機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第六十五話 擦り付け合い

 

カーリングたちが完全に敵を取り逃がしたことはそれから1時間以内に基地にいたほぼ全員が知るところとなった。

そして、この段になるとジェイドの独断も露呈し始めていた。

 

命令違反、無断出撃、無断同行など今回の基地襲撃時の行動で複数の余罪が出てきていた。

勿論、サツマイカン少佐が何もしないはずなかった。

ジェイドを執務室に呼びだし、烈火のごとく怒りを爆発させた。

 

「何をしとるんだ、貴様は!無断で部隊に同行したうえに取り逃がしましただと。そもそも、貴様は待機せよと命令されてただろう!」

「ですが、あの時は敵を追撃するのに一人でも多くのパイロットが必要と判断したため」

「ほう、だとしてもカーリング大尉に言った話についてはどう弁明するつもりだ。あんな話をねつ造するなど論外だ。我々『リターンズ』の品位を下げかねない愚行だぞ。」

 

サツマイカンとしてはジェイドが語っていた内容はかなり真実をついていたが、それは偏見に基づく推測から導かれたものだった。そもそも、ジェイドがそのようなことを知ることは立場敵に不可能なのであるから、間違いないことである。

 

「貴様のような奴は『リターンズ』どころか正規軍にすらいられ無いようにしてやるぞ!」

「・・少佐、そんなことをしますと損をするのは閣下自身ですが。」

「どういう意味だ?」

「実は、つい先ほどのことなのでお話しできませんでしたがマスク大佐が直々に私に通信を送ってきました。」

 

サツマイカンとしては、看過できない情報であった。

奇襲直後に敵を追撃、撃滅するとマスクに豪語したばかりだったのだから当然であった。

 

「そ、それで大佐はなんと。いや、貴様は何を話したのだ!」

「ありのままをそのままお伝えしました。私は形式的にはまだ『リターンズ』に籍を置いておりますので命令されれば答えないわけにはいきません。」

「貴様、私に責任を押し付けて自分の安全を」

「いえ、そのようなことは言っておりません。追撃は所属将兵として当然の行動であり、義務ですと話ました。私の行動はカーリング大尉に説明していた内容をそのままお伝えし、組織を守るため、少佐から命を受けて行動したと。」

「そ、それはどういう」

「つまり、ここで私を処断すれば大佐には真実が筒抜けになりかねません。」

 

要するにジェイドはサツマイカンにとって苦しい二択を迫っている。

 

一つ目、これはジェイドを処断する場合。

そうすると、サツマイカン少佐は敵機追撃にあたったものを処分した。だが、何を理由に処断したのかを大佐は訝しむだろう。そうなると、現場関係者への聴取が徹底的に行われる。その過程で、サツマイカンは命令を出していないばかりか唯一追撃した『リターンズ』兵を処分したということが解るだろう。

さらに突き詰められると大佐からの念押しを甘く見ていたことまで露見する。

そうなれば、基地運営力の無さに加えて大佐からも個人的に睨まれるという非常にまずい事態になるはずである。

 

二つ目、これはジェイドを処断せずにその行動は自身のものであったと宣言してしまうことである。

言い訳としてジェイドが用いた言であるが、筋は一応とおっているし組織としても『リターンズ』からも追撃要員を出して即時対応していたという体裁も成り立つ。

ただ、この場合だと現地将兵への情報隠蔽を行ったことになるのでそれなりの処分は下ることもある。だが、マスクからはにらまれないという別の利点もある。

 

「どちらにしても、私は処断されてしまうではないか!」

「二つ目の案であれば、閣下は恐らく組織内査問ということでごまかせるでしょう。恐らく前線勤務で責任を取れという話で落ち着くはずです。ですが、一つ目の案ですと閣下は正規軍と『リターンズ』双方から処断対象にされる恐れがあります。私も軍籍剥奪でしょう。私は嫌ですし、閣下も御免でしょう?」

 

ジェイドの提案は確かなものであるしサツマイカンとしては納得するしかない側面をはらむのは事実であった。だが、まだ問題はある。

 

「機体を奪われたことはどうするのだ!この責任は私にもあるのだぞ。」

「それはトリントン基地の警備部要員全員に連帯責任というのはどうでしょうか?保安要員が見過ごして侵入を許したのは確かな不手際。さらに、警備システムがいじられていたということにすら気づいていなかったのも問題です。無論、それを指導するはずの基地司令官も同様でしょう。そこで、彼らを減俸の上で別場所に左遷させるというのはどうかと。」

「基地の要員が一気に減る!混乱するぞ?!」

「我が『リターンズ』の息がかかった人間をまとめて移せばいいではないですか。この地域での影響力はさらに増大するはずです。さらに正規軍に責任を丸ごと押し付ける口実に利用するという手もあります。いかがでしょうか?」

 

そもそも、『リターンズ』とは非正規組織である。

それ故に、正規軍とは別の枠組みで運営されている組織だ。無論、批判者も多い。

だが、今回の失態が正規軍の不手際によるものだということにしてしまえばその勢いはかなり抑えられるはずだ。むしろ、『リターンズ』への増員につなげることも可能かもしれない。

 

「・・いいだろう。その方向で大佐と話を進めよう。」

「お聞き入れ下さり恐縮です。」

「だが、貴様の案を採用するなら正式な命令で今度こそ連中を見つけ出し、機体を奪還せねばならない。無論、そうなれば」

「無論、私が行きます。今回は、敵にしてやられてしまいましたが、必ず見つけ出して私の名誉を挽回したく思っていますので。」

「ふん、せいぜい頑張るのだな。私としては貴様がジオンの連中に殺された方がいいのだが。」

「その期待とは別の成果を必ず、閣下にご報告して見せます。」

 

そう言って、ジェイドは執務室を出た。

彼自身、先ほどまでの会話を思い出して頭をかいた。

本来、彼はあんな策謀に類することを得意とはしていないはずであった。

だが、自分が助かるためにはどうすればいいのか?

基地に帰還するまで考えた末に思いついた考えであった。もっとも、非常に後味の悪い気分を彼はしばらく拭えそうにないと心で思わずにはいられなかったが。

 

「おお、ジェイド少尉。少佐殿は執務室に?」

「カーリング大尉。はい、まだ執務室にいますよ。それは?」

「ああ、基地司令からの抗議文書と敵MSパイロットの検死結果だよ。」

「何かわかりましたか?」

「うん。結論を言うと、あれは『死体』ではないことが判明した。」

 

ジェイドはこめかみを引き攣らせ批判的な目で言葉を返す。

 

「ですが、私が見た限りではあれは明らかに死体でした。違うならいったいなんだったというのですか。」

「詳しくは検死結果に載っているが、鳥や牛の骨と各種肉類の塊だったことが判明している。どうやら、偽装のための小細工だったようだ。その証拠に、時間がなかったのか沿岸付近のMSにはそれらの細工はなかったそうだ。・・やられたよ。」

 

ジェイドもカーリングもその後、互いに笑いあったが心境は少し違っていた。

ジェイドは二度にわたってコケにされたという憤りを抑えたもの、一方のカーリングはもはや投げやりだと言わんばかりのため息交じりの笑いであった。

 

 


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