第48問
どうしよう……僕は楽しげに歩く龍也達の声を聞きながら、困り果てていた
「明久が隠してるものは何だろうな?」
「ふむ。私も気になるよ。雄二、明久は滅多に隠し事などしないからな……」
これが雄二達だけならまだ何とかなったかもしれないが……
「ふっふーなんやろなあ……明久がそこまで必死に隠そうとしたものって……」
「私の予想では女絡みと見ますがね?」
魔王軍団と姉さんの接触が怖い……何かとんでもない事になりそうな気がして。何でかって?いまセッテ様がぼそりと言った女絡みの件で
「……アキ?そんな人いないわよね?」
「明久君?……私と美波ちゃんに黙ってそんな人いませんよね?」
「……にこり」
魔王モードに入ってしまっている姫路さん達のエガオが、物凄く怒ってる時の姉さんのエガオに酷似していたからだ……
「さてと、着いたな。鍵を出せ明久」
「ヤダね」
鍵を出せと言う雄二に最後の抵抗を試みると
「裸Yシャツの苦しみを味わってみるか?明久?」
拳を鳴らしながら手を伸ばしてくる雄二
「ちょっ!待って!色々と段階が飛んでるよ!!」
目が据わってる、ヤバイこれ以上抵抗するなら本気で無理やり裸Yシャツにされかねない
「判った!開ける!開けるから!!」
ズボンから家の鍵を取り出すし玄関の扉を開ける
(靴がない……良し!姉さんは外出中だ!!)
これはチャンスだ、今の内に家の中を見てもらってさっさと帰って貰おう
「それじゃあ、上がってよ」
事は急を要する。今ここで姉さんが帰って来たら僕は終る、だから早く部屋を見てもらって帰ってもらうしかない。善は急げとリビングに続くドアを開いた。そしてそこには飛んでも無い物があった。それはブラジャーという女物の下着だった
「行き成りフォローできない証拠がアアアアアッ!!!」
慌てて取り込み。洗濯物を別の部屋に放り込む……見られたよね?……恐る恐る振り返ると
「「「………よし、殺そう」」」
魔王化モード 第二段階に到達した美波たちの姿が見えた
(やばいやばい!!殺られる!?)
目が据わっている上に殺気が半端ない
「待って!話を聞いてください!」
姉さんが居ると言う事を説明すれば何とかなる筈だ!命懸けで説得を試みる
「ウチの要求は……監禁・洗脳」
「イヤアアアア!こっちこないで!!」
要求からしてやばい。監禁・洗脳なんて日本に居る女子高生が言う言葉ではない。このままで本当に不味い僕はそう判断して半分絶叫の様に叫んだ
「姉さんが帰ってきてるだけなんだ!!だからお話は勘弁してください!!!」
彼女なんて居ないし!同棲もして無い!と叫ぶと
「そ、そうだったんだ。ウチの早とちりだったんだ」
「そうならそうと言ってくれれば良かったのに」
冷静さを取り戻したようで魔王化解除された、姫路さん達に安堵の溜め息を吐いていると
「でもそれならなんでそこまで隠そうとしたのよ?」
「別に隠すようなことじゃねえだろ?まだ何かあるんじゃねぇのか?」
はい……判ってました、この程度では納得してもらえない事は、ヴィータ様・ティアナ様はまだ何かあると確信した表情で見てくる。
勿論その後ろに居るはやて様達も同様だ。僕は観念して
「あの……実はその僕の姉さんはかなり珍妙な人格をしているというか……常識が無いと言うか……一緒に居ると凄く大変で……それで家に帰りたくなくて」
慎重に言葉を選びながら姉さんの事を説明する。出来ればあの姉さんと皆は合わせたくない、近親相姦上等的な発言を平気でする姉さんが居るなんて事は知られたくないのだ。
「あ、アキが非常識なんて言うなんて、どれだけ?」
「ちょっと興味が……」
「……是非会ってみたい」
「そうですね、会って見たいですね」
ぬあああああッ!?みんな会う気満々だアアアアッ!!!これは不味いって本当に不味い!!だが意外な所から救いの光が差し込んだ
「あー……そのなんだ。皆そう言う下世話な興味は良くないと思う。誰にだって隠しておきたい姉とか母親とか……そんなもんがいるモンなんだから」
「私も同意だ。余り興味本位でそうい事をするのはよくないと思う」
雄二と龍也が助け舟を出してくれた。
「ゆ、雄二!龍也!ありがと……」
僕が2人の救世主に感謝の言葉を告げようとした瞬間
「あら?姉さんが買い物に行ってる間に帰って来ていたのですね、アキ君」
……なんでよりによってこのタイミングで帰ってくるかな!?不味い早く皆を特に女子勢には隠れてもらわないと
「うわわわわッ!!女子の皆は早く隠れて……」
「どんな人何やろなぁ、楽しみや」
「うん。なんか私も楽しみだ」
「明久君のお姉さんですか……?ドキドキしますね」
「えーと……髪はOK……服もだらしなくない。よしOK」
「ウ、ウチきちんと挨拶できるかな?」
「だ、駄目だ!皆会う気満々だ!!!」
くう……こうなったら僕に出来ることは1つだけだ!!!
(神様!どうか姉さんがまともな格好をしてますように!!!)
常識的な挨拶とかの高望みはしません。せめて服装だけはまともな物を……
「あら。お客さんですか。ようこそいらっしゃいました。狭い家ですが、ゆっくりして行ってくださいね」
そんな普通の挨拶をしてくれた姉さんは。七分丈のパンツに半袖のカッターシャツ。そしてその上に薄手のベストを着ていた
(良かった天に僕の祈りが通じたんだ!!)
その事に喜んでいると姉さんは
「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は吉井玲といいます。皆さん、出来の悪い弟と仲良くしてくれてありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた姉さんに、真っ先に我にかえった雄二が
「ああ、どうも。俺は坂本雄二。明久のクラスメイトです」
「……土屋康太、です」
「八神龍也です」
続いてムッツリーニと龍也が挨拶してる中雄二が僕の首に腕を回して。
(おい!普通の姉貴じゃねえか!これがおかしいと言うなんて貴様はどれだけ贅沢なんだ!!俺なんか……俺なんか!!)
(あはは……普通でしょ?だからもう帰ったほうが良いよ?)
ボロが出る前に皆に帰ってもらったほうが良い。僕がそんな事を考えていると姉さんははやて様達を1度見てから
「アキ君?姉さんは不純異性交遊を禁止しましたよね?なぜこんなに女子がいるんですか?」
「え、えーと……何時もお世話になってるクラスメイトだから」
僕がそう返答すると姉さんはにこりと魔王の笑みを浮かべ
「そうですか……アキ君は姉さんとの約束を破っていたのですね?」
部屋の温度が急速に下がっていく……僕がこれから起きるであろう惨劇に身震いしていると
「まぁ、良いでしょう。今は特別に見逃すとしましょう」
あ。あれ?見逃す?なんで?僕が驚いていると姉さんはにこりと微笑み
「ええ。今は見逃しましょう。しかし皆さんが帰ったら。アキ君を食べます」
部屋から音が消えた。笑顔で問題発言をする姉さんに皆の思考が停止したようだ……だが慣れている僕はすぐに再起動をし
「冗談だよね!!冗談って言ってよ!!」
「アキ君?姉さんは昨日も言いました。弟は姉の物なのです、故にアキ君は姉さんをお嫁さんにしなくてはいけないのです」
「いけないのですじゃないッ!!!それは法律違反だ!!!」
「愛は法律を凌駕します」
「凌駕しない!!!誰か!!誰かここに突っ込みの出来る人を!!!この人にそれは間違っているといえる人はいませんか!!」
龍也辺りならそれを説いてくれるに違いないと期待して龍也を見ると
「……すまないと思っている」
「ちょっと!目を見てよ!!何も頼む前に謝罪して目を逸らさないで!!!」
龍也はゆっくりと目を逸らしたまま、すまないと言って黙りこんだ
「ああ、それと不純異性交遊の現行犯として200点ほど減点を追加します」
全然見逃してくれてない!!しかも200点も減点なんてあんまりだ
「200!?多すぎるよ!まだ何もして無いのに!!」
「……「まだ」?……判りました240に変更します」
「減点が少ないって事じゃないよ!!!姉さんのバカぁーッ!!」
通算270点。もう挽回できないレベルになってきてるだけど!!」
「すまん明久。さっきの言葉は訂正させてもらう」
「うん……ありがとう雄二……僕は生まれて初めて雄二に癒された気がするよ」
外見も挨拶も普通だったから、僕も心の準備が出来てなかった。この人相手に油断なんて命取りになると判っていた筈なのに……
「さて、では貴女達のお名前を伺っても良いですか?屠るべき敵とはいえ名前は知っておきたいのです」
「何を言ってるのさーッ!!!屠るべき敵って!!あんたは僕の友達に何をする気だアアアアアッ!!」
姫路さんと秀吉と美波を見て並々ならぬ殺気を放つ姉さんにそう怒鳴ると
「勿論、見敵必殺です♪」
「さも当然の様に危険な事を言うなあああああッ!!!」
ヤバイ、この人はやるといったらやる。なんとしても姫路さん達を逃がさないと!僕が姫路さん達を逃がす算段をしていると
「ふえッ?」
凄い力で美波に腕を掴まれそのまま引き寄せられる
「島田美波です。 将来貴女の義妹になる予定です」
「ちょっと美波は何を言ってるのかなーッ!!!」
何故このタイミングで火に油を注ぐような事を言うのだろうか、僕の姉さんがはやて様と同類だと言うことには気づいた筈なのに
「姫路瑞希です。 後に吉井瑞希になると言う事を覚えていてください」
「はいはい!!姫路さんも混乱してるだけだよね!?お願いだからそうと言って!!」
姉さんの笑みがドンドン綺麗になっていく。だがそれは怒りのボルテージが上がっていると言う事に他ならない。これ以上姉さんに刺激を与えてはいけない
「木下秀よ……木下秀子。明久には貴様らのような性悪は吊りあわんと言う事をここで宣言させてもらう」
「お願い!!これ以上姉さんを怒らせないで!!!」
姉さんの怒りのボルテージが過去にないほどに上昇している。陽炎の様に立ち込める殺気がそれを証明している……今ここで殺し合いが始まりかねないほどの殺気に僕が身震いしながら雄二に助けを求めようとしたら
「ムッツリーニ。龍也。枕はもう少し高くしよう」
「判った」
「……了解」
「自分らだけ助かる気か!!この裏切り者!!!」
ソファーと枕を使い、簡易のシェルターを作っている雄二達にそう叫ぶと。龍也が代表してこう告げた
「すまない……私はまだ命が惜しい」
「龍也も基本的には僕と同じの筈だよね!?」
姉と妹と言う差はある物の基本同じ立場なのだから。助け合うべきだと思いそう叫ぶと
「すまない」
「それ以外言うことはないのか!!!」
龍也はさっきからそればかりだ。助けにならない、誰でも良いからこの危機的状況を打破してくれ!!僕が祈りを込めて目を閉じた瞬間
奇跡は起きた……
「吉井玲さんでしたよね?私は貴女の考えに同意します」
「私も」
はやて様が姉さんに話しかけたのだ。今正に戦闘開始と言う絶妙なタイミングで話しかけられた姉さんは気勢をそがれた形になり。纏っていた殺気は空気中に霧散した
「貴女は?」
「八神はやてです。名前で判ると思いますが八神龍也の妹になります。んでこっちはヴィータ。彼女も私と同じです」
にこやかに自己紹介をし、ヴィータ様を姉さんに紹介したはやて様は
「玲さんの考えは素晴らしい!弟は姉の物、つまり逆もまた叱りという事ですよね?」
「当然です。兄は妹の物。これも世界の真理です」
いいえ。絶対に違います、それは世界中の法律に喧嘩を売る行為です
「はやてさんはブラコンと言うのはどう思いますか?」
「掛替えのない愛の形だと思います」
はやて様の返答に姉さんは満足気に頷き
「どうやら貴女とは仲良く出来そうです」
「ええ、私もそう思います」
がっしりと握手を交わす、姉さんとはやて様。同じ価値観を持つもの同士として本能的に味方だと認識したに違いない。だがそれを見て慌てたのは美波達だった
「ちょっと!はやて!ウチ達の味方じゃないの!?」
そう言われたはやて様はにやりと笑い
「事情が変わったんや。同じ志を持つ者に協力するんは当然やろ?」
あああ……なんて事だ姉さんと魔王が手を組んでしまった。僕にはもう打つ手が無い。横目で隠れている龍也を見るとスケッチブックに何かを書いて僕に向けている。どれどれ?
『私八神龍也は、八神はやて、八神ヴィータと吉井玲の接触により、吉井玲の思考回路が完全に魔王化しても一切の責任を負いません。
しかし吉井明久がどんな過ちを犯したとしても友人であり続ける事を誓います』……っておい!?何!?僕が犯す過ちって何!?龍也は何を言ってるのか理解しているのか!?」
『すまないと思っている』
「それはもう良い!!!もっとちゃんとした事を言ってくれ」
『本当にすまないと思っている』
「だからそれはもう良いって言ってるだろッ!!!!!!」
混沌とした空気の中僕の絶叫が家の中に響き渡った……
第49問に続く
玲さんとはやて様の接触。お互いの価値観が合致仲良くなるの図式、明久の胃に深刻なダメージを与える結果となりました。
似たような性格にしているので実に使いやすいです、どんどん混沌な話が思いつきます、自分では良いと思いますがさて読者の皆様はどう思うのか?それだけが不安です、まあ気長に感想を待っていようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします