モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。 作:rairaibou(風)
初遭遇から一週間して、タカスギとスタッフは再びその駅を訪れていた。
尤も、ホウエンの中心街から鈍行電車を乗り継いだわけではない。経費で購入した簡素なワゴン車は、信じられないほど安い値段の駐車場に止めてある。
先日の一戦は当然動画にはしていないし、その地に訪れたことを匂わせても居ない。あの学生たちがSNSではしゃげばバレてしまうだろうが、タカスギにそれをコントロールする権限はないだろう。
追加の燃料もなければ、続報もない、その『レパルダスのトレーナー』は、すでに狭い界隈でも火が小さくなりつつある話題だ。
だが、その日、その駅にはわずかばかりの喧騒があった。
数人分の騒音だ。
ホウエンでは珍しい荒っぽい『標準語』の男達が、場の雰囲気をわきまえずに騒いでいる。
道行く人々は、それに不安げな視線を投げかけていた。そして、それに巻き込まれぬようにと、すぐさま視線を外している。
男たちは、そのような反応すらも楽しんでいるようだった。
「おうおうおう、なーんもねえなあ」
その中心に居た大柄の男は、あえて住民達に聞こえるようにそう言った。
彼の前にカメラは無い、故に、それがその男の素であるのだろう。
そして、最悪なことに、タカスギは彼の視界に入ったようだ。
「おうおうおう、タカスギじゃねえかよ!」
その男は、喧騒を引き連れて、ドカドカと彼の前に陣取る。
まるで昔からの連れ合いかのような物言いだったが、少なくとも今日この日まで、彼らは面と向かって話し合ったことはない。
それが何を意味するか、つまるところ、彼もタカスギと同じく『有名人』であるということだろう。
「まあそりゃいるわなあ、ホウエンはおめえの縄張りだ」
取り巻きと共にゲラゲラと笑う。
男もまた、有名な配信者であった。だが、決してそれはポジティブな意味ではない。
「おめえも『コレ』だろ」
男はその巨体に似合わず器用に携帯端末を弄り、すでにタカスギらが何度も確認した短い動画を映し出す。
「わざわざあんたが取り上げるほどのものじゃないでしょ」
タカスギはあくまで下手に出ないように取り繕いながら言った。事実、カントーを中心に活動するその男らにとって、この短い動画がこのホウエンのハズレまで足を伸ばす価値があるとは思えない。
「わかってねえなあ」と、男は大げさにリアクションし、再び取り巻きの下品な笑いを誘う。
「この動画からは金の臭いがすんだよ」
男はわざとらしく携帯端末を嗅ぐジェスチャーをする。
「勘って奴さ。こりゃあでけえスキャンダルの臭いさ。だってそうだろう。こんなに『キレーな』トレーナーが、こんなクソい田舎で、なんで戦う必要があるってんだ。そりゃあ、なにか後ろめたいことがあるからに決まってらあ」
倫理的な正義感を持つ人間であれば、思わず反論したい言葉であったが、タカスギはそれに反論できない。
理由は二つある、一つはそれはタカスギ自身も感じてる疑問だから、という点。そして、もう一つは、目の前の男の『勘』に対する負の信頼だ。
事実、その男はそういう『臭い』を世に広めることで名声を得てきた男だ。悪名は無名に勝るを地で行くその男の『勘』は、ある意味で信頼できる。
だが、タカスギはそれに強烈な嫌悪感を覚えた。
一度手を合わせたからわかる。あのトレーナーは『化け物』だ。そして同時に、嫌悪感を覚えることの出来ない『綺麗さ』があった。
そのようなトレーナーが、目の前の男のようなタイプに食い物にされるのは、彼はその世界に居ながらも嫌な気分だった。
「彼女は、撮影に協力してくれませんよ」
タカスギは、あくまで下手に出ないように、それでいて相手を刺激しないように、それでいて牽制するように言った。
すでにそのトレーナーと自身が接触していることを、目の前の男でも理解できるように言ったのだ。
その男は、それに体をピクリと反応させる。
そして、ニヤリと笑いながら言った。
「そんなもんおめえ、目の前にポケモンが現れりゃ関係ねえだろうが」
なあ、と、取り巻きに同意を求めながら続ける。
「トレーナーの前にポケモンが現れりゃ、誰だってポケモンを繰り出すしバトルもする。そうすりゃ、たまたま回してたカメラにその映像が映ることだってあらあ、偶然な」
無頼派のトレーナーを気取った、倫理観のかけらもない発言だった。
「おめえもぬりいよ」と、男は続ける。
「行儀よく撮影していいかどうかなんて聞くから、金を取り逃がす。まあ、それがホウエンのぬるういやり方なんだろうが」
そうだ、と、男は周りに目配せした。
「せっかくだから、コラボしようや」
取り巻きが背後を取る。もとよりまともなバトルをすることを考えていた人間たちではない、競技トレーナーの後ろを取ることは容易いだろう。
「『七つ持ちイケメン配信者を不意打ちしてみた』。そこそこ再生されると思うぜ。大事なのは、誰が不意打ちされるのかはあくまでタイトルに出さないことさ、そうすりゃ、格下が相手でも再生される」
男は、カントーの六つ持ちだ。単純な実力で言えば、タカスギに劣るだろう。
だが、取り巻きを使うそのやり方、自身にのみリスクのない身勝手なバトルのふっかけ、負けて当然、勝てば大金星。そういうやり方でバカに神格化され、この業界のトップ層になった。
こうなればバトルをする以外にないだろう。
タカスギは、前から二つ目のボールを手にとらんとした。
だが、その時、それを止める声。
「ちょっといいかな」
タカスギの背後からするその声に、彼は振り返らなかった。
男たちが『そういうやり方』をしてくる可能性はゼロではないと感じた、その声が『標準訛り』であったことも、その理由の一つだろう。
だが、男がその声の方向を見る視線に、驚きが混じっていることに気づいて、その可能性は低いかもしれないと思った。
声はさらに続く。
「人を探してるんだけど、君達は地元の人かな」
おかしなことを言う、と、タカスギはその背後の声に思った。
自分で言うのも何だが、自分も男も、この町には似合わない垢抜け方をしているだろう。そんなもの一目見ればわかるし、だからこそ町ゆく人々は自分たちを見るのだ。
そして、どう考えても一触即発のこの状況に、どうしてこうも無防備に声をかけられるのだろうか。
振り返って、そのアホ面を拝みたい。と僅かに思った。
「おい、おい」
一歩、二歩、後ずさりながら、男は明らかにその声の方向に視線を続ける。
すでにその視界に、タカスギは入っていないだろう。
「は?」と、彼はもう一度不機嫌そうに戸惑いを表現して言った。
「モモナリ、だよな」
それに、流石のタカスギも振り返った。
その先にあったのは、確かに、否、勿論彼にとってその男は初対面であるはずだから確信はない。だが、たとえ安っぽいプラスチックフレームのメガネを掛けていたとしても、少なくとも、リーグトレーナーを志していたのならば、一度は目にしているであろう顔があった。
「そうだよ」と、その男、カントー・ジョウトリーグトレーナー、モモナリは、特に表情を変えること無く答え、頷く。
信じられないことであった。
生まれた地方は違えど、モモナリは間違いなくリーグのトップトレーナーの一人だ。あえてホウエンらしさを出すのならば、コンテストのハイパーランクでもある。
それがどうして、こんなホウエンの片田舎に。
彼らの驚愕を意に介すこと無く、モモナリはポケットから一枚の紙切れを取り出す。
四つ折りにされたそれを広げて「この人なんだけど」と、タカスギと男に見せた。
その紙には、彼らが散々見たであろうあの動画の一部が切り取られてプリントされていた。
タカスギは、あのトレーナーとトップトレーナーの関係について一瞬混乱した。
男も、同じことを思っていただろうか。
否、男の『勘』は、すでにタカスギよりその先。
あの動画とモモナリとを繋ぐ、スキャンダラスなでっち上げの可能性を考えている。
「いやあ、俺達もその人を探しに来たんですけどね。俺達『配信者』で、この人を『取材』したいんですよ」
男はニヘラと笑いながらモモナリに伝える。いかにも、自分達は敵ではないと、むしろ目的を同じくする仲間だと言わんばかりであった。
「ああそう」と、モモナリは一気に彼らに興味を失い、プリントをポケットに戻す。
「悪いんだけど、帰ってもらえるかな。今日は僕が話したくてね」
その不遜な要求が当然通るものだと一欠片も疑っていない様子で彼らの側を通り抜けようとしたモモナリを「いやいや、ちょっと」と、男が引いた笑い声混じりに引き止めた。
「それはないでしょ」
嫌な予感がしたタカスギは、一歩、二歩と、その場の中心から逃れる。
「こういうのは早いもの勝ちっすよ。ねえ、あんたの立場とそれは関係ない」
もう二、三言葉を続けようとした男の脇を、不意に繰り出されたアーボックがすり抜けた。
アーボックは、男の後ろに居た取り巻きの一人を露骨に威嚇していた。
それはすこぶる合理的な判断だっただろう。その取り巻きは、腰のモンスターボールに手をかけていた。
そして、ほぼ同じく、モモナリのもう一匹、かっちゅうポケモンのアーマルドが、彼の背後に位置どっていた取り巻きの前に繰り出され、睨みをきかせる。
当然その取り巻きも、モンスターボールに手をかけている。
無茶苦茶な奴だ。と、タカスギは心底呆れる。
お得意の技、不意打ちして勝ち名乗りをあげようとしていたのだ。その男は。
そして、やはりトップトレーナーは一味違うものだと感心する。
モモナリはその男のやり方を知っているわけではなかっただろう。否、そもそもその男の存在すら知らなかったに違いない。
それであるのに、まるでそれが当然であるかのように、悪意に対応した。
「困ったなあ」
その状況で、モモナリは一歩男に踏み込んだ。
「どうすれば、わかってもらえるかなあ」
男は、ポケモンバトル系の配信者としてトップに立つその男は、それに対する返答ができない。
倫理観のなさがその男の僅かな強みの一つだ。多少の実力差は、それで覆すこと出来るし、そうしてきた。
だがこの現代社会で、まさかその強みで自らを越える男が現れるとは思わないではないか。
噂には聞いていた『最後のチャンピオンロード世代』を、彼はコレでもかというほど味わっている。
とにかく、少なくともバトルの実力で劣る男らが手に負える相手ではなかった。
「君も、同じかな」
男が、取り巻き達を切り捨てながら、あくまでも自分はモモナリに対しては友好的であるというポーズを崩さぬままにその場を去った後に、彼はタカスギに目線を合わせた。
まず第一感、タカスギが感じたのは恐怖であった。
男とモモナリはよく似ているかもしれないが、決定的に違う場面があった。
男らは『話が通じないふり』をしている。何もかもぬるいこの時代、それこそが自らの欲求を通す手段であることをよく知っているからだ。だからこそ、悪意を持ってそれを行う。
だが、モモナリは全くそうではない。彼は根本的に『話が通じない』のだ。そこに悪意は無いし、自らの欲求を通そうとしているかもわからない。
話が通じない上に、自分より強い相手だなんて、恐怖以外の感情で見ろという方が難しいだろう。
「ええまあ」と、タカスギはそれを否定しなかった。
嘘をつくことは簡単だっただろう。だが、配信者としてのつまらないプライドからか、それは出来なかった。
「じゃあ悪いけど、今日は遠慮してもらえるかな」
そう言われて、引くことも簡単だっただろう、先程の男と、同じことを繰り返すだけ。
だが、タカスギはそれをしたくはなかった。
彼は、あのトレーナーが何者であるのか、諦めきれないほどに興味があった。
野次馬根性と言われればそれだけだろう。だが一度手を合わせ、その強さを身をもって理解している今、彼はそのトレーナーに対する尊敬に近い感情も持っている。彼女が何者なのか、利益を抜きにしても、知りたかった。
それを『上』の人間だけに独占されることが、少し腹立たしかったのだ。
「先週、俺はそのトレーナーと戦いました」
その言葉に「へえ」と、モモナリは少し間の抜けた相打ち。
「強かったでしょ」
「ええ、全く歯が立ちませんでした」
「そうだろう、そうだろう」
なぜかモモナリは嬉しそうだ。
これならうまくいくかもしれない。
「今日、もう一度会う予定だったんです」
その言葉に、モモナリはわずかに沈黙し「へえ」と、やはり間の抜けた相打ち。
「俺が間に入ったほうが、話はスムーズに進むかもしれませんよ」
当然嘘だ。
そんな約束なんてしてはいないし、むしろ彼女は、配信者と会うなんて考えたくもないだろう。
だが、モモナリはそれを見抜けなかったようだ。
「なるほどね」
しばらく考えてから、続ける。
「いや、大丈夫だよ。お互いに知らない仲じゃない」
そうですか、と、タカスギは唇を噛んだ。
それ以上、取り込める要素はなさそうだった。
「さて」と、モモナリは一つ背伸びをしてから、周りを見回した。
「しかし、トレーナーなんて全然いないね」
世間話のようだ。
「そりゃまあ、基本的にここでバトルはしないでしょう」
「どうしてだい」
「ここは公共のスペースですし、カントーだってそうでしょう」
「まあ、それはそうか」
モモナリは再びポケットからプリントを取り出し、眺めてため息をつく。
「しかし、それならこれはどこなんだろうなあ。中々骨な作業だ」
え、と、タカスギは思わず声を上げた。
それだけ大層な捜し物をしておきながら、ここ近辺にストリートバトルコートが出来ていることも知らないのか。
「俺、知ってますよ」
それに、モモナリは声を高くする。
「そりゃ本当かい、なら案内してくれないかな」
「まあ、良いですけど」
彼はスタッフに目配せした。
☆
ストリートバトルコート。
確かテスト期間と言っていたか、先週居た学生たちはおらず、そうなれば、そこには誰もいない。
「へえ、こんな場所がねえ」
まだ新しい対戦場。つまらなさそうに地面を慣らしながら、モモナリが呟いた。
「全然知らなかったよ。この地方独特のものかい」
「いや、むしろカントーのほうが盛んじゃないですかね」
「へえ」
キョロキョロと周りを見回し、モモナリが続ける。
「妙な気分だね、まるでこんな、リーグ戦じゃないんだから」
「どういうことです」
「わざわざこんなものを作らなくても、どこだって出来るじゃないか、バトルは」
それは、彼ら『チャンピオンロード世代』の常識だろう。
「先週、戦ったと言ったね」
入場口に背を向け、モモナリはタカスギと向き合った。
「どんなバトルをしていた」
その言葉に、タカスギは自身の敗北を思い返しながら答える。
「よく分からなかったんです。ただ、バトルの主導権をトレーナーとポケモンが切り替えて持つような」
「なるほどなるほどねえ」
やはりモモナリは嬉しそう。
「あの動画ではレパルダスと戦っていたけど、他にポケモンは居なかったかい」
「いえ、使っていたのはレパルダス一匹だけで」
「あれ、そうかい。他にもう一匹、例えば」
モモナリがその先を続けようとした時、タカスギは対戦場の入場口に人影が現れたのに気づいた。そして、そのトレーナーのファッションは先週見たそれと同じ。
タカスギが一瞬視線を外したのに気づいたのだろう。モモナリはすぐさまに振り返り、その人影を視界に捉える。
そして彼は、すぐにタカスギに背を向け。ゆっくりと彼女に歩み寄り始める。
「待っていましたよ」
その声は、幸福に溢れている。
「ずっと、待っていたんですよ」
モモナリの言葉だけを聞けば、それは感動の再会のように思えるかもしれない。
だが、タカスギにはそう思えなかった。
彼の視界の奥、そのトレーナーは、歩み寄るモモナリに対して明らかに動揺を見せている。少なくとも、自分と対戦していたときの聡明さはないだろう。
だが、逃げるというわけではない。
違和感を感じたタカスギは、ポケットの中で携帯端末を操作しつつ、早足でモモナリを追い抜いた。
わかる、タカスギにはわかる。
恐らく、動けないのだ。一方的に現れたあまりにも強烈な存在に、自分が自由に動けるという常識を疑ってしまっている。
「ん、なんだい」
不意に自らを追い抜き、向き合ったタカスギに対して、モモナリは首をひねった。
だが、彼の手が腰元にやられていること、否、彼の右手が動いたことが彼の肩口の動きから想像できたその瞬間には、すでに、反射的にモンスターボールを放り投げてる。
現れたポケモン、ゴルダックは、目の前の格下の群れを確認しようと目を凝らしたが、現れたそのポケモンを一目見るや否や、モモナリと共にバックステップを取った。
そのポケモン、バクオングへの対処としては、タカスギが思わず目を見開くほど正しい対処であった。
「『えんまく』!」
「『どわすれ』」
強く叫ぶタカスギに対して、モモナリの対処は冷静だ。
ボールから繰り出されるや否やに大口から黒々とした煙幕を吐き出したバクオングに対し、確認することは出来ないが、その向こう側ではゴルダックが呆けた顔をしているだろう。
レベルに違いはあるだろう。その気になればゴルダックはそこからスプリントを発揮して先手を取れるに違いない。
だが、モモナリはその指示を出さなかったし、ゴルダックもまた、地面を踏み抜かなかった。
それをしなくてもいい相手だと判断していたのだろう。不意なバトルだが少しくらい様子を見ても構わない。相手にこちらを破壊する手段はない、そういう判断。
そして恐らく、それは正しいのだろう。
「『ばくおんぱ』!」
すでにバクオングは息を大きく吸い込んでいた。
そして、その指示と同時に放たれる、その数値を考えたくもないくらいの『ばくおんぱ』は、周りの建造物を巻き込んで、歪に乱反射を繰り返す。
とんでもない高威力の全体攻撃だ。
だが、煙幕の向こう側のゴルダックは倒れてはいないだろう。
メンタルを引き上げる瞑想である『どわすれ』は、その威力を弱めているはずだ。
タカスギは地面を踏み抜いた。
だが、それはモモナリに向かってではない。
彼は、モモナリから離れるように、逃げるように地面を蹴った。
視界を封じ、『ばくおんぱ』で一時的に聴覚も封じている。
逃げるにはうってつけだった。
「こっちへ!」
彼はそのトレーナーの手を引き、入場口から道路側に飛び出さんとする。
その向こう側には、彼から連絡を受けてすでにエンジンを吹かしているスタッフのワゴン車があった。すでに引き戸は開いており、乗り込むだけだ。
逃げられる、と、タカスギは確信していた。
モモナリとゴルダックは『どわすれ』してまで受けの体勢を取った。おそらくは、迎撃を考えているはずだ。
攻撃が来るまで、待つだろう。
そう思っていた。
彼もまた『最後のチャンピオンロード世代』の力量を、技術を見誤っていた。
戦う気のない格下を全力で狩り尽くす。モモナリの群れはそのような技術を本能的に体得している。
「『アクアジェット』」
煙幕を切り裂いて、ゴルダックが現れる。
視覚も、聴覚も必要はない。
攻撃を受けた方向を、痛覚で理解していれば、敵の方向は理解できる。
それを受けるアイデアはない。タカスギは、当然それを想定してはいなかった。
そう、タカスギは。
「『でんじは』」
そのトレーナーが、手を引かれながら繰り出したレパルダスは、ゴルダックのスピードに翻弄されること無く、的確にその電撃をヒットさせる。
体の『まひ』を感じたゴルダックは、それでも攻撃を続けようと重心を前に取った。
「『イカサマ』」
だが、レパルダスの前足がトン、と、後頭部を押さえると、その力がそのまま地面に激突する。
一瞬、ゴルダックとモモナリの集中が途切れた。
「行きましょう」
握った手をぐいと引かれ、タカスギとそのトレーナーはワゴン車に乗り込み、それぞれのポケモンをボールに収めた。
引き戸が開いたまま、スタッフはアクセルを踏みこんだ。
後書きによる作品語りは
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いる
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いらない