例題5
簡単な事で人間の人生と言うのは思いも寄らぬ方向へと転がり始める。過去の私が今の私を見たらきっとショックで気絶するだろう。それはそれで面白いと思える光景だと思う
(ふふ、今思い出しても面白いですわ)
私の初めて出来た友人。高城雅との出会いを思い出すだけで笑みが零れる。そしてそれはこれからもきっと変わらない、私は雅の笑顔が見たい、そのために何でもすると決めたのだから……
小さい時から私は他の子供と違っていた。自分が特別だなんて思ってなかったが、周囲と比べると私は優れすぎていた
1を知れば10を理解したし
運動も音楽も何でも出来た……
だけどそれは同年代からすれば異常としか見えないわけで、私は孤立していた。だけどそれで良いと思っていた……あの時までは……
「転校生の高城雅さんです。皆さん仲良くしてくださいね」
それは私が小学5年のときの事だった。私はその時から孤立していた、何もかも出来るというのは決して面白い物ではなく、恐怖を与える事もあるそしてそれ以上に退屈な事だった。
(これもどうせ同じ。私を恐れるだけ)
友達なんていない、自分よりも能力の劣る存在と仲良くする価値なんてない。だから私は1人でも良い、理解をしてくれないうわべだけの友達なんて居ない方がましだ
「席はそうね。小暮さんの隣で」
無能な教師の言葉に溜息を吐く、私は1人が良いと言うのに……
「よろしくお願いしますね」
穏やかな笑みを浮かべている高城。多分こいつも私から離れていく、その時はそう思っていた、だけど……何をやらせても、何をやっても私は高城に勝つ事ができなかった。ほんの僅かな差……だけどその差は大きかった
「高城さん、勉強教えてー」
「はいはい、良いですよ」
人当たりが良くて笑顔で接し……
「あまり喧嘩などはしないほうが良いですよ?」
揉め事があればそれを仲裁する。転校して来てから2週間ほどで高城は人気者になっていた
(私と似ているのに何故?)
私と似ている。他の人間の出来ない事が出来る、それなのに高城は人気がある。それがどうしても理解できなかった
「少しお時間良いですか?」
考えても判らないので私は高城にそう声をかけた。無論周りに誰も居ない時に……自分でも判っていた。自分は愛想のいい存在ではなく、どちらかと言うと怖がられるタイプだ。もしかしたら高城は逃げるかもしれないと思っていると
「ああ、良かった。やっと話しかけてくれましたね」
と嬉しそうに笑い、私の手を引いて近くのベンチに腰掛けて
「貴女が話しかけてくれるのを待っていたんですよ、私はどうもああいうのは苦手で」
あははと笑う高城の言葉が理解出来ず首を傾げると高城は笑顔で
「これは貴女が少し頑張れば見れるかもしれない光景なのですよ、壁を作らず話して見てはどうですか?」
何を今更と思う、だけど……まだやり直せるかもしれない。私はまだ11歳だ……成熟した考えを持っていても子供なのだから……充分にやり直せるかもしれない
「と言うわけでまずは私と友達と言う事で」
私の葛藤に気付いたのか笑顔で言いながら私の手を握る高城
「待ちなさい、何がと言う訳なのですか?」
私の言葉に返事を返さず、グランドに歩き出す高城。前を向いたまま
「私はとても大切に思っている人がいます。私も昔は貴女みたいな感じでしたから、だからほって置けなかったという事で1つご理解を」
何を言っているのか全く理解できない、だけどその高城が好きな人の真似をしようとしていたようで、私にとっては良い迷惑としか言えない
「人の迷惑とか考えてます?」
若干の苛立ちを感じているせいか、一応ジト目で尋ねると高城は笑顔で頬をかきながら
「多少強引のほうが良いとおもいましてね、私もそうでしたし、と言うかどうすれば良いのか良く判らなくてですね」
あははと笑う高城。なんと言うか面白い……自分と似ている人間に会ったのは初めてだ。だからこそ思う自分と高城の違いは何なのか?そして私よりも優れている初めての同年代。私はそれが凄く嬉しかった
(彼女とは友人になれるかもしれない)
そしてその日の夜、父に連れられてきた社交界で高城と再会して自分らしからぬ大声を出してしまったのも、今思えば楽しい思い出の1つだ
中学に上がる頃には私と高城は既に互いの事を親友と呼べる関係になっていた
「転校するのですか?」
突然切り出した雅に驚いた振りをする。私はなんとなく悟っていた、雅はこんな場所でいる人間ではないと、確かにこの学園は名門と言えるだけの学校だろう。だがそれでもなお雅には狭すぎる……そしてそれは私にも言えること
「実は私も雅のお父様から声を掛けられております」
今度は雅が驚いた顔をする。どうも私の父と雅のお父様は会社の部下と上司と言う関係で、勿論私の父の方が部下なのですが……
「私さえ良ければ一緒に雅の転校する学校に一緒に行かないかとね」
「……全くお父様は……勿論断った「いえ、一緒に行くとお返事しました」
目を丸くして驚いている雅。そんなにも驚く事でしょうか?それとその驚いている顔は物凄く可愛いですわ
(私は彼女に恋をしてしまっているのかもしれない)
同性だと判っている。だけど彼女の傍はとても安心できるし、落ち着く事が出来る。これはもしかすると恋と呼べる物なのかもしれない……無論かなうわけがないと判っている
「……小暮。私が転校するのには理由があるのです、これから私は高城雅ではなく、高城雅春となる為に転校するのですよ?」
雅春?男の名前を名乗る理由が判らず首を傾げると雅は
「私にはずっと大好きな人がいます。小暮は判って居ると思いますが、私は高城財閥の跡取り娘……財産を狙って近寄ってくる有象無象がいるでしょう」
それは判らなくはない。最近その力を大きくしている高城財閥に取り入ろうとする屑はどこにでもいるだろう
「だけど私は幼馴染のアキ君が大好きです。彼以外私が愛する存在はいないでしょう。だから高城雅は一時的に消え、高城雅春となります。それでも来てくれますか?」
その問い掛けに少しだけ悩む。雅には好きな人がいて、そしてその人と添い遂げるために一時的に女性としての自分を消して男になる。それだけの覚悟を持っている……
(いきなり失恋ですわ)
適う事はないと判っていたが、いきなりのこれはそれなりに悲しいだけど……
(ああ、なんと綺麗な笑顔なのでしょうか)
今まで見た笑顔とはまるで違う。心の底から幸せそうな笑みを浮かべている……それは私と同じ12歳の子供とは思えないほどのキラキラとした輝きに満ちていた。そして私には引き出す事の出来なかった雅の本当の笑顔……
(私はこの笑顔をもっと見たい)
私はそう思った。すると一瞬心に開きかけた穴がすとんっと埋まるような気がした……
私は雅の笑顔が見たい、そのために頑張るのだと……
恋と言うには余りに歪んでいる、だが想いとしては間違ってはいない
ただ1人の友人の為に……
その友人が幸せになる為に……
その美しい笑顔がずっと続くように……
そしてそのためにどんな事でもしようと……
今思えばこの時。小暮葵と言う人間はやっと自分の目的を見つける事が出来たのだと思う。だから私は雅を見て
「勿論ですわ。私の幸せは貴女の幸せ……付いて行きましょう」
不思議そうに一瞬首を傾げた雅ですが、直ぐに手を伸ばしてくる。私はその手を握り返しながら
「これからもよろしくお願いします。小暮」
「勿論ですわ雅。一緒に頑張りましょう」
そして中学に上がる前に転校し。雅は雅春と名前を変え、性別を変え過ごしてきた。そして高校3年となった今
「アキ君。ささ、今日は一緒に帰りましょうか」
今まで会えなかった分。積極的になっている雅。だけどどこか子供っぽい誘いをする雅に少しやきもきする。彼女は自分の美貌を理解していない、女性であるのだからそれを生かすことを考えれば良いのに……
「え、ええっと……今日は「シッ!」はい。大丈夫です」
雅の誘うを断ろうとした吉井君に軽くシャドーをしてみせる。青い顔をして頷く吉井君を見て私はこれで良いと笑いながら。その場を後にした。あの時となにも変わらない、雅の心からの笑顔を
(うふふふ、また想い出が増えました)
制服に仕込んでいる隠しカメラで何枚も撮影してからその場を後にしたのだった……
後で美波達に謝らないとなぁと思いつつ、みーちゃんと帰路に着く。帰る約束はしてなかったけど、きっと怒ってるだろうなあと思いつつ、良い機会だからずっと気になっている事を尋ねて見る事にした
「みーちゃんは小暮さんが迷惑って思ったことない?」
いっつも一緒にいるけど、本当は迷惑をしているんじゃないか?と思い尋ねるとみーちゃんは笑顔のまま
「無いですね。如何してそんな事を?」
きっぱりとそう言い切ったみーちゃん。その言葉に嘘があるようには思えなかったけど、どうしても気になっていたので続けてみーちゃんに
「いや、だっていっつも振り回されているような気がするし」
スカートをめくられて写真を撮られたり、なんか明らかに危なそうな薬品を手に笑っているのを見るし、僕は薬品を投与されかけるし、拉致されるし、僕は対外のことは気にしないけど、中々付き合える人間ではないと思うんだけどと言うとみーちゃんはふふっと小さく笑い
「確かに小暮が何を考えて居るのかは殆ど判りません。あの邪悪な笑みの下で良い事を考えているのかもしれないし、そのまんま悪い事を考えているかもしれません」
僕的にはそれは友達を呼んで良い人種とは思えないのだけど……みーちゃんの顔には信頼の色が浮かんでいて、迷惑はしているけど友人なんだと思っているのが一目で判った
「だけど彼女は私を一番理解してくれています。少し暴走しがちなのは直して欲しいですが、私にとってはとても大切な友人なのですよ」
そう笑うみーちゃん。再会したばかりの僕では判らないみーちゃんと小暮さんの時間があるのだろう。多分僕と雄二の様に互いに迷惑をかけることもあるけど、友人と言える。そんな奇妙な関係なのだと判った
「ごめんね、変なことを聞いたね」
気を悪くしたかもしれない、友達のことを悪く言われて笑って入れる人間はそうはいないから、だけどみーちゃんはにこにこと笑ったまま。いまだ取れない僕の猫耳を見て
「だけどたまには良い事をしてくれるんです。猫耳のアキ君はとても可愛いですよ」
僕の頭を撫でるみーちゃんから離れる。それを見て少しさびしそうにしているみーちゃんに少しだけ悪いことをしたかもしれないという気持ちになるが
「僕は男の子だから可愛いって言われても嬉しくないよ?」
かっこいいと言われる様な顔立ちでもないと判っているけど、可愛いと言われるのは何か嫌だ
「それは残念。アキ君はとっても可愛いのですが」
くすくすと笑うみーちゃん。美波達と1歳違うだけなのにとても大人っぽい、何を言っても勝てない気がする
「僕はみーちゃんに絶対勝てない気がするよ」
「そうですか、私も多分アキ君には勝てない気がしますよ」
そう笑うみーちゃんに小さく馬鹿にしてる?と尋ねると
「惚れた弱みと言いますか、私は絶対にアキ君には勝てないと思います。おや?顔が赤いですがどうかしましたか?」
判っている癖にとそっぽを向く、しかしこの仕草はあまりに子供っぽいのではないか?
「もう。アキ君は可愛いですね。そうだ、アイスを買ってあげましょう」
近くの移動式のアイスクリーム屋を見て笑うみーちゃん。僕は少しジト目でみーちゃんの目を見て
「……完全に子ども扱いしてるよね?」
さぁどうでしょう?と笑うみーちゃんに絶対子供扱いをしていると思うのだった
(これで良いのでしょうか?)
そして雅は雅で困惑していた。小暮からのアドバイスで大人らしさを出すべきと言われたのでそれっぽくしたのだが、はたしてこれで良いのだろうか?と笑顔の裏で悩んでいた……
そっぽを向いている明久と腕を組んで悩んでいる雅。その2人をビルの上から見つめる小暮はふふふと小さく笑いながら
「とても面白い光景ですわ」
まるでバズーカのようなカメラを構え邪悪な笑みを浮かべているのだった……
「さてとそろそろ進展をさせたいですわねえ、次はどうしましょう?」
なんと互いに謝り出した明久と雅を見て、このままでは進展がないと判断した小暮は
「教頭先生に何か作ってもらいましょう。ええ、主に媚薬などを」
ふふふふふふふふふふと笑いながら音も立てず、カメラを片付けた小暮はその場を後にしたのだった……
小暮を友人と言っていた雅の判断はもしかすると間違っているのかもしれない
例題6へ続く
今回はかなり難産でした、こういう話は難しいですね。もう少し修行をしないと理想としている話を書くのは難しそうです。
だけど良い勉強になったと思います。次回も少し変わったリクエストの番外編をやろうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします