴に近付くんじゃねえよ。ぶっ潰すぞ』
『ブラコンは醜いですよ。狸にチビ』
黒いオーラを身に纏った翔子たちがにやりと笑いながら歩いていくのと殺伐とした雰囲気でお互いに睨み合うはやて達を見た。明久とムッツリーニは
「僕、今心底怖いと思ってる」
「俺も怖い」
「だろうな。俺も怖いよ」
あの魔王達の思考回路なら学生とかそんなのを無視して己の欲望に忠実に動く。それが判り俺達は恐怖に身を竦めながら翔子の部屋に向かって再度歩き出した
「よし。中に入るぞ」
翔子の部屋の戸のノブを捻るがあかない。っちあのやろう部屋に鍵してやがる
「ムッツリーニ。行けるか?」
「……30秒で行ける」
ムッツリーニは針金でピッキングを始め。宣言通りぴったり30秒で鍵を開けた
「広いね」
部屋に入った明久達が絶句する。翔子の部屋は異様に広く2、30畳はある。明久とムッツリーニを誘ったのは俺一人では調べきれないと判っていたからだ
「俺は机のほうを見る。明久は向こうの棚、ムッツリーニは入り口のほうから頼む。良いか?時間は無いキビキビ行こう」
そう言って俺達は別れ問題を探し始めた
「机の中か?どこだ?」
翔子が隠してそうな場所を探していると明久が
「あのさあ。雄二白魔術勉強しておいたほうが良いと思う。何か黒魔術入門・黒魔術応用編・悪魔降臨術とかヤバゲな本が多数並んでる」
「知ってる。あいつ最近どんどんおかしなほうに進んでるから」
魔王との接触は翔子に確実に悪い影響を与えているのは間違いない。はぁっと溜め息を吐いてふと壁を見るそこには
「こ、婚姻届!?こんな所に隠してやがったのか!」
翔子に無理やりサインさせられた婚姻届を見つけた俺は何とかそれを奪おうとしたが。ガラスでコーティンぐされており何か道具が無いと無理そうだ
「くそ!こんな時龍也が居れば」
龍也ならこれを破壊できるのに……だが居ない人間の事を考えていても仕方ない。何とか自力での破壊を試みていると
「あのさぁ?試験問題は無いよ?」
!?その突然の第3者の声に振り返るとそこにはフェイトが呆れたように頭に手をおき立っていた
「雄二なら奪いに来るとか言ってお風呂場まで持って行ってたから」
「くっ!?俺の考えを完全に読んでやがったのか!?」
「そうみたいだねぇ?まぁ私は龍也が居ないから正直そんなのはどうでもいいんだけどさ」
からからと笑うフェイトはそのまま廊下を指差し
「もう直ぐはやてとヴィータが出てくるから早く戻らないと殺されるよ?もう20分ほど経ってるしね?」
!?そんなに時間が経っていたのか!不味い殺戮部隊が戻る前に撤退しなけば
「雄二!大変だムッツリーニが血の海に沈んでる!」
「ええい!こんな時まで奴の興味はエロだけか!?ええい!俺が担ぐお前は先に行け!」
明久が見つかるのは非常に不味い。島田達が即座にリミッターを外しかねないからだ。だからその前にと明久を逃がす。部屋を飛び出した明久がそのまま廊下を走っていくのを見ながら。ムッツリーニを肩に担ぎ後を追っていると
「え?」
「え?」
丁度廊下を曲がってきた島田と鉢合わせになる明久、勢いのついていた明久は直ぐに止まれず驚いている島田とぶつかる
「あいたたた……ご、ごめん美波」
頭を振る明久だったが次の瞬間、顔がぼっと真っ赤に染まる
「あの……流石にこういうのは恥かしい」
明久がちょうど島田を押し倒したような格好になり。その右手は島田の胸を鷲掴みにしている。それを見た俺は
(さらば明久、生きていればまた会おう)
丁度運悪く姫路と秀吉がその明久を凝視している。そして徐々に魔王のオーラを纏い始めている
「あの……ウチは別にいいけど……こう言うのは出来れば誰もいない場所でもっと雰囲気を作ってからにして欲しい……」
「違う!これは事故!事故なんだよ!美波!」
「事故でもいいよ。アキ」
「駄目だ!トリップしてる!僕の話聞いてない!?はっ!?姫路さん……秀吉?」
明久の肩を姫路と秀吉が鷲掴みにし自分達の方を向かせる
「明久君?……しっかりじっくり1回話し合いましょう」
「明久?……何か言いたい事は?」
「弁明の機会を下さい」
「「駄目♪」」
「待って!アキをどうするつもり?」
「「お話する」」
「させないんだから!」
「痛い!痛い身体がちぎれる!?」
左腕を島田に、右腕を姫路と秀吉に掴まれ悲鳴を上げる、明久
「くっ……このお……」
「手を離せ……島田」
「自分だけいい思いなんて許しませんよ。美波ちゃん」
ぐぐぐと渾身の力で引っ張り合う姫路達だったが
メキョッ!!ポキョッ!!!
「!?!?!?」
鈍い音と共に明久が声にならない悲鳴を上げる。恐らく両腕の関節が外れたからだろう
「ああああ!?ご、ごめん!明久!大丈夫!?」
「美波ちゃんのせいですよ!手を離さないから!」
「ウチのせいじゃないわよ!!」
ギャーギャーと喚く姫路達を横目に部屋まで逃げ帰ろうと振り返ったら
「……逃がさない。雄二」
翔子が釘バットを持って立っていた
「乙女の部屋に入るなんて許せない……だからお話」
「いやに決まってんだろ!俺はまだ死にたくない!!」
逃げようにも退路を絶たれている俺はその場で数歩後退しただけだった
「代表、ムッツリーニ君は僕に頂戴」
「……良いよ。私が欲しいのは雄二だから」
ちくしょうこうなっら
「欲しけりゃくれてやる!!」
ムッツリーニを翔子と工藤に投げつける
「ラッキー♪」
「前が!?」
嬉しそうにムッツリーニをキャッチする工藤と視界を遮られた翔子。2人が後退した事で出来た隙間を強行突破しようとするが
「……雄二だけ逃がすものか!」
「ムッツリーニ!」
目を覚ましたムッツリーニに服をつかまれ逃亡失敗する
「お前も地獄に落ちろ」
「うふふ……ムッツリーニ君に待ってるのは地獄じゃないよ~」
ぎゅううと抱き枕状態のムッツリーニは凄まじい勢いで鼻血を噴出しながらも俺の服を放さなかった
「ふふふ。話をしようね?雄二?」
「あああ……ま、待て!やめ……ぎゃあああああッ!?!?」
お話と言う名の暴行を受けた俺の記憶はここで途絶えた……
「うーん。見てる分には面白いな」
「うん、それは私も同意見」
殺戮現場になりつつある廊下を見ながら笑うはやて達。魔王はこの程度では動じないのである
「死ぬかと思った」
「……俺はもう死が決定しているが……やはり怖い」
暴行開始5分程ではやてが止めに入ってくれたおかげで何とか命は取り留めた。更に俺達が瀕死なのを考慮しテストは中止。男子と女子に別れ眠りに着く事になった、上手く翔子達を止めてくれたのには感謝するが。もっと早く止めて欲しかったと思いながら傷の手当てをしていると
「……」
明久が青い顔で時計を見ている。俺は翔子の部屋の婚姻届を奪い。明久は明久で女子部屋に返さなければならないものがあるとかで。寝静まったところで潜入する予定なのだが。まだそんなに時間が立っていないのに。何をそんな青褪めた顔をしてるのか気になり
「なんだ?どうした?」
そのあまりの青褪めようが気になりそう尋ねると明久は
「いま。女子の部屋には魔王が5人……僕はいま美波達が魔王に毒される事を恐れてる」
その言葉で俺達は震え始めたそうだった前の泊りがけの勉強の時に翔子たちは魔王化の一歩を踏み出した。今回で更にもう一歩進むのでは?という危険性を始めて考慮した
「まぁ大丈夫だろうよ?多分」
「……雄二声が震えてる」
「そう言うお前だって」
ムッツリーニとそんな事を言いあっていると明久は神妙な顔で
「でも僕はそんな魔王となりつつある。美波達がとても可愛く見える」
「「!?!?」」
予想の斜め上の発言をする明久は
「だってあそこまで好きって言ってくれるんだよ?こんな馬鹿な僕の事を……僕はそれがとても嬉しい」
駄目だ!?明久がピリオドの向こう側に行きかけてる!?それほどまでに追い詰められていたのか!?
「どうしたら僕は美波たちを喜ばせる事が出来るんだろうか?」
「おい!明久!戻って来い!!そっち側に言ったら駄目だ!!!」
「……明久、その想いは間違いだ!!」
俺とムッツリーニは必死で明久を揺すぶり正気に戻す為。必死で声を掛け続けた……
雄二とムッツリーニがピリオドの向こう側に行きかけている明久の精神を呼び戻そうとしている頃女子部屋では
「ずるい!ずるいです!!美波ちゃんばっかり良い思いをしてます!!」
「ずるくないわよ!ただ……そう!運が良かったのよ!」
ここ最近美波ちゃんばかり良い思いをしてる。それが納得できず文句を言うが美波ちゃんは全く取り合ってくれない
「まぁ……確かに運が良いとは思うけど……それにしても島田だけが良い思いをしてるとは私も思う」
髪をといている木下君改め。木下さんがそう言うとセッテさんが
「ですがそれは当然の結果なのでは?自ら動く者にのみ世界は祝福を与える。美波が良い思いをしているのでは無く。自ら動かない瑞希と秀子が悪いのでは?」
「あーそれは私も思うな。欲しいなら動く、自ら捕まえるくらいの気持ちじゃないと駄目だろ」
ヴィータさんがそう言うが、実際自分で動くのは正直勇気が居ると思う
「僕はもう攻めまくりだけどね!あのムッツリーニ君の泣き顔は……そそるものがある」
「……おめでとう。愛子はSに進化した」
工藤さんは土屋君が好きらしいが虐めるのはどうかと思う
「そう言う愛の形もあるんだよね。僕はねムッツリーニ君のかわいー泣き顔が見たいんだよ」
……何か工藤さんが怖いです。
「でもな。それもありやとおもうんやよね。好きだから虐めるって言うのも1つの愛やよね」
そう言うものなんでしょうか?でも私は虐めたいとは思いませんけど……あっでも明久君に虐められるのなら……
(って私は何を考えてるんですか!?)
一瞬開いてはいけない扉に手を掛けた事に気付き。慌てて首を振る。駄目!駄目です!その扉は開いてはいけない物なんです
「うーん、でもさっきは良い感じだったなあ~」
さっきの事を思い出したのか嬉しそうな顔で言う美波ちゃんが酷くずるく思えました
「ふふふ。瑞希なら自分で攻めればええのに……その質量は圧倒的やで?」
「あの?はやてさん?どこを見てるんですか?」
その視線は私の胸を凝視していて、少しばかり気恥ずかしくて胸を隠すとはやてさんは
「いや?ほら。男の子は大きい胸すきやからそれ利用すれば良いんじゃないかと……」
「直球ですね!?本当に!」
更に気恥ずかしさが増し胸を両腕で隠す
「えー隠す事ないやん。武器は使ってこその武器やろ?無い者からすれば羨ましいもんやで?」
「貴女は貧乳ですもんね?狸」
セッテさんが胸を強調するように大きく伸びをしながら言うとはやてさんは
「それはただの脂肪の塊!醜いだけや!」
「はっ!ですがこれは強力な武器なのですよ!」
本当、はやてさんとセッテさんは仲が良いのか悪いのか良く判りませんね。でも……
(胸を使うってどういう?……はっ!?触らせるとかですか!?)
確かにそれなら明久君もクラリと来てくれるかもしれませんが
(そ、それはかなり恥かしいです)
恥かしさが上回ってきっと何も出来ないだろう。私は赤面しながら指を弄っていると
「……明日も勉強をしないといけない。話はこれ位にして寝よう」
はやてさんやヴィータさんの言葉を熱心にメモしていた霧島さんが電気を消しながら。そう言う……確かにもう夜も遅いそろそろ寝たほうが良い。私は布団に潜り込みながら
(どうしたらもっと明久君と仲良くなれるんでしょうか?)
そんな事を考えながら眠りに落ちた……
(誰かの気配がします……誰でしょう?)
眠ってから1時間くらいでしょうか?枕元に誰かの気配を感じ目を覚ますと
「はっ!?」
「あ、明久君!?」
明久君が私の枕元にいて驚きに目を見開いていると
(ろ、廊下に髪留めが落ちてて!返しに来ただけなんだ!別にいやらしい事をしようとかなんて思ってないんだよ!!)
小声で手をブンブンと振る明久君の手に見覚えのある髪留めが見えて
(もしかして私のウサギのやつですか?)
(う、うんそうだけど……)
手の中の髪留めを見せてくる明久君。確かにそれは私の髪留めだった
(あのそれを私の髪に着けてくれませんか?)
(へ?……あ、うん)
不思議そうな顔をしながらも私の髪に髪留めを着けてくれた明久君は
(そ、それじゃあ僕はこれで)
帰ろうとする明久君の服を私は反射的に掴んでいた
(?姫路さん?どうした……のッ!?)
私はそのまま明久君を引き寄せて抱きしめてしまっていました。
(明久君……どうして私の事を名前で呼んでくれないんですか?)
(へっ?)
美波ちゃんは美波。木下さんは秀吉なのに、私だけが苗字呼びでそれが少し寂しかった。私だけ仲間外れの様な気がして
(お願いします。私も名前で呼んで欲しいです)
(え、ええ?ああ……えーと。瑞希……ちゃん)
ちゃん!?ちゃんづけ?何でですか!?私が慌てていると明久君は
(ごめん。ほら僕と姫路さんって同じ小学校だったでしょ?どうしてもちゃんづけが取れなくて……もうちょっと名前呼びは待って欲しいなーなんて?駄目かな?)
どうやらその素振りを見ると明久君は明久君で何回か私の事を名前呼びしようとしてくれていたのが分かった
(くす……仕方ないですね。もうちょっとだけ……もうちょっとだけ待ってあげます)
(ははは……ありがとう。あの?そろそろ放してくれる?腕がその……姫路さんのもにょもにょ……胸に当たってて落ち着かないんだけど)
恥かしそうに言う明久君が妙に可愛く見えて私はそーと明久君の頭の後ろに手を伸ばし。そのまま自分の胸に明久君の頭を抱き抱えた
(!?!?!?)
驚きのあまりバタバタと暴れる素振りを見せる明久君に
(あ、あんまり動かないで下さい。皆起きちゃいますよ)
それに胸の中に明久君の顔がある。その事がとても恥かしく。しかしそれ以上に嬉しくて今までに無いくらい赤面している。そんな顔は見られたくないのでそう言うと。明久君は皆を起こした時の危険性を理解したのか、動くのをやめた。明久君の頭を更に力強く抱きしめ
(私。本当に明久君が好きなんです、だから早く名前で呼んでくださいね?楽しみに待ってますから)
(え……あ。うん……約束する)
約束といってくれた明久君を名残惜しいが放す。
(じゃあ、僕は皆が起きる前に帰るよ)
(はい、それが良いとおもいますよ。はやてさんとかが起きたら地獄行きですからね)
冗談でも比喩でも無く見つかる=即死の図式である。それは嫌なので早く明久君には自分達の部屋に戻って欲しい。足音を立てずに出口に向かって良く明久君を見ながら私は
(私あのまま明久君をずっと抱きしめてたいと思ってしまいました)
自分でも押さえきれない強い思い。ただ彼が欲しかった。その笑顔を自分だけに向けて欲しかった
(うー反省です。私はそんな子じゃ……無い筈です……多分)
でもあながち違うとも言えず真っ赤になりながら
(もう寝ましょう!それがいいです!!)
このまま起きていても仕方ない。早く寝よう私は布団に潜り込んだのだが……
(うー心臓が自分のじゃないみたいですぅ)
ばくばくと暴れ回る心臓の音がうるさくて全然眠れそうに無い
(うー眠れない)
私は結局中々寝付けず。2時間ほど布団の中で悶えていた……
(あはははー瑞希は結構純情やなー)
(趣味悪いですね。狸)
(黙れ。ストーカー、あんたも似たようなもんやろうよ)
(否定はしませんよ)
明久が入ってきた時点ではやてとセッテは目を覚ましていた。幾ら学生としているとは言えそこは歴戦の魔道師と騎士。侵入者の気配を敏感に感じ取り目を覚ましていたのだ
(あのまま瑞希が馬鹿を襲うと思ったのですが。当てが外れましたね、もう少し焚き付けておくべきでした)
(そやねえ……もうちょっと焚き付けとけば面白い事になったかもなぁ)
魔王2人は小声で楽しそうに笑いながら明久を物にしようと尽力する3人を見て微笑んでいた……それは邪気の無い心からの美しい笑みだった……だがそれを見ていたのは窓から入り込む柔らかな月の光だけだった
第55問に続く
今回は瑞希が少しばかり暴走しかけましたね。でも本編では暴走しがちなのでこれでいいかな?と思っています。次回はテストの話を少し入れて。夏休み編に入って行こうと思っています。ほのぼのギャグを中心で行きたいと思っているのでどうか宜しくお願いします。それでは失礼致します