モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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11-キシ君と二人、雪の街に消える

 ナギサシティで僕とキシ君はきっちりと仕事をし(勝敗や観戦記は同社発行の『勝負のすゝめ』にて)残された時間はシンオウの観光へと回せることとなった。

 観光と言ってもチャンピオンであるキシ君のスケジュールはキチキチで、フリーな時間が一日ほどしかない。僕は暇で暇で仕方がないからもう一月くらいシンオウを満喫してもいいんだけど、そうは行かない。僕はキシ君のお目付け役なのである。

 シンオウといえばヨスガ! なので僕はヨスガシティに行っていっぱい食べたりいっぱい買ったりしたかったのだが、キシ君はキッサキシティに行きたいと言う。キシ君はなんと変わり者なのだろう。かくして僕達は、シンオウ地方が北端、キッサキシティへと向かったのだった。

 

 キッサキシティ、氷きらめく冬の町ある。雪は膝まで降り積もっているし、海には流氷が浮かぶ。この時期にキッサキシティに来るカントー民、多分僕達だけだろう。

「キッサキ神殿に行きたいんです」とキシ君は手のひらをこすり合わせながら言った。

 キッサキシティには神殿が存在する。キッサキシティにある神殿だからキッサキ神殿、簡単なもんである。キッサキシティに神殿を作ったのだろうか。それとも神殿の周りにキッサキシティが出来たのだろうか? 哲学である。

「どうするんだい?」

「やはり、有名ですから。殿堂入りしたからには…」

 キッサキ神殿の内部は巨大な地下洞窟になっている。そこには強力な野生のポケモンが生息しており。殿堂入りした数少ないトレーナーと、キッサキジムリーダー、スズナのみがなかに入ることを許されている。カントーの読者の方にわかりやすく説明するならば、ハナダの洞窟みたいなもんである。要するに保護区だ。ポケモンを保護しているのか、それとも人間を保護しているのか。哲学である。

 そういうことなら、まずはジムリーダーのスズナちゃんに挨拶しないと、と僕達はふかふかの新雪に足を取られながら、キッサキジムに向かった。

 

 スズナちゃんは明るいが才女であり、それを鼻にかけず、キッサキシティのトレーナーズスクールで教鞭をふるってもいる。何故今このようなことを書くかというと「本日、スズナはトレーナーズスクールで講義が…」とキッサキジムトレーナーに言われて、僕達は再び新雪に足を突っ込むことになったからだ。

 僕達はなれない雪道を歩くことに気を取られすぎて、トレーナーズスクールに新チャンピオンが来訪するとどうなるかということに頭が回っていなかった。スズナちゃんの一喝がなかったらキシ君は素っ裸になってたと思う。

 ちなみに相当久々の来訪者だったらしい。皆さん、キッサキシティは寒いですが、その分人と料理は温かいです、スズナちゃんも明るく元気でいい子です。あのミニスカートはどうかしてます。寒さに慣れるって恐ろしいです。

 

 一旦授業を中止してもらって、僕達とスズナちゃんはキッサキ神殿へと向かった。まあ別にキシ君は間違いなく殿堂入りトレーナーだから何の問題もないのだけど。

「あの、本当に大丈夫ですか?」とスズナちゃんは心配そうだった。

 スズナちゃんの心配はよく分かる。野生のポケモンと戦うのとトレーナーと戦うのは全然違うものである。野生のポケモンは手を緩めないし、むしろ自分の身を護るためにそれこそ死ぬ気で来る。

 キシ君は、僕達に何も語ってはくれなかった。だから僕は彼が何を思っているか、想像はしているし、多分当たっているとも思うが。ここに書くのは正しくないと考えている。

 だから、彼がキッサキ神殿に入る前に交わした会話を書くことにする。

「キシ君。言わせたい奴には言わせておけばいいんだよ、僕も、ワタルさんも、疑ってなんかいないさ。誰も疑っちゃいない」

「いえ、これは自分の問題ですから」

 僕はもう何も言うことがなかった。チャンピオンがやるといえば、誰も止めるものはいない。チャンピオンとはそういうものだ。

 

 チャンピオンが満足するまで、僕は暇で暇で仕方がないので、臨時でトレーナーズスクールで教鞭をふるうことにした。

 スズナちゃんと二人で戻った事がわかると、スクールの子供達は再び群がってきたが、キシ君が居ないとわかると残酷なくらいさあっと引いていった。うーん、世代である。

 スズナちゃんが僕について熱弁してくれたおかげで多少は生徒たちに興味を持ってもらえ、ポケモンの特性についての講義はまあまあの感触だった。カントーの皆さん、スズナちゃんは明るく健気でいい子です。

 

 結局キシ君がキッサキ神殿から帰ってきたのは日が回ってずいぶんしてからだった。中で何があったのかは、キシ君にしかわからない。だが、その顔は晴れやかだった。新チャンピオンの今後に期待しよう。




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