機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第七十一話 鉱山跡の激戦②

 

そもそも、なぜ基地が察知されたのか。それは完全な偶然によるところが大きかった。

 

先立つこと四日前。

ガトー達が基地に辿りつく直前のことである。ある麻薬密売組織が一斉検挙された。

それはどこにでもある一幕だったのだが、問題となったのはその後にわかった資金ルートである。この組織がある仲介ルートを通じて資金を洗浄していることが解ったのだが、その疑惑候補リストの中にガトー達が利用する港の旧所有者が含まれていたのである。

無論、調査が徹底して行われ、その過程で不審な人間が廃墟を出入りしていることが発覚したのである。

踏み込んだ施設は既に人影すらなかったが、対象が頻繁に鉱山跡周辺に物資を運んでいたことが解ってくるとどうもきな臭いことになってくる。

さらにまずいことにその知らせは基地襲撃者探索の命令と前後したために現地軍司令部の目に留まることになったのである。

 

「高高度で試験演習中の新思考偵察機に件の鉱山上空を探らせろ。試験にもなるし新たな手柄になる。」

 

指揮官からすれば一石二鳥だったわけだ。もっとも、副官はそれに反対気味であったが。

オデッサ基地から来ていた試験責任者と司令官との間で以下の会話がなされ、実行されることになる。

 

「しかし、あれは『リターンズ』から預けられているものなので勝手な運用をすると問題になる恐れも」

「確かに。・・責任者であるパーペス・ルーティン中佐。君はどう思う?」

「司令。確かに我々は試験こそが目的です。ですが、同時に地上における平和を維持することは軍人としての義務・責務です。今回はそれに付随する事柄と考えます。緊急性が高くなってからでは遅いのですから、問題ないかと。それに」

「それに?」

「知らせなければいいんですから。問題ないでしょう。」

 

その一言によって跡地周辺に上空から偵察が行われた。

その結果、基地の所在が知られることになったのである。なお、この時用いられた偵察機はMAではあるが、次期MS開発に関連したテストも兼ねているものだ。

ただ、それは運用者も知らないことであったが。

 

ともあれ、ジオンの基地を知った現地軍は即座に行動を開始した。

先に述べた砲撃用MSを6機、さらに上空には偵察機が正確な情報を砲手に伝え続けるという態勢が即座に整えられた。

ただし、そこに口をだしたのが『リターンズ』である。

彼らは、子飼いの『大陸間横断公社』の情報から事態を知り駆けつけたのだが、現地軍との役割で揉めに揉めて身内での一触即発に発展するところであった。

さらに醜い足の引っ張り会いは現場だけでなく、責任者間でも熾烈を極めた。

 

それは、『復讐者VS利己者』の戦いと影でささやかれた醜悪なものであった。

 

「どういうことかね!なぜ、我が『リターンズ』への報告が現地軍より遅いのだ。露骨な嫌がらせか?しかも、武器・弾薬の補充すら後回しとはどういうことだ!事態を把握できたのはこちらの機体を使ったからだろう!」

 

既にこの時、経緯はサツマイカン少佐の知るところになっていた。しかし、答えでかえって来た内容は辛辣であった。

 

『オデッサ基地は近日の急激な資源開発に追われている。それに合わせて物資を略奪しようとする盗賊・山賊まがいの連中がたびたび出没し手を焼いているのだ。非正規軍に出す余裕などあるはずないだろう。』

「貴様!我々を『リターンズ』だと知って」

『知っているとも。だが、それが何かね?私は基地を守るために必要な処置をとっているだけだよ。・・もちろん、最低限の支援はしている。その証拠に、現地軍への物資支援はちゃんと行っているのだから』

 

オデッサ基地司令官は笑いながら答えて見せた。

確かに、現地軍への弾薬などは十分すぎるほど供給されていた。だが、それに反して『リターンズ』部隊への支援は極端に少なくかなり切り詰めないと部隊として満足に動けるかすら怪しい補給しか受けれないと現場から報告されたのだ。

 

『現地軍から徴収でもしたまえよ。今まで散々やってきたのだろう?遠慮することないはずだな』

「今は非常時だ。そんな余裕が双方にないことなど考えればわかるだろう!」

『わからんな。文句は敵にでも言いたまえ。いや、逃がしたのは貴官と貴官の組織だったな。正直に言うと正規軍ならともかく、貴官等に協力する理由も義理も無い。』

 

まるで聞く耳を持たない、含み笑いすらある言い回しで返してきた。

その当人、基地司令官はシーサン・ライアー准将という。

 

(ここまで露骨に反抗してくるとはな。これもクレイモアの影響か?!)

 

そうサツマイカン少佐は心で毒づいたが、クレイモアからすればそれこそ言いがかりであっただろう。そもそも、シーサンは半年前までは少佐所属する組織の人間とは協力関係だったのだから。

だが、ルウム戦役後の処理によって彼はオデッサに左遷されて今日に至っている。

しかし、左遷した当人たちも予期できなかったのはそのシーサンがその半年の間に周辺地域の地上軍から信頼を勝ちとった事だったろう。

 

『周辺地域で問題を起こさないよう注意したまえ少佐。現場の将兵たちにも徹底しておかないと大変なことになるかもしれんぞ。・・たとえば貴官等への援護射撃が偶然、貴官等を撃ち抜いてしまったとか。』

「それは、脅迫か!」

『いやいや、忠告だよ。オデッサ赴任直後は非常に苦労しましたし、周りからは白い目で見られたので貴官等も同じ目に会わないようにとの配慮だよ。』

 

遠回しに邪魔しているようにしか感じないし、多分正解のはずだとサツマイカンは確信した。だが、そんなことを知らない現場ではその話題の当事者たちに危機が迫っていた。

 

 

最初に気づいたのは皮肉にも敬遠されていた『リターンズ』であった。

現地MSの砲撃の怒号・砲声に紛れて、規則的な金属音が聞こえていたのだ。

当初、気のせいと思われた音だが時間が経つにつれてよりはっきりと聞こえてくる。

 

「・・少尉殿、妙な音が先ほどから聞こえてきています。」

「砲撃でないならなんだ?MSの駆動音なら別に普通だろう。」

 

当初、ジェイド少尉もそう答えたがそれでも気になった指揮車両の調音手はさらに聞き耳を立てつづけ、その音源が何かに思い至った。

 

「・・!少尉、これはエレベーターシャフトの音です。」

「シャフト?それがなんだと」

「音源は地下です。現地軍・我が隊含めて連邦軍は今回の戦いで地下に施設・物資施設は備えてません。つまり」

 

そこまで補足されてさすがのジェイドも理解した。

味方でない音源だとするなら答えは一つしかない。その直後であったろう、湾岸にほど近い廃ビルの一つに見慣れる影が映ったのは。

 

 

 

それはノイゲン・ビッターが指揮するザクで編成された奇襲部隊であった。

そもそも、連邦軍は思い至るべき情報を見落としていたのだ。

 

『いったいどのようにしてジオンはMSを目立たないように湾岸から運び込んだのか?』

 

という素朴な疑問を。

その答えこそが、地下に造られたエレベーターシャフトであった。

本開戦前から一応の建設が行われていたが本格的に始動したのは開戦の一年前でギリギリであった。地上潜入後、突貫工事で強度の補強や拡張が行われたために安全性に不安が残ったが基地の維持に必要な重火器類、MS・HLVの部品の輸送に役立った。

そして、極めつけの成果が連邦の試作機輸送と敵沿岸砲撃隊への奇襲であった。

 

「戦闘式車両4台、砲台モドキ4機、人モドキ12機。戦力差は2倍か。」

「戦闘車両を抜きにしてですね。もっとも、油断は禁物ですが。」

「油断のしようもないさ。こちらは敵の半分で仕掛けようというのだから。」

 

もはや通信を傍受されることすら恐れていないので普通に無線で会話をしている奇襲部隊のパイロット達。だが、彼らは紛れもなく死兵であった。

 

(若い連中を宇宙に返すためとはいえ、すまん!)

 

それがノイゲンの心境であった。この攻撃では失敗・成功どちらにせよ帰還・離脱はほぼ不可能なのだから。

それ故に、繰り広げられる戦いは激戦と称するに値するものになるのである。

 

 


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