モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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6-才能とは

 ファン、トレーナー共々、この業界には議論が絶えない。

 例えばガブリアスに何をもたせるのが一番いいのか、とか、フェアリータイプの台頭はガブリアスに対する抑止力足りえるのか、とか、ガブリアスの対策として最も安定しているのは、結局スカーフカブリアスなのか、とかである。

 ちなみにこのガブリアスというポケモンは、普通に生活している分にはほとんど関わることのないポケモンだろうが、ことバトル業界ではこれでもかという程目にするポケモンであるので、覚えておくとより楽しくバトルを見ることが出来るかもしれない。

 さて、ガブリアスについての事と同じくらい議論を巻き起こすのは『カントー・ジョウトの歴史上最も才能あるトレーナーは誰か』である。

 ざっとエントリー者を並べてみよう。レッド、ワタル、サカキ、シゲル、オーキド、キクコ…。

 なるほど錚々たるメンツだ。思わず目眩がする、さすがの僕もここで僕の名前がないと憤ることは出来ない。

 しかしである、僕を含め何人かのトレーナーの中では、全く違う人物の名前が出ている。現四天王の一人、カリンだ。

 

 彼女のパーティでは、どう考えても四天王を維持することが出来ない。彼女の代表的なポケモンといえばブラッキーとヘルガーだが、ブラッキーは基本受け身なポケモンで、サポート役としてはこれ以上ないのだが、エースとして試合を作らせるには不向きだ。遅いし、決め手がない。

 ヘルガーなら決め手はある、あるが、弱点が多く、なおかつ打たれ弱い。特に格闘タイプと地面タイプに分が悪いのが致命的で、試合を作るには苦しい。

 それでも実績を残しているということはつまり、彼女のトレーナーとしての才能がこれ以上ないということで間違いないと僕は思っている。的確な指示と、読みの鋭さは、観戦していて惚れ惚れする。

 

 僕は若手の頃「カリンさんがもっと強力なポケモンを使えばチャンピオンもあるのではないか」と思っていた。当時の僕はまだ青く、ドラゴンポケモンのプライドの高さや育成の難しさから目をそらし、とにかくドラゴンポケモンの戦いを品のない暴力的なものだと決めつけウンザリしていた。才能のないトレーナーでも、強いポケモンを使えば勝てる、才能あるトレーナーが強いポケモンを使えば天下無敵だという浅はかな考えをしていた。

 

 ある日、当時のチャンピオン、四天王、ジムリーダーがあの伝説のトレーナー『レッド』との自戦記を纏めたものが出版された。僕はすぐに飛びついた、人脈を使って発売日一週間前に手に入れた。書いていて思うが、僕は若い頃から何をしているんだろう。

 カリンさんの自戦記の最後の数行に、僕は痺れてしまった。

 

「本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき」

 

 有名な台詞だろう、それゆえに違和感を覚えない人も多いと思う。リーグトレーナーに幻想を持っている人なら、当然とも思うかもしれない。

 しかし、これは本当に大変なことなのである。言ってしまえば『本音と建前』の『建前』の部分である。

 僕達リーグトレーナーは、勝つことが目的であって、戦うこと自体は手段でしか無い。戦わずして勝つ方法があるならば、思わず手が伸びてしまう人種、究極の負けず嫌い。それが僕達だ。

 僕達は当然負けることがある、その時、僕達が思うことの一つに「もっと強力なポケモンを使えば」と言うものがある。

 好きなポケモン、初めて出会ったパートナー、彼と勝ち続けることができればそれほど幸せなことはない、それは理想の一つではある。

 だが現実はそんなに甘くない、多くのトレーナーはその理想と現実のギャップに苦しみ続ける。

 ところが、彼女はそうではない、彼女は自分の好きなポケモンを使い続け、現在の地位にいる。並みのトレーナーが現実を受け入れても一生手に入れることのできない地位にである。これを最高の才能と言わずなんと言えばいいのだろうか。

 

 機会があれば、彼女のバトルを見て欲しい、きっと引き込まれるはずだ。


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