応用問題問23
母さんが帰ってきたのは良い。久しぶりに話を出来たし、頑張っているようだからと生活費も上げてくれたし……
久しぶりの帰宅と言う事で両手に絆創膏を貼りながらも作ってくれた不恰好なお弁当。僕が子供のときに好きだった、母さんの謎キャラクター。アスパラガスが角でハムが目を形作っている鬼の様な何かを模したおにぎりも、小学生のときを思い出してとても懐かしい気分になったのも良い
だけど……だけど!
「これはいくらなんでもあんまりじゃないかなあ!!優月と美波!!!」
お昼の時間に鞄から母さんの弁当を出した瞬間。僕は足にロープを巻かれてFクラスの天井方逆さに吊るされ、怖い顔をしている美波と優月にそう叫ぶのだった……なお龍也達はと言うと
「ふむ。下手ではあるが頑張っているというのが良く出ているな」
龍也は冷静に弁当のおかずを見て分析している。そんな事をしている暇があるなら助けて欲しい
「また誰か引っ掛けたか?魔王を増やすのも大概にしろよ?まったくそれだけモテるこつでも教えてくれよ?」
雄二が笑いながらそうつぶやく。無論本人はそんな事は微塵も思っていないと言うのは僕でも判るのだが
「……雄二がそんな事をすれば〆る」
「ぐぎゃああああああ……」
冗談が通じない霧島さんに首を絞められ絶叫している雄二。口は災いの元と言うこれでもない良い例だろう
「あれ?ムッツリー二君どこ行くの?」
もう完全にFクラスに馴染んでいる工藤さんの声がする。吊るされているので方向転換が難しいが、何とか方向転換して声のほうを見るとムッツリー二が鞄を肩から提げていた
「……陽向が弁当を忘れていたから届けに行く。無効も近くまで来ているから問題ない」
「じゃあ僕も行くよ」
嫌そうな顔をしているムッツリー二だが、工藤さんは言い出せば絶対NOとは言わない。修羅場一直線だ……
「アキ。怒らないからこのお弁当を作ってくれた人の名前を今すぐ言いなさい。怒らないから」
繰り返し怒らないと言う美波だけど、その目が笑っていないのでとても恐ろしい
「これは鬼?なんでこんなのが……」
僕のお弁当を観察している優月。その気持ちは良く判るよ、母さんの価値観は独特だから……とは言え大切な母さんが作ってくれたお弁当だ。事情を説明すれば……
「あれ?懐かしいですね。明久君。これ明久君が小学校のときに良く持って来てたお弁当じゃないですか?」
「帰国なされたと聞いていましたが、本当だったのですね」
瑞希とみーちゃんが来てそう呟く。瑞希は小学校のときの同級生だったし、みーちゃんは幼馴染。この母さんオリジナルの謎キャラクターも知っている
「え?これもしかして」
その言葉に美波がこのお弁当を作ってくれた人物に気がついたのか僕のほうを見る。僕は逆さに吊られたまま肩を竦めて
「そ、昨日帰ってきた母さんのお手製弁当。頭に血が上ってきたからそろそろ降ろしてくれない?」
驚いている美波と優月にそう声をかけた。なんせ15分も逆さつりなのでそろそろ目がちかちかしてきた……慌てて下ろしてくれる美波と優月だけど……
(慌ててるのは判るけどスカートには気をつけようよ)
頭に血が上っているのでゆっくり観察しているような時間はなかったけど、一瞬スカートの中が見えそうになったので慌てて目を閉じるのだった……
まさかアキのお母さんが料理下手だったとは予想外だった、ウチの初めて作ったお弁当よりも見た目が悪い。そしてなによりも謎のおにぎりにどうしても目が行ってしまう
「アキ君のお母さんの料理は見た目があれですけど、意外と美味しいですよね」
「あはは。それは仕方ないよ、母さんはあっちこっち行ってるからね。いろんな国の料理が混じってるんだ」
いや、それを考慮したとしても中々酷い見た目だと思う。だけどアキが嬉しそうなので何も言わないで自分のお弁当を食べていると
「今明久のお母さんに日本に居るの?」
海外にいると聞いたけどこうしてお弁当を作ってくれるってことは日本にいるんだと思い尋ねると
「うん。昨日ね帰って来たよ、いきなり裏拳だったかな?」
頬にガーゼを張ってるのそれだったんだ、一体誰に殴られたのか気になってたんだけど……まさか母親だったとは……玲さんもそうだけどもしかすると吉井家は男子の方が料理上手なのかもしれない
「随分とまぁ凶悪な母親やな?」
「愛情表現が過激なんだろう?」
ははっと笑うはやてと龍也。愛情表現の一言で片付けていいとは思えない、と言うかいきなりなんで裏拳?どういう状態だったのか想像できない。しかしこれはチャンスかもしれない、ここでアキのお母さんの高感度を得る事が出来れば将来的にはかなり有利になるかもしれない。瑞希と優月も同じ考えのようで互いに弁当を食べる手を休め。話を切り出すタイミングを窺っていると
「まぁその裏拳は置いておいて、折角楓子さんがいらっしゃるのですから、お伺いしても良いですか?」
しまった!出遅れた!ウチ達の視線が集中する、雅はふふんと笑っている。こういう時に我が道を行く性格の雅は強敵だ
【ドヤ顔の雅の写真いただきましたぁ】
窓の外から聞こえてきた小暮の声にFクラス全員の顔が渋い物になる。あの変態は本当にどこにでもいるのだろうか?
【呆然とした吉井君の写真貰ったー!】
今度はゲイの声が聞こえる。あの野郎は本当に1度叩き潰したほうがいいのかもしれない……
「……」
アキが青い顔をして震えているのを見ると本当にそう思う。あのゲイはアキにとって完全に害悪だ、存在する事さえ許されないとウチは思う。絶対なにをしても排除するべきだ
「んで?如何するんだ?お前の母親に島田達を会わせるのか?」
翔子の攻撃で瀕死になっていた坂本がそう尋ねる。明久ははははっと乾いた笑い声を上げて
「違うよ。多分母さんが来るよ、帰る時間帯には」
乾いた声と死んだ目をしているアキ。もしかすると凄い怖い人なのかも知れない……まぁなんにせよ後で会えるかもしれないので楽しみにしておこう
「いつまでも話していていいのか?昼休憩の時間が終わるぞ?」
もう弁当を食べ終え、いつものように紅茶を飲んでいる龍也に時計を見ると残り5分
「やば!急がないと!」
このままだと休憩時間が終わるまでにお弁当を食べ終わる事が出来ない。本当は話しながら食べるのが楽しいんだけど、時間もないと言うことでウチ達は無言でお弁当を食べ進めるのだった。そして帰る時間になり、いつもの面子で帰ろうとしていると
「ふむふむ……まぁ見た目はOKって所かな?」
門の所にいた女性がウチ達を観察するかのような視線で見てくる、普通なら怒る所なんだけど
(なんか怖い……)
なんと言うか威圧感がとんでもない。はやてを更に濃くしたらこんな気配なんじゃ?と思うレベルだ
「ちょっ!母さん!何を!「道の真ん中で騒がない」へぶう!?」
パンっと軽い音が響くとアキがよろめいて倒れて、鼻を押さえている。まさか殴った?全然見えなかったけど
「ほう」
「やりますね。あの人」
「本当やね。あれは避けるのは難しいんじゃない?」
遅れた来た龍也達にはあの一撃が見えていたようで、なんか評価している。話しているところが違うと思う……それにいきなり殴られてへたり込んでいるアキが可哀想だと思い、威圧感を感じながらも
「いくら親でもアキをいきなり殴るのはどうかと思います」
ウチが一歩前に出てそう言うと、アキのお母さんはウチを見て
「よし、合格♪」
「はい?」
合格ってどういうこと?突然の言葉と同時になくなった威圧感にウチ達が混乱していると
「相変わらずといえばいいのでしょうか?」
「まぁね?やっぱり母としては色々と見極めないといけない事ってあるとおもうのよね。全力で威圧してたけど、話しかけてきた貴女は合格♪名前は?」
笑いながら尋ねて来るアキのお母さん。ウチは若干混乱したまま
「島田美波です」
「美波ちゃんね?覚えたわ。私は楓子。吉井楓子……明久の母親よ」
さっきの威圧感はどこへやら、笑顔で自己紹介を始める楓子さん。ウチの楓子さんに対する印象は中々凄い人だった……
帰ってくる時間が近いので明久を好きだという少女を見る為に学校の前にきて見て、私が思ったのは
(まぁ何と言うか個性的な面子よね)
私の学生時代に良く似ている美波ちゃんに、小学校の時の同級生の瑞希ちゃんもいる……1人だけ一歩下がって観察しているような表情をしている少女
(なんか嫌な感じ)
あの目はどうもイラッとする。まぁあんな子供にムキニなるのもおかしな話なので無視するが
「さてと美波ちゃん達も家に来なさいよ。色々と話をしたいし、雅ちゃんは言わなくてもくるわよね?」
勿論ですと頷く雅ちゃん。自分で決めた事は絶対に譲らない。考えていることなんてここで私の評価を上げて将来の為にと思っているのだろう。だけどそう言う所は嫌いではない、むしろ明久には丁度いいとおもう
(やっぱりこれくらいじゃないとね)
明久は押しに弱いところがあるので自分の意見でぐいぐい引っ張るくらいな女の子がいい。もしくは自分の意志なんていえないタイプで明久が自分から強くなろうと思わせるタイプがいいと私は思う。
(早く彼女を作らせたほうがいいのよね)
今向こうで玲を抑えている輝彦さんの事と久しぶりに喧嘩した玲の事を考える。私と輝彦さんの結論は同じだった
【【早く明久に彼女を作らせよう】】
玲のブラコンは既に矯正出来るレベルではないと言うのが結論。このままだと本当に明久を襲いかねない。どこがどうなってああなってしまったのか?それは永久の謎だ。
「木下優月ちゃんって言うの。よろしくね」
「はいよろしくお願いします」
頭の中では玲の事を考えつつ、口では明久の事を好いていると思われる少女と話をする。これくらいのことが出来なれば海外の経営コンサルタントなんて出来ない。一癖も二癖もある人間が多いからね。それに中には人妻でも構わないとか言って求婚してくる馬鹿もいるしね。
「しかし玲の暴走は大丈夫だったんですか?絶対彼女も戻ってくると思っていましたが」
雅ちゃんの問い掛けに私は軽く左拳を振る。鋭い風切音と見えなかったと呟く美波ちゃんの声を聞きながらゆっくりと帰路に着く。話を聞くなら家の方が良いし、本当は龍也君も誘いたかったんだけど妹が心配するのでと言って帰ってしまったのが残念だ。その代わりに暇だからと言う理由で付いてきていた龍也君の妹のはやてちゃんが一緒にいるので彼女に色々と話を聞いてみるのも面白いかもしれない、玲の話で何回か出て来ていたし
「母さん?姉さんに何をしたの?」
青い顔で尋ねて来る明久。だけど私も結構ダメージを受けている。特に右肘、飛びつき腕ひしぎ逆十字を仕掛けられた。当然スグ外したが少し筋を痛めている
「ちょっとリバーからのガゼルパンチを」
普通の攻撃では意識を刈り取れないと判断し、本気で攻撃することにしたのだ。一番威力があるであろう……リバーからのガゼルで意識を刈り取ったのだ。明久はそれを聞いて
「何してるの!?」
そうは言うけど、そうしないと自分がやられるところだったのだから仕方ない。それに手加減もしているので大丈夫なはずだ
「大丈夫大丈夫。玲は頑丈だからね、まぁそれより早く帰ってゆっくり話をしましょう?」
今は私の話より美波ちゃん達の話の方が聞きたい。はぁっと生返事を返す美波ちゃん達と携帯を取り出している雅ちゃんと明久に
「如何するの?」
何をするつもりなのかと尋ねると雅ちゃんはさっと明久の頭に手を置いて写真を取り
「こういう時は確かざまあwwwと書くんでしたね」
誰に教わったのだろうか?彼女は結構名家の家の人間のはずだけど……誰にそんな言葉を教わったのかかなり気になる
「僕はあれね。姉さんに大丈夫?ってメールを」
「それだけで回復しそうね」
まさか~と笑う明久だけど、玲の事を考えるとあながち冗談ではなく私は思わず引き攣った笑みを浮かべてしまうのだった……
ピロリン♪
「ううう……誰ですか?」
なお楓子はそんなに攻撃していないと言っていたが、玲は結構な重傷であり。布団に包まって呻いていた、リバーからのガゼル。そしてトドメの胴回し蹴りで完全に顎を打ち抜かれ気絶したダメージは相当深刻だったようだ。呻きながら携帯を見て
「アキ君♪」
愛する弟からのメールに幸せそうに笑いメールを開く。その瞬間青い顔をしていた玲の顔色が一気に赤くなる
【母さんから聞きました。あんまり無理をしないで身体を休めてください。母さんの攻撃力は異常なので】
「アキくーん♪」
普段の凛とした雰囲気はどこへやら、ぽわぽわした顔をしていた玲だが……次のメールでその顔を鬼と変えた
【ざまあwww】
「雅ーッ!!!!」
明久の頭に手を置いて勝ち誇った表情をしている雅の姿に咄嗟に立ち上がるが、ダメージで倒れて動けないでいると
「なに!?どうしたの玲!!!」
その突然の怒声に輝彦が玲の部屋に駆け込むとそこには、尻を突き出すようにして倒れている玲。着替えようとしていたようだが、完全に足に来ていて、パジャマの下を脱ぎかけた所で力尽きたようだ。下着が見えている事もあり、中々に色っぽい姿に見えるのだが、そこは父親。全く気にした素振りを見せず。
「ううう……アキくーん……」
その姿勢のまま明久の名前を呼ぶ玲に輝彦は珍しく怒りながら、ズボンをはきなおさせ
「会いに行ったら駄目だからね!布団で大人しくしている」
エプロンをつけた輝彦に引きずられるように布団に戻され、自身の涙で枕を濡らしていたりするのだった……
応用問題問24へ続く
今回はここまで次回は魔王談義です。本当は龍也とかを入れても面白いと思ったのですが、魔王と言うことではやてのみを入れてみました、セッテとかはまだはやて様レベルではないので、最上位の魔王と大魔王談義をやって見たいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします