バカと魔王と召喚獣【凍結中】   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回で第39問となります、もう40話超えるんですね。上手く纏めきれない自分の文才の無さに少々呆れます、まぁ面白いといってくれる人が居るので良いのでしょうけど…それでは今回もどうかよろしくお願いします


第39問

第39問

 

夜が開ける少し前

 

「ジー…」

 

すやすやと寝息を立てる明久を穴が空くほど見つめる。人物…秀吉だ

 

「こ…これは中々…」

 

安心しきった表情で眠っている明久の顔を覗き込む…男としているから見れる光景で、島田や姫路には絶対に見ることの出来ないものだ

 

ツン…ツン

 

「ふみぃ…」

 

寝ている明久の頬を突いてみる。くすぐったそうに身を捩る明久…

 

「これは中々面白い」

 

思わず何時もの口調を忘れ明久の頬を突いていると

 

「うひゃああ!?ごめんなさい!ごめなさい!!ごめなさいいいい!!!?許して!!魔王様!?」

 

明久が急に魘され始める。苦悶の表情で謝っている明久を見て

 

「なんと酷い事を…ここまで魘されるのは尋常じゃない」

 

尋常じゃない魘され方をする明久の手を握り、頭を撫でてやる

 

「大丈夫。私が護ってあげるから」

 

優しく何度も明久の頭を撫でる

 

「うう…ううん…」

 

徐々に落ち着いてきた明久に安堵していると

 

「ふわ…眠くなってきた…」

 

その安心しきった笑みを見て。思わず欠伸が出る…

 

「どれ、布団に戻るかの…」

 

何時もの爺言葉に戻し立ち上がろうとするが…

 

ガシッ…

 

しっかり腕を掴まれ、動く事が出来ない

 

「む…むうう…どうする?」

 

手を解こうにも、そこは男と女…力では明久には勝てない…更にもう少し寝ないと今日の自習に支障が出る

 

「仕方ない…やましい事は何も無いから、問題ない筈…」

 

やましい事は無い。これは緊急事態なのだから…自分に言い聞かせ

 

「失礼します」

 

明久を起こさぬように布団に潜り込む

 

「んむ…これは存外良い物かも…」

 

明久の体温を近くに感じるし、明久の匂いもする…これは思ってたより良い物だ…私はすぐに睡魔に襲われ。眠りに落ちた…

 

 

 

「ううん…」

 

布団の中でまどろんでいると、後ろの方から気配がする…驚きながら振り返ると

 

「ぐう…」

 

「…最悪の目覚めだ」

 

僕は思わずそう呟いた、太い眉毛に何故か右目だけ半開き…そして口からは涎…朝から見たい顔ではない…

 

「んああ…」

 

口が大きく開き吐息が漏れる

 

「…ピキッ!こいつ殺してやろうか」

 

そのあんまりな口臭に殺意を覚えていると

 

「ぐうう…」

 

こっち目掛けて腕を伸ばしてくる…

 

「こ…このやろう…」

 

布団から蹴りだそうとした瞬間

 

「はっ!?夢落ち?…はは、良かった…」

 

1人安堵していると

 

「ううん…」

 

すぐ耳の傍から、声が聞こえてきた…

 

「まさか正夢…?なら蹴りだす準備をしてと…」

 

脚に力を込めてから後ろを見る

 

「!?!?!?」

 

「すうすう…」

 

穏やかな寝息を立てていたのは秀吉だった、その予想外の光景に脳の処理が間に合わなくなる

 

(えっ!えええ!?何で秀吉が僕の布団の中に!?何で?どうして!?)

 

訳が判らず混乱していると、ふと脳裏に蘇る昨日の魔王様との対談…

 

【アキ?坂本も土屋も木下も、信用したら駄目…アキの味方はウチと瑞希だけ、判った?】

 

【駄目ですよ?明久君?明久君は私と美波ちゃんしか信じたらいけないんです。判りますね?】

 

エガオで凄まじい威圧感をかけてくる2人の魔王様…ガクガク…思い出すだけ身体が震え、冷や汗が噴出してくる

 

(起こさないように脱出しよう…もしこんなのが知れたら…僕と秀吉はデッドエンドだ…)

 

魔王様が完全覚醒して、大魔王にジョブチェンジしていまう…それだけは避けないと…そう考えゆっくりと秀吉から距離を取ろうとすると

 

「うーん…明久」

 

「むごっ!?」

 

離れようとした瞬間、秀吉の腕が伸びてきて、僕の頭を掴んだと思った、次の瞬間僕は秀吉に抱き抱えられていた

えっ!?何!何事!?どうして僕は抱きかかえられてるの!?なんか良い匂いするし!えええ!?どういう状況!?ねぇ!?誰か教えて!!!もう完全に脳の処理の限界を超え僕が混乱していると…強烈な視線を感じる

 

「はっ!?」

 

「「ジー…」」

 

雄二とムッツリーニがこっちを凝視している…僕が見つめ返すと雄二とムッツリーニは

 

「ゴソゴソ…」

 

無言でバッグから携帯を取り出す雄二

 

「ゴソゴソ…」

 

鞄からカメラを取り出す、ムッツリーニ…2人は僕にレンズを向け

 

「…何か言い残すことは?」

 

「貴様も死ぬが良い、俺は昨日三途の川でメドレーリレーをする羽目になったんだ。お前も逝け」

 

写真に収めて魔王様に渡す気だ、振り解こうにも思いのほか秀吉の力は強く、逃げる事が出来ない

 

「待って!お願い!!写真だけは写真だけは!!!!」

 

こんな写真を2人に見られたら間違いなく僕は死ぬ。2人を説得しようとしたが

 

「…これは記録に残すべき…浮気の現場として」

 

「…俺はお前の不幸が大好きなんだよ」

 

駄目だ!!説得の余地が無い!!!このままでは僕は死ぬ…ならば…

 

「霧島さーん!!!雄二が秀吉の服の匂いを嗅いでるよーッ!!!!」

 

貴様を道ずれにしてやるぞ!!雄二ッ!!!

 

「なっ!?てめえ!?なんてことを!?…「雄二…1度死のう?」…まて…落ち着け。今のは明久の嘘だ。俺はそんな事はして…「良いから…死のう?」…うぉおおおっ!?撲殺君Xは駄目だ!!!」

 

何処かから現れた霧島さんが雄二に襲い掛かる

 

「違うこれは撲殺君W…釘の本数が2倍になってる」

 

「畜生!!殺傷能力が2倍になってるじゃねえか!?そんなの喰らってたまるか!!!」

 

「浮気は絶対に許さない!!!」

 

ブン!ブン!!!

 

風切り音が尋常じゃない、霧島さんの攻撃を頭を抱えて回避する。雄二…もうやつは助からない…後は…

 

「…俺だけでも浮気の証拠を…」

 

まだ写真を撮ろうとするムッツリーニだけだ!

 

「ううん…」

 

秀吉の手が一瞬緩んだ隙に布団から飛び出したが、一瞬遅く撮影されてしまう

 

「させるかあ!!」

 

「っ!くっ!」

 

ムッツリーニの手からカメラを奪おうとしていると

 

「…折って♪殴って♪監禁する♪」

 

「ッぎゃああああああッ!?!?」

 

ドゴッ!!メシャ!!ボキャッ!!!

 

これで雄二は死んだ、後はムッツリーニだけだ

 

「寄越せええ!」

 

「…渡さない!!」

 

ムッツリーニの手からカメラを奪おうと奮闘する…

 

「おいお前ら!朝から何を騒いで…い…る?」

 

良いところまで行ったが。鉄人の襲来で僕は結局ムッツリーニからカメラを奪取することは出来なかった…

 

 

 

朝食後の自習中、今回の作戦の為に行動を開始した。昨日の敗因は、女子の一団に龍也が居たことだ。龍也の弱点は判っているので、後は人員だ…人が増えれば勝機はある…という訳で

 

「Aクラスなら、久保を説得するのが妥当だな。そんなわけで明久逝ってこい」

 

「雄二?行ってこいのニュアンスがおかしい気がするんだけど?」

 

ちい…勘の良いやつめ…久保は少々…いや大分変わっている…男色のけがあり。尚且つ明久に興味を持っている…だからこそ逝けと言ったのだが…

 

「雄二。明久を生贄にするような真似は許容できんのう?」

 

秀吉が待ったを掛ける…むう…最近秀吉が明久に甘い気がする…まさか本当に明久のことが好きなのだろうか?俺が首を傾げていると

 

「まぁ…男子だし、襲われることも無いだろうから。行って来るけどさ…でもどうして僕なの?」

 

立ち上がりながら言う明久に思わず、俺とムッツリーニは

 

「「……」」

 

目を逸らし黙り込んだ…そして秀吉は

 

「危険じゃ、久保に近付いてはいかん」

 

明久を止めようとしていた…

 

「あはは、大丈夫だよ。女子と話すわけじゃないんだから、魔王様の逆鱗にも触れないだろうし」

 

からからと笑う明久…自分の身に迫る危機にすら気付いてないようだ…

 

「…しかしじゃな…」

 

納得できない様子の秀吉、これ以上時間を掛けると明久も流石に気付くかもしれない

 

「さ、明久行ってこい。大丈夫だ。お前は久保に好かれている」

 

勿論良い意味ではないがな…しかしもしもという可能性がある

 

「…正し、いざと言うときはコレを使え」

 

明久のポケットにスタンガンをねじ込む…何の防衛作も用意しなかったと魔王に知られると俺の命が危ない…だから念のために護身用具を渡す

 

「…なんでスタンガン?」

 

「念のためだ、大丈夫きっと使うことにはならない」

 

ここは人目が多い。久保もそんな行動には出ないだろう…出たとしても魔王が動く…明久が結局スタンガンを使うことにはならないだろう…

 

「そ、それじゃあ行ってくるね?」

 

何か釈然としないと言った様子で歩いて行く明久を見る…

 

「……」

 

「……」

 

何かを話してる様だ…むっ?久保が1人がけの椅子に空きスペースを作る…まさかそこに座れといいたいのだろうか?

 

「……」

 

明久は反対側に回り込み、空いているところに座った…あの程度の危機察知能力はあったようだ…すこし安心だが…

 

「クッ…やはり心配じゃ…ワシも行くべきか?」

 

秀吉が心底心配という表情をしている…これはマジなのかも知れない…

 

「……」

 

「……」

 

暫く久保と明久が話していたが、久保がそっぽを向く…そして明久が残念そうな顔をして戻ってくる…どうやら

 

「駄目だったか?」

 

「うん…失敗しちゃった…」

 

どうやら久保の説得は失敗したようだ…

 

「無事で何よりじゃ…」

 

「えっ?僕はそこまで危険な事をしていたの?」

 

不思議そうな明久…ここで久保の性癖を教えないのが。きっと優しさだろう…俺はそう判断し

 

「となると、他のクラスとの交渉を迅速に進める必要があるな」

 

「あれ?僕の事は無視なの?ねぇ?雄二?僕に何か危険が迫ってたの?…教えてよ」

 

不安そうな明久…ここは教えないのが優しさだ、そうに違いない…

 

「なに気にするな、大した事は無い。さてと抜け出して他のクラスに協力を要請したいが…」

 

鉄人が俺達をマークしている…そう簡単には行かないんだろう…さて、どうする?教科書の影から鉄人の隙を伺っていると

 

「こら、あんた達、また悪巧みしてるでしょ!」

 

「ま…魔王様!?」

 

島田に話しかけられ。明久が目に見えて怯えの色を示す…昨日一体何があったのだろうか?聞きたいが、確実にトラウマになってそうなので聞かないことにしよう…

 

「島田。俺達は何も悪巧みなんかしてない」

 

ただ正攻法で覗きを成功させようとしてるだけだ…

 

「…坂本に土屋。アキをそっちがわに引きずり込むんじゃないの。アキが可哀想でしょ?」

 

明久が可哀相な目に合っているのはお前の所為だと思うが…と思ったが口にはしない…下手を打てば魔王の怒りを買うことになる…それはなんとしても避けたい事態なので。余計な事は言わない…

 

「あまり明久を苛めるでない」

 

「…木下…ウチの邪魔をするの?」

 

「友として明久を助けるのは当然じゃろう?見よ。明久を…」

 

秀吉に言われ、明久を見る…

 

「ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…許して…」

 

虚ろな目で繰り返しそう呟いていた…

 

(一体何があったんだ!?)

 

そう思わずには居られない

 

「可哀相に…明久を苛めるのは止めてもらおうか」

 

「…やっぱり木下はウチの敵ね」

 

ゴゴゴ…

 

島田の背後からそんな擬音が聞こえてくる…どうする?このままでは抜け出すところではないが…

 

「ああああ…!?…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…」

 

本格的に壊れ始めた明久…うん?これは利用できるかもしれない…ムッツリーニも同じ事を思いついたようだ

 

「よし!明久少し外の空気でもすいに行こう!それが良い!!ムッツリーニ。秀吉手伝ってくれ」

 

3人で明久を引っ張り鉄人の元に向かう

 

「坂本どうした?授業中だぞ?」

 

「これをみてください」

 

鉄人に壊れかけている明久を見せる

 

「…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…」

 

虚ろな目で繰り返しそう呟いている明久を見て、鉄人は

 

「…少し外の空気をすわせて来い。それで正気に戻らなければ…連れて来い。殴れば正気に戻るかもしれない」

 

よし許可は取った…後は上手く。他のクラスの協力を得れれば良い。俺はそう考え明久を連れて自習室を後にした…

 

「瑞希。木下はやっぱりウチらの敵みたい」

 

「そうですか…どうやら叩き潰すしかないみたいですね」

 

魔王様2人のそんな呟きが聞こえてきたのは、気のせいだと思いたい…

 

「さて、何とか自習室まで来たが…このままでは交渉は無理そうだな?」

 

出入り口をマークされてる為、このままでは交渉できない。出来れば囮を利用して教師を引きつけたいが…

 

「…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…」

 

明久は壊れているので使い物にならない…仕方ない

 

「ムッツリーニ…頼む」

 

「…報酬は?」

 

報酬を求めるムッツリーニ…仕方ないな…

 

「特級品のエロ本でどうだ?」

 

「交渉成立」

 

エロ本で買収できるムッツリーニで良かった。後は

 

「秀吉。反対側を頼む」

 

「うむ」

 

秀吉と協力し明久を両サイドから支え、廊下の影へ隠れる

 

「コンコン…」

 

「扉をノックするは誰ですか!今は自習中ですよ!」

 

布施壱先生が出てきたところで、ムッツリーニが走り出す

 

「土屋君!そこを動かないように!!!こら待ちなさい!!!」

 

ムッツリーニならあっという間に布施先生を巻けるが。引き寄せる為セーブした速度で走っている…布施先生とムッツリーニの姿が見えなくなったところで。俺達はD・Eの自習室へ忍び込み。交渉を成立させた…

 

「…疲れた」

 

「ムッツリーニ。ご苦労だった」

 

戻ってきたムッツリーニに労いの言葉を掛けると

 

「…途中で大島先生が出てきた…苦労した」

 

体育の教師相手では大変だろうな…

 

「…結果は?」

 

「交渉成立だ。後は「B・C」だが…もう一度行けるか?」

 

そう尋ねるとムッツリーニは

 

「…明久は?」

 

そう尋ねてくるムッツリーニに無言で、廊下の隅を指差す

 

「御許しください…御許しください…」

 

「しっかりするのじゃ。明久、ここには魔王は居ないんじゃ。正気に戻るのじゃ」

 

壊れている明久を秀吉が何とか正気に戻そうとしていた…

 

「まだ壊れてる」

 

「…ご愁傷様…」

 

明久は使い物にならない…ここはまたムッツリーニに頑張ってもらおう

 

「頼む」

 

「特級品のエロ本。3冊」

 

グッ…流石に2回目となると要求も増してくるな

 

「…良いだろう。計4冊だな?」

 

「…交渉成立…行って来る」

 

ムッツリーニの姿が見えなくなると同時に

 

「待ちなさい!!土屋君!どうして君は授業中に出歩いているのですか!!」

 

「…シュタタタタッ!!!」

 

無言で走り去るムッツリーニと五十嵐先生を見送り。俺達は再び「B・C」の自習室へ潜り込んだ…

 

 

 

 

「あ、ユナちゃんでしたよね?」

 

「…貴女は確か…清水さんでしたよね?」

 

散歩中、私は余りあいたくない人物に会い。顔を顰めた…ドリルロールの髪の少し危ない人物だ

 

「少し…お話しませんか?」

 

「…変な事をすれば大声を上げます、そうすればお兄ちゃんがすぐにここに来ますよ」

 

私がそう言うと清水さんは

 

「…それで構いません、少しだけお時間をいただけませんか?」

 

…これは予想外です。すぐに逃げると思ったのですが…それにここまで言われて、はい、さようならとも言えないので

 

「少しだけですよ?」

 

「ありがとうございます」

 

私は清水さんと共に近くのソファーに腰掛けた

 

「それで何のようなんですか?」

 

「美春は朝から、貴女達と八神君を見てました…とても仲が良いと思いました」

 

「まぁ。私達はお兄ちゃんが大好きですから」

 

そう返事をすると清水さんは

 

「どうして、そんなに八神君が好きなのですか?男の人なんて…美晴は嫌いです」

 

「…逆に聞きますが。何でそこまで男の人を嫌うのですか?」

 

そう尋ねると清水さんは、ぽつり、ぽつりと語り始めた…自分の父親が鬱陶しいほど自分に構う。それが嫌で嫌で仕方ない…ずっとそう思っていて…去年日記を勝手に見られてから、男の人が嫌いになったという清水さんに

 

「贅沢な悩みですね」

 

「そ…そうですか?」

 

私は本当にそう思った。男嫌いの理由がそれだけなんて、実にくだらない…

 

「私達は両親が居ません。だから親が嫌いという貴女の悩みは実に贅沢だと思いますよ」

 

「え…?親が…居ない…?」

 

不思議そうな顔をする清水さんに私は

 

「私達とお兄ちゃん…似てないですよね?本当に兄妹だと思いますか?」

 

「……」

 

黙り込む清水さんに

 

「まっ、沈黙が返答だと受け取りましょう。私とアザレアとリヒトは孤児です。親が居ません…だから親が嫌いというのは理解出来ません…私達にとって、お兄ちゃんは、兄ですが、それと同時に父親でもあるのです。惜しみない愛情を持って接してくれるのです…故に私達はお兄ちゃんが大好きです、どんな時も私達を護ってくれるから」

 

どんな時も私達の手を掴んでくれる、お兄ちゃんを嫌いなわけが無い…

 

「良く考えてみてはどうですか?親が居ると言う事の幸せさを…私には到底理解出来ない幸せですがね…」

 

そう言ってソファーから立ち上がると清水さんは

 

「…どうして美春にそんな事を教えてくれたのですか?…言いたくない事ではないのですか?」

 

「別に…?私は親が居ない事に何の負い目もありません。お兄ちゃんが居て、はやてお姉ちゃんが居る…そして姉妹が居る…私はそれだけで幸せですから…それよりも良く考えてみてください。親が居る幸せを…親孝行したい時…親が貴女の傍に居るとは限りませんよ?後悔は何時だって後からするものです」

 

真剣な表情で考え込む清水さん…ただの反抗期なのだろう…父親に反抗し女の人が好きだといっているが…本当はそうではない筈だ…

 

「ユナ?…ユナー?何処に行ったんだ?」

 

お兄ちゃんの私を呼ぶ声がする。

 

「お兄ちゃん、私はここですよ」

 

私はそう返事を返し、お兄ちゃんの方へと駆けて行った…

 

 

 

「親が居る幸せですか…」

 

私は嬉しそうに八神君に駆け寄るユナちゃんを見ながらそう呟いた…ユナちゃんが親が居ないということは、それは八神君とて同じく事…きっと。美春では考えられないほどの苦労をしてきたのだろう…だから

 

「人にやさしく出来るのですね…」

 

自分が辛い目に会ってきたからこそ…人に優しく出来る…その優しさが「高町さん」や「ハラオウンさん」達を惹きつけているのだろう…

 

「お父さん…」

 

美春の事を第一に考えてくれている人の事を思い出す…どんな時も、美春。美春と言って私を可愛がってくれた…子供のときはそれが嬉しくて仕方なかった…でも今はそれが鬱陶しいと思っていたが。ユナちゃんの身の上話を聞いて

 

「…そういえば…美春が高熱を出した時は、美春をおんぶして病院に走ってくれたっけ…」

 

まだ子供のとき…酷い熱を出したとき…雨の中私をおんぶして、病院に走ってくれたお父さん…

 

「それに…美春がお父さんの手伝いをしたいって言って、カップを割った時は凄く心配してくれた…」

 

思い出せば思い出すほど…理解できる…お父さんの愛情を…それは嬉しくて、それだけで心が満たされる…美春にはそんな愛情を注いでくれる両親が居る…しかしユナちゃん達にはそう言う人が居ない…だから両親の分まで優しくしてくれる。八神君が好きなのだろう…

 

「…お父さん…」

 

反抗してお母さんに頼んで、家を飛び出したが…今思うとなんと馬鹿な事をしてしまったのだろう…もしお父さんが事故か何かで死んでしまったら?…急な病気で倒れていたら…?そう思うと不安で不安で仕方なくなってくる…

 

「携帯…」

 

ポケットから、携帯を取り出し自宅兼店舗の「ラ・ぺディス」に電話を掛ける…

 

プルルル…プルルルル…ガチャ…

 

【…はい…ラ・ペディスです…】

 

明らかに元気のないお父さんの声がする…

 

「もしもし、お父さん?美春です」

 

【み・美春!?ディア・マイ・ドーター!?急に電話なんかどうしたんだい!?まさか誰に苛められたのか!?くっ直ぐに行くぞ!】

 

【店長!?包丁を持って何処に行く気ですか!?】

 

【僕の娘を苛めてる外道を殺しに行く!!!】

 

【落ち着いてください!店長!!!】

 

ドタン・バタンと凄まじい音が聞こえてくる

 

「大丈夫です。ただちょっとお父さんの声が聞きたくて」

 

【そうなのかい?…それなら良いが…そういえば。今強化合宿だね?どうだい?勉強ははかどっているかい?身体の調子は崩してないかい?】

 

心配そうに尋ねてくるお父さん…思わず苦笑してしまう

 

「大丈夫です。美春は元気ですから。お父さんはどうですか?」

 

【僕かい?僕は美春の声を聞けたから、元気100倍さ】

 

楽しそうなお父さんの声を聞いて一安心した…言っておかないといけないことが…

 

「お父さん。強化合宿が終ったら…お母さんと一緒に家に帰ります」

 

【本当かい!?ああ…なんて嬉しいんだ!!】

 

電話越しではなく直接会って話したい…

 

「そろそろ…自習の時間なので切りますね」

 

【そうかい。勉強を頑張るんだよ?でもあんまり無茶をしないようにね?】

 

心配そうに言うお父さんに

 

「はい、大丈夫です。それじゃあ…切りますね…お父さん…大好きですからね?」

 

お父さんの返答を聞かずに電話を切る…

 

「…親が居るって嬉しいことなんですよね…」

 

ユナちゃんと話してみて判った、親の居る大切さを…

 

「…吉井を脅したの…謝っておきましょうか…でも…直接話すのはなんとも…」

 

脅迫犯が自供して話すというのも、変な話だ…

 

「合宿明けに謝りの手紙でも入れて置きますか…」

 

そんな事を考え自習室に向かっていると。お姉さまを見かける

 

「あっ!お姉さま!」

 

「み…美春!?言っておくけどね!ウチにそういう趣味は無いからね!」

 

そう言って距離を取るお姉さまに

 

「良いんです。私は理解しましたから…美春はお姉さまの事好きですけど…それは友達としてからですから」

 

「?何があったの…熱でもあるの?」

 

怪訝そうな顔をするお姉さまに

 

「いいえ?、ただ…判っただけですよ」

 

「ウチの迷惑になるって?」

 

「うーん…そうじゃないんですけど…説明は難しいのでそう言う事にして置いてください。それじゃあ!」

 

「ちょっ!?美春?急にどうしたのよ?」

 

不思議そうな顔をするお姉さまの横を通り。自分の自習室へ向かう…

 

もうへんな意地っ張りは終り…これからはお姉さまの恋を応援しよう…それが今まで迷惑を掛けてしまった、美春に出来るただ1つの謝罪の方法だろう…親が居る幸せ…心配してくれる人が居ることへの感謝…

 

(ユナちゃんにお礼を言わないといけないですね…)

 

ユナちゃんの話を聞いて、理解できた自分に与えられている幸せ…それに気付かせてもらったユナちゃんに今度御礼をしないと…そんな事を考えながら歩く美春の足取りは非常に軽く…楽しげなものだった…

 

第40問に続く

 

 




えーと、私はまだ「バカテス」を10巻までしか持っていません、ですので美春の男嫌いの理由が違うかもしれませんが…どうぞご了承ください。私が思うになのですが、親にあそこまで関与されては酷く反発すると思うのです。特に反抗期なら尚の事、反発するでしょう(バカテス3・5の店長を見て、私はそう思います)今回はそこで親の居ない「ユナ」の話を聞いて改心した「美春」のお話です…無くさないと気付けない幸せって一杯ありますよね?私は心からそう思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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