機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第七十話 鉱山跡の激戦①

 

とうとう、決行の日が来た。

基地司令ノイゲンと酒を交わしてから2日ほどで各種の準備が急ピッチで進められた結果である。どうやら、ガトー達が基地から出た後からそれとなく物資の移転が進められたために穏便に進めることができたとも兵士たちは言っていた。

そして、今日。ガトーは既にHLVに搭乗し宇宙に上がろうとしていた。

 

 

『いよいよ、帰還の時ですな。上空には偽装船が待機しており即座に回収可能との連絡も受けている。』

「何よりです。これで今回、犠牲になった多くの同志たちの思いを持ち帰ることができます。ありがたいことです。」

 

そう言って、ガトーはようやく宇宙に戻れるのだと改めて思いを新たにしていた。

そんな時であったろう。事態の急変を告げたのは。

 

 

最初に異変に気付いたのは基地外周で警戒に当たっていたMSであった。

もっとも、普段は港からくる人払いが主任務であるが基地の移転を目前にしているために監視にあたる兵士たちの空気も緊迫した物である。それが幸いしたとも言えるだろ。

監視の一人が、沿岸地からの発光と煙を観測した。直後は何かと思った程度だが、それが怒号と悲鳴に変わったのは数秒後であった。

基地の出入り口周辺と自分達のいる場所に爆炎と土煙が充満したためである。

 

「な、何が起きた。現状を報告!」

「目立った損害はありません。隊員は全員無事です。ですが、基地周辺に複数の着弾が確認できます。砲撃です!」

「ば、バカな!戦艦などは確認できなかったぞ。」

「砲撃は陸より確認されました。恐らくは」

 

海上戦艦からでなく、陸地からの砲撃。しかも、これほどの遠距離となると考えられるのはMSによる長距離観測砲撃あるいは陸上用ビッグトレーからの攻撃の可能性が高かった。

そして、砲撃は恐らく侵攻のための予備攻撃・支援砲撃と考えるのは自然である。

故に、事態を察した部隊長は即座に判断を部下に下していった。

 

「すぐに基地に通信を送れ!すぐに敵が来るぞ。警戒態勢!敵の砲撃に注意しろ。密集するな!一定の距離を保ちつつ、敵に察知されないよう常時移動しつつ敵の足を止める。」

「隊長。あまりに無茶な命令です。森林地帯ですので隠れるのは容易ですが、動き回るのは至難です。せめて偽装して隠れ続けた方が」

「わからんのか。敵は隠れていたはずの我々にも砲撃してきた。つまり、何らかの方法でこちらの位置もつかんでいるということだ。いや、もしかすると常時把握する方法があるのかもしれん。そうなると各員、散開しつつ動き回るしかないんだ。」

 

そう部下に念を押しつつ、遠方から歩みよって来る機体が見えてきていた。

連邦のザニータイプ。さらにはその後方に新型と思しきジムタイプも見えた。明らかに連邦軍であった。

 

 

「先ほどの振動はやはり敵襲か!」

「現在、基地外周の隊が交戦しているそうですが。」

「他の隊を基地内まで呼び戻せ!基地出入り口を固めろ。各地に分散させている一個小隊では連邦軍の攻勢をすべて抑えるのは不可能だ。戦力を集中して対処する。」

「ですが、敵の侵攻に合わせて長距離攻撃を行っているMSがいます。これを放置しますとHLVを狙い撃ちされる恐れも。」

 

どうやら長距離砲撃はMSからの物であるようだ。今のところ、敵にこちらの動きは知られていないようだが、このままでは打ち上げ前に基地が陥落しかねない。

せめて打ち上げまでは死守しなくてはならないのだ。

 

「それに対しては既に策がある。だが、その前に落とされては元も子もない。だからこそだ。すぐに命令を実行したまえ!」

「は、はい!」

 

そう返答して、部下は各隊への連絡を行う。

既に暗号電文を作成する余裕すらない。平文に近い状態だ。

もっとも、基地周辺への砲撃を見るに基地の場所が既に敵に察知されているようだ。

それに、後は打ち上げまでの死守程度しかできることはないのでたいして問題でもない。

 

「少佐!打ち上げを少し早めます。かなり危なげな予定ですが、必ず返しますので心の準備をしておいて下さい。」

『それは心配していませんが、状況を聞くに砲撃MSは対処が必要なのでは』

 

ガトーも大まかな状況は察していた。

そして、打ち上げ途中のHLVを砲撃で狙い撃たれる事態は避けたいと考えてしまう。

だが、ノイゲンはそれにたいしてもただ、『何も心配いらん』と答えるだけだった。

ガトーはその声に不穏なものを感じて仕方なかった。

 

 

 

「現在、8機の敵MSを撃破したと侵攻部隊より報告がありました。順調そのものだ。」

「俺としてはじかに出撃して因縁を晴らしたいんだが。」

「気持ちは解るが、現地軍からここの守りをしてくれと締め出されたんだから仕方あるまい。諦めろ。それにここの守りも決して軽視できる物じゃない。」

「それはそうだが。このままでは俺の立場は」

「危ういだろうが、サツマイカン少佐ですら無視するほどの堅物軍人だ。現状では彼も危ういだろうな。今頃、奴も上司からせっつかれてると思うぞ。」

 

そう言いつつ、カーリング大尉はジェイド少尉をなだめた。

もっとも、彼としても攻撃に参加したかったはずなのだがジェイドの焦りようを見ると逆に落ち着いてしまいまるで保護者・後継人みたいなことをしてしまっている。

そんな二人の仰ぐ先には彼らが守るMSが鎮座している。

 

正規軍ではRT-350『陸戦長距離攻撃型タンク』、通称『ジムタンク』と言われている機体である。

前世、ガンタンクにはいくつもの後継機が存在するが、それよりも早く別計画下で開発された機体が存在したのは有名である。オデッサ戦線に少数導入されたが、この後世ではルウム戦役の影響前から本格的に開発が進んでいた。

そのきっかけはMSの出現であるが、加速した理由はジオンのお家騒動とその後のルウム戦役を受けてだ。

先の戦役後、ザニーの有用性に疑惑を抱いたジャブロー上層部は同時に進行させていた『新型タンク計画』を正式に採用してその開発に予算と技術を割いたのだ。

 

それは、前世のRTX-440『陸戦強襲型ガンタンク』を彷彿とさせるものであった。

だが、各所で違いは見受けられる。前世ガンタンクの形状はあるが、その頭部はジムのそれであるし、強襲型のような半可変機構モドキは持っていない。

どちらかと言えば、前世の『ガンタンクⅡ』と同様の巨大移動砲台というコンセプトの劣化版という感じである。そのスペックは以下の通りとなっている。それからも同様の感想が出るであろう。

 

RT-350 陸戦長距離攻撃型タンク

主武装 120mm低反動キャノン×2(正規仕様)

150mm低反動キャノン×2(現地攻撃軍改修)

両腕部機関砲 左右各×3

 

完全に戦車の延長であるため、MSとの同時投入が自然な運用となる。

そのため、『リターンズ』からもたらされたMS量産機に押される形で現在では新規の生産すら停止している。

だが、今回の攻撃に際して先行配備されていた機体のほぼ全部が導入され基地への砲撃支援を行うことになり現在に至っているのだ。それ故の弊害もあるのだが。

 

「エリート共のお守りなど我々は必要としていない。この機体と数々の修羅場を潜ってきた我々だけでも十分問題ない。自分たちの身くらい守れないはずないのだ!」

「同感です。『リターンズ』や多方面の部隊の手助けなど不要です。」

 

それを聞いたジェイドからすれば、こめかみに青筋を浮かべかねない状態であった。

彼からすればむしろ自分こそがそれを言いたかったのだから。

 

(それはこっちのセリフだ!だれがこんな時代遅れのお守りなぞ好んでするか。ただの移動大砲部隊の癖になぜこれほど偉そうにできるんだ!!)

 

ジェイドと現地MSパイロットが互いに不満を蓄積させていた。それ故に、水面下から自分たちに迫りくる危機への対応が遅れることになるのである。

 

 


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