機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第八十話 クレイモアにてⅠ

 

『リターンズ』内で人員の入れ替えが行われていた頃、クレイモアでもいろいろな問題が起きていた。

 

「つまり当初目的は達成したということですか?」

「ええ、大佐のご命令通りに商会とのつながりも付けましたし、侵入していたジオンを撃退したことで手柄も上げましたよ。もっとも、リターンズからは嫌な顔をされましたが。」

 

そう言ったのはマフティー大佐。それに答えたのはバルキット大尉である。

彼らは表向きの場面では戦闘に介入できていなかったのだが、実はしっかり戦闘に参加していたのである。

 

 

ガトー達が地上から離脱したその前日、『オウ商会』からの情報でダイヤモンド鉱山跡へと急行したバルキット達であったが、この時には現地連邦軍と『リターンズ』が既に攻撃態勢に入りつつあった。もっとも、傍から見ても連携が悪くいがみ合っているだけで手柄の競い合いという状態になりつつあったので介入しなくて正解だったと後に振り返るほどである。

 

「現地軍が指揮権をもっているようです。」

「あの『リターンズ』が介入したと聞いたからどうなっているのかと思ったが、掌握しきれてないのか?理由はなんだ?」

 

そう思っていた矢先、バルキット達が乗っていた艦に通信が入った。

見たくもない顔、シーサン・ライアー准将であったが一応は地上軍基地司令官の一人であるため無視もできずつなぐことになった。

 

「わざわざ宇宙から降りてくるとは『クレイモア』の皆さんも物好きなことだ。」

「何のことだがわかりません。我々は偶然にも地上での演習目的で降りていただけです。何かできることがあると思い援軍にはきましたが。」

「そして、参加すらためらう状態にあるということですな。」

 

シーサンの言ったことは認めたくないが事実であった。

現状、参加すれば現地軍と『リターンズ』に敵意を向けられかねない。敵攻撃中に連邦軍内部での三つ巴になりかねないのだ。

 

(そもそも、情報を見ているとこいつがいろいろした結果なんだがな!)

 

「大尉、実は私としても『リターンズ』の勝手な介入に辟易しているんだ。今のところは何とか連携を保っているが、今後はどうかもわからない。現地軍としてはもっと礼節と思慮ある行動をとってくれる者たちと付き合っていければと考えているのだ。」

「今後とは?」

「言わなくてもわかるでしょう?軍での内紛についてです。」

「不吉なことを言います。本当に理解できません、准将殿。」

「この通信は秘匿回線だ。傍受の心配はない。だからこそ本音を聞きたいのだよ。」

 

非常にやりづらいとバルキットは感じていた。

現地軍そのものは味方に付けておいた方が、今後の作戦行動や内乱に突入した際の支援基地として使える。しかし、『クレイモア』・『リターンズ』結成前後の事態を見るとその言葉を信用できるかは疑問である。

 

(どちらにも恨みを抱いている可能性が非常に高い。)

 

「警戒させているようだが、本当に君たちを支援したいと思っているんだ。だからこそ、今回いろいろと手を打っている。」

 

彼によれば、本来は『リターンズ』が基地を落とすのに本腰を入れればスムーズに落ちる可能性がある。だが、それをされると彼らの勢力増強に発展しかねないうえに地上軍はさらに居場所がなくなるというのだ。

 

「ここ一か月で急激に異動や左遷が相次いでいてな。しかも、その後釜は大半が公社の息がかかった連中なのだ。」

「その割に今回の作戦でここまで反発できるとは意外ですね。」

「反発できる連中を中心に集めて参加させたからな。他にも参加したがった現地軍人・基地司令官はいたが、こちらから丁重にお断りした。連中の犬などいても迷惑だ。」

 

悪びれる様子もなく言い切った。恐らく本音なのだろうが、バルキットからすれば険悪感が先に湧いてきた。

いかに『リターンズ』に手柄を渡したくないとはいえ、自軍の将兵を捨て駒のように使っていることには変わりない。これでは、連中となんら変わらないではないだろうか?

 

「おや、ジオンの連中は宇宙へ脱出を図るみたいだな。息巻いていた『リターンズ』も存外頼りないことだ。」

「『リターンズ』のことは抜きにしても、潜水艦からの援護に加えてMSも粘り強く抵抗を続けている。時間稼ぎは完全に成功したということだろう。・・さて、どうしたものか」

 

バルキットとしては現状、2種類の方針がある。

 

①ジオン潜水艦を追撃・撃沈する。

対外的に見てジオンとの協調の芽を摘むことになりかねないが、連邦内部で目に見えた戦果を挙げることはできる。『リターンズ』も無視はできない。

 

②潜水艦を逃がして素知らぬふりを通す

十分に可能であるし、ジオンとの協調を画策する材料として利用できるかもしれない。だが、この場合だと正規軍と『リターンズ』双方から目をつけられる。

 

③先に述べた2点を同時に行う

非常に難易度が高い上に危うい賭けになりかねない。ジオンが全面的に協調してくれる保証もないし連邦正規軍をはじめとした見方を欺くことになる。

 

彼はしばし考えこんでいたが、即座に指示を出した。

 

「敵を追撃する。最大船速!爆雷投下用意!!せめて地上の『ジオン』を叩くぞ、気を抜くなよ!」

 

その数十分後、敵ジオン潜水艦が撃沈しその戦果が正式に正規軍と『リターンズ』各軍に伝えらえたのである。

 

 

「当初、『リターンズ』が執拗に追及してきましたが、残骸を見せて納得させました。回収した残骸などは現地軍経由で公社に渡るもようです。」

「敵の潜水艦を見るに非常に惜しい気もするが、仕方ないな。まあ、その件はともかくシーサン准将の申し出はどうするつもりだ?」

「まだ返答してません。そもそも、この件に関しては私個人で決めるレベルの内容ではないでしょう?冗談でもこんな厄介ごとの決断なんて御免ですよ。」

 

バルキットはそう言って髪をかきむしりつつ答えてのけた。

言われたマフティーからすれば丸投げされたと思わなくもなかったが、内容がでかすぎるし今後の戦局に影響しかねない問題でもある。容易に判断できないという気持ちは理解できた。

 

「わかった。その件はこちらで調整しよう。交渉の席ぐらいは設けないといけないだろうしな。・・とはいえ中将閣下を危険には晒せないし、私が代役となるのだろうがな」

 

そう言いつつ、マフティーはため息を漏らすしかなかった。

本格的に戦闘を行った『リターンズ』、それに横やりを入れる形で参戦した『地上正規軍』などに比べて表立った行動をしていない彼らであったが、その行動内容は後世宇宙世紀において無視できない事態を生んでいくことになる。

それが、前世『エゥーゴ』のような半端な結果をもたらすのか、果ては無しえなかった地球市民の意識改革へとつながる結果を導くのか?それはまだわからなかった。

 

 

 

現場において、バルキット大尉たちが地上の妖怪ども(主にイーサン准将)との死闘を繰り広げてからおよそ数時間後、マフティーをはじめとした『クレイモア』幹部たちは今後の方針を決めるために再度話し合いの場を設けていた。

まだ一週間ほどしかたっていないのにまたもや集められることになったのでメンバーは非常に不機嫌だったが、事情があるのは皆が理解していた。

そして、ことが連邦だけでは済まない方向に進みつつある情報が彼らに入ってきたことで今までの『待ちの姿勢』を変えるべきかもしれないと考え始めていたのもこの話し合いを設けた理由の一つであった。

 

スペースノイドの自治独立を唄う『ジオン』であるが、決して一枚岩ではない。

随分前から連邦よりの姿勢をたびたび見せていたアナハイム・エレクトロニクス社の内応、先の衛星攻撃隊迎撃時の『サイド2』からの援軍。

一見、直接的に影響がないこの2点であるが、クレイモアからすればこれは深刻な問題になりかねない情報であった。

 

「マフティー大佐は『サイド2』について何か心あたりは無いのですか?」

「私の情報でもコレと言えるものは。ただ、彼らが『ジオン』と敵対している可能性は高いと思います。地上でのMS強奪事件の際、潜入した敵が既に死体になっていたという報告もあります。」

「地上に『ジオン』侵入を許しただけでも問題なのに、正体すら定かではない第三勢力が暗躍しているというのは。」

 

そう言った士官に対して、マフティーは第三勢力ではないだろうと軽く答えた。

考えてみれば、今の連邦ですら内部に三勢力が内包されている。それを含めれば第六勢力とかにもなりかねない。

 

「まあ、そのような問答はなんにもならんな。問題はその連中が我々に対して敵対的か友好的かという点にある。」

「大佐。友好的かはわかりませんが、こちらにアプローチすら来ていないということから見ても敵とみて対策を考えるべきです。」

「大佐。私もそう思う。」

 

そう重々しく答えたのはエビル将軍であった。

彼も今回、スケジュールを調整して参加している。

 

「艦隊指揮官の一人として言わせてもらうなら、味方と断定できない不確かな勢力ほど信用できないのだ。勝手に味方と思い込んで後ろから刺される恐れがある以上、警戒しておくべきだ。」

「その点でも、地上のバルキット大尉は今回非常に良い働きをしてくれました。どう転んでも最低限の情報は得られるでしょうし、事態の転びかた次第では戦争終結の切っ掛けになるかもしれません。」

 

そう話していた時、いきなり爆発が会議室に響いてきた。

かなり距離があるようだが、衝撃と音が聞こえてくるほどだから相当のものだろう。

エビルは咄嗟に受話器を取って外部の士官に連絡を取る。

 

「今の爆発は?」

「中将閣下、姿が見えなかったので心配しておりました。ただちに自室にお戻りください。艦隊直属の警護が付きますので。」

 

警護?最初、それを聞いた誰もが意味を理解できなかった。

ここは、『ルナⅡ』である。少なくとも、連邦宇宙軍にとって地上に次ぐもっとも安全な要塞拠点。その内部である。

 

「質問に先に答えろ。何があったのだ!」

「申し訳ありません、安堵のあまり。先ほど艦隊指揮官の一人が何者かに襲われたようなのです。詳細はまだわかっていませんが、爆発物による攻撃と見られております。」

 

この返答に、今度こそ集まっていたクレイモアメンバーは驚愕の表情を隠すことができなかった以外にもこの時、彼らの予想は最悪の方法で敵中していたのだ。

これは紛れもなく、彼ら言うところの不確かな勢力『聖マリアレス教会』からの攻撃であった。

 

 


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