モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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8-集金人、クシノ

 先日、クシノと一緒にタマムシシティでのトレーナー教室へと派遣された。

 タマムシシティ、ヤマブキシティと並ぶカントーの大都会である。トレーナーの人数も多いし、裕福な人間が多い。

 タマムシジムは少年には刺激が強いが自然には優しい。ジムリーダーのエリカさんは品性と実力を兼ね備えた美人で、タマムシのような大都会の顔として非常に価値があると思う。

 

 さて、そこでされた質問が「孵化育成を別スタッフに任せるリーグトレーナーが増えているが、どう思われますか?」である。これには困った。僕自身は孵化育成のスタッフを雇っているわけではないが、リーグトレーナー全体を考えるとそうではないわけだし。キシ君なんかはバリバリに使ってるわけだし。

 ところが、クシノはビシッとこれに答えた。

「孵化育成を専門家に任せるぅゆーことは、いわば先行投資でんな。要はそれにかかった費用よりも多くの金をそのポケモンで回収すりゃ黒やからな。最近の若手は賢いわ」

 いや見事である。

 更に彼はこう続ける。

「ただバッジをコンプリートしてないトレーナーはやればやるほど損になるでしょうなあ、孵化育成のスタッフは強くて誇り高いポケモンを育成するのが仕事やから、使いこなすにはそれ相応の実績が必要でんな、それがないのにそういうのに手を出したら金ドブでっせ」

「タダの金ドブで済めばええけどなあ、使いこなせなきゃそのポケモンは暴れるやろし、そうすっと余計な費用がかかりますからなあ。金をドブに捨てた挙句に、ブランドのスーツで取りに行って、スーツを新調し直すようなもんでっせ、損でっしゃろ?」

「実績を上げたポケモンの孵化育成スタッフへの依頼料は年々上がって、最近ではローン組んで依頼するトレーナーもおるんですわ。ローンでっせローン。その道を行く覚悟が無いと手は出せませんなあ」

 その場に居るトレーナーのほとんどがそれで納得した。いやはや恐るべし金の力である。

 

 クシノと言う男は本当に面白い、まずその生い立ちからして面白い。

 子供の頃に小銭を拾っていたらニャースと縄張り争いになって仕方がないので素手でやりあったり。家族旅行でホウエン地方のムロタウンに行った時に洞窟で宝石が取れると聞いて親の目を盗んで夜中民宿を抜けだして宝石取りに行ったらヤミラミと言う宝石を主食にしているポケモンと縄張り争いになって、手持ちのニャースの攻撃が効かないから仕方がないので素手でやりあったりしている。

 嘘だろ? と僕も思うのだが「これがそん時の傷で、これがあん時のきずぅ」と割と気軽に生々しい傷跡を見せてくれるので、どっちにしろ結構な経験はしているのだろう。

 それでいて実家は地元では有名な商人の家系なのだから、もうよくわからない。変人を通り越して奇人の領域に行ってしまっている。

 

 クシノはわかりやすく『金』のために戦っている。彼は試合を『集金』と呼び、ファイトマネーが出る試合には地方問わず殆ど出る。

「旅費とファイトマネーの釣り合い次第やな、見比べて黒になると思ったら絶対に行くわ」と彼は笑う。

 リーグトレーナーになった理由も「食っていけるから」と何の躊躇もなく言う。

 

 ある日、僕は彼に「お前ならもっと効率良く稼げる仕事があるだろう?」と聞いたことがある。

 すると彼は「いやいや、これで稼がな意味ないわ、これで稼ぐことに意味があんねん。男の子なら勝負で稼がにゃ」とケロリといった。

 僕は堪らなく嬉しかった。お互いに全く価値観は異なるが、その源が同じであることに気分が良くなった。

 

 彼は今、Cリーグ順列二位を維持している、このまま行けばBリーグへの昇格もあるだろう。

 彼はリーグが上がれば収入が増えることを知っているし、チャンピオンになればもっと収入が増えることを知っている。考え方は違えど、彼もより高みを目指している一人であることに違いはない。


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