バカと魔王と召喚獣【凍結中】   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は珍しく魔王化しない美波が出てきます。そして3年との召喚戦争が終わりに向かって動いてきます。どんな展開になるのか楽しみにしていてください、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


第117問

 

 

第117問

 

旧校舎の裏の休憩所なら非戦闘区域だ。きっとそこにいると思い向かうと

 

「はぁ……どうしてこんなことになるのかなあ」

 

アキが空を見上げてそう呟いている。やはり色々と悩んでいるようだ……励ましてあげたいと思いゆっくりと近づき

 

「アキ。大丈夫?」

 

ウチがそう声を掛けるとアキは驚いたようにこっちを向いて

 

「美波も休憩?」

 

弱々しい声で尋ねてくるアキに頷き、その隣に腰掛ける。アキは空をぼんやりと眺めている、つられて空を見る。蒼く澄んだ空が広がっていて良い天気だ。だけどアキは天気に反して落ち込んでいるようだ、むしろこの天気のせいで余計に落ち込んでいるのかもしれない。励ましたいと思っているのになんと声を掛けてあげればいいのか判らない……

 

(こんなにアキが悩んでるのに……ウチはどうすればいいのよ……)

 

励まして上げたいと思っているのに何を言えば良いのか判らない。何か言わないとと思っているのに何も言えず、2人で空を見ていると

 

「ねぇ美波。僕は何か間違えちゃったのかな?」

 

ぼそりと呟くアキはウチを見て真剣な顔をして

 

「僕はその……美波とか瑞希とか優月が好きだって言ってくれて、まぁお仕置きされたりするけど……皆でいる時間が楽しいから……このままが良いって思ったんだ。だから美波とかの気持ちを考えないで、答えを出そうともしなかった。そしたらみーちゃんに再会して婚約を迫られて……これって僕がハッキリしなかったからかな?人の気持ちを考えないで自分の事を考えてたからかな?」

 

それは違う。アキはウチや瑞希の事を傷つけたくなくて曖昧な態度を取っていた、それは瑞希もウチも理解していた。アキは優し過ぎるから……

 

「結局僕は美波達の想いを踏み躙っていただけなんかじゃないのか……って思うと僕がしたことは全部「違う。違うよアキ」

 

アキの肩を掴んで抱き寄せる。今のアキは自責の念で自分を追い詰めている……アキがやっていたことは確かに皆の想いを蔑ろにしているとも取れる。だけど今のままが良いと思うのだって間違いじゃない。誰だって険悪な雰囲気になるのより、喧嘩したって揉めたって良い。笑い会える友達で居たいと思うのは当然のことだと思う

 

「み、美「アキは間違ってないよ」

 

アキが驚いて離れようとするのを腕に力を込めて邪魔する。面と向かって話しなんか出来ない、抱きかかえるのも恥ずかしいけど、顔を見て話すのはもっと恥ずかしい

 

「例えばだけど、瑞希とアキが付き合う事になったとしたらウチは悲しいし、距離を取っちゃうかもしれない」

 

いや。本当は瑞希と喧嘩になると思う、共同戦線を張る約束をしたのにそれを反故にされた挙句。アキを独り占めにされて大人しく諦める事が出来るほどウチは人が出来てないから

 

「だからアキがしたことは間違いじゃないわ。これは慰めたいとかそう言うんじゃない、ウチもそう思ってたから。アキが居て、瑞希と優月がいて。馬鹿をやれる仲間がいて、わいわいするのって凄く楽しいわよね」

 

「美波もそう思うの?」

 

抱きかかえているから声がくぐもっているけど、ちゃんと聞こえた。よく考えるとこの体勢って凄く恥ずかしいわね、でも顔を見て話をするよりかは良いと思うけど、何時までもこうしているわけにも行かず

 

「ええ。だから驚いたわ……アキがウチと同じことを考えてるってね」

 

そう笑ってアキを放して一歩後退して

 

「ウチはそんな優しいアキが好きだよ。1年生の時からずっと……それで今からもずっと」

 

アキはずっと優しいままだ。日本語が判らないうちに友達になろうと言ってくれたアキ。喧嘩もしたけど……やっぱりウチはアキが好き。だから今からウチが言うのはそんなアキの優しさを利用するずるい言葉

 

「今はまだ返事は良いの……瑞希も優月もウチと同じ事を考えていると思うから。まだ学生で入れる時間は1年もあるのよ?焦って答えを出すことはないと思うの」

 

アキに時間を与えて考えさせる。それはアキの優しさでは決して結論を出せないと判っている、その1年の間にウチも瑞希も優月もアキに好かれようと全力で行動するだろう。そしてアキは居心地の良い場所を壊したくないから曖昧な態度を取り続ける。決して答えなんてではしない、変わらない日常。ウチもアキもそれを望んでいる、ならそのままで良い

 

「高城がアキに婚約を迫っているけど、そんなのすぐには返事できないでしょう?」

 

「う、うん」

 

おどおどとした感じで頷くアキ。大企業の次期総帥と婚約、それだけ聞けば大した玉の輿だけど……10年ぶりに再会していきなり婚約して欲しいなんて強引過ぎる。しかもこの勝負に負けたらアキを差し出せなんて、そんなのはアキを物扱いしているのと同じだ。そんなの納得できるわけが無い、留学の話だって用はアキをウチ達から引き離そうとしているだけのことだ

 

「だからね。アキ」

 

アキの両手を胸の間で抱き抱える様にして、不安に揺れているアキの目を見て

 

「よく考えてアキ。自分で考えて、自分で行動するの。今までもずっとそうして来たでしょう?」

 

馬鹿なこともしてきたけど、アキは自分で考えて自分で行動してきた。今回も相すべきだというと

 

「あ、うん……そうだよね「時間切れだ」げふうっ!?」

 

「えっ?」

 

アキが何かすっきりした表情でウチに何か言おうとした瞬間。アキの姿が消える。い、今の声は坂本?振り返るとやはり坂本がいた

 

「時間切れだ。これ以上休ませている時間はない。最終作戦が決まった、その作戦はお前が要だ。とっとと補充試験に行け」

 

「ちょ!もうちょっと時間を上げてもいいんじゃない!?」

 

せ、折角いい感じだったのにとウチが坂本に詰め寄ろうとすると、ガシッと両肩を掴まれる

 

「美波ちゃん。サービスはここまです、これ以上は協定違反と判断しますよ?」

 

「島田。これ以上いい思いはさせない」

 

瑞希と木下ががっちり肩を掴んでいる。ウチの肩の骨が軋んでいる、そんなに嫉妬するなら自分達も来れば良かったじゃない!

 

「考え事がしたいのなら補充試験の最中に「ううん。もう大丈夫、僕がどうしたいかはもう決まったから」

 

アキは坂本の言葉を遮って立ち上がる。その目にさっきまでの不安の色はなく、いつも通りの光りが宿っていた

 

「美波!話を聞いてくれてありがとう!おかげで吹っ切れたよ!」

 

アキはそう言うと旧校舎のほうに走って行ってしまった。その姿はいつも通りで少し安心した、後は

 

「いい加減にウチの肩から手を離してくれないかな!」

 

「「……」」

 

魔王モードに入っている。瑞希と木下との話し合いを穏便に済ますことだけに集中しよう

 

 

 

 

 

小暮からの報告を聞きながら私は

 

(この方法はよくなかったかもしれませんね)

 

試召戦争でアキ君を手に入れて、一緒に留学して。その時間の間で会えなかった時間を埋める、考えたときは良い考えだと思った。だけどこうして2年生と試召戦争をして思った。

 

(アキ君は昔のままだと)

 

友達思いで優しいアキ君のままだと判っていたのにこんな手を取ってしまった。アキ君からすれば私のやっている事は許容できないはずだ。しかし今更中断など出来るわけが無い。この戦争を上手く終わらせるには私がアキ君に討ち取られる、これがベストなのだが、どうやってその展開にもって行くかが問題だ

 

『貰ったぁ!』

 

「!なるほど!そう言う手で来ましたか!」

 

突然私の召喚獣に襲いかかってくる召喚獣、召喚者の顔を見ると3年生ではない2年生だ。突然のことに驚いているクラスメイトを無視して、襲ってきた召喚獣を両断する

 

(複数2年生がいますね。私を囲むようにしている)

 

2年生の存在に気付いた小暮が警戒するように言おうとする、それを手首を掴んで静止する

 

(良いですよ。小暮好きにやらせましょう)

 

(負ける気なのですか!?雅)

 

驚いた顔をしつつ小声で尋ねてくるという器用なことをする。小暮に

 

(ただ負ける気はありません。ですが自分のやり方がよくなかったと反省しているのです)

 

もっと普通にアキ君に接すればよかった、こんな試召戦争中ではなく。卒業までの時間が短いからと焦ってことを動かそうとした私のミスだ。ならばこの試召戦争は私の都合で始めた物。幕を引くのは私自身の敗北以外に他無い

 

「私は少し考えたいことがあるので暫く単独行動を取ります。あとは自分達の判断で行動してください」

 

そう言って教室を出て屋上に向かって歩き出す

 

『大将取った』

 

『俺達の勝ちだーッ!!!』

 

3年生の中からときおり飛び出してくる2年生を一太刀で戦死にし、ゆっくりと歩いていると

 

「雅!考え直してください、ここからでも逆転できます。なんなら私が吉井君を連れてきても良いのですよ」

 

追いついてきて珍しく大きな声で言う小暮に微笑み返しながら

 

「こんな方法でアキ君を自分の傍においても、アキ君は私を見てくれません。手遅れかもしれませんがやり直したいと思うのですよ」

 

この奇襲方法は私が騙されやすいとアキ君が覚えていたから実行された作戦だろう。高城グループ次期総帥と行動していた私は既に騙されるような性格をしてないのだが、それでも昔の私を覚えていてくれているアキ君が嬉しくて敢えて1人になりアキ君を待とうと思うのだ

 

「雅……」

 

「そう気に病む事はありませんよ、私が焦っただけですからね」

 

もっと早く再会する事を考えていればよかった。今となっては後の祭りだが、そう思う

 

「小暮も好きにしてください。その代わりアキ君は私のところに来るように誘導してください。それが私の最後のお願いです」

 

「……判りましたわ。必ず吉井君を雅の所に行くように誘導します。それではまた後で」

 

そう笑って来た道を引き返して行く小暮を見送り、私は屋上に向かった。恐らく向こうは騙されやすいというのを前提に考えている。仲間から攻撃されたら1人になると考えるだろう、となれば屋上で待っているのが1番いいはずだ。邪魔者も居らず2人だけ……

 

(ああ。坂本君が来ますか)

 

屋上になんて教師はいない。となると召喚フィールドを張れる坂本君とペアで行動すると考えるのが普通だ。まぁ別にいてもいなくても気にする必要はない、アキ君が来てくれる事が重要だから

 

「さてどこから来るのでしょうね?」

 

屋上に私が来ることは計算しているはず、しかし屋上にどうやって突入してくるつもりだろうか?階段を普通に上ってくる?これはありえない。ではどうやってと考えると

 

(観察処分者……これがポイントですね)

 

物に触れる召喚獣。それを使って私が考えように無い突入方法をして来る筈だと思い。屋上に腰を下ろす、今の時間は3時30分……試召戦争終了まではあと30分。たった30分と考えるのか、30分もあると考えるのか?恐らく2年生が考えるのは後者の筈だ。あれだけアグレッシブな作戦を取るのだ、その30分で私を討ち取る方法を考えているはずだ。どんな方法で仕掛けてくるのかが楽しみだ……後残っている問題は

 

(卒業までの時間が余りに短いことですよね。どうしましょうか?)

 

折角再開したのに卒業がもう直ぐそこまで迫っている。それをどうするのか?私はアキ君が来るまでの時間。その事をずっと考えていたのだった……

 

 

 

補充試験の会場でテストの問題を必死に解く。途中で雄二が追いついてきて簡単に作戦の説明を聞いたがその内容は博打と言っても良い物だった

 

(僕が観察処分者じゃなかったらどうするつもりだったんだよ)

 

テストの欄を埋めながらそう苦笑する。雄二の作戦は奇襲による電撃戦と最大戦力による殲滅戦。僕がみーちゃんを倒すか、戦力組みがみーちゃんを討ち取るかだ。だけどみーちゃんは僕が倒す、それをするために唯一の得意科目の日本史の点数を少しでも高める為に……

 

「そこまでだ。テストを預かる」

 

補充試験を終えてFクラスに戻る。さっきまでの僕の日本史の点数は217点。試験の結果が反映するまで10分

 

(ギリギリって所かな?)

 

終戦時間は4時だ。今の時間は3時5分、攻撃を仕掛けることが出来る時間を考えると20分が僕の手持ち時間になるはずだ。けっして時間があるわけじゃない。だが短期決戦と判っているのならそれなりの戦い方があるというものだ。そんな事を考えながらFクラスに戻ると

 

「よう。明久。試験は終わったのか?」

 

殆どクラスメイトのいないFクラスで雄二が出迎えてくれる。今このクラスにいるのはいつもの面子と木下さんと霧島さん、それと工藤さんだけだ

 

「龍也達は?」

 

姿の見えない龍也達のことを尋ねる。総力戦なら龍也達の力が必要なはずなのに姿が無い、その事が気になり尋ねると

 

「新校舎に突撃してもらっている。あの面子なら問題なく本丸まで切り込める、最悪龍也達が大将を討ち取ってくれるだろうよ」

 

そう笑う雄二だがそこまで状況は甘くない、龍也達の点数は確かに高いが……今日は殆ど補充試験を受けていない、突撃しなおかつ大将を討ち取れるような余力はないだろう。とは言え僕に出来ることは無いので出撃時間まで気を休めようと思い、自分の椅子に座ると木下さんが雄二に

 

「坂本君。他に何かやることは?」

 

どうも僕が試験を受けている間に他の面子は作戦を聞いて実行に移っていたのだろう。それが終わった木下さんが雄二にそう尋ねると雄二は笑いながら

 

「特に無い。敵が来るまで話でもしていろよ。島田達みたいにな」

 

美波達を指を指しながら言うが……

 

「美波ちゃんだけずるいと思うんです!」

 

「ポジションがずるい。もっと私達と似たような立場で動いてよ!」

 

「知らないわ。ウチは自分で考えて行動したの、動かなかった木下と瑞希に文句を言われる筋合いはないわ」

 

あれは話をしているというより喧嘩をしているという感じだけど、いつも通りで安心する。椅子に座って目を閉じていると色々と思い出す

 

小学校のときの瑞希の事。頑張り屋だけど要領が悪い女の子、よく考えるとそれが僕の初恋だったのかもしれない。優しくて少し嫉妬深いけど……一緒にいたいと思える

 

文月学園で出会った美波の事。帰国子女で日本語が判らなくて孤立していた、それを何とかしたいと思って。僕は美波に話しかけたのだった。同性みたいな感じで一緒に入れて、好きなことを互いに言い合える。この関係は凄く心地良い

 

同性だと思っていたら。女の子だった優月。1番僕のことを理解して色々と馬鹿をやれた。1番理解してくれていて1番一緒にいて楽しいのは優月かもしれない

 

そして

 

(みーちゃん)

 

ずっと前に引っ越してしまった幼馴染。最近再会していきなり婚約者になって欲しいと言われ面を喰らったっけ……目を閉じて色々と考える。僕がどうしたいのか?どうすればいいのか?それはもう決まっている。

 

「坂本!3年が攻め込んできたぞ!」

 

見張り役の生徒の声が聞こえる。そろそろ僕の点数も反映される頃だ。ゆっくりと目を開くと雄二が僕達を見ながら、最後の激励をしていた

 

「良いかお前ら!こいつが最後の勝負だ!歯を食いしばれ!四肢に力を込めろ!腹の底から気力を振り絞れ!!!」

 

『『『応ッ!!』』』

 

力強い鼓舞の声に頭の中が切り替わっていく。考え事をするのはここまで、後はこの勝負を終わらせることだけを考えろ

 

「狙うは勝利の1点のみ!馬鹿だろうが、凡才だろうが、秀才だろうが関係ねえ!自分の出来ることに全力を尽くせ!」

 

『『『応ッ!』』』

 

「この勝負……勝ちに行くぜッ!!!」

 

『『『しゃあああッ!!!』』』

 

雄二の力強い激励の言葉に頷き、僕達はFクラスを後にした。きっとここに戻ってくるときには決着がついている。僕はそんな事を考えながら最後の戦いに向かったのだった……

 

第118問に続く

 

 




龍也さん達の出番が少ないのは、やはりバカテスと言うことで明久とかに重点を置きたかったからです。次回は龍也さん達も登場する予定です。120問で完結予定ですので後2話ですが、どうか最後までお付き合いください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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