バカと魔王と召喚獣【凍結中】   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回の話で母来襲編は終了となります。この後は例題としてリクエストの番外編を書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



応用問題問25

 

 

 

応用問題問25

 

愛用のエプロンを身につけ、使い慣れた自分用の包丁でマグロの短冊を作りながら

 

「いたたた……美波急にどうしたんだろう?」

 

帰ってくるなり奇声と同時にアッパー。僕が一体何をしたというのだろうか?マグロを切り終え、今度はハマチに手を伸ばす。刺身が安かったのでお手軽でなおかつ豪華感を出す事も出来る手巻き寿司にすることにしたのだ

 

(瑞希もみーちゃんもぐったりしてるし、本当にどうしたんだろう?)

 

短冊を作り終え、冷蔵庫にしまい。代わりに卵を取り出してボウルに割り、菜箸でかき混ぜる。手巻き寿司だから刺身だけじゃなくて卵とかもあったほうがいいだろうし……

 

「聞きたくても聞けないなあ……」

 

なんかとてもではないが聞ける様子ではない、呻いている。顔を紅くしている、口から魂が出ている、全員が全員とんでもない反応をしている。母さんが一体何をしたのか?それがとても気になる

 

「よっと」

 

焦げ目がつく前に卵を引っ繰り返す。色々考えても判らないので僕はとりあえず夕食の準備を進めるのだった……

 

 

 

キッチンから聞こえてくるリズミカルな包丁の音とアキの軽快な鼻歌。料理が好きだから楽しそうなのは判る。だけどウチ達は正直そんな状態ではなかった……

 

「「「……」」」

 

ウチ含め全員が無言で俯いている。ウチはウチで楓子さんのアキを欲しい?の言葉の意味とさっきのアッパーの罪悪感が凄い、アキは何もしていないのに……楓子さんの言葉で完全に混乱してしまっていた

 

「あー面白かった」

 

どんよりと葬式ムードのウチ達を見て笑うはやて。悪意しか見えないその笑顔に怒りを覚えるが、精神的にも肉体的にもダメージの大きい今のウチ達では言葉は愚か、物理的にも一矢報いるのは不可能だ。ここは我慢するしかない……

 

「んーまぁ今度はこれかなあ?」

 

ノートPCを持ち出して書類を片手に何かを考え込んでいる楓子さん、仕事の邪魔をしてはいけないので葬式ムードのままアキの出してくれたコーヒーを飲んでいると

 

「美波ちゃんは良いですよねえ……悪いこと何にも言われなかったんだから」

 

「そうですよねえ……実に不公平ですよねえ……」

 

雅と瑞希がウチをジト目で見る。だけどそれは100%2人の自業自得だと思う。関係ないといってそっぽを向こうとするが

 

「憎ましいなぁ……あーすっごく憎いなあ……」

 

そっぽを向いた先では優月が名前の優しいはどこへ行ったのか?と思わずにはいられない黒い笑顔を浮かべてウチを見ていた……

 

(アキ。早くご飯を作ってくれないかなあ……)

 

アキが食事を作ってくれるまで確実にウチはこの針の筵の上だ。両サイドから向けられる黒い視線その恐怖と言うか……鬱陶しさは中々の物だ

 

(ウチもついていけばよかったかな?)

 

この状況だと思うのだが、今日葉月はリィンちゃん達に招かれて龍也の家で夕食を食べている頃だろう。アキの家に来ないで龍也の家で夕食をご馳走になっていればよかったかもしれないと小さく後悔するのだった。なお美波が僅かな後悔を胸に抱いた頃葉月は

 

「おいしーです♪おにーさんはお料理上手ですね」

 

「お兄様のオムライスはとても美味しいのです♪」

 

龍也特製のオムライスに舌鼓を打っていた。とんでもない重い空気の美波達とは違い、とても穏やかなときを過ごしているのだった……

 

 

 

楓子さんの評価は島田さんが遥かに上だったようだ……私は携帯を閉じたり開いたりして

 

(全部小暮のせいです)

 

私の机とかメールで送られてくる、足のつかない監禁術や黒魔術の本。暇なので少し目を通したのですが、そのせいで思考が小暮に似てしまっていることに今気づいた。今度からはその手の本は直ぐ処分することにしよう

 

「ご飯できたよー」

 

アキ君がお盆を持ってリビングに来る。お盆の上を見ると茶碗が6つ……

 

「味噌汁?何の味噌汁?」

 

楓子さんの問い掛けにアキ君は自信あるんだよ?と前置きしてから

 

「母さんの好きな蜆の味噌汁。次は酢飯と刺身を持ってくるから待っててね」

 

蜆の味噌汁ですか……手巻き寿司にはいいかもしれないですね、しかしそれにしても

 

(良い香りですね。しっかり出汁をとってあるんでしょう)

 

アキ君の料理上手は知っていた、だけど私のものよりも数段上かもしれない。これはもっと料理の勉強をしないといけないかもしれない……アキ君に喜んで貰うためにはもっと腕を上げる必要があるだろう

 

「寿司飯はあれね?家庭の味だからそんなに美味しくないかもしれないけど……我慢してね」

 

机の真ん中に置かれた寿司飯の桶。人数のことを考えてだいぶ多く作ってくれているようだ

 

「米も潰れてないしええんやない?兄ちゃんのと比べると大分劣るけど」

 

八神君は寿司飯も作れるのですか、本当に芸達者な人ですね……目立つのが嫌いらしいが、あの黒いコートと銀髪のせいで嫌でも目立っている。勉強運動共に好成績だが、まさか料理まで得意とは正直驚く

 

「刺身はマグロとハマチとシーチキンと卵にきゅうりを用意してあるからね。納豆は売り切れだったから我慢してね、じゃあ食べようか」

 

アキ君が持って来てくれた短冊とシーチキンや卵の乗った皿。普段お父様と食べる寿司と比べれるまでもなく粗末な物だが

 

(アキ君の作ってくれたものならばどんな物でも美味しいです)

 

手を合わせてから手巻き寿司のサイズに切られた海苔を手に取り、しゃもじで少しだけ酢飯を取って切り分けられたマグロを乗せて巻いて食べる

 

「美味しいですよ。寿司飯も丁寧に出来ていますし」

 

口の中でバラける最高の加減だった。砂糖と酢のバランスもいいし、充分美味しい。家で作るものと考えれば充分すぎる

 

「明久君。美味しいですよ」

 

「うん。美味しいよ明久」

 

姫路さんと木下さんも自分で手巻き寿司を作り頬張っている。これなら豪華な感じにもなるし、自分の食べたい物を食べれる。こういう状況では最適な料理かもしれない。日本人なら手巻き寿司くらい作れるだろうし……

 

「あ。あれ?あれ?」

 

島田さんだけは上手に手巻き寿司を作ることが出来ないでいた。それを見た八神さんが

 

「あーそっか。美波はドイツ暮らしが長いから手巻き寿司は苦手なんやな?」

 

確かにそう言われるとそうかもしれない。小暮に調べてもらったアキ君の周囲の女性の詳細にそんな事が書いてあったような気がする

 

「明久、気遣いが足りないわよ。ふー輝彦さんはもっと気が利いてたわよ」

 

いや。それを言ったらアキ君が可愛そうだと思います、輝彦さんは既にもう熟練執事のレベルにまで昇華されているのですから……と言うかそんな事を言ったら

 

「美波はなに食べる?作ってあげるから

 

ほらあ!そうなったぁ!島田さんが目に見えて赤くなるのを見て自分の手元を見る、なれた感じで巻かれている手巻き寿司

 

(((どうして普通に作ってしまったんだろう?)))

 

少し下手に作ればアキ君が作ってくれたとおもうと何かとても悲しい気分になった

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがと。アキ」

 

嬉しそうに受け取っている島田さんを見ると、とても切ない気分になってくる。とても羨ましい……私と姫路さんと木下さんの視線がアキ君に集中する。島田さんは手巻き寿司を食べてご満悦と言う感じなので私達の視線には気付いていない。とは言えアキ君に作って欲しいなんていえないので機会のように手巻き寿司を作っていると

 

「明久。美波ちゃんだけを優先するのは駄目よ。雅ちゃん達にもね?」

 

楓子さんの言葉に顔を上げる。手の中のシーチキン巻が爆発するがそんな事はどうでもいい……

 

「ん?判ったよ。みーちゃんなんにする?」

 

木下さんでも姫路さんでもなく私が一番最初。その事に小さくガッツポーズをしながら

 

「マグロでお願いします」

 

手の中で無残な形になってしまったシーチキン巻を皿の上に乗せて、箸で食べながらアキ君が私の分の手巻き寿司を巻いてくれるのを待つのだった……

 

 

 

手巻き寿司と言う中々に豪勢な夕食を終えた後。私は1人になったリビングでノートPCを立ち上げていた。輝彦さんが交渉してくれている会社との会談の結果のメールを見ながら心の中で笑みを零す

 

(中々気が利くようになったわねえ)

 

女の子の一人歩きは危ないと全員を家に送って行くと言って家を出ている明久。はやてちゃんは龍也君に迎えに来て貰ったみたいだけど……うちの明久がここまで気が利くようになっているとは正直予想外だった

 

(大体玲のせいなのよね)

 

明久があそこまで弱気なのは大体玲のせいだ。玲が明久を苛めているというか、溺愛しているせい……まぁ方向性は全然間違っていたんだけど、そのせいで明久はあんなに弱気になってしまっていた。玲を離したのは良かったのかもしれない

 

「しかし本当に輝彦さんに似てきたわねえ」

 

今日のことを見る限りではかなり輝彦さんに似てきていると思う。多分美波ちゃんとかもやきもきすると思うけど……

 

「それで苛々するなら明久は上げれないわね」

 

あれを我慢と言うよりかは受け入れる必要があるのだ。女性に優しいのは吉井家の特徴のような物なのだから、まぁそこでやきもきして嫉妬してしまうのはご愛嬌だ

 

(どうなるのか楽しみねえ)

 

明久が誰を選ぶのか?それが凄く気になる。雅ちゃんに上げてもいいかと思っていたんだけど、こういう状況になっているのだから親が口を出して婚約させるのはあまりに可哀想だろう。美波ちゃん達が不利過ぎる……今日会って話をしてみたけど全員良い子だから雅ちゃんだけ有利と言うのはあまりに不公平だろう

 

(婚約の話は一応見送りって事でいいわね)

 

雅ちゃんならその事実だけで自分が有利になるように持っていくだろうし……これは流石に駄目だと思うので婚約の話は見送りって事で話をすればいいか……どうせ見送りにするつもりだったし、問題ない

 

「ただいまー」

 

「おかえり」

 

リビングに入ってきた明久はそのままソファーに座り込んでTVのスイッチを入れる

 

「宿題は?」

 

明久にそう尋ねる。明久は机の上のチョコレートを頬張りながら

 

「学校で美波と瑞希に教わって何とかできたかな?」

 

ふーん。こういうところも抜け目ないのね、明久は勉強が苦手だからそれを教えてあげる事で自分の評価を上げる。堅実な方法だと思う。輝彦さんからのメールを確認して

 

「私明日は帰るからね?」

 

どうも交渉が上手く行ってないようだ。せっかくここまで来たのだからここでご破算にするのは惜しい、2日しかいれなかったけど明久の今の状況を見ることが出来たからこれでよしとしよう。

 

「急だね。どうかしたの?」

 

心配そうに尋ねて来る明久。とはいっても仕事の話をしても理解できないだろうから、明久に判りやすく説明するには……

 

「玲の暴走を輝彦さんだけじゃ止めれないみたいだからね」

 

これも事実だし、大分暴れているようなので私が行って止めないと輝彦さんでは玲を止める事ができないのだ

 

「そうなんだ……」

 

沈鬱そうに呟く明久。自分の姉に襲われかけるのは相当な恐怖だろうから。このまま帰ってきて欲しくないと祈っているのだと判る

 

(だけどそうも行かないのよね)

 

玲が日本で仕事をしてくれているから私達も動きやすいわけで……玲が日本に帰ってくるのは確実な話なのだ。だけどそのせいで明久が襲われる可能性が上がるとなると、こっちはこっちでそれなりの対処が必要になってくる。

 

(なんとか理由をつけて引き伸ばしましょう)

 

玲をまだ日本に返すわけには行かないので。なにか理由をつけて私と輝彦さんの所に置いて置く事にしよう。時間を掛ければ少しは玲のブラコンも治まるかもしれないし……正直望み薄だけど……可能性は0ではないとおもう

 

「明久ってあの4人の中で誰か好きな人いるの?」

 

後これがどうしても気になっていた。誰か1人を好きで4人を連れているとしたらそれは許せることではない。輝彦さんの息子だからその可能性はないと思うけど念の為に尋ねる

 

「ぶふう!?」

 

飲んでいたコーヒーを吐き出してむせる明久。この反応を見れば判るわね、まだ誰が好きとかは判ってないみたい……

 

「かかかかかあにゃん!?」

 

「落ち着きなさい」

 

かあにゃんって何よ、かあにゃんって……母さんでしょうに……まぁそれだけ混乱しているという事かもしれない

 

「今はまだ判らないみたいだけど、そのうちにハッキリしないよ。女の子は怖いわよ。思い詰めるとね」

 

私のときも酷かったのだ、1度輝彦さんを監禁しようとした馬鹿がいたのだ。その馬鹿と雰囲気が似ているのは優月ちゃんだ……もしかすると言う可能性もある

 

「それは嫌って程知ってるよ」

 

乾いた笑い声を上げる明久。もしかしたら監禁されかけた経験があるのかもしれない……

 

「まぁ何にせよ。女の子の扱いには気をつけなさいよ?」

 

女の子はデリケートで取り扱い注意なのだから。得のあの年代は危ないのよ?と説明すると明久は判ったよと返事を返し、明日も学校だからと部屋に引っ込んでいく。規則正しい生活をしているようで何よりだ

 

「さてと少しばかり仕事を片付けてから帰る準備をしないとね」

 

時差の事も考えると、時間的な余裕はない。だけどこれはいつもの事だからそんなに気にならない。私はノートPCを再び立ち上げ、契約を纏める為の資料の作成を始めるのだった……本当はもう少しゆっくりしていたかったけど、そんな余裕も無いみたいだしね

 

(今度これるときは輝彦さんも連れてきましょう)

 

玲も連れてきて家族水入らずで旅行とかもいいかもしれないと笑みをこぼしながら、仕事を再開するのだった……

 

「あーもう行っちゃったかあ」

 

朝起きた時点で姿の見えない楓子。明久はもう自身の母が空港に向かっている事に気付き小さく溜息を吐く、だが机の上を見て

 

「あは。ありがとう。母さん」

 

机の上に置かれた鬼を模した謎のおにぎりと頑張れのメッセージカードに笑みを零し、明久はそのまま椅子に座り母が作ってくれたおにぎりを頬張るのだった……

 

 

例題1へ続く

 

 




今回で1度応用問題は終わりです。母も色々と面白い人だったと思ってくれれば幸いです。次回からはリクエストの「例題」をやっていこうと思います。どんな話が来るのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

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