モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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『我が追想のポケモン達』とは
月刊誌『スタジアム』にて掲載されている。リーグトレーナーのポケモンに焦点を当てた連載。
トレーナーよりもポケモンの個性を重視する珍しい連載として有名。

オグラ(オリジナルキャラクター)
元々は理論派トレーナーであったが、シバ戦の敗戦からやりたいことを我慢しないようになった。パートナーのキノガッサはリーグ参入後からの付き合い

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月刊誌スタジアム『我が追想のポケモン達』②

 第○回 『妥協して受け入れると言う新たなセオリー キノガッサ(オグラ)』

 

 

 

 

 私が若かった頃、カントー・ジョウトポケモンリーグ黎明期には、ある程度ポケモンを主軸に、悪い言い方をすればポケモンのポテンシャルに任せた展開をするトレーナーが存在した。『強いポケモンが手持ちにいれば誰でもリーグトレーナーになれる』とは、今では鼻で笑われるような主張だろうが。この頃のリーグにおいてはあながち間違いではない価値観かもしれない。

 オーキド、キクコのリーグ参入以来、この戦法は段々と廃れていくことになる。トレーナーと共に戦うポケモンと、一匹でしか戦えないポケモン、今では考えるまでもない戦力差だ。

 

 頼れる相棒と息を合わせる。あるいは相棒を理解し、相棒もまたトレーナーを理解する。それが現代のポケモンバトルにおける最も高貴とされる思想の一つであることに異論ある読者はいないだろう。

 だが、カントー・ジョウトリーグトップ層の一人であるオグラとそのパートナーであるキノガッサは、必ずしもその思想を崇拝しているというわけではないようだ。

 今日は『ポケモンリーグで最も幸せな男』ことオグラのパートナーであるキノガッサに思いを馳せたい。

 

 

 

 

 

 彼とオグラとの出会いは、決して特別なものではなかった。少なくとも、我々が美談として想像する『初めてのパートナー』というわけではないし、彼自身が特別才能を持ったポケモンだというわけでもないようだ。

 彼の育成を担当していた育て屋スタッフの当時のインタビューからもそれがうかがえる。

 

 

「種族の枠を超えるほどの特別飛び抜けた力は感じませんが、トレーナーの言うことをよく聞くポケモンです。バッジを一つも持っていない娘の指示にも従いますからね。そういう意味では若手の中でも理論派であるオグラと契約できたことは彼にとっても幸せなことだったと思います」

(ニシグチ ポケモン育て屋『ニシグチモーモーファーム』代表)

 

 

 リーグ参戦後、オグラの新たなパートナーとなった彼は、彼の主力としてそれなりの成績を残している。

 

 

「心揺さぶられる要素はないけど、オグラくんとキノガッサちゃんのコンビは『安定性』こそが強みということなのね。『きのこのほうし』の命中率はCリーグでは屈指のスタッツだし、マッハパンチは相手の出鼻をくじくテクニシャン。あまり面白くないなと思っちゃうのはそれが強いということなのかしら」

(月刊誌スタジアム◯年◯月号『マツノー姐さん&パッチール棟梁の酔いどれ観戦記』より)

 

 

 だが、彼とのコンビ初期ではあまり突き抜けた活躍はできなかった。

 彼らが変わったのは、Cリーグ参戦数年してからである。

 彼のパートナーであるオグラがスタンスを変えたことで成功したことは有名な話であるが、彼も変化してたようだ。

 

 

「出会ったその時は『似た者同士だな』と思ってたんです。どっちも大人しいタイプですし、主義主張もない。ただ、私が『やりたいことを我慢していた』のに対して、彼は本質的にインドア派なので、私がやりたいことを我慢しなくなったら露骨に嫌な顔をするようになりました(笑)この間えんとつやまに登ったときももうイヤイヤといった感じで」

(オグラ リーグトレーナー)

 

 

 この頃から、彼らの対戦での動きが変化を見せる。

 これまでの理路整然とした立ち回りから、それぞれがやりたいことを主張するようになったのだ。

 彼らの変化は観戦を趣味にするものならば一目瞭然であった。

 

 

「久しぶりにオグラくんとキノガッサちゃんの試合を見たんだけど、なんだかとっても面白いコンビになっててびっくり。なんだか人間味? みたいなものが見えるようになってて、それで勝つんだから大したものよね。特に中盤辺りにあったお見合いみたいなのが可愛くてよかったわ~」

(月刊誌スタジアム△年△月号『マツノー姐さん&パッチール棟梁の酔いどれ観戦記』より)

 

 

 そして、それは対戦相手も感じていたことのようだ。

 

 

「明らかに戦い方が変わっていた。それぞれの独立した考え方をお互いが譲り合うような立ち回りだった。彼とキノガッサとの関係が強固になっていたから、プレッシャーを与えづらかった」

(シバ リーグトレーナー 試合後インタビューより)

 

 

「『生命賛美流』のオグラくんとの戦いは難しい。リーグトレーナーとの戦いは、基本的に目の前の状況を切り抜けるイメージで戦えばなんとかなるんだけど、オグラくんとキノガッサの場合はそれぞれがチグハグな考え方を持っていて、普通そういう相手って一歩目が遅れたりとか妙な間があったりするんだけど、彼らの場合はそれをうまく使えると言うか、気がついたら良いところに落ち着いていると言うか、こんな仕事をしておきながら言葉にするのは難しいんだけど、目の前の状況を眺めるんじゃなくてオグラくんとキノガッサの考え方とその結果どうなるかを考えながら対応していかないといけないから、いつまでも慣れないんだよね」

(モモナリ リーグトレーナー 自戦記より)

 

 

「オグラさんって無茶苦茶なんですよ。あの人、未だに手持ちに振り回されてますもん。普通一流のリーグトレーナーって手持ちのポケモンと戦略とか考え方とか合わせたりするし、自分と合うポケモンを選んだりするじゃないですか。あの人は手持ちのポケモンと意思疎通する気がないでしょ、なんであれで勝ててるのか不思議ですよ。まあ、俺も今期負けましたけど」

(ワゴー リーグトレーナー キクコ一門年末大反省会より)

 

 

 勿論、彼はオグラのことを嫌いではないだろうし、彼らがコミュニケーションを怠ってるとも思わない。

 私がそう確信しているのは、あの◯☓期カントー・ジョウトAリーグ最終節、オグラ対ワタル戦を観戦していたからだ。

 この年、オグラは六勝二敗として上位につけていた。その試合に勝てばチャンピオン挑戦権にも手が届かんとしている。

 勝負は未だに語り草となる名勝負、そして最後はワタルのカイリューと彼の対面となった。

 試合の最後、カイリューの『しんそく』をモロに受けた彼は、どうみても戦闘不能級のダメージを受けた。

 だが、彼は立ち上がりカイリューに対してファイティングポーズを取った。

 その時の会場の盛り上がりを、私は今でもはっきりと覚えている、会場は明らかにオグラと彼に声援を送っていた。彼が基本的にそのような熱意を見せるタイプではないことを、ファンはよく知っていたからだ。

 その後は語るまでもないだろうが、オグラは自らラインを割って彼の戦闘不能を審判に宣言した。当時それはポケモンの感情を無視したトレーナーのエゴとして批判もされたが、それらの批判の中にもどことなく『あのコンビなら仕方ないのかもな』という雰囲気もあったことを覚えている。

 

 

「キノガッサがそういう気持ちを見せてくれたことは素直に嬉しいですし。誇らしく思います。ですが明らかに彼は限界でした、それはわかります、長い付き合いですから。

(キノガッサは納得しているか?)さあ、それはわかりません。仮に納得していなかったとしても、それは仕方のないことです」

(オグラ 試合後インタビューより)

 

 

 それから現在に至るまでオグラと彼の関係悪化の様子はなく、相変わらずチグハグな戦いは続いている。降格や昇格を繰り返しながらも、彼は今年もAリーグで戦っている。

 彼らは、自らとパートナーが阿吽の呼吸になることを目指してはいないように思う。むしろ、自分達がそれぞれ違う存在であることをバトルの武器にすらしているように見える。

 最後に、彼のパートナーであるオグラは彼との関係についてこう語る。

 

 

「当然ですが、理想的なのはトレーナーとポケモンが同じ視線、思想を持ってバトルに臨むことだと思いますよ。ですが、私とキノガッサはそういう関係にはならなかったし、無理にお互いに合わせようとか、合わせてほしいとも思わないです。私は私がやりたいことに彼を付き合わせますし、彼も時には彼がやりたいことに私を付き合わせる事があります。私が知らない私のことをも彼は知っていますし、彼の知らない彼のことも私は知ってます。私達は違う生き物で、違う性格です、全てが思い通りには行きません。それを受け入れ、お互いが楽しく過ごせる妥協点を探すのが私達の生き方であり、戦い方なんだと思います」

 

 新しい戦略、新しい思想が生まれるたびに、対戦場では新たなセオリーが生まれ、幾多ものトレーナーがそれをなぞるだろう。

 だが、彼らのセオリーは彼らの旅路でしか作られない。

 チグハグコンビは、今日も どこかで道を作っている。




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