機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第七十二話 鉱山跡の激戦③

 

口火を切ったのは、奇襲側ではなくそれに気づいた現地軍のMSであった。

改修型のザニーが無反動砲をノイゲンが乗るザクに放ったのだ。それは彼が足場にしていたビル頂部を抉ったが、それだけだった。

ノイゲンは持っていたヒートホークをビルに突き立てて壁面で静止。そして、空いた方の腕に構えていたマシンガンを放ち始める。

 

ザニーは即座に下がったが、弾丸はザニーから大きく逸れていた。そして、当然のようにザニーより少し後方にいたジム・タンクに穴をあけていく。

 

「甘いぞ、連邦のブリキ共め!」

 

ノイゲンの叫びが聞こえたはずはなかったが、逃げ腰だったザニーが再度砲身を向けてくる。直撃すれば機体に致命的な損傷を出すだろう。何せ無反動砲である。

だが、ノイゲンはヒートホークからマニピュレータを放しビル壁面を蹴るようにして地上へ急下降していく。その先には先ほどのジム・タンクがキャタピラを動かしながら機体を翻そうとしているところだった。

 

(いったん離れて砲撃か。どこまでもマニュアル的な戦い方だ。だが、実戦では臨機応変に動かないと致命傷になる!)

 

ノイゲンはそう心で毒づきながら自分の機体を無理やりジム・タンクの真上に乗り付けてしまう。その上で、もう一つ装備していたヒートホークを穿つように敵機体の肩口にめり込ませた。

だが、さすがにそこまですると敵ザニーも近接戦が可能となる。当たり前のように頭部のバルカンでノイゲン機を狙ってきた。

だが、ベテランであるノイゲンにはこの攻撃すら見透かされていた。ヒートホークを強引にねじりながら機体をバルカンの射線から外れるように隠す。

何に隠すかは言わずとも知れる。・・もちろん、ジム・タンクである。

 

「この野郎!俺たちの同僚を盾にしやがった。」

「2番機、そのまま敵を引き付けろ。1番機が背後に回る!」

「無茶言うな。下手に攻撃したらタンクにあたっちまう。こうなったらもっと接近して」

 

僚機を盾にされた現地軍パイロットは別の僚機に後方から回るまでの足止めを指示されるが、結局無駄であった。

その直後にミサイルで機体ごと吹き飛んでしまったのだから。

 

「2番機がやられた。うお、こちらにも敵が、ぐ、ぐあー!!」

 

その叫びと同時に後方に回ろうとしていた1番機が後を追うように破壊された。

ノイゲンに気を取られた結果、他の敵に対しての注意が外れてしまった結果だった。

その間隙をぬってノイゲンの同伴機がミサイルを別のビル上部から叩き込み、その直後にノイゲンと同じ要領でビルから降下・強襲したのだ。

 

「一か所目は完了だ。後は、この砲台モドキにとどめをさすだけだ。・・済まねえな、恨み言は地獄で聞いてやるよ。俺もすぐに行くだろうしな!!」

 

そこまで言って、肩口のヒートホークを跳ね上げるようにして横から上方に振る。そして、砲台部分を付けたジム・タンク上半身を完全にキャタピラ部分から切断してしまうのだった。

 

 

ジェイドが気づいた時には既に現地軍のジム・タンクが目の前で破壊されたところだった。

突如の奇襲、僚機との連携、そして何よりも物量を恐れない戦い方。

 

「こいつはエースだな。奴とその取り巻きは俺たちがやる。他の部隊は残り砲撃MSを死守しろ!」

 

ジェイドの指示を受けて他の部隊がようやく対処に移る。敵の奇襲によって各隊が混乱していたところにタンクを集中的に狙われたのだから仕方ないのかもしれないが、ジェイドはぬるいと感じていた。

 

(何のための守備だったのだ。混乱していてはただの張りぼてだ。)

 

そのような考えはあったが、ジェイドはとりあえず目の前の敵に集中することにした。

ジェイドは言わずもがな、ジム・キュレルに搭乗している。そして、追撃隊から随伴してきた旧トリントン基地駐在のパイロット三名が新規配備された地上用ザニーに搭乗している。

 

「現地軍の連中よりはうまく使って見せますよ。」

「リターンズ払い下げとはいえいまだに現役の機体ですからね。」

 

厳密には既にエンドリース状態であるのは正規軍に伏せられているが、いまだに正規軍では大半を占める機体であるから問題ないはずだ。宇宙人どもに地上で劣るはずはない。

 

そうジェイドが考えた時、再び近くで機体が爆発する音が聞こえた。

しかも、位置から見るにまたもやこちらの機体だ。しかも、タンク。

だが、それにかまっている暇はすぐなくなった。

敵のザクが再び攻勢に転じたのだ。機体を右に走らせながらマシンガンを撃ってきた。

 

「小賢しい!」

 

ジェイドはそれをほんの少し反るようにして躱す。そして、すぐにビームライフルを撃ち返した。ジェイドとしては避けれないと自信をもって放った攻撃だったろう。

しかし、ノイゲンはそれを躱してしまった。ほんの少し、機体をずらしただけだったろうか。驚くジェイドに対して、ノイゲンの方は余裕の表情である。

 

「ずいぶんと機体の性能に過信しているようだな。まあ、確かにビーム兵器は厄介だが。」

 

後世においてもガンダムが持つ武器の中で厄介極まりなかったのはビームライフルであった。ジオンもビーム兵器の小型化には着手していたがなかなか成功しない。

また、当時は実態弾だけでもMSの性能は十分ではあった。もっとも、『V作戦』によるRXシリーズとその系譜の登場で一変するまではだ。

ガンダムが高い撃墜率を誇ったのにはアムロ・レイのNTとしての能力が大きかったのは疑いようもない。だが、同時に当時のMSが回避困難であったビーム兵器の存在も大きかっただろう。

実態弾とは異なり、直線で相手に迫ってくるビームの回避は非常に難しい。また、貫通力もあるので今までの耐えるという戦い方が非常に困難なのも作用していた。

だからこそ、多くの敵がガンダムに倒れていったのである。だが、ビームは『避けれない』のではなく『避けがたい』ということなのである。

 

(宇宙ならばともかく、この地上でならば対処ができるのは皮肉だな。)

 

ノイゲンなどはそう感じていた。

ビーム兵器、それは光学兵器であるのは多くの読者もすぐに気づくであろう。

ならば、その特性を利用した回避。または、その特性を理解した回避・防御をすればいいという発想に至るのは必然ともいえる。

ノイゲンがジェイドのライフルを躱し続けるコツもそれであった。

正確に言えば、ライフルの精度が極端に落ちており、それにジェイドが気づいていないだけなのだがそれを教える理由がノイゲンにないだけである。

理由としては先ほどから続いているMS同士の戦闘とそれによる爆風である。さらに意図的に対人機関砲をや脅し用爆雷をばら撒いているからである。

爆風によって舞い散った砂や泥が空気中に充満し、ビームを拡散させているのだ。調度、日光が雲に遮られるのと同じ要領である。

派手にミサイルや近接戦をしているのもそれを誤魔化すためだったのだ。

 

「!ビームの精度が落ちているのか。地上と宇宙の違いを逆手に取られたのか」

「少尉、実態弾の装備はその機体にあるんですか?」

「問題ない、バルカンもあるしビームサーベルは致命的なほど威力を落としてない。ライフルに注意すれば問題ないはずだ。」

 

だが、ジェイドもすぐにノイゲンの意図に気づいてしまった。

その後、各所で他の連邦MS部隊が逆襲に転じ始める。そもそも、物量的に不利な戦いを奇襲でカバーしていたのだから、混乱から立ち直ると劣勢になるのは当然とも言えた。

 

「・・気づかれたか。残りのタンクは?」

「大佐のところの一機のみです。他は部下たちが命がけで落としました。」

「そうか。お前は脱出できそうか?」

「いえ、実は既に腹にいいのをもらってしまいました。先いあの世で待っています。」

「安心しろ。俺もすぐに行く。」

 

その直後、別グループのパイロットとも通信が途絶えた。もはや残っているのはノイゲンの部隊だけであるらしい。まさに『四面楚歌』と言えるだろう。だが。

 

「ますます、予定通りだな。後は、最後の仕上げをして少佐たちを脱出させるだけ。何とかうまくいきそうだ。」

 

ノイゲンはガトー達の脱出を確信するように呟くのであった。

 

 

 


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