異世界での理想の女の子探し   作:重ねず郎

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追加しました。



第二話:剣術とかどうかなー

ワルドを"にーに"と呼ぶようになって三日。

水と火を使った魔法を思いついた。

ほら、強い火に水入れたら瞬で蒸発して爆発みたいになるあれ。

水蒸気爆発だっけ。

でも、火をもっと高熱にできるようにならないと無理っぽい。

そこは練習して何とか頑張ろう。

 

それから、水魔法は空気中の水分を操って集めるというものなので、もしかしたらお酒とかでアルコールだけ集めたりとかできないかなーと。

そんな訳で、ワインのアルコールはそのままに、水だけ抜き取る練習をしている。

つまり、純粋な水だけをワインから出すという作業だ。

 

それからウォーターカッター。

あれは石に穴を開けられるレベルになりました。

金属とか宝石も試してみたいけど、もったいないからなかなかできない。

今は石に穴を空けるスピードを上げることに専念している。

 

やること多くて大変だー。

 

 

そしてお姉ちゃんとの交流も忘れてはいけない。

お姉ちゃん、どうやらぼくに劣等感を抱き始めてるっぽいから。

と、いうわけでーー

 

「お姉ちゃーん!」

 

抱き着きに来ましたー。

開いた距離はノリで一気に詰めようという作成。

ってか他にどう接したらいいかわからないというのが実のところだけど。

 

「う、うわ! 何よ急に!」

 

お姉ちゃんは分厚い魔法書を開けてお勉強中みたいだけど気にしなーい。

 

「お姉ちゃん、ぼくのこと嫌い?」

 

目を潤ませながら上目遣いに聞いてみる。

ちなみに抱き着いたままだから顔の距離は数センチ——じゃなかった、数サント。

お姉ちゃんの「うっ……」と呻いて目を逸らす。

 

「ねえ、嫌い?」

「す、すすすすす好きよ。好きに決まってるじゃない」

 

お姉ちゃんの顔は真っ赤だ。

やばい、すげえ可愛い。

デレ期キター!

とりあえず離れて、と真っ赤なままでぼくを押すお姉ちゃん。

 

「どうしたのよ、急に。何かあったの?」

 

どう答えようかなー。

ぼくのせいで怒られたみたいだから、ぼくのこと嫌いになったかと思った——とか言ったらぼくがお姉ちゃんを見下してるように見えるかな?

来る前にちゃんと考えてくるんだったなー。

えっと……。

 

「あの、最近、お姉ちゃんとあまりお話してないから…。ぼくのこと、嫌いになっちゃったのかな……? って……」

 

でも実際、最近お姉ちゃんはぼくを避けてる節がある。

故意でしていたのだろうか、お姉ちゃんはぼくから目を逸らした。

 

「嫌いなんかじゃないわ」

 

なら、目を見て言って欲しい。

あー……。

嫌われてはないんだと思うんだけど、なんか苦手意識持たれてそう。

こんな美少女に避けられるとか……。

自殺並に落ち込むわー。

 

「嫌いなんかじゃ、ない…」

 

ただ、とお姉ちゃんは続ける。

 

「ただ、自分より出来損ないの姉なんて、あんたにはいらないでしょ?」

 

自嘲気味に微笑んだお姉ちゃんの笑顔は、今にも泣き出しそうでーー。

 

「そんなことない!」

 

そう叫ばずにはいられなかった。

 

「あるわよ」

「ない!」

「あるってば!」

「ない!」

「ある!」

「ない!」

 

そんなやり取りを何度繰り返しただろう。

ぼくもお姉ちゃんも肩で息をし始めた頃、ぼくはお姉ちゃんの手をとって駆け出した。

 

「ちょ……っ! どこ行くのよ!」

「いいからっ」

 

そのまま手を引きながら屋敷を走る。

途中、幾度かメイドさんに注意されたが無視して走り続けた。

そして突き当たりの部屋の扉を勢いよく開ける。

 

「お母様っ!」

 

大声で呼ぶと、お母様は不機嫌そうな顔の眉間のシワをより一掃深くした。

 

「あなたたち、そんな大声を出してはしたない」

 

「え? 私は出していません……」というお姉ちゃんの小さな反論は無視され、

 

「しかもさっきの煩い足音、あなたたちでしょう」

 

きつい目で見下されれば、その威圧感ゆえ呼吸すらままならなくなる。

お姉ちゃんとか、妹であるはずのぼくの背中に隠れてるし。

長引くだろうなーという説教だが、しかしぼくはそれを聞くためにわざわざ走って来た訳ではないのだ。

ぼくは震える声を抑えながら、無理矢理にそれ打ち切らせることにした。

 

「お、お母様」

 

「まだ話しの途中です」という言葉を言い終わらせないうちに、ぼくはまた言葉を被せる。

 

「私達に、剣術をお教え下さい」

 

その日のお母様は、姉様達でさえ初めて見たというほどの上機嫌だった。

 

 

ついでに。

 

「なんで私が剣術なんかしなくちゃいけないのよ!」

 

お姉ちゃんから凄い怒られた。

その目尻に涙が溜まっていたのはご愛嬌。

 

 

お姉ちゃん、魔法だけが全てじゃないんだよ。

 

 

 

 

 

ぼくの隙を付くようにして放たれる剣筋をやっとの思いで避けながら、相手の背後にある木陰に目で合図を送る。

すると、そこから人影が飛び出、その影が持つ剣がぼくを圧倒している人物の頭を頭から一刀両断しようと——

刹那。

何が起こったのか、ぼくと影の人物——お姉ちゃんは宙に投げ出された。

 

「今日はここまで」

 

ぼくらが地面に寝転び肩で息をしている中、凛とした声が辺りに響いた。

 

「後は二人で手合いしときなさい」

 

ぼくらが戦っていた人物——お母様は、それだけ伝えると屋敷の中に入っていった。

 

お母様に剣術を習い始めて早四年。ぼくとお姉ちゃんはそれぞれ九歳と十歳になった。

 

「ねえ、ミュアル」

 

お姉ちゃんはぼくと手合いしながら話し出した。

真面目にやらないと怒られるよー。

 

「ついにちいねえさまも魔法学院をご卒業なさったわね」

「だねー」

 

言いながらお姉ちゃんの剣をいなす。

お姉ちゃんはの剣筋は重くて速いけど読みやすいんだよなー。

 

「私達も五・六年後には学院生なのね」

「だねー」

 

お姉ちゃんの隙を付いたけど軽く避けられた。むう。

 

「ねえ、ミュアル」

 

そのまま逆にぼくの隙をつかれ、ぼくは避け切れずバランスを崩す。

 

「いつまでそんな男っぽい口調のままなの?」

 

体制を戻そうとするとぼくの剣を払われ、手から飛ばされてしまった。

 

「まあ口調は百歩譲って許すわ」

 

とどめに剣を首筋に当てられチェックメイト。

やっぱりお姉ちゃんは強いなー。

 

「自分のことを“ぼく”と呼ぶのくらいは直したら?」

「えー? めんどくさーー」

 

いと言おうとしたらお姉ちゃんの持つ剣がキラリと光った。

怖い怖い。

 

「今更変えるのいやだよー」

 

頬を膨らませると溜息をつかれた。

お姉ちゃんは剣をぼくから放し、腰に手を当てた。

 

「恥ずかしいもなにも、あんた私以外には淑女らしい話し方じゃない」

「違うよ。にーにには敬語使わないもん」

「揚げ足を取らない」

 

ちきしょう。

これじゃあなんかこっちが年下みたいじゃないか。

肉体年齢下でも精神は凄く年上なんだからな。

もうすぐ四十だぞ四十。

 

「学院行っても“ぼく”って言うつもり?」

「だめ?」

 

ぼくっ娘いいじゃないか。

 

「だ・め・よ」

 

凄い睨まれた。

くそ。

最近最終奥義・上目遣いが効かなくなってきた。

 

「学院には貴族が沢山いるのよ? 将来の旦那様もいるかもしれないのよ? ちゃんと貴族の淑女らしくしなきゃいけないでしょ」

「一生独身でいいし」

 

ぼくは他の誰でもないぼくの嫁なんだから。

 

「何いってるの。今は良くても将来ダメになってくるのよ」

 

政略結婚というやつか。

やだなー。

 

「とにかく、六年後の学院入学までには“ぼく”だけでも直しなさいよ」

 

それだけ言うと、お姉ちゃんも屋敷に戻っていった。

……マジか。

え? ぼくの一人称直さないといけないのか?

うそーん。

めんどくさー。

でも直さないともっと面倒臭いことになりそうだ。

ボコボコにされた挙げ句お母様にチクられたりされたらたまったもんじゃない。

表向きには“私”にするか。

それくらいなら気をつければなんとかなる……かなあ?


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