応用問題問24
明久の母親だと言う楓子さんは中々面白い人だと私は思っていた。なんというか自分と同じ感じがするのだ、確実に玲さんよりもこの人の方が話が合うと感じていた。
「折角話をするんだから何か飲み物でも用意しましょうか?何にする?私はコーヒーだけど?」
リビングのソファーに座ってニコニコと笑う楓子さんだが、その目の奥はギラギラと輝いている。何かを見極めようとしているのが良く判る。
「私は紅茶でお願いします」
「私も紅茶で、飲みなれてるしなぁ」
「私も紅茶をお願いします」
雅と瑞希と私が紅茶。兄ちゃんが紅茶を良く飲むから私も良く飲むようになったけど、コーヒーよりもこっちの方がいい
「ウチはコーヒーで」
「私もコーヒーで」
そして美波と優月がコーヒーを頼むと楓子さんはそのままキッチンのほうを向いて
「紅茶3つとコーヒー3つ。ティーポットも準備してね~」
「はーい。すぐ用意するよ~お茶請けはクッキーでいい?」
キッチンからすぐ返事を返す明久。主夫スキルが順調に成長していると喜ぶべきなのだろうか?明久の感じ方次第なのでなんとも言えないが、家庭のスキルは必須なので多分マイナスにはならないはずだろう
「家事はしないんですか?」
優月がそう尋ねる。地雷と思う質問だが、楓子さんはあははっと苦笑しながら
「輝彦さんとか明久の方が上手なのよね?だから私は仕事で稼ぐの、別に逆でもいいでしょ?」
まぁ確かにそれは正論とも言える。今のこのご時勢女性が働いていてもおかしくはないのだから
「さてとじゃあ話を始めましょうか?」
にこにこと笑っている楓子さんの視線が美波達に集中する。私は明久の事はなんとも思っていないのでその視線に何の威圧感も感じないが、美波達の受けているプレッシャーは凄まじいのだろう、青い顔をして冷や汗を流している美波達を見ていると
「はい。紅茶とコーヒー……どうかした?」
のほほんとした顔をしている明久になんでもないと返事を返し、紅茶を受け取る。すると楓子さんが財布から1万円を取り出して
「美波ちゃん達も家でご飯を食べるからこれで何か良い材料を買って来なさい。出来合いは駄目だからね」
ガールズトークに男は不要。明久を買い物に行かせた楓子さんはニコニコと笑いながら
「それじゃあゆっくり話をしましょうか?ねえ?」
無邪気で楽しそうな顔をしているが、それがかえって恐怖心を煽る。逃げ道なんてないのよ?と目が語っているのだ
(これどうなるのか凄い楽しみや)
美波とか瑞希がどんな対応をするのか?うろたえるのか?それとも立ち向かうのか?私はどんな反応をするのかを楽しみにしながら、明久が置いて行ったクッキーに手を伸ばすのだった……
流石はやてさん。余裕ですね……明久君には興味のないと顔をしているはやてさんは楓子さんの威圧感を向けられておらず、平気そうな顔をしている。それ所か私達がどうなるのか?それを楽しみにしていると言わんばかりの黒い顔をしている
(はううう……はやてさんが敵になると怖いです)
普段は頼もしい味方であり、助言者なのだが……楓子さんの質問で私達がどう返答するのか?それを楽しみにしていますと言わんばかりの黒い顔をしているはやてさんがとても恐ろしい
「さてと普通に聞いたら絶対に本当の事は聞けないわよね」
うんうんっと1人で頷きながら言う楓子さん。なにかすごーく嫌な予感がする。美波ちゃん達も同じようで青い顔をしている
「と言うわけではやてちゃん。瑞希ちゃん達が普段どんな感じで明久に接しているか教えてくれない?」
にやーっと悪い顔をするはやてちゃん。これは絶対悪巧みをしている……そして下手をすればとても危機的な状況になると私は理解して目で
(お願いします!変なことは言わないでください)
はやてさんは理解してくれたようだけど、ますます楽しそうに笑みを深めるばかり。多分美波ちゃんとかも同じお願いをしたからこそのこの笑顔なのだろう。どうしよっかな~♪と目が楽しそうに物語っている。敵は近くにいる美波ちゃん達だけではなく目の間に絵にもいる。ここから先の選択肢がとても重要になる、慎重に行かなくてはいけない。
「そうね。じゃあはやてちゃんから見て雅ちゃんはどうかな?私は結構知っているつもりだけど、第3者から見てどう思う?接し方とか?」
高城先輩がびくんと肩を竦めるのが判る、だけど自分が一番最初じゃなくて良かったという安心間もある。これではやてさんの行動をある程度予測出来る筈だからだ。我が道を行く性格だから暴走する事もある、だけどそれは私も同じなのでこれで自分のバンにきたときも少し安心だと思いつつはやてさんを見ていると
「んーまぁ小暮が問題なんやない?基本的には性格良し、料理良し、頭脳良し、っと揃ってるし。ここに小暮が来ると大変なだけやね?」
あ、あれ?意外と普通?これなら心配することはなかったのかな?と思っていると
「まぁー前に拉致しようとしたのはどうかと思うけどな」
にやりと笑いながら言うはやてさんの言葉に高城先輩が頭を抱えて
「NO-ッ!!!!」
窓ガラスを揺らすほどの絶叫を上げる。楓子さんは楓子さんでその目に鋭い光を宿しながら
「ふーん?そういのはどうかしらねえ?」
手帳に何かを書き込んでいる楓子さん。間違いなく悪い印象に与えたに違いない、そして楽しそうな笑みを深めるはやてさんを見て
(や、やる気だ!全員の心をへし折るつもりだ)
これはただのガールズトークなんかじゃない、私達の心をへし折る恐怖の時間だと理解し、私達は恐怖に身体を震わせるのだった……
机に突っ伏して泣いている高城。精神的ダメージがかなり大きいようだ……私はニヤニヤとした笑みを浮かべ泣いている高城を見て笑っているはやてを見て
(基本的に苛めっ子なんだ)
龍也の前では大人しくしているけど、もしかしなくてもこっちが本性なのかもしれない。とにかく今判っている事がある、今のはやては私達の味方ではなく敵なのだということだ……
「じゃあ次は瑞希の話でもしましょうか?」
その言葉に瑞希が目の幅の涙を流す。だけど私と美波は安堵の溜息を吐いていた、これでまだ心構えをする時間があると
「そうね。瑞希ちゃんの話を聞きましょうか、小さいときと色々と変っているみたいだし」
そう笑う楓子さんの視線は胸部に集中している。それは正直私も気になっていた、一体何を食べて、どんな生活をすればあんなに大きくなるのか?それはとても気になっている。美波も同様で真剣顔をしているいるのが判る、泣いている高城を除き全員の視線が集中しているので身体を小さくさせる瑞希
(明久が絡まないと本当に気が弱いんだから)
明久が関係していれば自分の意見を強引に押し通す事も出来る。だけど明久がいないと一転して弱気になる。これももしかすると二重人格と言う奴なのかもしれない
「明久はやっぱり勉強があんまり得意やないから良く瑞希が教えてるな。数学とか、古典とかな」
これは本当のことだ。私もあんまり勉強が得意ではないので一緒に教わっているから、ここに偶に美波も入る。数学・英語・理科など日本語が読めなくても解ける問題は美波の得意分野だからだ。まぁ本音を言うと少し羨ましいと思う
(私も馬鹿だからなあ……)
演劇に打ち込みすぎて勉強は全然駄目だ。姉上に色々教わっているが、双子でもこうも頭の作りが違うのか?と絶望した。姉上の半分でも良いから勉強をしたいと思う気持ちが欲しいと思う
「料理は……まぁ。可もなく不可もなく?最初は……うん。死屍累々やったな♪」
「はう!?」
笑顔で言われたその言葉に瑞希が奇声を上げる。最初の料理は何が起きたのか判らないが、猛毒であったりとんでもない物だったのを覚えている。何せ一口で冥界送り、一体どういう料理をしたらああなるのか?もしかしたら家庭料理で要人暗殺が出来るとんでもない人物になるのでは?と思ったこともある。どこかの反政府組織が諸手を上げて歓迎するだろう、普通の食材で毒を作り出す人間なんて瑞希以外には存在しないのだから
「それはまた……あれね。私と同じね」
!まさかの高評価。恥ずかしそうに笑う楓子さんは手帳を閉じて
「私も何回か輝彦さんを病院送りにしたわ、懐かしい」
懐かしんだら駄目だ。もしかすると吉井家の男性は女難の相を持っているのかもしれない。前の話を聞いても今の明久と同じ状況になっていると聞いたのだから、もし輝彦さんの父もそうならば、確実に吉井家は女難の相を持つ家系だと言えるだろう。なお優月達は知らないが、輝彦の父。つまり明久の祖父も完全に魔王を呼び寄せる体質だったりする、そしてその父親も。吉井家は気が強く、魔王になりやすい女性に好かれやすい家系だったりする
「普通に作っているのにとんでもない事になるのよね」
「そうなんです!私は普通に作っているつもりなのに」
「判るわぁ。何が起きているんでしょうね?フライパンの中で」
あれ?これは何か違うとおもう。はやてもこれは計算外と言う顔をしている。まさかの意気投合。これでは面白い光景が見れないと判断したのか何かを考え出し、思い出したように手を叩き
「最後に体育倉庫で明久を襲ってたな」
「イヤーッ!!!なんでそれを言うんですかああ!!!!!」
絶叫する瑞希の声に耳がやられた。これはもしかすると音波兵器なのかもしれない。三半規管が揺らされた……
「そう言うのはまだ早いと思うのよね?瑞希ちゃん?暫く見ない間に何があったの?」
「うううううわああああんッ!!!」
生暖かい目で見られることに耐え切れなかったのか、机に突っ伏し高城と同じように泣く瑞希。そしてその瑞希を見てにやりっと笑うはやて。今まで私達に被害が及ぶ事はなかったが、龍也がはやてを恐れる理由が少し判った。彼女は
(生粋の苛めっ子だ)
ブラコンであり、魔王であり、苛めっ子。結構長い事一緒にいるが、知らない一面を見て改めてはやての脅威を理解したのだった……
これで瑞希と高城がやられた……声にならない声で泣いている瑞希と雅を見ていると次は自分なのでは?と言う恐怖ばかりを感じる。
(どうかウチじゃありませんように)
心の中で手を合わせて祈る。アキが用意してくれたコーヒーで気を静めるながら
「じー」
ウチと優月を観察しているはやて。その目は喜色に満ちていて、どっちをターゲットにしたら面白いだろうか?と言うことを考えているのが一目で判る
(え、選ばないで!ウチはやましい事してないけど怖い!)
(私は心当たりがありすぎる!選ばないでッ!)
ウチと優月の心の声を聞き取ったはやては笑みを更に深くさせてから
「優月はあれやな。最初は男装しておってな?面白い奴やと思ったんや」
口から白い何かを吐き出す優月。あれはもしかすると魂って奴かもしれない……それほどの悲壮感を持っていた。ウチじゃないと言うことに安堵していると楓子さんが
「男装?なにか特別な理由でもあるの?」
そう尋ねられた優月の口の中に白い何かが戻っていく。若干怖いと思ったが、何故か面白いと思った
「えーと、曽祖父の指示でして……えーと私の父には男の子供が生まれなかったので男装しろと」
「ふーん。何かの伝統芸能でも継いでるのかしら?」
それはウチも少し気になっていた。何で男装するように言われていたのか?それは優月も教えてくれなかったのでずっと聞いて見たいと思っていた
「もう廃れてはいるんですが、ずっと前の歌舞伎の大御所?の血統らしくて私はその人に似ているって事でですね」
歌舞伎……もしかして優月が演劇を好きなのはもしかすると自身の血が原因なのかもしれない。隔世遺伝するって言うのは良く聞く話だし、その可能性は極めて高いと思う
「なるほどねー。まぁ面白い話よね?」
手帳に素早く書き足していく楓子さん。話をして返事を返しながらもメモを取る。そのスピードはかなり速い、こういう作業に慣れているのだろう
「だから明久的には女子としてではなく男友達?って感覚で話をしてるから割かし有利かも?それは美波も同じやけど」
楽しそうに言うはやて、ウチと優月が瑞希と雅より有利なのはそこだろう。話しやすい女子と言うのはウチの武器でもあるわけだ
「だけどまぁ黒いし、嫉妬深いし、手錠とか出すし。結構危険?」
自身も黒い笑みを浮かべて言うはやて。ウチから見ればはやての方がよほど危険に見える
「異議ありッ!!」
そして優月が机を叩いて叫ぶ。これは確かに異議を申し立てるレベルだ、何故なら優月よりもはやての方がもっと黒いからだ
「あれは全部はやてのアドバイスだ。私のアイデアじゃない!」
「だけど実行したのは優月やろ?ストーカー気質?」
ふぁーっ!と叫ぶ優月。これは完全に相手が悪い。はやては自分の行いは全て正しいと思っている、だからこそ行動にためらいがない。だけど優月は若干の罪悪感を覚えている。その差はとても大きい
「そのうち明久を監禁してまかもなー?思い余って?あははは~」
優月を更に追い詰める為に楽しそうに笑うはやて。最悪だ、はっきり言って邪悪すぎる
「まぁそれはそれで仕方ない事かもしれないけど」
仕方ない事じゃないと思います。その事に対して理解を示してあげないでください。そしてその生暖かい視線も止めてあげてください……見る見る間に頬を紅くした優月は
「うううううううっ……」
瑞希と高城と同様机に突っ伏し泣き始めた。これで残るはウチだけ、はやてと楓子さんの楽しそうな視線を向けられ、ウチは背筋を伸ばした。気持ちだけでは負けてはならない。ウチは瑞希達のように自爆するような事はしてないんだから……
流石美波。気持ちが強い……それに瑞希や雅と違って暴走しない。これはかなりの強敵や
(本当に何もないんやよね)
暴走する雅とか瑞希を止める立ち位置だし、嫉妬はするがそこまで黒くない。呻いている雅と瑞希と違って後ろめたいことがないのいだ
(持ち上げて落とすのは無理やな)
落とせるだけの事を美波はしていない。むしろ好意的に接しており、明久もその好意を受け入れている素振りがある。だけどそれを素直に話しては面白くない。出来れば雅や瑞希のように悶絶している美波を見たい、時計を見ると話し始めてそろそろ1時間……明久が帰ってきてもおかしくない時間帯だ。だから別の方向性で攻めてみる事にした
「そやなぁ?美波と明久はかなり仲が良いと思うで?雅や瑞希と違って暴走しないし、性格もさっぱりしてるから話しやすそうやし」
びくんっと美波が肩を竦めるのが判る。私の考えている事が判ったのだろう。落とせないのなら持ち上げ続ける。そのうちに耐え切れなくなって明久が来れば点火ととても面白い事になるだろう。
「明久は美波ちゃんを大分気に入っているって事かしら?」
楓子さんの言葉に美波の耳が赤くなる、ついでに頬も。この反応を見るのは楽しい……兄ちゃんは鉄面皮で顔色があんまり変らないから正直詰まらん
「と言うか、本命なんじゃないかな?」
ぼふんっと言う擬音が聞こえた気がする。多分頭からは湯気が出ているだろう。オーバーヒートで
「勉強を見てくれて偶にお弁当を作ってくれるし、それに守ってくれるって明久は大分というかかなり好き見たいやね」
あうあう言っている美波。これは完全にまともな思考が出来ていない。口をパクパクさせて言葉にならない声を繰り返している
「ふーん。それは良い事を聞いたわね。私も大分気に入ってるし、どう?美波ちゃん?明久欲しくない?」
ちなみに楓子さんのこの言葉は冗談ではないだろう。玲さんが最近かなり暴走しがちなのは明久から聞いている。ここで母の決定権を使い、美波を明久の彼女にしてしまえばとか考えているのだろう。明久が雅を好きならそれでいい、だけど美波の方が好きならそれを優先すると言った所だろう
「ひゃああああ!?ほほほにゃい!にゃす!!」
完全に思考が暴走し声にならない奇妙な声で返事を返す美波。その姿が面白くて小さく笑っていると
「ただいまー」
間が悪いことに明久が帰ってくる、そして呻いている瑞希や雅達そして
「はわわわわ」
トマトのように顔を真っ赤にしている美波を見て、手にしていた買い物袋を机の上において
「美波?そんなに顔を紅くしてどうしたの?風邪?」
明久が美波の額に手を伸ばした瞬間。思考停止していた美波は目の前の明久を見ると
「ふみゃああああ!!!」
「なんでえ!?」
強烈な勢いで叩き込まれたアッパーで天井に衝突する明久。そしてオーバーヒートしていた美波もひっくり返り気絶する
「これはとても面白い状態ね」
このやり取りを見て明久の周囲の人間関係を理解した楓子さんが楽しそうに笑う
「そうでしょう?」
私も笑いながらそう呟く。ここまで面白い人間関係は中々ない。だから明久達は面白い。私は心の中でそう呟き、目を回している明久と美波。そして自己嫌悪で呻いている雅達を見てもう1度笑ったのだった……
応用問題問25へ続く
うちのはやて様は基本的に苛めっ子です。龍也さんのまでは大人しいですけどね、次回で母来襲変は終わりの予定です。その後は例題でリクエストをやっていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします