第112
昼休み後の会戦から30分後。岩下さんが慌ててFクラスに駆け込んでくる
「た、大変!Fクラス全員が3年生のど真ん中で包囲されちゃった!」
がたんと代表が立ち上がり岩下さんの前に行く
「……どういうこと!」
物静かな代表の珍しく、大きな声にあたしと一緒に戦況確認をしていたなのはが
「翔子。落ち着こうよ、まずは話を聞こう?岩下さんなにがあったの?」
その問い掛けを聞いた岩下さんはふーと大きく深呼吸してから
「根本とその仲間が途中からBクラスに紛れ込んでて、そこから戦線が崩れて……Fクラスは今新校舎の3-Bに立て篭もってる!助けに行きたくても周りが3-A・Bの混合部隊でとてもじゃないけど助けに行けないの!八神君達をそっちに回してもらいのきたの!」
その言葉を聞いてあたしは思わず眉を顰めた。前のFクラスとの勝負であたし達もFクラスを警戒していたけど3年生も同じように警戒していたようだ
「龍也君達は今グラウンドの防戦に回ってるから回せないわ」
さっきグラウンドにA・B・Cの混成部隊が出てきたため、龍也君達は戦況維持でそっちに回ってる。そっちのラインが弱くなると一気に攻め込まれる可能性がある、増援を送ることが出来ないのだ
(かといってFクラスを見てるのは痛いわね)
点数は低いが操作に長けたFクラスを失うのは痛い、かと言って増援は送れない。一応確認の為に
「Bクラスの残存戦力は?」
「半分よりちょっと多いくらい。根本はどっか逃げちゃっていないし、撤退できた面子も点数が殆ど残ってないわ」
根本め余計なことをしてくれた。これでBクラスは今日は殆ど戦えない戦力ががた落ちだ
「Aクラスの人員を少しそっちに回すわ。戦闘可能なBクラスの生徒はAクラスと合流してFクラスを助けるのに向かって」
Fクラスがそのまま諦めるなんてことをするとは思えない。だから少しでも撤退支援をする
(Aクラスを分割しておいて良かったわね)
龍也君が波状作戦で来るかもしれないと言っていたのでAクラスは4つのグループに分けて待機してもらっていた、そのうち2グループは進軍しているが1グループは支援に回せる。これで少しは撤退支援になるはずだと思っていると代表が真剣な顔であたしの肩を掴む
「……優子。お願いがある」
その余りに真剣な表情に思わず気圧される。代表はそんなあたしを見ながら自分が何を考えているかを告げた
「な!?代表!?そんなの無茶すぎるわよ!?」
代表の策は無謀としか言いようがない作戦だった。しかも失敗すればこっちが負けてしまうリスクを背負っている。だから考えを改めるように言うが代表は
「……これしかない。指揮組みのなのはかフェイトを呼び戻して、それなら向こうも追いかけてくる」
何を言ってもだめだ。代表は完全に覚悟を決めている、となればあたしに言えることはないだろう
「判ったわ。だけどもう1人愛子をつけるわ、それとあたしも一緒に行く」
2年のリーダー格が4人。これを見れば3年生もこっちの思惑に乗ってくるだろう、KUBOはほっておいても
「おおおおおッ!!!吉井クーン!!!」
雄たけびを上げながら激走をしているKUBOが見える。あいつはまぁ良いほっておいても吉井君の所に行くだろうし戦力としては数えれる。あたしは岩下さんに
「Fクラスの救出はあたしたちに任せて。暫く指揮が出せないから臨機応変にって指揮組みに伝えて!じゃあお願いね!」
あたしは岩下さんの返事を聞かずに教室を飛び出した。リスクを背負ってなおFクラスを救う、それは普通に考えたら考えるまでもなく愚策だ。だがFクラスにはそのリスクを背負ってなお救う価値の多い生徒がいる。助ける価値は十分にある
(問題は代表よね)
明らかに気負いすぎな代表が心配だ。こうなったらきっと代表を止めれるのは坂本君しかいないだろう、あたし達が囮になっている間に坂本君達が包囲網を突破してくれると良いんだけど、あたしはそんなことを考えながら廊下を走り新校舎の方へと向かったのだった
(くそったれ!どうする!どうすればいいんだ!?)
俺は戦線を見ながら必死に頭を動かした。孤立無援で戦力はがた落ち、何とか生き延びているが討ち取られるのは時間の問題だ、それでもなお逆転の一手を撃つべく考えていると
「うわ!?」
明久の召喚獣が3年の矛に肩をえぐられ体勢を崩している。もうかれこれ10分近く入り口で粘ってくれていた明久も限界だな
「下がれ明久!中村。戸沢はフォローに入れ!」
明久を教室の中に入れると明久はすぐに机の座りテストを受ける準備をする。その心構えは買うが今この状況で補充試験を受けさせている時間はないので
「いや、お前は休憩だ。集中力が戻るまで休んでろ」
「え?休憩?」
オウム返しに尋ねてくる明久はいやいやと首を振りながら
「この状況で休んでなんかいられないよ。そんな暇はないじゃないか」
「状況を理解してないな?この状況でテストをしていればその間にやられる。だから点数を補充するより集中力を回復させろ。お前の召喚獣の操作が重要なんだからな」
明久の召喚獣の精密操作。それがこの状況では何よりも重要だというと明久はふーと溜息を吐きながら椅子に座り込む。これで自覚したはずだが、明久はかなり疲労している。その疲労を少しでも抜いてもらわないと不味いのだ
「ところで雄二。今の状況ってどんな感じなの?」
言いにくいが言葉を濁しても意味がないか。俺はこの状況を見て分析した結果を告げた
「か細い希望に縋って絶望から目を逸らしている」
えっ?て言う顔をした明久だったが次に口にしたのは
「希望って何?」
この状況でも前向きに考えれる人材と言うのは指揮官としてありがたいなと思いながら
「追い詰められはしたが、俺達は今敵の本陣の前にいる。考えようによっては相手の大将の首にリーチをかけていることになる」
「それはかなりポジティブシンキングなんじゃ?」
うっさいな。言われなくても判っている。確かに俺達は敵の本陣の前にいるが敵が大勢いて攻め込めるような状況ではない
「だが勝負には万が一がありえる。相手としてはこのまま俺達を放置しておきたいと思わないはずだ」
大将の近くに敵がいる。もし俺が同じ立場ならどんな低得点者でも全力で叩き潰しに掛かる。それは向こうも同じはずだ
「そして3年側が俺達を潰すために戦力を割かざるを得ない。しかも俺達がこうして篭城して粘っていると、向こうもそれなりの戦力をつぎ込んでくる。となれば攻め込むはずの戦力をこっちが使っているから間接的に支援をしていると言うことになる」
さっきから戦っているのはBクラスが7割。Aクラスが3割と言う感じだ、戦力の分断は十分に成功しているといえる
「あとは龍也や翔子が俺達が戦力の大半を押さえ込んでいるうちに攻め込んでくれれば逆転の目が出てくる」
俺がそう言うと明久はなるほどと頷いてから
「ちなみに絶望的って言うのは?」
「戦力不足だ」
戦力が足りない。それが俺の頭を悩ませていた……明久はうーんと唸りながら
「具体的にはどんな感じなの?」
「まず、2-Bの撤退で分断されたせいで、俺達の戦力は2割減、ここまで来るのに戦力の3割が削られた」
「ほほう……」
こいつ判ってんのか?と不安に思いながら説明を続ける
「更にここに立て篭もってから、姫路と島田が点数の4割を失った。他の連中の消耗度は5割ほどと言った所だ」
放課後の訓練が効果を発揮して操作や連携が上手く取れているから戦死者もおらず戦えている
「つまり僕達の戦力は最初の半分くらいって事?」
「ギリギリだけどな。そんな所だ」
龍也やはやてとの勉強で俺達も少しずつ点数の底上げをしている。平均点が100点前後の生徒も多くなっている、だからこそここまで粘れているのだ
「でもさ。その割には戦死者いないよね?連携とかが上手くなっているとは言え上手く行きすぎじゃない?」
それは俺も感じていた、A・Bクラスを相手にここまで戦死者は0。これはおかしい状況だと
「その理由はわかっている。敵が少ないんだ」
えっ?と驚いた顔をする明久は出入り口の二箇所を指差して
「この状況で敵が少ない?如何してそんな言葉が出てくるのさ?」
廊下には3年がひしめき合っている。それを俺達が2人1組で抑えている状況だ
「違う。俺が言いたいのは敵の頭数が少ないって事だ。よく考えてみろ?単純に頭数が合わないだろうが」
???と首をかしげている明久。少しは頭を使えと思いながら
「いいか?3年のほかのクラスは2-Bを追っていったが、3-Bと3-Aはここに残っているだろ?」
「うん」
「だというのにさっきから見ている敵は同じ人員を補充させてまた前線に出している。これはおかしいと思わないか?」
あっと言う明久。漸く気づいたかこの状況に……と思っていると明久は
「3-Aは戦力を小分けにしているって事?」
おいおい、1個飛ばして結論を出しやがったな。ちゃんと考えてるじゃねえかと感心しながら
「そうだ。3-Aは少数ずつ部隊に紛れ込んでいる。消耗した下位クラスが補充している間は前線に出て打撃を与える。トドメは戻ってきた下位クラスが刺す。これは良い連携だぜ全く」
つまり戦う相手が少しずつ変わっているのだ、だから報告と実際の戦況が会わなかったのだ
「諦める?」
俺の説明を聞いてそう尋ねてくる明久に俺はにやりと笑い返しながら
「はっ!ふざけんな、この状況を引っ繰り返してやるよ。これでな」
ポケットからある物を取り出す、それを見た明久はあって言う顔をして、同じ物を取り出す俺はそれを見て
「俺のはスモーク弾だ、これとクーラーの温風と組み合わせて火事と誤解させるつもりだ。お前のは?」
魔王からの逃亡グッズの1つだ。あと他には音速の足取得マシンとか言うのを送ってくれた。博士の発明は頭がおかしいと思うこともあるがその効力は絶大だ
「博士印の逃走用フラッシュグレネ-ドと髑髏マークの何か」
髑髏マーク!?なんなんだと思ったが
「まぁ良いか。奇襲に失敗したとき使っちまおう」
失敗のケースも考えて逃走用の道具を用意しておきたいしな。それに髑髏マークと言うことは少しは攻撃力があるはず、それで俺達を囲んでいる生徒を突破しよう。小声で集合と声を掛けて
(クーラーの温風を29℃にセットしたわよ)
島田の報告を聞いてから秀吉にゴーサインをだす
「あれ?何か聞こえない?」
次にムッツリー二がこのクラスにおいてあった割り箸をお菓子の袋に入れて折る、すると
バチバチ……パキッ!
まるで焚き火のような音が辺りに響く廊下から
「お、おいおい……これって」
廊下にいる誰かが不安そうに呟く。そして最後の仕上げはこれだ。スモーク弾を軽く投げる床に跳ねると同時に白煙を発生させる。それを見た3年が
「「「火事!?」」」
その一言でまさに火がついたかのように騒ぎが伝播した。それを確認してから
「行くぞ!」
その騒ぎに紛れ俺達はBクラスを飛び出した。スモークが消えるまでは2~3分前後。かなりギリギリかと思っていると
「火事ですか!?皆さんどいてください!」
近くにいた先生たちが消火器を構えているのが見えるそれを見た明久が
「そこからでいいからやっちゃってください!」
それと同時に消火器の粉がそこら中に舞い完全な煙幕が出来た。そのなかでを駆け抜けCクラスに向かうなか俺は
(奇襲の成功率は3割だ。駄目だったら逃走する、それを忘れるな)
向こうの雅と言うのは頭が良い。もしかすると俺の奇襲を読んでいるかもしれない。その可能性がある以上逃走も考えておかなければならない
(鬼が出るか蛇が出るか勝負だ!)
そしてCクラスには言った俺達を待っていたのは
「ようこそ、アキ君とその他の皆さん。歓迎いたしますよ?」
むかつくほど馬鹿丁寧な口調で話しかけてくる高城雅が穏やかな表情で俺達を見ていたのだった
「こんにちわアキ君、心地の良い昼下がりですね。こんな状況でなければお茶を入れて歓迎するのですが、それはまた今度休日にでもしましょうか?」
椅子に座ってにこにこと笑うみーちゃんに雄二が
「なるほど、俺達がこうして突っ込んでくるのも……計算のうちか?」
「はい。その通りです、考えられる全ての可能性を考慮しました。貴方は思い切りがいいのでこういう作戦を取ってくると思っていましたよ」
くすくと笑うみーちゃん穏やかな笑みを浮かべているが、その表情ほど楽しそうにしていると言うわけではなさそうだ
「ああ、それと召喚獣を出すのはやめてくださいね?そうすると戦わないといけませんから」
みーちゃんの背後から小暮先輩にAクラスの生徒が姿を見せる。美波がその後ろを見て
「奥にはきっちり先生を用意してるわね」
周りは3年生。これは全滅かと思っているとみーちゃんは
「これでゆっくり話が出来ますね」
にこにこと笑うみーちゃん。この状況で話?どういうこと?と思っていると
「随分と余裕って感じだな。今は試召戦争の真っ最中だぞ?」
「ええ。それは重々承知していますよ?。ですが私のとって試召戦争はただの遊び。勝手も負けてもどっちでもいいんですよ、アキ君が手に入るならそれで十分。負けても良いと思っていますからね?なんなら降参でもします?」
みーちゃんの言葉に雄二が絶句する。僕達もだ僕達が必死に考えているのにみーちゃんは遊びだと言うのだから、絶句するのも当然だろう
「さて話がそれてしまいましたね。どうもすいません、私としてはこういうことは早めに話しておくべきでしょうから。姫路瑞希嬢……前に話した留学の件は無かったことに、そしてアキ君留学の件は考えていただけましたか?」
このタイミングでその話か!?出来るだけ早く返事をくれって言ってたけどこの状況は無いと思う。そして思わず隣の瑞希と顔を見合わせて
「瑞希も留学の話を聞いたの?」
「明久君もですか?」
もう一人話をしていると聞いていたけど瑞希とは思ってなかった。しかもこの場で瑞希の留学の件は無かった事にと言うのは何でだろうと思った物のそれよりも僕と瑞希に留学の話と言うことで互いに顔を見合わせていると
「アキ君と一緒に留学と言うのも楽しいと思ったのですが。姫路瑞希さんもいい友人になれると思いお声を掛けたのですよ。とは言え私はアキ君が欲しいので瑞希さんには諦めてもらおうと思いまして」
にこにこと笑ったままのみーちゃん。僕は物じゃないんですがと言おうとした瞬間美波と優月が
「人を物扱いするのはどうかと思いますよ?」
「そう言う人間は嫌われますよ」
睨みながらそう言うがみーちゃんは全く意に介した素振りを見せず
「私としてはアキ君になら物扱いにされてもいいですけどね」
その発言でなにか卑猥な想像をしたムッツリー二が鼻血を出して昏倒した。だが僕も倒れたいと思った。何故これだけ人がいる状況で告白まがいの事をされるのだろう?どんな羞恥プレイだと思った
「まぁそれは置いておいて、その様子だとまだ留学の件は考えて貰えてないようですね」
いくらなんでも留学するなんて話を早々出来る者じゃない。だって僕は皆と一緒に過ごせる今の時間が大好きなのだから
「となると仕方ないですね。今決めていただくには少々場が悪いですから」
そう笑ったみーちゃんは隣の小暮先輩に
「撤収です。この場は引きましょう、アキ君では御機嫌よう。ああ、安心してください。この場では攻撃はしませんから、上手く2年生の陣営に戻れるといいですね。それと大好きですよアキ君」
そう笑うみーちゃんに見送られながら僕達はCクラスを後にしたのだった。みーちゃんの策略に完全に嵌っていた僕たちは無言で新校舎の廊下を歩いていた
「アキ、どうするの?留学」
「断りたいと思ってるよ。僕はこのまま文月学園にいたい」
「なら断ればいいんじゃないかな?」
「それが出来たら楽なんだけどねえ」
みーちゃんは温和だけどその実頑固で言い出したら聞かない、今回もそう簡単に折れてはくれないだろう。僕がそんなことを考えていると雄二が
「ははっ……ははっはは!!!!」
突然雄二が笑い出した。しかも笑っているのにその顔は鬼の形相をしていた
「遊びだと?翔子があれだけ頑張って作戦を考えてるのに?それを遊びだと!?ふざけんなあのやろう!」
やろうじゃなくて女なんだけどなんて冗談を言える顔ではない。今下手に何かを言うと雄二がぶち切れるのはその顔を見れば一瞬で判ることだった
「明久ァ!てめえの幼馴染は随分と吹っ飛んだ野郎だなあ!?」
「ゆ、雄二!?首!首極まってるうう!!」
ガクンガクン僕を揺さぶる雄二の手は完全に僕の首を絞めていた。つまりそれほどまでに雄二は怒ってるということだった
「ちょっ坂本!やりすぎよ!アキは悪くないんだから!」
「落ち着いて雄二!明久が死んじゃう!」
「坂本君落ち着いてください!」
三人に宥められた雄二は僕の首を離して
「まぁ良いこの怒りは後で根本に野郎をぶちのめして晴らす!今は逃げるぞ!さっきの騒ぎが残っているうちに新校舎を脱出するぞ!」
いつも以上に覇気のある声でそう叫んだ雄二は廊下を走りながら僕から取り上げたフラッシュグレネードを掴んで振りかぶり
「邪魔だぁ!そこをどけえ!!」
そう叫んで投げ込まれたフラッシュグレネードが炸裂した
「「「「!?!?」」」」
前後不左右になっている3年生の間を潜り抜け階段を駆け下りる
「よっしゃフラッシュグレネードで全員無事に逃走できるぞ!このまま校庭に出るぞ!」
そう叫んで走っていく雄二。ついでにと言う感じで3年生を6人ほど戦死させている(僕や美波も戦死させたが2人くらいだ)
「それはいいけど雄二。校庭の3年生はどうするのさ!?」
「保健体育のフィールドを見つけてムッツリー二の力で突破する!消耗したら俺と姫路と交代だ!」
「それだけでいけるの?」
「厳しくなったら使い捨て装甲版作戦だ!そうなりたくなかったら全力で走れぇ!」
使い捨て装甲版は劣り作戦だ。誰もそんなのは嫌なので全力で走る。新校舎を脱出し校庭を走りながら隣の雄二を見る
「根本打ち殺してやるぜぇ」
獰猛そうな笑みを浮かべて走る雄二が悪鬼のように見えたのはきっと僕だけではない筈だと思った……
『大分削ったな』
『こいつさえやればこの勝負も終わりだ』
『あとも一押しね!試獣召喚!』
3人の3年生に囲まれる。途中で優子と愛子はFクラスの支援に行ってもらったし、フェイトは4人に囲まれ行動できない状態になっている。
『2-A 霧島翔子 社会162点』
VS
『3-A 兼藤アスカ 社会142点&3-C 別府アキ 102点&3ーC 恩田俊夫 119点』
「……私は負けられない……」
1体目の剣を避けて、2体目の槍は刀で弾くが
「……うっ……う」
3体目の斧は避けきれず体勢を崩した所で
「試獣召喚!」
私の前に誰かが割り込んでくる。驚いて顔を上げると
「……吉井……?」
ここに居るということは雄二も?そんなことを考えていると
「明久!ここは私が引き受ける!お前は翔子を連れて逃げろ!」
階段から飛び降りてきた龍也が私と吉井の前に立つ、その間に吉井が私の手を引いて旧校舎のほうに走り出そうとする。その間に瑞希や島田が来て私の周りを囲んで護ってくれる。だけど
「……私はまだ頑張れる!」
吉井の手を振りほどいて立ち止まる。そんな私に吉井が
「何を言ってるのさ霧島さん!君が負けたら全部終わりなんだよ!霧島さんはもっと安全な場所にいないと!」
「そうよ代表!代表が心配していた坂本君達はもう助けたし、もう充分でしょ!?これ以上我儘を言わないで!」
吉井と優子が私の手を掴もうとする。その手を見ながら私は
「……私はまだやれるから……せめてBクラスだけでもやっつける」
「代表!いい加減……」
優子が怒鳴るなか私は
「……だって……私は足手まといなんかじゃない。私は雄二の手伝いが出来る……から」
驚いた顔をする優子や吉井、それに瑞希達を見ながら
「……小山が言ってた、私は足手纏いだって……私が居ると雄二が自分の思い通りに何も出来ない邪魔者なんだって……」
龍也や優子がいない時に来た小山が私にそう言ってきた。私は今までそんなことを考えたことなんてなかった
「……私は直ぐに雄二に手を出しちゃう……だって雄二がどっか行っちゃう気がして……やだの!雄二には一緒にいて欲しいの……私は雄二が好きだから……雄二に頑張ったなって言って欲しいし好きって言って欲しいから」
もう立っていられずその場にしゃがみこむ。目から涙が溢れ出る……ずっと考えた。足手纏いじゃないって証明したかった
「坂本……」
「坂本君……」
島田と瑞希の声がする。近くに雄二がいるの?でも涙のせいで視界が歪んで雄二の姿が見えない
「雄二」
吉井の声が聞こえたと思った瞬間。目の前に誰かがしゃがみこむ
「それがずっと不安だったのか?翔子」
雄二の声だ……だけど顔を上げることができず俯いたまま、うんと言うと
「バーカ。そんなの気にしてどうするよ?それよりも今は試召戦争に集中しようぜ?そんなんで悩むなんて馬鹿馬鹿しいにも程があるぜ?」
雄二らしい言葉……だけど今はその普段通りの雄二が怖い。私は雄二じゃないから雄二が何を考えているかなんて判らない。邪魔者とか鬱陶しいと思われてるんじゃないかと思うと怖くてたまらない
「ちょっと坂本!アンタいい加減にしなさいよ!」
「そうよ!代表がかわいそうだとは思わないの!?」
「坂本君!あんまりです!信じられません!」
「今のは幾ら僕でも許せないよ!」
優子や島田、瑞希達が雄二を批難する声が聞こえる。だけど雄二はその言葉に何の反論もせずに私の肩にてを置いてくれた。思わず顔を上げるといつもと違う優しい顔で私を見つめてくれてる、だけど優子達からは見えないだから雄二への非難が続く
「見損なったわよ坂本!嫌いなら嫌いって言えばいいじゃない!」
「代表!こんな奴忘れたほうがいいわよ!」
「坂本君!早く誤って訂正してください!」
「最低だよ!坂本君!」
だけど雄二の顔を見ているフェイトやなのは、それにはやてや龍也は何も言わない。それ所か何かを待っているかのような表情をしている。そしてその時は来た
「ああもう!うるせぇんだよ!お前らはぁ!!!!」
雄二の一括が辺りに満ちる。自分に向けられた物じゃないと判っているのに思わず背筋が伸びる
「もう6年も待たせてるんだぞ!告白ぐらい、俺の計画通りにやらせろよ!!!!!」
「……え……」
雄二の声が何処か遠くに聞こえた。6年も待たせた?計画通りにやらせろ?どういうことか理解できずに硬直していると
「「「ぷっあはははは!!!」」」
はやてとなのは、それにフェイトやヴィータが楽しそうに笑う。吉井もそれにつられて笑っている。何を雄二が言ったのか理解したからだ
「坂本は意外とロマンチストだったのですね?告白の仕方は考えてあるからこんな所で言いたくないと言うんでしょう?」
にやにやと笑うセッテに雄二がうっと言葉につまる。そして少し間を置いてから雄二が何を言いたかったのか理解した瞬間。頬が異常なほど熱くなる。島田や瑞希も頬を赤らめているのが見える
「なるほどね。雄二も可愛い所があるじゃない」
「……ロマンチスト」
「そう言うのは悪くないとおもうぞ?自分のタイミングって大事だからな」
「うるせえ!誰がロマンチストだ!ぶち殺すぞ!?」
雄二がそう叫ぶのが聞こえる。一瞬見えたその顔は真っ赤だった。そんな雄二に吉井が
「雄二ってさ?もしかして告白は男からするものって思ってない?」
「何が言いたい?」
雄二の硬い声に対して吉井は楽しそうな声で
「べっつにー♪雄二が如何して霧島さんとの召喚戦争の拘っていたかが判っただけだよ」
つまり雄二がAクラスとの勝負に拘っていたのは自分から告白してくれるようとしていたから?
「……ご、ごめんなさい……ごめん……なさい。私自分勝手でこんな事をして……このままじゃ負けちゃう……私のせいで」
私が最初から雄二を信じてくれば。小山の言った事なんて無視して雄二を信じる事が出来ていたらこんな事にはならなかった。そう思うと悲しくて悲しくて涙を流していると
「大丈夫だ。俺に任せておけ翔子」
雄二が私の頭に手を置いて笑う。その顔は見ているだけでとても安心できた
「よく頑張った翔子。ここからは俺に任せておけ、お前の頑張りは無駄にはしない。3年を叩きのめして勝つのは俺達だ」
自信に満ちた表情をしている雄二に吉井が
「へえ?かっこいいじゃん。雄二」
「やかましい。俺はいつでもかっこいいんだよ」
にやりと笑う雄二はここにいる全員を見ながら
「これだけの人間が皆お前の頑張りを知っている。だから何も不安に思うな翔子。この勝負絶対に俺達が勝つ!だから皆力を貸してくれ」
雄二の言葉に、皆が口々に返事を返していく、その声が聞こえる度に、ううん。雄二が隣にいてくれるだけで私の不安は消え去った。初日は私達の負けだった……だけど不思議なことに私の心には何の心配も不安もなかったのだった……
第113問に続く
今回は少し長かったですね。次回からは第12巻、つまり馬鹿とテストと召喚獣の最終間の話に入っていきます。どんな結末が待っているのか?楽しみにしていてくださいね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします