機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第七十四話 長い帰路へ①

 

「隊長!あれを」

「・・・」

 

ノイゲンは部下からの通信を受けて何が起きたのかを察した。

火口から煙が上がり、まるで噴火のようにモクモクと煙を吐きだし始めている。

 

(どうやら刻限のようだな。ほぼすべての作戦は終了した。後は、最後の仕上げだ!)

 

「少佐。後のことは任せたぜ!」

 

ノイゲンはそう叫びながら前方の機体に向けて前進する。

それは無謀に近い前進。既に戦場での趨勢は決しつつある。

潜水艦からの支援で何とか現状維持をしてきたがそれも限界だろう。そして、ここまでやってしまった以上、投降はもう無理だ。

仮にできても、捕虜として遇されることは恐らくない。ジオン軍は彼らから見ればいまだに『テロ組織』という分類にカテゴライズされているためだ。

ならば、最後の意地を敵に示した玉砕しかもはや選択肢はない。少なくとも、長い間軍人として戦ってきたノイゲンにはなかった。

 

 

「向かってくるか。散々やってくれたが、一騎打ちならば負けん!」

 

ノイゲンに対処していたのはジェイド機であった。

ノイゲン機がヒートホークを構えて突っ込んでくるのに対して、ジェイド機もサーベルを抜き放ち急速に前進させる。

振りかぶられるヒートホーク、横に薙ぎ払うように振られるビームサーベル。

それぞれの軌跡を描きながら互いの武器と機体が交錯し、すれ違う。

ノイゲン機のヒートホークを避け、潜り込むようにジェイド機はノイゲン機の懐に入る。そして、ジェイド機のサーベルがノイゲンの機体コックピット部を完全に破壊しながら機体を真っ二つにした。

 

「俺だって『リターンズ』兵士だ。テロリスト風情に劣るはずはない。」

 

ジェイド機がそう勝利を宣言したが機体が切り裂かれる直前、ノイゲンの叫びを接触回線でジェイドは聞くことになった。

 

「命の代わりに勝利をもらうぞ。若造!!」

「何?!」

 

ノイゲンは脱出する間もなく機体事爆散した。

だが、爆散したのはノイゲン機だけではなかった。ジェイド機後方にいたはずのタンクが後を追うように爆散したのだ。

その直前、ジェイドはタンクを見たがノイゲン機が何をしたのかを正確に理解した。

そのタンク胸部にはザクのヒートホークが無残に刺さっていたのだ。ノイゲン機が持っていたはずのヒートホークである。

ノイゲンはジェイド機に振りかぶるように見せかけながら接近し、タンクに向けて投擲していたのだ。

 

「しまった!」

「残りの一機が!」

 

ジェイドと残りの僚機がそれに気づくが既に遅かった。

ノイゲン機はジェイドによって撃破され、残りの敵も各所で殲滅されつつある。

こちらにもミサイルによって多大な被害が出たが、殲滅に支障をきたすほどでもない。

 

「奴ら、なぜここまでしてタンクを?」

「カーリング大尉。」

 

基地から同行し、隣りの戦場にいたカーリング機がジェイドに通信をしてきた。

ジェイドとしても、守備目的のMSがやられたのは失態である。だが、既に基地制圧は時間の問題だ。ここまでしてタンクを狙う理由にはならない。

 

「なにか理由があるのは間違いない。一番あり得るのは我々の基地から奪取した新型機を離脱させるための陽動だが。」

「ジェイド少尉。火口付近にて熱源反応!・・これは、噴火ではありません。」

「何、ではなんだというのだ!」

「あ、あれは!」

 

カーリング大尉の声でジェイドもそこに視線を向ける。

火口に上がる煙、そこから徐々に姿を現す明らかに金属的な見た目。

 

(HLV!まさか、そんなものを脱出用に温存していたのか?!)

 

「旗艦に通信して攻撃させろ。現地軍MS隊は何をしている!」

「現地軍からはタンクによる砲撃を要請されています。どうやら基地最深部まで侵攻した地点で意図に気づいたようです。ですが敵MS隊に足止めを食らっているもよう。」

「ええい!なら、旗艦の主砲で撃ち落とせ。我が軍の新鋭MAも上空にいるはずだろう。」

 

そんなジェイドの指示も、部下たちからの通信で沈黙することになった。

旗艦は敵潜水艦からの断続的な雷撃・地上攻撃への迎撃で対処不能だというのだ。

さらに、『リターンズ』がテスト中であった新型高高度偵察機は偵察主体。しかも、試験運用が主目的であったため戦闘・迎撃を想定した装備はしていないというのだ。

 

(まさか、敵の狙いはこれだったのか!自分が死ぬと解っていながら、HLVの障害になるものを取り除くために。)

 

事ここに至って、ジェイドはノイゲンがなぜ『勝利をもらう』と言ったのかを正確に理解した。タンクが無事ならば可能性は低くとも長距離砲撃でHLVを撃墜できる可能性も残っていた。さらに言うなら、旗艦が潜水艦からの執拗な攻撃を受けていなければより確実に撃墜できたはずなのだ。

 

「戦略的勝利を敵に持ってかれたというのか。」

 

呆然と呟くジェイドの言葉に返事を返す者はいなかった。

 

 

 

「少佐!基地が」

「わかっている。みなまで言うな。」

 

ガトーはHLVから離れる地上を部下と共に見つめていた。

基地周辺は炎に包まれ、爆発とわかるものもいまだに起きているのが見える。

さらに、洋上には連邦軍の新造艦とそれを引き付けている潜水艦のミサイル攻撃が見えた。

 

「我々を帰すために、命を懸けて敵を引き付けてくれたのだ。だからこそ、我々は無事に本国に帰らなくてはならない。彼らの分も、祖国を守るために。それを決して忘れるな!」

「はい、少佐殿。」

 

ガトーは離脱前、ノイゲンと飲んだ酒の味を思い出していた。

あの時は酒特有の苦みしか記憶になかったが、今では違った意味で苦い思いを味わい続けることになるのだと理解した。

そして、今回の苦い思いを風化させてはならないと心に刻みつけるのであった。

 

 

 

ガトー達がHLVでの打ち上げに成功していた頃、その直上付近では今まで残骸のように佇んでいた物体がおもむろに熱を上げ光をともしながら動き始めた。

偽装艦『トロイ二世号』と呼ばれる艦であり、旧ムサイ級巡洋艦である。

改装作業が進んでいるジオン軍において、未回収のムサイを運用している部隊は減少しつつある。運用する側も対峙する側も最近ではほとんどみなくなったほどだ。

では、なぜその旧式艦が回収に回されたのか。理由は、この宙域に理由があった。

 

開戦直後から散発的な戦闘・強硬偵察などによって静止軌道周辺には非常に多数の残骸が漂っている。その中には旧ムサイももちろん含まれているため残骸としてはポピュラーなのだ。

 

「残骸に偽装しながらの待機任務は胃に悪いと改めて思いました。」

「まして、旧式艦での任務だからな。しかも護衛MSがたったの2機だ。敵に見つかる可能性が高かったことも考えると非常に心許なかった。」

 

周辺宙域での待機任務(残骸偽装)。本来であれば正気を疑いかねない任務である。

長期での偽装潜伏。しかも敵地のど真ん中でときた。その負担は現場兵士たちにとってはかなりのストレスになったのは想像もたやすいだろう。

 

「地上協力者経由で手に入った情報では30分前にはもう来ているはずなのですが」

「時間通りではなかったが、地上からの脱出は成功したのだからそれぐらいのことは目を瞑りたまえ副官。」

 

艦長は画面に映ったHLVを見ていた。推進剤も切れたのかもはや漂っているだけだ。

このまま長期で放置するとただの的になってしまう。

 

「そんな事よりも、各員に連絡。HLVへの接岸およびMSの搬入準備を急げ!ここは敵中なのだからシャキシャキ動け。」

「偽装していたとはいえ、遠方からの有視界索敵には感ずかれた恐れもあります。適切な判断ですね。」

 

副官からの補足もその後の艦長が出した顔真っ赤の表情も周りは特に気にしていなかった。

この任務に就いてから当たり前のようにみられる光景だったからだ。

上下でぎすぎすした関係のようにみえながらもガトー達の回収準備は非常にスムーズに行われていくのであった。

 

 

ようやく地上からの離脱に成功し回収部隊と合流するだけとなったガトー達であったが、危機が去ったわけではなかった。

彼らを待ち受けているものは味方の回収部隊だけではなかったのだ。

 

 

軌道周辺でのパトロール任務は連邦正規軍では当たりまえとなりつつあった。

それは『リターンズ』においても同様であり、その部隊で高い戦果を上げ続けている部隊である彼らにとっても同様であった。

 

「こちらハイエナ1。現在、周辺宙域をパトロール中ですが、何かありましたか?」

「こちらライオン1。地上より緊急入電。地上から敵性者の離脱を確認。ただちに発見し、殲滅せよとのことです。」

「ハイエナ1、了解。貴様ら、聞いていたな?ようやく、獲物にありつけるぞ。」

「ええ、久しぶりに撃墜数を上げられそうですね。」

「退屈な監視任務に飽き飽きしてたんです。ありがたい。」

 

彼らは『リターンズ』所属の軌道警備部隊。通称『ハイエナ』隊と呼ばれる最精鋭部隊の一つであった。

 

 


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