機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第七十三話 ドライエとノイゲンの策

 

ジェイド達はようやく敵を駆逐しつつあった。

敵のMS部隊に強襲されたために各隊にかなりの被害がでた。さらに砲撃支援用のタンクがほとんど撃破されてしまったのだ。

だが、何とか混乱から立ち直った現地軍と『リターンズ』は各戦場で逆襲に転じ、残るはジェイド達のところだけとなった。しかも、タンクも何とか一機残っている。

 

「危うく面目をつぶされるところだったが、これまでだ。」

 

そう口に出しながら、ジェイドはビームサーベルを構え機体をにじりよらせるように間合いを詰める。その時。

 

ビービービー!

何の音かと訝しんで確認すると頭上注意のランプだった。そして、その直後にミサイルの雨が降り注ぐことになったのである。

 

 

ここで少し、時間をさかのぼる。

ノイゲン達が戦闘を開始する15分ほど前のことだ。

ノイゲン達から緊急の司令を受けて時を待っている部隊があった。

それはドライエ艦長が指揮する潜水艦U-Z00『セロ』である。拠点移転のため輸送作業を進めていたところ、急きょ呼び戻されてノイゲン発案の策を実行に移していたのである。

 

「艦長。そろそろいいかと。」

「よし、対地長距離ミサイル発射用意!」

 

その号令に合わせて潜水艦上部に設置された発射管が泡を吹きながら開く。

潜水艦内ではミサイルの炸薬や航路確定作業を急ピッチで進めている。

 

「ターゲットはでかいほどいいですが、やはり狙いは連邦軍各地上基地で?」

「いや、ついでにもう一つ追加しよう。オデッサ基地も加えておけ」

「了解、割り振りとして発射予定の12機中2機。残りは各種基地狙いで行きます。」

「ああ。それと、発射後は急速潜航。全速で湾岸ギリギリまで接近する。」

「了解。今回は我々の腕の見せ所ですね。」

「ああ。それと、『ピラニア』は配置したか?」

「はい。ミサイルの発射と同時に敷設できるように前部発射管に装填ずみです。数は少ないですが、敵の注意を引くには十分でしょう。」

 

そのような会話を行いつつ、準備完了の知らせを受けてドライエはミサイルの発射を号令した。無論、それは連邦軍各基地が把握し迎撃することになる。

だが、その結果として基地攻撃支援で待機していた湾岸の機動艦隊は注意をそらされることになった。

 

 

「!!海上よりミサイルが発射されました。方角はそれぞれバラバラですが、速度から見て長距離ミサイルと推定されます。」

 

連邦軍の新造艦『メーゼルダイス』でレーダーを睨み付けていたフォトム・ウォーリはシグナプス艦長に報告した。これが、混乱の幕開けであっただろう。

方角から推察した結果、ジオン潜水艦と思しき連中が狙った場所はすべてが連邦軍の主要基地であり、小規模ながらも中継地・軍事基地として各地の治安に関係してくる場所だったのだ。

 

「ただちに港に待機していた駆逐艦隊とMSを出撃させろ。第二撃を考えているかもしれない。遠距離攻撃で当たるかはともかく、今は敵基地砲撃のためにMSが展開している。また、ミサイル攻撃などされてはたまらん。」

「ミサイルの迎撃はどうします?」

「各基地に緊急連絡して各個に対応してもらうしかない。こちらからではもう間に合わぬだろう。それにミサイル自体はバラバラに発射されていることから被害も少なくて済むはずだ。だが」

 

シグナプス中佐はそこまで口に出したが、それ以上はあえて言わなかった。

確証がなく、感に近いことであったからである。

 

(あからさまに我々の基地群への長距離ミサイル攻撃。あまりにもリターンの少ないことを行う敵の意図。恐らく、我々の意識を自軍の各基地に向けさせその隙に立て篭っている友軍を離脱させるためのものだろう。)

 

「念のため浮上する。機関始動!艦内各員戦闘配置につけ。海中監視を怠るなよ。」

 

そう艦に指示を飛ばすと同時に、駆逐艦隊に対して必ず撃沈を確認するよう攻撃を徹底させる指示を飛ばした。それを受けて駆逐艦隊がミサイル発射箇所周辺での索敵を開始するのにそう時間はかからなかったはずである。

だが、この時すでに彼らはドライエとノイゲンの罠に足を踏み入れていたのである。

 

 

「三番艦に二発命中!」

「五番艦、回避しました。」

「二番艦より入電!雷撃により操艦不能。」

「七番艦より報告。六番艦、被弾が激しく戦闘継続不能。乗員避難後、自沈を許可されたしと。」

「ものの数分で実質、三隻食われただと!敵潜はまだ、補足できんのか?!」

 

ジオン潜水艦迎撃に出撃した駆逐艦隊の旗艦にして一番艦の艦長、ゴール・クラウスは混乱することになった。何しろ、爆雷・索敵活動とほぼ同時に多数の雷撃を受けたのだから当然であろう。

もっとも、既にジオン潜水艦はおらず彼らは『一人相撲』を取っていたのだが。

ドライエ達が離脱直前に敷設した物こそが、駆逐艦隊に被害を与えている正体である。

 

敷設型誘導魚雷『ピラニア』。

特定音源に反応して作動し、その後はスクリュー音源に向かっていく誘導魚雷である。

今回、設定されていた特定音源は爆雷の炸裂音である。つまり、ジオン潜水艦攻撃のために行った爆雷攻撃によって駆逐艦隊は罠のスイッチを入れてしまったのだ。

しかも、それを敵潜の攻撃だと思うから余計に爆雷攻撃は増える。その分、敷設した魚雷は作動してしまう。

獲物に群がり、船に噛みつくさまからジオン内では『ピラニア』という名称がつけられているのだが、連邦軍は知らないことである。

 

「艦長!駆逐艦隊はかなりの被害を出しているようです。こちらも援護に出ますか?」

「いや、それはMS隊に任せよう。しかし、MS隊がもっと早く出ていればとは思うが。」

「仕方ありません。現地軍がこちらからの要請を渋ってしまったのもありますが、敵の強襲に対応するので手一杯だったようですから。」

 

強襲とは無論、ノイゲン達によるものである。

つまり、ノイゲン達が行った奇襲目的は二つだったのだ。

一つ目は、敵砲撃支援MS。タンク型の排除。そして、もう一つは。

 

「艦長!後方に艦有。潜水艦と思われます。」

「何、この距離までなぜ感知できなかった?!いや、まさか第二軍港を攻撃した例の奴か?」

 

シグナプスはすぐにその正体に気づいたが、それでも信じられなかった。

先行していた駆逐艦隊に補足されなかったこともあるが、その駆逐艦隊が敵潜と交戦していると先ほどの報告で思っていたからだ。

だが、ドライエ指揮の潜水艦はその混乱にさらなる拍車をかける手を打った。

 

「後部ミサイル発射管並びに前部魚雷発射室。準備はいいか?」

「こちら魚雷発射室。敵、輸送艦へ入力完了。」

「こちら後部ミサイル発射管。準備OKです。いつでも雨を降らせられます。」

「撃て!」

 

その号令と同時に前後から魚雷とミサイルが発射された。

魚雷は駆逐艦隊が出撃していたためにほぼ丸裸。

少数のボートや艦船もあったが、輸送艦への直撃を防ぐだけの対潜能力を持つ船は無く、船体を傾かせて停泊していた場所に沈没するのを多くの兵士は呆然と見るしかなかった。

また、『メーゼルダイス』は混乱状態の渦中にいながらも敵ミサイルの迎撃を行えたのはシグナプスの判断力が成せたものだったろう。

結果として半数を撃ち落としたが、残り半数は港とMS隊主戦場への落下を許すことになった。

 

これこそが、目的の二つ目。敵艦隊への陽動とMS隊への支援である。

完全成功とはいかないまでも、所定の目的をドライエ達は達成することになった。

 

 


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