体調不良・・言い訳にしかなりません。すいません!
各種暗躍や責任のなすりつけ合いなどが連邦内であってから約1週間。
ようやくガトー達は鉱山基地への帰還を果たしていた。この後は最後の問題に着手するだけである。
「後は宇宙へ帰るだけか」
「兵士皆が懐かしがっております。・・今回、犠牲になった者たちについても遺族に報告したいというものもいますし。」
それを言われるとつらい。基地内での潜入工作に際するアクシデントによって隊長を含めて多数の犠牲を出した。
確かに、表・裏双方の目的は達成したが隠密任務であっただけにほぼ失態と言ってよい事態である。これでは帰還しても成功と言えるのか、非常に疑問だとガトーですら思っていた。
「まあ、帰還については安心してくれ。メンバー全員を必ず宇宙に上げてみせるよ。」
ノイゲンは不安を感じさせない態度で請け負った。
その声には落ち着きと年長者特有の空気がある。説明は難しいが、安心感を与えるというのが一番しっくりくるものだ。ただ、その自信がどこからくるのかガトーは図りかねるといった視線を向けざる得なかったが、それとは別に彼には多大な迷惑をかけている。
だからこそ、次の言葉が非常にスムーズに出てきた。
「迷惑ばかりかけしてしまいます。基地の維持に加えてこのような苦労まで」
「前半は貴殿が気にすることではないよ。上層部の指示なのだし、後半についても隠密だったとはいえ、任務だったのだから。不測の事態だと容易に想像できる。」
そう言いながら、ノイゲンはガトーを自分の部屋に通した。
今後の方針を確認するためだが、ドライエ艦長の姿はいつの間にかなかった。
「ああ、艦長はさっき船に帰った。彼はこの後、撤収の準備などで忙しくなることだしな。」
「撤収?」
その言葉にガトーは当然感じる疑問を持った。
そもそも、敵に発見された兆候すらないのになぜ撤収の準備をしているのか?
「この基地の人員を移動させるための余剰スペースの確保や軍事機密の抹消などいろいろあるからな。これは君たちが宇宙に帰るために必要なことでもある。」
「基地の放棄と関連があるのですか?」
その問いにノイゲンはデスク上のボタンを操作し、立てかけられているスクリーンを起動させる。
そこに映し出されたものには見覚えがある。もっとも、地上降下時は今少しシャープな外観の物であったが。
「HLV!このようなものをいつの間に。」
「地上潜入と基地設営、それと前後してアナハイムが廃棄した部品から使える物を集めて作らせたものだ。まあ、一部足りないものは連邦の地方基地から少しかすめたりもした。性能は問題ない。部品の寄せ集めではあるが、設計図を基に組み立てたものだし、エンジンなどのテストも既に良好だと技術屋連中も言っていた。」
ガトーは驚きながらも、このような秘匿性の高い基地でテストなどできたのかと疑問を口にしたが、ノイゲンはそれにも答えて見せた。
ノイゲン達がいるダイヤモンド鉱山跡は元々、休火山がある場所に設営された。
もっとも、現在の連邦は知らないことだが、その火山は既に死火山であるらしい。
そこで、それを利用して火口部にHLVを配置し、不定期にエンジンテストをしていたらしい。確かにこれならば、エンジンによって発生する熱や煙は連邦が思うところの『休火山』の一時的な活動だとごまかせるだろう。
HLV本体については岩に偽装しやすいように配色を施し、ゴム製の『脱着式軟性岩』なる偽装岩まで随所に配置して岩と見分けがつかないようにしていたらしい。
その映像を見たガトーも、最初は見分けがつかないほどであるから大したものである。
「しかし、本来は別の目的で整備していたものではないのですか?」
「聡いですな、その通り。お恥ずかしい話ですが、戦線に問題が生じた場合の離脱手段の一つとして整備していたものです。ですが、少佐の現状を聞いた時、今こそ使い時だと私は感じたのです。」
確かに、宇宙に帰る方法は限られている。
最初に思いついたのはアナハイム経由でシャトルに搭乗する方法だ。恐らく名目は『荷物』としてだが、恐らく出ることは可能だろう。
だが、基地を強襲された連邦側はかなり検閲を厳しくしていることは容易に想像できる。
そのため、成功率は当初よりも低い。それに、奪取した敵機を運ぶことも恐らく不可能になるだろう。表向きの任務は放棄するしかなくなる。裏向きだけならばもっとも可能性が高いプランではあった。
次に考えたのは、連邦の所有する物資輸送用シャトルを奪ってしまうというものだ。
トリントン基地強襲の要領で打ち上げ基地周辺にミサイルの雨を降らせ、その混乱に乗じて機体を運搬・離脱というものだ。
だが、これは力技だとも思えた。確かに、これなら機体も運べる可能性は高い。だが、ミサイル攻撃によって打ち上げ設備に不具合が生じる恐れもある。
仮にうまくいって、宇宙に行けたとしても上空には物資受け取りと運搬のために待機している連邦艦隊やMS・MA部隊がいるのは必然である。それを振り切って、回収部隊と合流・離脱しなくてはならないのだ。この方法はリスキーだとすぐに想像がついたので除外に時間はかからなかった。
これらの考えをもっていたところだったので、基地司令ノイゲンの提案は非常に助かるものであったが。
「司令や部下たちは?」
「我々は少佐たちを無事に送り出した後、基地を放棄する。その際、ドライエ艦長の潜水艦で別拠点に移動するつもりだ。」
「これほどの規模の拠点を手放す。しかも、我々の不手際のために。」
「いや、気になさるな。元々、ここの維持も限界に来ていた。近い将来には連邦に感づかれていたと思う。ただバレて放棄するより、味方を脱出させたという成果の上での放棄の方が我々にとっては誇らしいのです。」
そう言って、ノイゲンは少佐にグラスを手渡した。そんな彼の手にはいつの間にかウイスキーが収まっている。
「閣下、一応軍務中ですので」
「脱出前では恐らく今くらいしかゆっくり飲み食いできる機会はないだろう?ならば、ここは付き合ってもらえるとうれしいのですが」
ガトーは結局、誘いを断りきれなかった。
その夜は、酒を互いに飲みながら祖国の今後や現場士官としての意見、前線将官たちの不安の実情などを聞いて過ごすことになる。
後に、ガトーはこの時のことを振り返ってこう漏らしたという。
『あの時、未熟だった私はノイゲン殿の意見を正しく理解できていなかった。だが、彼のおかげで、視野が広がったし軍人としての認識を改めて確認することができた。』と。
その頃、クレイモアから出向していたバルキットは情報を得るためにオウ・ヘリンとようやく接触を果たしていた。
オウ・ヘンリ。
前世では存在しない人物であるが、彼の所属する組織は前世にも似たようなものがある。
『オウ商会』。ちなみにオウはそこの代表であり、組織立ち上げの旗頭でもある。
平たく言えば前世の『ルオ商会』だ。もっとも、前世ではジオン・連邦双方に太いコネがあったルオ商会であるが、この後世『オウ商会』では二番手の情報掌握組織でしかない。
一番はリターンズ子飼いの『大陸間横断公社』で、オウ商会が狙っていた利権・情報を先手を打つように掌握してその座にある。
だが、『オウ商会』には独自のパイプがやはり存在している。その最たるものが中立組織や武装ゲリラ、水面下に存在する反連邦組織などとの取引などである。
それを知っていたマフティーは情報を彼から得られないかと接触・交渉するようにバルキットに頼んでいたのである。
「初めまして、『クレイモア』所属のバルキット大尉です。」
「堅苦しい挨拶は嫌いです。・・ですが、挨拶はしておきましょう。商会代表のオウ・ヘンリです。覚えてもらわなくてもいいですよ?」
いくら皮肉が好きで陽気なバルキットでも非常に険悪な雰囲気であると推測できる非常に嫌な空気が流れていた。