モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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28-見る人言う人目指す人

 先日、セキエイ高原でカントー・ジョウト地方ポケモンリーグチャンピオン決定戦が行われた。Aリーグ一位のワタルさんとチャンピオンのキシ君が戦うのである。

 キシ君はチャンピオンとして初めてのチャンピオン戦であり、ワタルさんは挑戦者としては久々のチャンピオン戦となる。

 僕はどちらの立場としてもチャンピオン戦は未経験(威張って言えることではないが)なので二人の心境は聞かねば分からないが、評論家と呼ばれる方々は二人の些細な心情まで手に取るように分かるようだ。ハッキリと言って、僕はそういうの嫌いである。

 特に僕の印象として、キシ君のチャンピオンとしての資質を疑う声が多かった気がする。『今期チャンピオン戦でキシが本物のチャンピオンかどうかがはっきりとする』などという見出しにはクラクラしてしまった。チャンピオンに偽物も本物もない、仕上げてきたワタルさんに勝つことが出来る人間が果たしてどれだけ居るのだろうか。

 負けて地獄、勝って現状維持、チャンピオンとはかくもつらいものである。

 昔、酒の席でクシノとチャンピオンについての話で盛り上がったことがある。

「チャンピオンになるよりAリーグ上位をずっと維持するほうが気楽で効率がええ。チャンピオンは色々と重すぎる」と彼は言っていた。

「客観的に見ればそう思っていても、俺だってチャンピオンにはなりたい、俺達は皆馬鹿や。ちょっとした病気かもわからん」

 自嘲する彼は、楽しそうだった。僕もきっと、笑っていたと思う。

 

 当日、僕はセキエイ高原に向かい、関係者室に顔を出した。僕はリーグトレーナーになってから毎年そうしている。高度な戦いを、それを理解できる友人たちと一緒に観戦する。行かない理由が無いとまで言える。

 集まったリーグトレーナー達は、キシ君のパーティがどうなるかに興味津々だった。キシ君はチャンピオン以前は対戦相手によってパーティを変幻自在に切り替えるタイプのトレーナーだったが、チャンピオン就任以降はパーティの固定化を目指している。だが、この大一番でもそれを貫くのか、それとも変幻自在にドラゴン対策を見せてくるのか。また、ワタルさんもドラゴン中心のパーティを組むのか、プテラやギャラドスなどのポケモンで脇を固めてくるのかにも注目だった。

 結果、キシ君はパーティを固定していた。「チャンピオンとしての覚悟を決めている」とイツキさんは言った。

 対するワタルさんもドラゴン中心の彼にとってのベストメンバーを揃えていた。パーティをどうするかなんて下らないことを考えていたのは、僕達外野だけだったのかもしれない。

 

 試合終盤、Aリーガーのキリューが関係者室に顔を出したので、僕達は驚いた。彼はコガネシティでの観戦イベントの解説担当のはずだった。

「いてもたってもいられなくなって、解説は後輩に任せてきた、ペナルティは覚悟だよ」彼は息を整えながら言った。彼は業界でも有名な『キクコ一門』の最古参である。

「中継は最速に近いが、最速ではないから」と彼は言った。僕達はどうかわからないが、少なくとも彼は病気である。




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