モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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超外伝 もしもモモナリのポケモンが擬人化してしまったら ②

 抱えた紙袋の中には、様々な種類のお菓子が入っていた。

 すれ違うハナダの住民たちは、モモナリに対してそれなりに好意的な反応を返してくる。すでに傍若無人であった彼のことは記憶の遠くにあるかもしくは存在せず、今では地元を代表する強豪トレーナーである。

 ごくたまに、彼に質問を飛ばしてくるような住民もいる。それは大体がポケモンとの付き合い方であったり、野生のポケモンの対処についてであるが、モモナリはそれに答えることもできる。

 故に、彼がすれ違う住民達に質問をしても良いはずであった。

 だが、彼は喉まででかかっていたそれを飲み込む。

 

『年頃の娘が好きそうなお菓子ってなんですか?』

 

 流石に、それを聞くことは世間体が許さないだろう。さすがのモモナリにも、その程度の良識というものがあった。

 

 

 

 

「帰ったよ」

 

 玄関を開き、紙袋を一旦床に置く。

 帰るまでに誰からも勝負をふっかけられなかったのは、運が良かったのか、それとも普段の行いの良さだろうか。

 彼にしては珍しく五つしかボールのないベルトを撫でる。

 パタパタと、彼の家にしては非常に珍しい『彼以外の人間の足音』が彼を出迎えた。

 

「お父ちゃん!!!」

 

 モモナリがそれに反応するよりも先に『たいあたり』のように胸に飛び込む衝撃。

 もし彼が年齢相応の三十代前半であれば、たちまちそれに倒されてしまっただろう。

 だが、彼は未だにフィールドワークを趣味とする準アスリートである。少し体が大きくて元気がいいだけの少女に押し倒されてしまうようでは、この人生は歩めない。

 右足を踏みしめながら、モモナリはその少女の頭を撫でる。

 

「何もなかったか?」

「はい!」

「じゃあこれをテーブルまで持っていってくれ」

 

 彼女は床においてあった紙袋を抱えてまたパタパタと足音を立てる。

 袋から香る甘い匂いを感じたのだろう、彼女はちらりとモモナリを見やった後にニコリと悪意のない笑いを漏らした。

 彼女が元々はガブリアスであったことは、今更説明するまでもないだろう。

 純粋で、無邪気で、甘いものが好きな少女。

 彼女は、大体モモナリが思う通りの人間に変化していたようだった。

 

 

 

 

 

「ガブリアスはおとなしかったか?」

 

 日の差す窓際。

 胡座をかいて瞑想をしている青髪の青年に、モモナリが問うた。

 だが、彼は眉をわずかに動かすのみでそれに言葉を返さない。しかし、それが何もなかったことの証明であることをモモナリは理解してる。

 彼はゴルダック、人間となった今でもルーチンが変わることはない。

 それに、彼と言葉をかわさないことなど、モモナリにとっては慣れっこであった。今更人間になった彼に言葉でのコミュニケーションを求めることはない。

 いきなりパーティのエースと最古参が『突発性人形変異症候群』にかかった時にはさすがのモモナリも焦りはしたが、今の所、なにか大きな問題は起きていない。理事であるクシノに報告してそれっきりだ。

 

「お父ちゃん、これ何が入ってるの?」

 

 ガブリアスは紙袋を覗き込んで言う。すでにその口角は上がり、少しばかり唇に艶も出てきている。それは問いではない。それは許可を求める懇願である。

 

「ああ」と、モモナリは紙袋を引き寄せる。別に意地悪をするわけではないが、主導権を彼女に握らせるのは良くない。欲求とは、我慢の後に得ることができるものだ。何故かモモナリはそれをよく理解しているし、それをポケモンに学ばせることもできる。

 

「一日に一つだ、いいか? 一日に一つだぞ」

「うん!」

 

 大きく頷くガブリアスに満足しながら、彼は紙袋からそれを取り出す。

 一つはモモンのみ。

 

「モモンのみ!」と、ガブリアスはその目をキラキラとさせる。喉を鳴らして生唾を飲み込む事も忘れない。

 

 だが、モモナリはガブリアスを制してもう一つを取り出した。

 それは、様々なきのみが使われているフルーツゼリー。

 

「ゼリーだ!」と、やはり目をキラキラとさせながらガブリアスが喜ぶ、両手を机に付き、身を乗り出す。すでに人間の体に慣れているようだ。

 

「じゃあこれ使ってな」

 

 同じく紙袋からプラスチック製のスプーンを取り出したモモナリは、ゼリーとそれとをガブリアスの前に差し出す。

 すでに上を向きながらあんぐりと口を開いていた彼女は、差し出されたそれに一瞬首を傾げ、上目遣いでモモナリを見たが、彼はそんな行為にほだされない。

 

「せっかく手があるんだから自分で食べてみろ」

 

 彼女は親であるモモナリの意見に「わかった」と、一つ頷き、ゼリーの包装を問いてからそれを一つ舐め、その後にスプーンを手にとった。

 恐る恐るスプーンでゼリーを掬う。中に入っているカットきのみを溢さぬようにそれを口にした。

 しっかりとそれを咀嚼し、目を見開いてモモナリを見た後にそれを飲み込む。

 

「おいしい!」

「そうか、そりゃよかった」

 

 ガブリアスは目を輝かせてもう一口を口にする。

 そして彼女はスプーンとゼリーを手にとったまま立ち上がった。

 

「お父ちゃん! お父ちゃん!」

 

 彼女はモモナリの前にしゃがみ直すと、スプーン山盛りにゼリーを掬ってそれを差し出す。

 モモナリもそれを意味するところを理解して、顔を少し上に向けて口を開きそれを頬張る。

 

「おいしい!?」

「ああ、ウマイウマイ」

 

 その感想に満足したのか。彼女は再び立ち上がり、今度は青髪の青年、ゴルダックの元に向かった。

 

「はいお兄ちゃん!」

 

 モモナリのに比べれば少し控えめに盛られたそれを、青年は僅かに眉を動かした後に小さく口を開いて食べた。

 

「おいしい?」

 

 何故か小声になった彼女の問いにゴルダックは小さく頷く、それに満足気に大きく頷いた彼女は、今度は再びモモナリに表情を向けて言った。

 

「みんなも食べよ!」

 

 その言葉を合図に、モモナリのボールからポケモンたちが飛び出してきた。

 アーマルド、カバルドン、ジバコイル、ユレイドルが飛び出し、最後にアーボックがため息交じりに繰り出される。

 すでに慣れた手付きでゼリーを掬い、それぞれのポケモンと共に楽しんでいく。

 そんな様子を頬杖しながら眺めるモモナリは、もう片手で紙袋からゼリーをもう一つ取り出した。

 すでにゼリーは半分もない。皆に配り終える頃には無くなってしまうだろう。

 モモナリはそれを咎めないだろう。自分が美味しいと思うものを周りに分け与える。素晴らしいドラゴンじゃないか。




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