例題9
僕は勢い良く開いた扉とそこから顔を出した人物の姿に絶望した。昨日姉さんに鞄を奪われ、そこから持ち出された文月学園の文化祭の招待状。父さんと母さんの所にいるから持って帰っても大丈夫だと思い鞄に入れていたが、まさか家に帰ると同時にベアハッグで意識を刈り取られるなんて思ってなかった。そしてくるかもしれないと思っていたが、まさかこんな最悪のタイミングでくるなんて思ってなかった、正しく魔王降臨だ。しかもそれは僕だけではなく
「やほーおにいちゃん。私が来たよ!」
「……そこで会ったからついてきた」
「僕も来たよ!ムッツリー二君。嬉しい?」
日向ちゃんと霧島さんまで着いて来ている。雄二とムッツリー二の顔が死んでいる。瑞希達の召喚獣はなんと言うか個性的過ぎた。きっと姉さん達の召喚獣も禄でもないものに違いない、きっとこれからこのFクラスは地獄になる。僕が覚悟を決めていると後ろの扉が開き
「見つけたですー!!」
「おお、流石リィン。兄を探す感覚はピカイチだな!」
「……遊びに来ました、に、兄さん」
「何をしているのですか?」
リィンちゃん達が顔を見せる。どうやら地獄だけではなく、僅かばかりの安らぎもあるようだ
「お腹……減った」
「すいませーん、龍也さん。何か食べる物ありませんか?」
リヒトちゃんを背負って姿を見せたスバルさん。どうもこれから騒がしい事になりそうだ……何故なら
「「「ドラゴンー♪」」」
「兎もいるです」
「トリケラトプスかー」
静止する暇も無く動物になっている召喚獣に突撃していくちびっ子軍団。容赦なく叩いているせいか
「「「あいたたた」」」
僕と雄二とムッツリー二の声が重なる。龍也は平然としているけど、痛くないのかな?と思ってみていると姉さんがはやてさんに近づいているのを見て
(やっぱり地獄かもしれない)
はやてさんは僕達が困っている姿を見て、それを楽しんでいるかのような素振りを見せている。今だってそうだ、悪魔のような笑みを浮かべている。これは大変な事になる、僕はそれを悟り大きく溜息を吐くのだった……
はやてさんから今のこの目の前にいる兎やドラゴンと言う生物を見つめながら
「それはとても面白そうですね」
その人の本質を表す召喚獣。それはとても楽しそうだ……それにこうして来賓を招いているという事は
「私達も召喚できるのですよね?教頭先生?」
私がそう尋ねると白衣を着込んでいる青年が勿論と笑いながら、腕輪を差し出してくる
「これで召喚できますよ?どうぞ試してみてください」
スポンサーを求めていると聞いていたけど、まさかこうもすんなり渡してくれるとは……それはそれだけ自信があると言う事にほからない
(さてどんな召喚獣が出てくるのやら)
渡された腕輪を嵌めて召喚獣を呼び出そうとするとアキ君が
「姉さん!?皆順番だから少し待ってくれないかな?
慌てた様子で叫んでいる、アキ君が何を考えているかなんて判っている
「姉さんの召喚獣が怖いのでしょう?そこの兎を見れば判ります」
私の視線の先ではさっきまで大人しくしていた兎の召喚獣が暴れている姿がある。龍也君の妹さん達がその暴れ姿を見て
【きゅーん!きゅきゅーん!!!!】
「落ち着くですよ~リィン達は苛めたりしませんからね?」
「よーし、よしよし。大丈夫。大丈夫だからな」
抱き抱えて良し良しと頭を撫でて落ち着かせようとしている。それを見れば私を恐れているというのが判る
「だから家に帰ったらぼっきりと話をしましょうね?」
「関節技はいやだあああああ!!!」
頭を抱えて叫んでいるアキ君。ふふふ、本当は関節技だけじゃなく私の胸が背中とかに押し付けられるのが嫌なんだということを知っている。いやでも意識させてしまえばこっちの物だから
「玲。アキ君を苛めるのは看過出来ませんね」
「雅……やれやれ姉弟のスキンシップを邪魔をするのかどうかと思いますよ」
島田さんの背後に隠れているアキ君。ちなみに兎のほうも島田さんの後ろに隠れている。ちびっ子軍団におもちゃにされすぎたせいだろう。まぁ可愛い動物を見ると撫でたくなるのは仕方のないことですけどね
「玲さん。あんまりアキを苛めないで欲しいんですけど」
むう……これでは私が悪者ですね。リィンちゃん達も私を見て苛めるの?と言う感じで見つめている。これはとても状況が良くない……
「冗談です。えーと試獣召喚でしたっけ?」
ぼそりと呟いた私の足元で姿を見せたのは
【きゅう!】
「あら、可愛い」
黒い毛をしたもこもことした兎だった。アキ君とおそろいとは中々いいものですね
【キュ?】
【きゅーん】
なにか会話をしている私の召喚獣とアキ君の召喚獣を見ていると、雅が信じられないと言う顔をしたまま
「これは何かの間違いです。常にアキ君を襲おうとしている玲の召喚獣が可愛いなんて何かの間違いです」
私の評価が余りに酷い、しかもはやてさんとかもうんうんとうなずいているのが更に酷い
「きっと私の召喚獣だって可愛いはずです。試獣召喚」
雅も負けずと召喚獣を呼び出す。幾何学模様の中から現れたのは
【にゃーん♪】
白いもこもことした毛並みのペルシャ猫だ。するとアキ君の肩の上に上り
【みゃーんみゃーん】
「あっ可愛い」
猫を抱えてモフモフしているアキ君。アキ君はあれで動物好きですからね、と微笑ましい気持ちで見ていると雅の顔に若干赤みがさしている
(どうしたんです?)
(頭を撫でられている感じがして落ち着きません)
何を馬鹿なと思ってみていると私の召喚獣がアキ君の膝の上に乗る。
「よしよし」
確かに撫でられる感じがして落ち着かない。感覚を共有しているのだろうか?
(まぁ滅多にないことなのでそんなに気にしなくてもいいですか)
アキ君が私の頭を撫でるなんてことはありえないわけで、召喚獣ではあるが珍しい経験に私は小さく微笑むのだった
Fクラスに来る途中で愛子さんに会って、玲さんと愛子さんのクラスの代表と言う霧島さんと一緒にFクラスに来て
【ぐー!】
【もそもそ】
【キュー】
【にゃー】
教室の中を自由に跳ね回ったり、膝の上に乗って甘えてくる召喚獣。これはちょっとした動物園みたいな感じで可愛いかもしれない
【ガプー】
ぺちぺちと足音を立てて歩いているペンギンを抱えて膝の上に乗せて
「これお兄ちゃんの召喚獣でしょ?かわいー♪」
【ガガガガ!!!】
抱き締めると暴れだす召喚獣。こういう素振りもおにいちゃんと同じでますます可愛い。
「……どうして来た?」
お兄ちゃんが不思議そうに尋ねてくる。確かにお兄ちゃんは招待状と案内のプリントを隠していた
「なんか怪しいなと思ってね?お兄ちゃんの部屋を家捜ししたら、机の引き出しの中に隠されてたプリントとえっちい本を見つけたんだ」
なにかごそごそしてたから怪しいと思ったんだよね。こういうのは妹の勘ってやつなのかな?
「マイガッ!?」
私の言葉に頭を抱えて悶絶しているお兄ちゃん。うんうん、処分されたかもって思ってるんだね
「ちゃんと机の上においておいて上げたよ」
「ぽろぽろ……」
地面に蹲りぽろぽろと泣いているお兄ちゃんを見ていると、愛子さんが私の肩にてを置いてニッコリと笑う。やっぱりお兄ちゃんは
泣いているほうが可愛いと思う、やっぱり私はお兄ちゃんに対してだけは苛めっ子なんだなあと実感するんだった
「それで愛子さんの召喚獣はなんなんですか?」
隙を見て逃げようとしていたお兄ちゃんのズボンの裾を踏みつけながら、愛子さんに尋ねる
「んー?召喚してみようか?試獣召喚」
愛子さんの前の召喚獣の魔法陣から姿を見せたのは
【グルルル】
白い体毛をしたちっちゃい熊。もしかしてこれって
「「ホッキョクグマ?」」
お兄ちゃんがペンギンで愛子さんの召喚獣がホッキョクグマ。これはもしかすると面白いものが見れるかもしれない
【がぷー】
【キラーン】
【がががっががががっ!!!!】
牙をむいてお兄ちゃんの召喚獣のペンギンを追い回す愛子さんの召喚獣のホッキョクグマ。自然の摂理を今私は目の前で見ている
「日向ちゃんも召喚してみたら?何か面白いのが出るかもしれないよ?」
「ほぎゃあ!?」
愛子さんの召喚獣にペンギンが捕まり奇声を上げているお兄ちゃん。もしかして痛みも共有するんだったら可哀想だなあと思いながら
「試獣召喚?」
ぼそりと愛子さんに教わったとおりに召喚獣を呼び出すと
【ミュ?】
「かわいー♪」
現れた召喚獣は愛子さんと同じホッキョクグマ。だけど赤ちゃんホッキョクグマでとてとてと歩く素振りは実に可愛い。抱き抱えて頭を撫でていると
「おねーさん。私も」
「……」
龍也さんの妹のリヒトちゃんとアザレアちゃんが私の手の中の召喚獣を見ている。確かに可愛すぎる
「いいよ、どうぞ」
【みゅ】
抱えていた召喚獣を足元に下ろしてリヒトちゃん達と遊んでいる中。お兄ちゃんと愛子さんは
【が……がぷぅ】
【ハグハグ】
「……死ーん」
「あちゃー」
ホッキョクグマに完全に捕まり、噛まれ続けているせいか愛子さんの足元で痙攣していた、まぁ死にはしないだろうと思いリヒトちゃん達と遊んであげるのだった……
何かとんでもない事になっている。それが俺が見た感想だった……跳ね回る召喚獣が変化した動物の数々。いやそれだけじゃ無い
【ワン】
【ニャー】
龍也の家で居候しているというスバルって言う子とティアナが呼び出した、犬と猫は龍也の膝の上や頭の上に上っている。どっちが犬で猫かは少し考えれば判るので敢えていう必要はないが、なんとも個性的な姿に変化したものだ
「ちょとおおお!?」
「あわわわ」
自分達の制御が効かない召喚獣に慌てて龍也から引き離そうとするが
【フー!】
【グルルルル!】
「止めてくれ、髪が抜ける」
全力で抵抗している犬と猫に龍也が青い顔をしている。あのままでは髪所か頭皮がやばいかもしれない、何故なら犬も猫も髪にしがみ付いているからだ、っとまぁ俺も現実逃避はこれくらいにして
「ちくしょう、翔子!その危険な召喚獣をどうにかしろ!?」
【ぴぎゃー】
俺の足元で丸くなっているトリケラトプス。そして俺の目の前の召喚獣を見る。強固な鱗に鋭い牙……しかし並みの動物ではない、それ所か動物かどうかも怪しい……何故ならば
「あはははははは!イエース!!!大当たり!!!肉食恐竜の王に参上だぁ!!!」
ハイになって笑っている教頭の声がかなりうざい。だが今の台詞で判るだろう、翔子の召喚獣は
「……これはこれで可愛い」
【ぐるう】
「可愛いわけあるかあ!?」
しゃがみ込んで自分の召喚獣を撫でている翔子。その仕草は犬か何かを撫でているかのように見えるが、肝心のその撫でている動物は
「ティラノサウルスか。雄二生きるんだ」
「頑張って!雄二なら何とか出来るよ!」
「離れた所から声をかけるんじゃねえ!!!自分の安全確保してるじゃねか!!!!」
龍也と明久にしてもそうだが、机でバリケードを作って隠れている。ちびっ子軍団はバリケードの中で兎やら、犬やら、ドラゴンを撫でている。どうして同じ教室の中でこんなにも温度が違うのか?
「……大丈夫。この子は大人しい」
「全然大人しそうに見えねえ!!!」
牙を打ち鳴らし、俺の足元のトリケラトプスを見ているティラノサウルス、その目は爛々と輝いている。そして翔子の目も同じように輝いている。どう考えてもライブでライフの大ピンチである
「……雄二大人しくしていてくれれば直ぐ済む」
【ギャオーン♪】
その目は明らかに捕食対象を見ている邪な目だ!このままだと本当にヤヴァイ
「博士!何とかしてくれ!!!」
この召喚フィールドは俺の腕輪では干渉できない。だから教頭に何とかしてくれと叫ぶが
「♪♪」
鼻歌を歌いながら何かのデータを取っている。俺を助けるは一切ないと言うのがその態度で判る
「何で俺の周りにはこんな駄目な大人しかいないんだ!?」
普通なら召喚フィールドを消してくれてもいいはずなのに嬉々としてデータを取っている。これはどう考えても最悪の自体だ、だが何とかすれば逃げる事が
「……捕まえた」
【ぎゃーう】
がしっと俺の肩を掴む悪魔の声と、俺の足元のトリケラトプスにニヤリと笑う恐竜。もう逃げる事ができない……それを悟った俺は大きく息を吸い込んで
「チクショウメエエエェェッ!!!!」
なんとなくこれを叫ばないといけないと思い、そう叫ぶと同時に信じられない激痛が頭に走り、そして
【ピギャアアアアアアアア】
「ぎゃあああああああああ」
俺とトリケラトプスの絶叫がFクラスに響き渡ったのだった……
その後の惨劇は見せられないよ?なのでどうなったかを言うことは出来ないが、召喚獣は死ぬことはないので、翔子の召喚獣のティラノサウルスが飽きるまで俺の召喚獣は骨っこよろしく、噛み続けられ、俺は俺で翔子に冥界送りにされるのだった……
例題10へ続く
次回でこの動物とかに変化している召喚獣の話は終わりにしようと思います。かなりのカオスにするつもりです、まぁ今回もかなりのカオスだったと思いますけどね?それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします