第109問
会戦開始から1時間。私は完全にAクラスに缶詰になっていたその理由は
「はい、八神君。これ戦況報告」
次々と差し出される戦況報告を纏めて、翔子とかと話し合っているためだ。私は差し出された戦況報告の紙を見ながら翔子に
「お前たちは私に前に出るなと遠まわしに言っているな?」
「「「うん」」」
声を揃える翔子達に軽い頭痛を覚える。前に出ようと思っていた矢先のコレだ、頭痛を覚えるのも無理はないだろう
「……龍也が総括式を取ってくれると少し楽」
「翔子のアドバイザーは雄二じゃなかったのか?」
からかうように言うと翔子は握りこぶしを作って
「……頑張って雄二に格好良い所を見せる」
……どこでどう間違ったらその結論が出せるんだろう?と私、そして報告に戻ってきていた優子、そしてはやてが首を傾げる中翔子は
「……明久に格好良いって言われてる美波とかが羨ましいと思った」
あいつのせいか!?私とはやて、そして優子の心の声が一致したのは言うまでもないだろう……
「?なにか突っ込みを入れられた気がする」
清水さんの点数が下がってきたので1度撤退し、休んでいる中急に誰かに突っ込みを入れられた気がして思わずそう呟くと
「あん?電波でも受信したか?」
雄二のからかうような口調に、ちがうよと返事を返して、はぁっと溜息を吐く。
「大丈夫?点残っている?」
「殆ど消し飛びましたけどね。辛うじて残ってます」
第9班で3人の3年生を戦死させた清水さんは、少し前に出た瞬間に囲まれ、全方位からの攻撃を受けてしまった。それに気づいた僕と美波で清水さんを助けたが、その時清水さんの残り点数は38点。第9班の中でもっとも消耗している
「大丈夫?」
「大丈夫ですって。そんなに気にしなくてもいいです。美春のミスですから」
そうは言うけど僕のフォローがもう少し早ければと思ってしまう。そんな僕の様子を見ていた雄二は
「なんだお前ら結構仲良いんだな?」
「「そうかな?(ですか?)」」
全然自覚してなかったけど第3者が言うのならそうだろう
「……息もぴったりで完璧」
ムッツリー二がにやにやしながらいう。うーんどうなんだろうか?
「どう思う?」
「さぁ?美春は全然わかりませんけどね。やりやすいというのは感じましたよ」
うーんどうなんだろう?2人で首をかしげているとその仕草を見ていた雄二とムッツリー二が
「ほれみろ。動きもぴったりだぞ?」
「……戦いで絆が芽生えたか?また魔王を増やすのか?」
雄二とムッツリー二がからかうように言う中。背筋が凍るような殺気を感じ
「清水さん振り替えるのが怖い」
「奇遇ですね明久。美春も怖いですよ」
はぁっと溜息を吐いてから1・2・3と数えて振り返り
「「ひいっ!?」」
清水さんと声を揃えて引き攣った悲鳴を上げる。そこには
「随分と楽しそうね。アキ、それに清水さん?」
「明久~♪あんまりそう言うのをするのは良くないなあって私は思うなあ?」
エガオだ、そうそれは魔王の微笑み。思わずその場にへたり込んでしまうほどの威圧感があった
「アキ。清水さんと仲良くなる前に1回死ぬ?」
なんで仲良くしたら行けないの!?そう叫びたいが威圧感が凄すぎる、言葉を発することが出来ず沈黙していると清水さんが
「お姉様。勘違いしては困ります!美春はお姉様の恋を応援しているのです。敵対する気はありません!」
女子が土下座するのって始めてみた気がする。命が関わると尊厳とか誇りとかはなくなる。それは魔王に対する処世術なのかもしれない。清水さんが土下座してるのに僕は見ているだけ?勘違いしてもらったら困るな、僕は
「ぎゃー!ギブ!ギブううう!僕の腕はそっちには曲がらないからああ!!!」
優月の無言の関節技に悶絶しているんだから土下座なんて出来るわけない
~10分後~
何とか怒りを納めてくれた美波と優月を見ながら雄二に
「戦局はどう?」
「今のところは問題なしだ。向こうが大した手を打ってないからな」
雄二が鼻を鳴らしながらそう言う。うん?どういうことだろう?
「向こうは何一つこっちの混成編成に対して対応策を打ってない、向こうも様子見しているんだろう。幸いグラウンドに出ているのはFクラスだ全滅しても痛くないという考えだろう」
雄二は僕たちにそう説明しながらまいったなと頭を掻いている。向こうが対策を打ってこないと不味いんだろうか?
「やっほー♪戦況はどうかなあ~」
頭を抱えている雄二を見ていると工藤さんがきてそう訪ねてくる。
「まぁまぁって感じみたい。それで愛子何しに来たの?」
美波の問い掛けに工藤さんは流れるようにムッツリー二のみぞうちに拳を突き立てて瀕死にしてから
「うん。これ代表と龍也君から、次の行動の概要。それとこれ持って帰っても良い?」
瀕死のムッツリー二を抱えている工藤さんに雄二が
「そんなのでも大事な戦力だ、連れて行かれては困る」
「そっかじゃあ、ちょっともふもふしたら置いていくよ」
だばだばと鼻血を出しているムッツリー二は大丈夫なんだろうか?そんなことを思わず考えてしまう光景だった
「とりあえず。美春ウチとペアを交代して頂戴」
「いやいや待って清水さん。私と交代して頂戴」
「美春は別に交代しても良いのですが、一応坂本か新野の指示を仰いでくれますか?勝手に交替して怒られるのはいやなので」
清水さんにペアの交替をしてくれと言っている美波と優月を見ていると
「アキヒサ~♪」
「わわ!?リンネちゃん?」
背中に重みを感じて振り返るとリンネちゃんが背中にへばりついてにぱーって笑っていた。懐かれるのは悪い気はしないんだけど美波とか優月の視線が怖いなあと思いつつリンネちゃんに
「背中から降りてくれる?」
「やーだ♪」
むー困った。子供の扱いは龍也とかの方が得意だからなあどうすればいいんだろと思いつつ、背中に引っ付いていたいのならそれでもいいかと思っていると雄二が
「明久。坊主はちびっ子だったのか?」
「そう見たい。ね?リンネちゃん」
「ね~♪」
嬉しそうに笑うリンネちゃんを背負ったまま
「今この時間は授業中じゃないの?サボった?」
じーっと見ている美波と優月の視線は怖いし出来れば降りて欲しいけど
(おぶさるのが上手いんだよね。リンネちゃん)
関節を痛みがないように抑えていて手が回らない。しかも無邪気に抱きついているように見えて、その実その気になれば首を締めれレル位置に腕を持ってきている。下手に抵抗して締め落とされるより好きにさせたほうがいい。それが僕の出した結論だった
「サボってると馬鹿になるぞ。ちびっ子」
「……明久は魔王製造人でロリ属性あり」
雄二は混乱から回復したみたいだが。ムッツリー二は更に僕に不名誉なあだ名を増やそうとしている。と言うか魔王製造人って何!?
「ダイジョーブだよアキヒサ♪ボクすっごくアタマいいんだよ」
ニコニコと笑っているだろうリンネ君はそう言うとよいしょっと言いながら僕の肩に手を置いてそれを軸に半回転して僕の前に着地して
「それにもうすぐムコウにかえるしね」
向こう?留学先って事?来てすぐ帰るなんて何しにきたんだろう?と僕が思っていると
「じゃーねアキヒサ♪これからのダイカツヤクきたいしてるからガンバッテネ。MYHERO♪」
ウィンクして学校に戻っていくリンネちゃん。やたら懐かれているけど何でだろう
「まぁあのリンネって言うのは別に良いわ。葉月みたいなものだろうし」
ぶつぶつ呟いている美波はそれよりもと言って手を叩き
「補充試験をやって前線に戻るわよ、アキ、美春」
美波はこういう時にリーダーシップを取ってくれるからいいよね。美波も十分指揮を出すには相応しい人材だと僕は思う。そんなことを考えながら僕は美波に先導せれるようにFクラスへと戻って行った。それにこの勝負に勝たないと色々とまずいことになる、僕も瑞希もここはなんとしても勝たないと、僕は気合を新たに補充試験に立ち向かうのだった
(なにかあるな。この勝負)
明久の野郎の気合が以上に充実している、それに姫路もだ。何か特別な理由があるのだろう、グラウンドから校舎に戻りながら窓の外を見つめて戦況を確認する
(報告では根本はBクラスでの発言力の回復を考え単身突撃で点数が1桁まで低下。小山は一応与えられた役割、撤退支援にしたがっているようだが不満ありありと言う報告を聞いている)
時折工藤や指揮組みから送られてくる戦況報告を纏め上げる、点数の把握は翔子や木下姉がやってくれているから俺が考えるのはメインの作戦の立案だが
(動いてこないんだよな。3年のやろうども)
常村先輩と夏川先輩と言ったAクラスの主力の行動がないのも気になる。今戦況が互角なのは戦闘に出ているのはD・Fクラスだからだ
(少しは浮き足立ってくると思っていたんだが、あの雅って言うのは頭が切れるな)
混成部隊の弱点は知っているはず……だから弱いところを見つけたら攻め込んでくると思っていたのだが……冷静に持久戦になるように戦力を補充し続けている。これだと俺の考えていることは半分ほど失敗していると思っていいだろう
(血気盛んな馬鹿な3年が攻め込んでくれると良いんだがな)
主に2年を敵対視している3-B・Cが攻めこんで来てくれれば、そこを取り囲んで攻め崩せるように主力部隊を配置すると言う策が取れない
(向こうも俺の考えていることを読んでいるのか?)
2年に頭が切れるメンバーが居るのは学園でも有名だ。それを差し置いても次期高城グループ総帥と言う肩書きを持つ高城雅。あれだけの大企業の次期総帥として英才教育を受けているはずの雅の頭脳はずば抜けているはずだ、向こうが何を考えているのか読み切れないというのは恐ろしい
「坂本!3年生が少しずつ押し返してるみたいよ!」
報告班からの指示を聞いて俺は思考を中断して
「どこの戦場が押されている!?」
「校舎側の戦線よ!根本が抜けたところから少しずつだけど崩れてきてる」
根本が戦っているのは確かCクラスだったな。ちっ!あの野郎こんな時になっても足をひっぱやがって
「判った。報告ありがとな!とりあえずその場所はそのままで良い。戦況分析に戻ってくれ」
とりあえず龍也や翔子と合流して次の作戦に向けて動いたほうが良い。それに今回の進軍は恐らく
(独断専行だ。やはりCクラスが攻め込んできたな)
Bクラスは主力部隊だからAクラスもしくは小暮とか言う危ない先輩が抑えているのだろう。それでもなおCクラスが攻め込んできたのはこの硬直した戦局に痺れを切らした馬鹿たちだろう。あそこには一応C・Bの混成部隊と確かセッテさんが待機している。攻め込まれても平気だが……向こうの指揮で攻め込んできたのではなく独断専行となると俺の計画が狂う。だがいまはとりあえずこの専攻を利用して少しでも戦況が有利になるように動く!俺はそんなことを考えながらAクラスへと走った。
「Cクラスの独断専行で救援を求めているですか?」
報告を聞くとこの均衡を崩すと20人ほどのCクラス生が2年生の本陣に突っ込み、そこで待ち伏せしていたB・C混成部隊に手痛い打撃を受けたから助けてくれと言っているらしい
(全く下手に動くなと指示を出していたのに)
午前中は様子見で向こうの出方を見るつもりだったのに、その挙句助けてくれとは都合が良い話ですね
「救援は無しです。そう言う団体行動を崩す人たちは必要ありません。周りに居る生徒にも同じように通達してください」
「いいの?Cクラスって言っても2年生より点数は上だよ?」
報告に来た女子生徒に私は
「必要ありません、撤退も認めません。戻ってくるようならば小暮」
「判りましたわ。私が止めを刺せということですね」
全て判っているという笑みを浮かべる小暮にその通りですと言いながら報告に来た生徒に
「専攻しなかったCクラス生の撤退支援をお願いします。恐らくその馬鹿達を引き戻そうと進軍しているはずですので」
「わ、判ったわ。じゃあBクラスの生徒5人だけ連れて行くから!」
そう言って教室を出て行く報告係の女子を見ながら
「全く困った人たちですね?」
向こうの罠に自ら飛び込むなんて、討ち取ってくれって言って居るようなものだと判らないのだろうか?
「汚れ役ですがよろしくお願いします」
「構いませんわ雅。私は常に貴方の味方ですから」
そう笑って教室を出て行く小暮を見送り、ノートを開き
(混成部隊の弱点を補うための囮戦術、となると攻め込むのは無理ですね)
下手に攻め込めば主力部隊とかち合うことになる、そうなれば討ち取られるのは判りきっている。だが逆を言えば
(この策を打ってきたということは向こうは持久戦狙い)
下手に攻め込めば主力が居るぞという意思表示。仮にいないとしてもブラフになる、恐らくコレを考えたのはアキ君の友人の坂本雄二に違いない。こういう策は八神龍也が取る策ではない。今までの戦争の作戦を見るかぎり、搦め手は坂本雄二。集団戦術は八神龍也が立案しているパターンが多いとなると第2・第3の策が用意されていると考えてしまう
(これは中々にいい作戦ですね。となるとこっちが打つべき手は)
扇子を開き待機していたA・Bクラスの生徒に
「これよりA・Bクラスも作戦に移ります。今から指示を出すとおりに散会、作戦行動に移ってください」
向こうの手がわかったのなら、こちらも手の打ちようがある。その面ではさっきの独断専行も役に立ったと思える
(さぁ勝負はこれからですよ、2年生の皆さん)
この勝負には負けられない理由が2つもある。その理由がある以上……私は貴方達の考えを全て読みきり、その上で勝利しましょう
(アキ君に私の有能さを示すためにもね)
この召喚戦争は言うなれば、私の有能さをアキ君に示すという意味もある。正直言葉にしようとすると私はきっと上手くしゃべれないならば行動で示すのみ!そのためにちゃんとお弁当も作りました!
(お昼休みは停戦の約束になっています。アキ君に会いに行っても何の問題もありませんからね!)
高城雅。この上なく優秀な生徒であり、人の上に立つ才を生まれながらに持つ才女ではあったが……残念なまでに恋する乙女でも会ったのだった……
校舎の防衛線の指揮を執っていた私ですが、戦局が変わり始めていることに気づいた
(切り捨ててきましたか)
切り込んできた馬鹿達の撤退支援は一切行わず、巻き込まれる形で連れてこられたCクラス生が少しずつ撤退を始めている。
(それに時折Bクラスという表示が出てますね)
撤退支援に数人のBクラス生が出張ってきたようだ、となると時間を掛ければ折角呼び寄せた獲物を逃がすことになる。それでは意味がない。この場を預かっている以上ある程度の戦果を上げる必要があるのだから
「全員進軍!ツーマンセルで各個撃破!」
「「「おおっ!!!」」」
真っ先に返事をして突っ込んでいくFクラスの生徒、それに続いてC、Bが続く。Fクラスの生徒はどこの部隊にも配置されている。指示を出せれれば直ぐ行動に移れる連中が多いからだ、それに戦死しても惜しくない戦力ですしね。そんなことを考えてる間にC・Bの混成部隊が突っ込んできたCクラス生を推し始める。それに気づいたCクラス生の一人が
「クッ撤退。「しなくても結構、失せなさい」えっ?」
凛とした声が響いた瞬間撤退をしようとしていた生徒の召喚獣の首が飛ぶそして
『3-A 小暮葵 古典 434点』
刀を手にした召喚獣が撤退しようとしていたCクラス生の前に立ち塞がっていた
「小暮!?俺たちは味方だぞ!?」
「何を勘違いしておられるのやら、私は雅だけの味方ですよ!指示に従えない愚図は失せなさい!」
そう言うと同時に小暮の召喚獣は撤退しようとしていた、味方の召喚獣の首を次々撥ねる。
「前に出たのなら戦死するまで前に進みなさい。撤退は認めません」
刀を地面につきたて威圧する小暮。文句を言おうにも聞く耳を持たない小暮に文句を言う意味はないと判断した生徒が突っ込んでくるが、Bクラスの布陣に飲まれ次々戦死していく。私はその光景を見ながら前に出て
「どうも、小暮葵」
「こんにちわ、セッテ・スカリエッテイさん?」
ニコニコと笑い巧妙に隠しているが判る。この女は私と同類だ目的のためならば手段を選ばないタイプだと
「この場は私達の負けを認めます、ですがこのままではすまないと思っていてください。雅の邪魔をするのは私が許しません」
静かではあるが強い威圧感を持ってそう宣言した小暮はにこりと笑い
「次はないので覚えておいて下さいね。B・Cクラスの皆さん」
今回は見逃すが次はないと穏やかな声で言った小暮はゆっくりと背を向けて歩き去ろうとする。それを見たBクラスの生徒が追撃に出ようとするので少しだけ大きな声で
「全員撤退!防衛線を張りなおします。このまま攻め込んでもやられるのはこちらですから」
そう指示を出して手早く最低限の防衛人数を残して撤退していく小暮。その手際は素早くそして下手に手を出せない雰囲気を持っていた。あの小暮と言う女は点数だけじゃない召喚獣の操作も一級品だ。下手に追撃をしようとすればこっちが戦死していただろう。私は溜息を吐いてから
「こちらも防衛線を張りなおします。Fクラスを先頭にC・Bで編隊を組んで敵の攻撃に備えてください。私は1度報告に戻ります。フェイト交代をお願いします」
「了解。状況報告よろしく」
待機していたフェイトと交代してAクラスに戻りながら私は
(もう少ししとめたかったですが仕方ないですね)
あの小暮が来なければあと5~6人はしとめれたものを、結局補習室送りに出来たのは10人、小暮がしとめたのを含めると13人。予定数はクリアしたが欲を言えばもう少し倒しておきたかった
(ともかく報告に戻りましょう)
こっちの作戦はばれてしまった作戦の練り直しが必要なはず、廊下を走りながらグラウンドを見るとグラウンドの生徒も防衛線を張りなおしているのが見える。
(勝負はこれからのようですね)
今までは互いに様子見、ここからが本当の学年対抗の召喚戦争になる。私はそんなことを考えながらAクラスへと走った。戦況報告と向こうの考えを龍也様に伝えるために……
第110問に続く
次回は少し戦争の件を書いて、お昼休みの話にしようと思っています。オリジナルの話と言うのは中々難しいですね
召喚戦争の雰囲気を上手く出したかったのですが、中々難しい者ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします