機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第八十一話 雑談と急転

 

ソロモンに帰投したガトーは例の機密情報をさっそくロズル中将に引き渡した。

一週間以内にはデラーズに引き渡されることになっており、それまでは親衛隊とソロモン選りすぐりの兵士付きで保管されることになるので一安心といったところだろう。

俺はガトーと久しぶりに他愛無い会話を交わすことができた。

 

「しかし、リーガン先輩が救援として来てくれたときは助かったと安堵しました。」

「それはこっちのセリフだ。駆けつけた時には機体がボロボロでとても無事とは思えなかったからな。何よりだったが、敵のモノだったとはいえ大した機体だな。」

 

そう呟きながら互いに目の前の機体を見た。

正直に言ってもこれが少し前まで新型機だったとは思えない。それでもガトーが生き残れたのは装甲材であるルナ・チタニウム合金も理由の一つに間違いない。

現在、ソロモンの技術スタッフが解析と修復を進めているがそれが済み次第、グラナダに移送されて今後のMS開発に貢献してもらう予定となっている。

 

「しかし、元々は宇宙で精製された合金を使っているのが皮肉だな。我々ジオンがそれを知らず、連邦がそれを先行して使用しているとは。」

「作為的なものを感じざるを得ませんね。」

 

何者かの作為。言わずもがなで、アナハイムのことだとすぐに察しがついた。

もっとも、こちらの奪取に前後して装甲材の情報が向こうから提供されていたので無理に突っ込まないことにしたようだ。

もっとも、連邦軍内部の一般情報や市井の噂を優先的にリークしてもらうことになっているのだが。

 

(しかし、期間を定めて契約書まで作らされたのは初耳だったが。しかし、これで向こう1年は確実な情報が提供されるわけだ。無論、警戒はしておくにしくはないが。)

 

「ところで、首都の方では問題は片付いたのでしょうか?」

「いや、まだのようだな。当初は連邦軍に隙を突かれると危惧していたのだが、向こうもそれどころではないらしい。」

 

実は、ソロモンへの無事帰還に前後して彼らを待っていたのは衝撃的な事件とその続報であった。

『デラーズが何者かに撃たれた』というのである。その後、『命には別状なし』という報告が届いたので皆が安堵したが、それに追従するように事件が多発した。

グラナダ、『サイド3』各所での自爆テロ、要人を狙った襲撃が間を空けずに起こったのである。

 

マ・グベ少将の対応と部隊の出撃によって主だった者は無事であったが、死傷者が100人を超える惨事となった。

その死者の中に旧政権下で強い影響力を持ち、半年前に政権奪取を図ったリシリア・ザビが含まれていたために重要度はさらに大きくなり、調査が開始されていた。

この混乱の最中に連邦軍から攻撃を受ければ恐らく危機的状況になると軍は各前線に警戒態勢を敷かせたが、意外にも連邦軍は動くことがなかった。

前線の警戒は今まで以上に厳重となっていたが、それだけだったのだ。そして、その理由はアナハイム経由の情報によって知ることになった。その情報を知った時、皆が一様に驚いたものである。

 

「しかし、まさかほぼ同時に連邦でも同様の事件が起きていたとは知ったときは驚きました。」

「しかも、向こうの方が深刻かもしれん。何しろ、こちらの軍事作戦の直後だからな。」

 

そう、連邦軍内部においてもほぼ同様の事件が起きていたのだ。

その内容は衝撃的であっただろう。

地球連邦軍参謀の一人であったゴップ・ノリガン大将、『ルナⅡ』駐留軍将校の一人であるティアンム少将の両名が暗殺されたというのだ。

ゴップ大将はジャブローの参謀部に向かう途中、飛行場に向かうリムジンに乗ったところをトラックに突っ込まれた。その上、爆弾によって車両ごと爆破された。

ティアンム少将は艦隊とMS隊の配備状況を伝えに来た連絡員から話を聞いていた時だった。配備直後からの付き合いであるはずだったシュダック伍長が急に銃を抜いて射殺したのである。直後に彼自身も服毒自殺したため背後関係がはっきりしていない。

 

「まさか、またアナハイムが一枚噛んでいるのでしょうか?」

「いや、今回は違うと思う。連邦に対してだけならこちらに恩を売るための凶行とも取れるだろうが、こちらへのテロなど信頼回復に必死の今やるべきことではないはずだ。」

 

そう言いつつ、リーガンは『サイド2』が絡んでいるのではないかと自分の考えを口にした。

先の潜入に際し、作戦妨害を行った彼らであったが下手に連邦軍に勢い付かれても厄介である。そこで、双方にダメージを与えるべく同時多発的なテロに踏み切ったのではないかというのだ。

 

「確かにそれなら説明はつきますが、疑問も残ります。こちら側へのテロはともかく、曲りなりにも連邦軍内部。まして、最重要に位置しているはずの参謀部将校と前線指揮官を正確に暗殺できたのはどうやったのでしょうか?」

「順当に考えるならスパイがいるのが自然なのだが、それだと人選に少し疑問がある。」

 

本当に連邦軍内にスパイがいて重要人物の動向を正確に把握できているならばもっと大物を狙えば混乱は大きかったはずなのだ。

参謀部ならば一人ではなく参謀部丸ごとを消した方が効果的に混乱させられた。ルナⅡ駐留軍将校にしても、ティアンム少将より上を狙う方が効果的だったはずである。現場の一将校などはまだ替えが聞くのが現実なのだから。

 

「しかし、そうなると『聖マリアレス教会』が最有力容疑者となりますか?」

「アナハイムを抜きにすればそうなる。だが、それでも先ほどの疑問は解消できないから確定ではないな。」

「・・ようやく宇宙に帰ってきたのに、落ち着くことができないというのはなかなか。」

「同感だ。少しは落ち着いて話したいものだな。」

 

そう互いに言葉を出しつつ、ため息を漏らし合う二人であった。

 

 

ジオンでこのような雑談が持たれていた丁度その時、連邦軍内部では不穏な気配が漂いつつあった。

初戦から『ジオン』にやられ続け、自分達の庭である地上へ侵入までされてしまった。

しかも、その後に続いた要人暗殺。ジャブロー上層部はこれらを全て『ジオン』が連邦軍を弱体化させるために行った軍事行動だと結論付けていた。だが。

 

「彼らと話し合いの場だけでも設けてみてはどうだろう?交渉すらしていないのが現状なのだから」

「そのような弱気なことを言ってどうする。それでも地上に生を受けた連邦市民か?!我々の同胞が暗殺されたのだぞ。このような卑劣な手段を用いる連中と話し合いを持つ必要がどこにある。むしろ、攻勢に討って出るべきだろう。」

「そして、半年前の『ルウム戦役』を繰り返す気ですか?軍戦力は無尽蔵ではない!ただ艦隊とMSを並べて攻めればいいわけではないのだ。」

 

その意見は停戦・交戦で完全に分裂し、まとまる気配が見えていなかった。

それを聞いたエビル将軍が口を開いた。彼は今回、一応は出兵賛成というスタンスをとっているが内面は違っている。それは彼の発言からも見て取れた。

 

「私も同感だ。具体的にどうするかが問題だろう。ソロモン、ア・バオア・クー、ペズン。彼らは『サイド3』に至る経路に要塞拠点を設置し防衛線を形成している。しかも、そこに配備されている敵の戦艦・MSの力はいまだに未知数だ。そんなところに何の策もなしに突撃など誰もできる訳がない。」

「では、黙っていろとでも言うのか!」

「短絡的に突っ込むことは危険だと言っているのだ。」

 

エビルとしては戦闘継続には賛成していると見せながらも、少しずつ交戦するうえでの問題を指摘して停戦交渉に持ち込めればと考えていた。しかし、次の発言が彼の期待を完全に裏切ることになる。

 

「具体的な策があればせめてもいいということならば、小官に策があります。」

「何だねサミトフ中将。」

「はい。実は我が『リターンズ』で検討を重ねてきた作戦をここで披露したく思い発言させていただきました。うまくいけば、先に述べていた『ジオン』の防衛線に楔を打ち込み突き崩すことも可能だと考えているのです。」

「!!」

「それは本当か?!あの宇宙人共に一泡吹かせることができると。」

 

エビルとしてはサミトフがこのように表立った行動をとってくるとは予測できなかった。

今までの彼の行動は全て、影から献策して成果を出すという姿勢だった。それ故、今回もそうだと思っていたのだ。

 

「ただ、『リターンズ』だけでは戦力が不足してしまい長らく作戦を保留にしていました。そこでこの機会にそれを皆様に披露し、軍全体で実行できないかと思ったのです。ぜひ、ご検討を願います。」

 

そう言いつつ、サミトフは画面を操作し作戦を説明し始めた。

作戦名『アームストロング』。それが、その作戦の名前であった。

 

 




開戦から半年が過ぎようと小説内世界ではなってきていますが、ついに大規模反抗!?
というところで、次話になっております。

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