第101問
「はぁ……」
どんよりとした溜息を吐く雅に私は
「どうかしましたか?」
「別にと言いたいんですけどね。再会のときにこの格好と言うのはどうにもおかしいのではと思うのですよ」
自身の服と髪を触ってそう呟く雅に
「仕方ないですわ。でもそっちの方が驚きが増すから。良いと思いますわ?」
「そうでしょうかねえ」
憂鬱そうな雅の頭をくしゃりと撫でて
「大丈夫ですよ。全て何もかも上手く行きますから、だから今日1日だけ頑張ってくださいね」
嘘をつくのが苦手な雅に嘘をつかせる。これはとても難しいことだが、それを貫けば雅の想いは伝わる
(さぁ覚悟してもらいましょうか。吉井明久君♪)
君が選ぶのは島田さんでも姫路さんでも木下さんでもない、この雅が相応しい。その事を教えてあげますからね……
会戦の合図のチャイムを聞きながら心の中でそう呟いたのだった……
け、結局アキの言ってた留学生に会えないまま会戦時刻になっちゃった……アキが拾ったのは間違いなくウチの日記帳。しかもアキが言うには自分の名前がたくさんあったから翻訳してくれるって言ってた
(そ、そんなの冗談じゃない!)
あの日記はアキのことしか書いてない。それを見られるなんて恥ずかしすぎる。瑞希は瑞希で何か上の空だし、本当に何でAクラスとの召喚戦争は毎回トラブルが起きるのだろうと思いながら。自分に言い聞かせるように何度も呟く
「大丈夫……このままアキの傍にいて留学生が来たら。日記と翻訳を取り返せばいいだけ」
そうすればウチの日記の事は誰にも知られない。だがもしウチが戦死したらアキにウチの日記が見られてしまうわけで……そう考えたらウチの取る行動は1つだけだった
「アキッ!」
「え?なに?どうかした美波?」
坂本から預かった作戦のメモと脅し様の戦力であるヴィータとティアナの配置を見ていたアキに
「うちは絶対に戦死することなく生き延びるから。良いわね?」
「うん。勿論だよ。ここの科目は数学だから美波がやられるわけないと思うよ。ヴィータさんは僕達の後ろ。ティアナさんは横固めね」
坂本と龍也のメモを見て開戦時間ギリギリまで配置変更をしているアキの肩をつかんでウチの方に向かせて
「補習室に連れて行かれて身動きが取れなくなったら終わりなんだからね、死ぬ気でやるわよ?良いわね?」
「うん。本当に頼もしい」
にこにこと笑うアキの目を見て。本当はそんなことにならないで欲しいとは思っているけど、アキに日記を見られるくらいならと考え
「どうしようもなくなったら、ウチがアキを補習室送りにするから。出来るだけ痛くないようにするから」
「え?ええ?どうして?僕何かした!?」
動揺しているアキには悪いけど説明できる内容ではない。でもアキは如何してウチに攻撃されるのか判らずしゃがみこんで唸っている。少し罪悪感を感じていると
(美波どうした?何かあったのか?)
近くに居たヴィータがそう尋ねてくる。同姓だからいいかと思い
(ウチのドイツ語の日記帳を留学生ノートと勘違いしてアキが渡しちゃったのよ。でその子は翻訳してくるって)
(なるほどな。そう言うことなら戦死は出来ないわな。OK、私がバックアップにまわってやるよ)
にかって笑うヴィータに御礼を言おうとしていると
『来たぞ!吉井、島田!Aクラスだ!』
偵察に回っていた須川の言葉で1回ウチの日記についての事は忘れ
「やるわよ。アキ」
「オーケー。あと後でなんで僕を道ずれにするのかだけ教えてね?」
「気が向いたらね!」
そう返事を返し召喚獣を呼び出す準備をする。ウチ達の任務は新校舎と旧校舎を繋ぐ渡り廊下の防衛だ。ヴィータとティアナはなのはとかの向こう側の突出戦力が出た場合のみ交戦許可が出ている。
『『『試獣召喚(サモン)』』』
先頭に立つAクラスの生徒が召喚獣を呼び出す。まずは様子見ね……後ろには同じようにAクラスの生徒が5人
(まだ本陣は動いてないって所かしら)
木下(姉)に愛子になのは、フェイト、KUBOの姿はない、まずはこっちの威力偵察と言うところだろう。随分と甘く見られたものだとウチが思っていると
(向こうは随分とのんきに構えてるね……ならその首貰っておこうか?)
(良いわね。やっちゃいましょうか)
「加藤君。近藤君、よろしく」
『『OK試獣召喚(サモン)』』』
加藤と近藤が召喚獣を呼び出し点数が表示される
『Aクラス 栗本雷太&横田奈々』
『数学 239点&243点』
VS
『Fクラス 加藤隆&近藤吉宗』
『数学 101点&98点』
お互いの科目と点数が表示される。さすがAクラス、この成績は今まで勝負したクラスの代表よりも高い。まともに戦ったのなら勝機はないが……
『『おらあっ!!』』
加藤と近藤の攻撃は大上段からの大振りな一撃。Aクラス生は軽く微笑みそれを受け止める。その余裕いつまで続くかしら
「美波!よろしく!」
『『『OK!行くわよ試獣召喚(サモン)』』』
ウチだけじゃなくて。有働・遠藤・堀田・真中が召喚獣を呼び出す。そして直ぐ点数が表示される
『Fクラス 島田美波&有働住吉・堀田喜一・遠藤慶介・真中辰夫』
『数学 285点&58点&97点&89点・74点』
ウチを除く全員の点数はお世辞にも高いといえるような点数ではない。そして点数はバラバラで向こうの様に得意科目で固めているというわけでもないが、ちゃんと揃えている。点数や科目ではない要素を
「長物班突撃ッ!!!!」
ウチ達のグループの召喚獣の武器は全てが槍や根と言った間合いの長い武器
『『『『おおおおーッ!!!!』』』』
ウチ自身の召喚獣も槍を盾を構え突進していく
『『なあ!?』』
Aクラス生が驚くのが見える。召喚獣の操作は難しい。ウチ達がやろうとしているのは狭い廊下を4人で埋め、永い武器で前衛の後ろから敵を攻撃するというものだ。一見無謀な策に思えるが、ウチ達になら出来る。突き出された槍や突撃槍は前衛の横を抜けAクラス生の召喚獣の腹を穿つ。その光景を見た後衛の5人が慌てて召喚獣を呼び出そうとするが遅い!
「アキッ!」
「判ってる!第2班用意!」
『『『試獣召喚(サモン)』』』
ウチ達が突進していく後ろでアキ達が召喚獣たちを呼び出す。その手に持っているのは木刀や斧と言った手持ち武器で破壊力のある武器ばかりだ
「突撃班・前衛班!道を開けるわよ!」
『『『おうっ!』』』
敵前逃亡にならないように一斉に横っ飛びし、アキ達の班が突進できる道を作る
「全員突撃ッ!!!!」
『『『『うおおおおおッ!!!Fクラスを舐めるなああああッ!!!』』』』
勢いをつけた横薙ぎ、振り下ろしでAクラス生の召喚獣をなぎ倒し、そして後に続く召喚獣たちが倒れた召喚獣を踏み潰し消滅させる
「Aクラス生4人戦死!補習室へ来い!」
西村先生が戦死したAクラス生4人補習室にと連れて行く、ずっと戦ってきたFクラスだから出来る軍隊行動だ。
「中々上手くいったって言いたいけど駄目ね」
「だね。タイミングがずれたね」
こっちの作戦は点が高く。盾を装備している生徒を囮にし、その後ろから長物班。さらにその後ろの突進班による波状攻撃による殲滅『ファランクスシフト』だ。アレキサンダー大王が使ったとされる軍隊戦術の一つで。これで最初の班を全滅させるつもりが戦死は4名。敵の半分ほどだ……半分打ち取られた事をよしとするかどうかだが。敵は間違いなく浮き足立った。Aクラス生は後ろの指揮官らしき女子生徒の
『落ち着いて、一旦教室まで下がりましょう』
その言葉に頷き徐々に後退していく。最初に交戦した連中は戦死しているので敵前逃亡にはならない。後退していくAクラス生を見ているとふと気になったことがあった
「アキ。向こうの今の指示少しおかしいかも」
「え?どういうこと?」
坂本から渡された点数メモと今の突撃で減った点数を調べているアキに
「下がるっていった時、向こうの何人かが階段のほうを見ていたの」
階段の方はAクラスへの逃走ルートとは違う。何か裏があるのかもしれない
「伏兵と見るか誘いと見るかね。どうする?」
警戒中のティアナにそう言われたアキは手にしていたメモをティアナに手渡し
「班を分ける。防御班と長物班は全員待機。ここからはヴィータさんとティアナさんの指示に従って、突撃班の半分は僕と美波と一緒に追撃。もし奇襲班とかだったら不味いからね」
アキはそう指示を出してウチを見て
「木下さんとかの姿はあった?」
「うーん。今のところは見てないわね」
坂本の話だと優子は前線指揮タイプ。出てきていると思ったんだけどと思いながら言うと
「よしっ追撃に出よう。ただし逃走できるだけの点数を持ったメンバーだけで」
「さらに何か罠があるって踏んでるの?」
ウチの問い掛けにアキは頬をかきながら
「僕の好きな戦略ゲームだと。こういう場合って陽動と奇襲を同時に考えてるパターンなんだ、追いかけたら奇襲を受けるし、ほっておいたら本陣に切り込まれる。ならあえて向こうの策に乗ってもいいんじゃないかな?」
そう笑うアキにティアナが頷きながら
「戦闘の基礎戦術ね。中々考えてるじゃない」
「ゲームで見ただけだよ。と言うわけだから渡り廊下の防衛は防御班と長物班に分けて僕達は追撃するよ。あとこれだけは覚えておいて……」
アキの追加の指示が追走班に伝えられ。待機組みへの指示の伝達がすんだところでウチとアキ、それに須川と横溝。あと数学の点数がそこそこいい面子を連れて逃げたAクラス生の後を追うと案の定
「……良く気付いたわね。吉井君」
階段の踊り場から響く木下に良く似た声。そこには案の定優子とAクラスの生徒の姿があった……
階段の上から僕を見下ろしている木下さんは感心したように
「良く気付いたわね。吉井君」
そう笑って隣の生徒を見ている。後退の算段をしているようにも見えるけど……何かがおかしい気がする
(須川君は後方警戒。残りにメンバーは攻撃する振りをして側面を警戒。)
僕が小声で言うと残りのメンバーが酷く真剣な顔をして
((攻撃するフリってどうすればいい))
僕は内心脱力しながら小声で
(思いっきり足踏みしてくれればいいんだよ。飛び出すぞ飛び出すぞって感じで)
そう呟き美波にアイコンタクトすると美波は頷き
「行くわよッ!」
「うんッ!!」
回避に特化した僕と火力に特化した美波が木下さんを追えば良い。木下さんは
「下がるわよ……」
追いかけてくる僕と美波を見ている木下さん。なにかタイミングを計っているように見える
「ホントに坂本君の考えが読めるのね。代表って」
くすりと笑う木下さん。やっぱり
「美波後退!須川君たちはこっちに!」
僕がそう叫ぶと同時にAクラスの生徒が背後の教室から飛び出してくる。やっぱりか!
「「「吉井の言うとおりになるとは驚きだ!」」」
須川君たちは飛び出してきたAクラス生の攻撃を回避し。戦死だけは回避したが
「囲まれちゃったか……」
もう少し人が少ないと思ってたけど、思った以上に人員がいて完全に退路を防がれてしまった
「もう少し引き寄せれると思ったんだけど。良いかんしてるわね?」
「それはどうも。でも囲まれたら意味ないと思うんだよね?」
かる口を叩きながら僕達を囲んでいるAクラス生を見る。Aクラスでも上位の連中ばかりだ、まともに打ち合えば一瞬で打ち倒されるのは目に見えている、だけどまだ完全に方位はできていない
「全員撤退!殿は僕がする!」
召喚獣を呼び出し退路を塞ごうとするAクラス生と対峙する
「誰が逃がすものかよ!」
「いいや逃げさせてもらうよ!」
美波達の背後を取ろうとするAクラス生の正面に立って振り下ろされた剣の側面を叩いて受け流す
(点数は高いけど実戦経験は少ない。これなら時間を稼げる)
「皆今のうちに早く!消耗が少ない今なら離脱できる!」
「逃がしちゃ駄目よ!取り囲んで!吉井君と島田さんは無視していいわ。少しでもいいから戦死させなさい」
僕と木下さんの支持が飛び交う。僕と時任君が打ち合っている横をAクラス生が抜けていこうとするが
「二重召喚!」
2体目の召喚獣を呼び出しその進路を塞ぐ。今なら離脱できると思っているなかAクラスの女生徒。確か「藤堂さん」が
「あ、あの須川君!」
「なんだ?見逃してくれるのか?」
藤堂さんは顔を真っ赤にしたまま
「えっと須川君!前の学園祭の執事姿が気に入りました!付き合ってください!」
『『『須川を刺殺します』』』
「ま。待って!落ち着いてダマ……してない!あれ本気だ!!!」
「えっとこれメールアドレスです!」
「え?まじ?偽者とかじゃない?」
「ちゃんと私のアドレスです」
『『『その後屋上から突き落とします』』』
まさかこんな精神攻撃で逃げ道を断ってくるなんて、Aクラス本気すぎる!
「今そんなことしてると鉄人と補習になるよ!!!須川君の抹殺はあと!あと甘酸っぱい雰囲気出すな!バカやローッ!!!」
僕の怒声になんとか皆が正気に戻ってくれたけどタイミングは最悪だった。僕と横田君を除いた全員がAクラスに囲まれ孤立してしまった
「あの。後でまた声を掛けてください!待ってます!」
「君は少し黙ってくれないかな!戦況が悪くなるから!!!」
藤堂さんにそう怒鳴る中木下さんが
「珍しい趣味の女子っているのよね。ここで待ってる女生徒ってFクラス好きが多いのよ」
「なにそれ!?そんな戦術だったの!?」
Fクラス男子を狙い撃ちする策過ぎる!?本気だ。Aクラスは本気で僕達を潰す気だ。じりじりと近寄ってくるAクラス生を見て
(僕だけなら何とか窓を突き破って離脱できるけど……どうする!?)
魔王からの逃亡で逃走系スキルが異常発達した僕なら何とか逃げれる。だけどそうすると美波達が詰む。どうするか考えていると
「冗談じゃない……こんな所で補習室送りなんてありえないアリエナイありえない……」
美波はなんか異常に戦死に怯えていた。心配になり声を掛けようとすると
「こんな所で補習室送りになったらどうするのよ補習室で日記が翻訳されるのを待つ?……ありえない、うちはこんな所で負けられないのよ……絶対に何をしても生き延びないと……ふ、ふふ……ふふふふふふふふふふ」
精神が壊れてしまったのではないかと心配になるくらい笑い始めた美波を見て
「美波今行く!」
「待て吉井!諦めろ!ああなった以上島田達はだめだ!」
横田君が僕の肩を掴む。でも見捨てることなんて出来ない
「馬鹿やろう!今の島田の目を良く見ろ!」
そう言われて美波の目を見ると
「負けられない。負けられない……あの日記が公開されるくらいなら死んだほうがまし、ウウン違う死んだら日記が晒されるのを防げない。ウチがやられる前にアキを連れていかないと」
ああ。駄目だ、あれはもう助からない……しかもなぜか僕にとんでもない殺気を向けて来てる。どうしてと思ってしまう
「全員撤退!」
『『『了解!』』』
くるりと背を向けて逃げようとすると木下さんが
「包囲解除!吉井君だけを囲んで!」
「「「了解!」」」
「なんでぇーッ!!!!」
一斉に包囲網を解除して僕を覆い隠す木下さん達に思わずそう叫ぶと
「吉井君。悪いけどあなたにはここで退場してもらいたいの」
木下さんがそう告げるとAクラス生全員の召喚獣の武器が僕に向けられる。あの……少しくらいは逃げるFクラスのメンバーを追ってくれないと僕逃げられないんだけど……
「貴方は要注意人物なの、吉井君。この勝負を動かす基点があるとしたらそれは君だと思うのよ」
「随分と評価してくれるのは嬉しいけど。僕なんて学園一の馬鹿だよ?」
この感じは他の皆を逃がしても僕だけは絶対に仕留めるシフトだ。観察処分の馬鹿にやるような行動ではない
「そう思っているならここで大人しく戦死してくれないかな?今ならAクラスで君が好きな子も一緒に死んでくれるわよ」
ずいっと前に出る眼鏡の女子にツインテールの女子に前髪で目を隠した女子を見て
「う、嘘だぁ?僕は騙されないぞ」
僕がもてるなんてそんなことありえないし、それに木下さんのその言葉で美波の魔王モードのスイッチが入っちゃったし
『吉井!魔王に殺されるなよ!』
『見ていて笑っててやるからな!』
『鉄人によろしくって言っておいてくれ』
そしてためらいも無く僕を見捨てて逃げていく馬鹿ども。らしいといえばらしいがこれはあんまりだ
「なんと言うか見ていて清々しいほどの撤退振りよね。本当」
「同情してくれるなら見逃してください」
「それは駄目よ。貴方はここで潰しておくって言うのがAクラスの総意だし」
そんなに警戒しないでください。僕は本当に馬鹿なんだよ?どう考えても戦死のこの状況どうやって逃げるかを考えていると
「いいからそこをどきなさいってのよーッ!!!!!」
美波の一喝と同時にAクラスの召喚獣がまとめて吹き飛んだ。そのありえない現象に木下さんが動揺を見せる
「今の声って島田さん!?な、何!?何が起きてるの!?」
Aクラスの生徒が動揺している中。美波が人垣を掻き分けて駆けてきて
「負けられない。ウチは絶対に負けられないんだから!!!」
いまだかつて無いほど真剣な表情で召喚獣にやりと盾を構えさせて突進攻撃を繰り返させている。
「ありがとう美波!恩に着るよ!」
「気にしないでいざとなったら秋を道ずれにするために一緒にいるだけだから」
だから何でそんな物騒な言葉がぽんぽん出てくるの!?だけど今のうちなら
「美波行くよ!」
「え。あ……うん」
美波の手を掴んで後ろにダッシュ。召喚獣は分身のほうを残して敵前逃亡をしないようにしてあるが
「逃がさないんだから!」
木下さんの横薙ぎの一撃に分身の右腕の一部を切り落とす。フィードバックで身体が痛むが、腕一本で逃げれるならこの程度幾らでも我慢する
「おっしゃ!長物班。突撃班。進撃!いけーッ!!!!」
『『『うおおおおおッ!!!』』』
ヴィータさんの合図で雄たけびを上げて突進してくる長物班の召喚獣を見て1度召喚獣を消して、そのまま後退すると
「おう。良く無事だったな。2人とも」
そう笑うヴィータさんの足元では僕と美波を見捨てて逃げた馬鹿の亡骸が転がっていた。恐らくビンタかストレートを喰らったのだろう。いい気味だ
「1回戻って僕と美波は点数を補充するよ。ここは大丈夫?」
「心配ねえよ。いざとなれば私もティアナが出るし。さっさと補充してこい」
しっしと言う感じで手を振るヴィータさんの隣を通ってFクラスに戻っていると途中で美波が
「アキ。ちょっと待って」
「ん?ああ。美波無事でよかったよ。本当に……美波も補充に戻るの?」
あの場を切り抜けることが出来たのは8割がた美波の力だ。一緒に行動できてよかったと思っていると
「うん。ウチも一緒に行く」
自然に僕の手を握り引きずるように歩き出す美波に
「み。美波!?急にどうしたの!?」
突然手を握られ驚いて振りほどこうとすると美波は両手でがしっと僕の腕を握って
「いい!絶対にウチの傍にいるのよ!!いいわね!」
酷く真剣な顔をして僕にそう言う美波。当然の事だが僕には美波の考えが読めない。何とか話をしてヒントを得ない事には何も出来ない
「美波のさっきの活躍は凄かったね。あんな絶体絶命の状況から抜け出せるなんて思って無かったよ」
「人間死ぬ気になれば何でも出来るのよ」
一体何がそこまで美波を駆り立てているんだろう?それが判らないことには美波が何を考えているかなんて判らない
「まぁウチが戦死するときはアキも一緒だからね?」
そして何故僕が巻き込まれることが確定しているのか?判らないことだらけで混乱していると
「うーん。ボクがみたいのはソウいうアキヒサじゃナインだよね?」
ぶつぶつと呟く小さな声に気がつき振り返ると。廊下の影に小柄な人影が見えた。あれはたぶんリンネ君だ
「???アキどうしたの?」
「いや、今向こうにリンネ君がいたような気がムグウ!?」
説明している途中で突然目の前が真っ暗になった。なんか柔らかいし良い匂いがする。これはなに?
「アキそれは気のせいよ」
耳元で聞こえる美波の声。それで理解した。僕は今美波に抱きしめられている。しかも顔が胸元に来るように……胸は大きくないと柔らかくないと思っていたのに十分柔らかい……ッじゃなくて!!!!
「え!?なに!?なんで!?さっきから本当にどういうこと!?」
完全に混乱しきっている僕の耳元で美波が
「アキ、今アキは試験召喚戦争の事だけを考えていればいいの。留学生の落し物とかは忘れる、そう言う余計な事は一切考えないの。判ってくれるわよね」
更にぐいっと僕を抱きしめる力を増させる美波。その柔らかい感触と良い匂いに完全に混乱した僕は
「コクコクコクコクッ!!!」
美波の胸の中で頷く事しかできなかった……本当今日は皆どうしてしまったんだろう……僕は考えることを放棄し美波が僕の頭を離してくれるのを待つのだった……
第102問に続く
今回の話は結構どたばたな感じで仕上げていきたいと思っています。そして最後に大どんでん返しが待っていますのでどうなるのか楽しみにしてもらえると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします