異世界での理想の女の子探し   作:重ねず郎

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文字数が少なかったので、前話を大幅に変えました。
ご指摘くださった方々、ありがとうございます。


第三話:もっと巨大な爆発起こしてー

ぼくの肉体年齢もついに二桁になった。

そして最近、髪の毛が念願の膝あたりにまで到達した。

腰に到達した辺りから伸びにくくなり、大分時間がかかってしまった。

髪の量に関しては、他の姉妹達とは違いお父様の遺伝子を受け継いだらしく、全てを二つに纏めてツインテールにしてもボリュームはあまりない。

うん、実にぼく好みの細さだ。

まあお嬢様として生まれたのならば、殆どの髪はくくらずに流して、少量の髪だけの二つくくりという方がおしとやかでいいかと思うんだけど。

しかし実際してみれば、如何せん邪魔過ぎる。

剣をふるにも魔法の練習するにも勉強するにも食事するにも、何をしるにもパラパラパラパラと落ちてきて邪魔ったらあらしない。

髪をくくらないストレートとかも結構好きだったんだけど、今なら寧ろ、邪魔じゃないかと問いたいね。

長い髪を見れば、それしか考えられない。

というわけで、ぼくは常時ツインテールだ。

全ての髪でツインテールだ。

 

——くるりとターンすれば弧を描き、宙返りすれば泳ぐように舞う。

この二つの尾があるだけで、ぼくの拙い剣戯も優雅な舞を躍っているように見えることだろう——

 

とか何とか、自分の髪に酔いしれていた時期がぼくにもありました、ハイ。

それで抜群の運動神経と少量のフライを使って、アイススケーター差ながらに二回転ジャンプやら三回転ジャンプやらを歌いながら跳んでたら、後ろから姉様に「何してるのよ」と声をかけられてしまった。

しかも素で不思議そうな声。

恥ずかし過ぎて穴があったら入りたかった。

しかもその歌っていた歌というのも、うろ覚えのアメージンググレース。

意気がってすいません。

 

 

それから、ぼくに趣味ができました。

裁縫という、何とも淑女らしい趣味なのだ。

しかしその縫うものが…何と言うか、淑女からは程遠いんだけど……。

 

「ミュアル〜、本当にこんなの着るの〜?」

 

聞こえてきたのはお姉ちゃんの涙声。

最近やっと、記念すべき第一着目が完成した。

 

「そうだよー。大丈夫だよ。ぼーー私がお姉ちゃんに着せる為につくったんだから。似合わたいはずないよ」

「でも胸元開いてるよ〜」

 

ドレスも似たようなもんだよ。

 

「形変だし〜」

 

ドレスも似たようなもんだよ。

 

「スカート短いし〜」

 

てめぇ、学院ではもっと短いのはくだろうが。

 

「やっぱり無理だよ無理無理!」

 

……いいからはよ着ろよ。

 

「もう!」

 

ぼくは服を縫う手を一端止め、お姉ちゃんの傍に寄る。

 

「な、何よ」

 

たじろぐお姉ちゃんからぼくの渡した服を奪い取り、お姉ちゃんの服を一気に脱がす。

 

「ちょっ! やめ……っ!」

 

ワンピースだから脱がしやすい。

そのままの流れで頭からぼくの作った服を被せる。

ここまですれば観念して全部着てくれるだろう。

 

「フムフム」

「何がフムフム、よ」

 

着終えるとジト目でこちらを睨んでくる。

あの娘本人に睨まれてると錯覚してゾクゾクする。

 

「じゃあ、次はここ座って。髪をセットしてあげるよ」

 

お姉ちゃんはこちらを睨みながらも従ってくれた。

 

「しょうがないからあんたのおままごとに付き合ってあげるわよ」とか言ってる。

ちょっと顔を赤らめてる辺り可愛い。

やっぱ恥ずかしいかな?

ごめんねー。

でも、あのキャラは今のお姉ちゃんの髪の長さじゃないとできないんだよ。

ぼくはお姉ちゃんの髪を赤いリボンで二つにくくり、花の油でくせをなくしていく。

 

「できた!」

「じゃあもうこの服脱いでいいかしら」

「ちょっと待って!」

 

ぼくは白い手袋と靴下、そして靴をお姉ちゃんに渡す。

 

「これもはいて」

 

お姉ちゃんはぶつぶつ文句を言いながら従ってくれる。

妹の“お遊び”に付き合わせちゃって悪いねー。

 

「最後に」

 

お姉ちゃんがはき終わった頃合いを見計らいお姉ちゃんの背後にいき、赤い宝石をぶら下げた、赤いリボンのチョーカーをお姉ちゃんの首に巻き付けた。

 

「完璧!」

 

お姉ちゃんを正面から見ると、ちょっと勝ち気で幼い“変身後の鹿目まどか”が出来上がっていた。

性格も目つきも髪質も違うのにここまで似せられるとは……。

 

「ぼく天才かも知れない!」

「ぼく…?」

「私!」

 

お姉ちゃんから魔女化する寸前みたいなオーラを感じたから即訂正。

危ない危ない。

世界滅亡するかと思った。

素になると思わず昔の癖が出ちゃうんだよなー。

 

にしてもーー。

ぼくはもう一度お姉ちゃんをまじまじと観察する。

我ながらクオリティーぱねえ!

目をつむったら本人だ!

 

「奇跡も、魔法も、あるんだよ!」

 

うおおおおおお!

ぼくが叫ぶと、白けた声でお姉ちゃんが「そりゃあるわよ」と言った。

 

「じゃあもういい?」

「ちょっと待って! 今! 今写メるから!」

「写メって何?」

 

そうだったー!

この世界携帯もカメラもないんだったー!

これを後世に残せないとか……。

何でこの世界はカメラを発明してないんだよ!

ぼくが頭を抱えて赤ちゃんの時以上の大泣きをしていると、お姉ちゃんが頭を撫でてくれた。

うおー。

リアルまどかなうだわー。

 

「またこの格好してあげるから」

 

またじゃ駄目なんだよ……。

今じゃなきゃ、今じゃなきゃ駄目なんだ……!

髪の長さ的に今じゃなきゃーー。

でももっと伸びたら違うキャラのコスプレもできるな。

 

「……違う服でも、着てくれる?」

 

喉が痙攣して途切れ途切れなってしまったが、何とかきけた。

 

「わかったわかった。なんでも着るわよ」

「何度でも?」

「あんたが言うなら何だって何度だって着てやるわ」

 

その言葉、忘れるなよ。

 

 

それから頻繁に、ウ゛ァリエールの屋敷にお姉ちゃんの叫び声が響き渡るようになった。

 

「私、何であんな約束しちゃったのよー!」

 

 

 

 

 

それから二年たって十二歳になった。

こっそり練習を続けてきたウォーターカッターはほぼ完璧に近づいてきている。

この前、錬金した銀で試して見ると豆腐のように簡単に切れた。

ダイヤモンドは試していないが、まあ銀を切れたら上等だろう。

 

それから、ワインの水だけをとりアルコール濃度を上げるというのも、油並のものを作れたからもう充分かなーと。

 

水蒸気爆発は、八歳あたりから高い温度にできるようになっていたのだが、タイミングが難しい。

空中の少し上の方に水を作り、落ちて来ている間に水の着地点に高熱な火を作るという方法。

以前は十回に二、三度しか成功しなかったのだが、今ではコツが掴め、ほぼ百発百中だ。

しかも殆ど一瞬で起こせる。

これには、如何に着地する時間を正確に知り、火が完成するのと着地するのがほぼ同時になるような高さに水を作るというのが重要だ。

でもこれ、結構難しいんだよ。

頭使うし。

一瞬で爆発を起こせるお姉ちゃんがうらやましい。

 

剣術の方はーーぼく、余り才能ないのかな?

下手という訳でもないと思うし、結構速く動けるようにもなったし、反応速度も上がった。

多分、結構強くなってると思う。

でも、ぼくの横には剣戯の天才がいる。

お姉ちゃんを前にすると、才能の差を直に感じる。

流石は虚無の使い手……。

いや、虚無は関係ないだろうけど。

剣は使い手の仕事だし。

でも、才人いらなくねって思うレベルの強さだ。

勿論、まだまだお母様には敵わないけれど。

 

それから、ぼくにはあれの才能もないんじゃないかと思うんだ。

あれ。

貴族のご令嬢には必須のあれ。

社交ダンスだ。

幼い時からあった礼儀作法の授業は、前世での予備知識のおかけで、始めてすぐに完璧になった。

しかし問題はダンス。

習い始めて早五年。

全く上手くなる気配がない。

スカート踏んづけてこけることは流石になくなったが(メイドさんが気を効かせて少し短めにしてくれた)、リズムが全くとれないし、何度やっても踊りを覚えられない。

自分の頭は鳥かとこれほど思ったことはない。

アニメのなら簡単に覚えられるのに……なんでだろう?

ハレ晴レユカイとかまだ踊れるぞ。

でも最近、最低限の左右に揺れるだけのダンスを覚えた。

覚えたとはいわないか。ずっと同じ動きだし。

リズムを取れるようになったといったほうがいいのかな。

 

 

そして、これを機に社交界デビューすることなった。

 

といっても、子供達の社交界の練習の場のようなものなんだけど。

ちなみにお姉ちゃんは三年前から出ている。

 

「やだなー、社交界。私踊れないのに」

 

勉強している中、ぼくが耐え切れず机に突っ伏すと、お姉ちゃんも勉強を中断し話し相手になってくれた。

 

「まあ、学院に入る前の顔合わせと思って諦めなさい」

 

顔合わせ、か……。

ギーシュとかモンモランシーとかもいるのかな。

ギーシュには少し会いたい。

もっと楽にに爆発を起こす為に手を借りたい。

いやさー。

水蒸気爆発の練習の時に、一度馬鹿でかい爆発起こしてみたんだよ。

なんか感動したね。

やばかった。

格好よかった。

特撮みたいだった。

粉塵爆発なら簡単かなーって。

金属粉でもできるみたいだから、常時持ち歩いてさー。

食材でするのは勿体ないし。

まあぼくも金属粉造れないことはないんだけど、沢山は無理だし精神力やたらとくうから。

まあこれは入学してからでもいいかな。

急ぐ訳でもないし。

ぶっちゃけちゃえば爆発を背後に決めポーズしたいだけだし。

今のぼくのやり方だと、正確に見極める為にちゃんと見とかなきゃダメだから、後ろを向いて魔法とかできない。

数年後、ちゃんと手伝って貰えるように顔売っておかないと。

 

「あ、でもグラモン家の末っ子には近寄っちゃ駄目よ。彼、女ったらしって噂だから」

 

計画を立てた直後にお姉ちゃんに釘を刺されてしまった。

でもそっか、そういや女好きだっけ。

フラグ立てないように気をつけないと。

何ならレズキャラでいくか……?

 

 

 

「始めまして、美しいお嬢さん。君の名前をきいてもいいかい?」

 

社交界当日。

会場に入って早々声をかけられた。

薔薇をくわえた彼、ギーシュだ。

 

「人に名前を尋ねる時は、自分が先に名乗るものではなくて?」

 

名乗られるまでもなく知ってるけど。

 

「これは失礼。僕はギーシュ・ド・グラモン。よろしくね」

 

まあ……と、ぼくは口に手を当てて驚いたふりをする。

 

「グラモン家の方でしたのね。先程のご無礼をお許し下さい。私はミュアル・レフィシード・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。以後お見知りおきを」

 

ドレスをつまみ腰を少し曲げて、丁寧に挨拶をする。

ちゃんと貴族っぽくしなきゃね。

後ろからお姉ちゃんの不機嫌オーラを感じるけど気にしない。

言い付けやぶっちゃってごめんね。

 

「へえ、君がヴァリエール家の末の子か」

 

ギーシュが驚いたように言った。

君がって何だよ君がって。

知らねえだろぼくのことなんて。

 

「噂にはきいてるよ」

 

噂になってたのか!?

ぼくに噂になるような面白いことあったっけ?

 

「“三歳でドット、五歳にしてラインの脅威の神童”。君は最年少のドットとラインのメイジになったんだってね」

「そのような噂になっていたのですか…」

 

知らなかった……。

そういや昔ちょっと周囲に騒がれてた気がする。

気にしたことなかったけど。

 

「最近はあまり噂を聞かないね。トライアングルの方も最年少でなるのかと思ってたんだけど」

 

嫌みかよ。

今の最年少トライアングルの記録は確か十歳だったはず。

ぼくがなるのはもう不可能だ。

別に狙ってたわけでもないからいいけど。

 

「最近は多くの系統に目覚めることよりも、純粋な戦闘技術に力を入れておりますので」

 

負け惜しみに聞こえたのだろうか、ギーシュはフンッと鼻で笑った。

 

「なら君が学院に入学するのを待っているとするよ。いつか決闘をしよう。君の“純粋な戦闘技術”というのを是非見せておくれ」

 

それだけ言うとギーシュは何処かに行ってしまった。

 

「何よあいつ、感じ悪っ!」

 

……何か敵対してしまったような気がするんだけど。

学院で仲良くなるの大変そうだわー。

まあ何とかなるだろ。

少なくとも、二年生には才人と仲良くなるわけだし。

 

それにしてもギーシュ、最初からぼくを敵視してかったか?

ぼく、何かしたっけ。

 


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