機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第六十一話 困難な撤退②

イマクルス達はガトー達の交信から大まかな位置を割り出すことに成功し、現在はそこに着いたところであった。場所は近かったので10分ほどで到着した。

 

『やはりというべきか敵は既になしか?』

「油断するな。レーダーがあてにできないんだ。有視界での索敵をより密にしろ」

 

イマクルスはそう言って部下たちを戒めてゆる見かねない意識を戻させる。

その直後のことだった。その部下が乗る機体左足にワイヤーのようなものが巻き付いているのが見えた。地面に埋まっていたために察知できなかったようだ。

彼はすぐにその部下に通信機越しに叫んだ。

 

「!!足に巻き付いたものを切れ!」

『は?』

 

部下には何がなんだかわからないという感じの声だった。

そして、反応は間に合わなかったようだ。機体に巻き付いていた機体が急激に巻き上げらる。

結果、彼の乗るジムは無様に前のめりに倒れ込んでしまった。

さらに、その直後に彼らの頭上に投げ込まれたものがあった。見た目はボウリングの球にコップを複数引っ付けたようなもの。

そして、それには見覚えがあった。本来はそれに吸着用マグネットがついている対艦用クラッカーである。ドゥバンセに装備された武器の一つである。

 

「しまった!全機、散開!!」

 

イマクルスの指示に残る2機の内、1機が後方に下がるが前のめりに倒れ込んでしまった1機と反応が遅れた1機が間に合わなかった。

頭上で炸裂した対艦用クラッカーは周囲を巻き込んで爆発した。時限式に設定して投げ込んだようであった。バランスを崩していた機体は無防備に直撃を受けて機体が四散、残る一機は機体を低くし腕などで胸部コックピットをかばったためか辛うじて原型をとどめたがもはや頭部・両腕部を損失して戦闘不可なのは明らかだった。

 

『隊長。やられました、待ち伏せです!』

「十分警戒していたつもりが、奇襲を受けるとは」

 

イマクルスはシールドを前面に出しながら、防御姿勢を取る。残ったルント機も同様であった。

今は背中合わせに近い形で互いの背後をカバーして敵機の攻撃に対処する姿勢を取っている。

 

「クソ。ルント、敵の位置を音で感知できないか?近くにいるのだから解るだろう?」

『今、探しているところです。今少し』

 

そこまで言ったが、それ以上は続かなかった。

彼の機体が横に吹き飛ばされたのだ。気づいて振り返ったイマクルス機の視界には、ルントの機体と強奪された『ドゥバンセ』が写し出されていた。

 

 

 

ガトーは2機を罠と不意打ちで葬った後、残る2機を仕留めにかかっていた。

本来は、先程のクラッカーで全機。あるいは3機は仕留めておくつもりであったが、予想よりも2機の対応が早かった。

 

「どうやら、それなりの実力を持つパイロットのようだな。ならば、小細工はここまでだ。一気に仕留めさせてもらう!」

 

彼は腰に備え付けられているビーム・ダガーを射出して残った敵機を狙った。

敵の隊長機らしく、動きも一番堅実なものだった。射出したダガーも当然のようにシールドを振って弾かれてしまった。

さらに、敵はすぐにマシンガンを撃ち返してきた。反応の速さも相手がベテランなのが見て取れる。

 

(手堅くこちらの攻撃をさばいてきたな。しかし)

 

ガトーはあわてた素振りもなかった。完全に予測の範囲内という感じで機体を動かす。

マシンガンを回避しつつ、機体左腕を器用に動かして弾かれたダガーの軌道を変える。射出と牽引を可能とするこの機能は問題点もあるが、この場合は有利に使えた。

ダガーが先ほど損壊した敵機の腕(?)らしき部品に突き刺さったのを確認したガトーはワイヤーを巻き上げつつそれを大きく振り回した。

 

結果、その部品はもう一機の残った機体目掛けて直撃した。元々、破損していたためかその部品の方は完全に砕けてしまったが、敵機の方はシールドで防ぐ。だが、衝撃そのものは防ぐことは叶わなかったようで、見事にスっ転んでしまっていた。

 

(これでさらに一機!)

 

ガトーはそう心で呟きながら、トリガーを押し込んだ。

敵隊長機の方もなんとか対応しようとしているが、咄嗟の事態で遅れてしまっていた。

ガトーのドゥバンセからビームライフルの光が放たれる。態勢が崩れてしまったジムは何とかして持っていたシールドを射線上に合わせようとしたが、結局間に合わなかった。

虚しく、シールドをかすめジムの胸部コックピット部分にビームが穿たれる。

一瞬の空白の後、そのジムは爆散した。それが、ルントが戦場で活躍した最後であった。

 

 

 

「ルントー!!」

 

イマクルスは爆散する機体に乗っていたパイロットの名前を叫んでいた。

あまりにもあっけない最後であったが、ルントもベテランの域に達しつつあるMSパイロットだった。いざという時の対応もできる判断力も持っていたはずである。

だからこそ、脱出していて欲しいという思いが彼の頭をよぎったが、直ぐに都合のいい考えから覚めた。

 

(そんな暇はなかった。俺が弾いた攻撃をまんまと利用されて敵に恰好のチャンスを与えてしまった。あんな攻撃はルントも想定できなかったはずだ。)

 

イマクルスとしては受け入れたくないことであったが、冷静な兵士としての自分が彼の死を認識していた。同時に、今の自分は敵機と一対一であるという状況に陥ったことも。

 

(時間を稼げれば爆音や煙、連絡の途絶からこちらの状況をA班も理解する。つまり、敵を足止めすれば増援が見込めるこちらが有利!)

 

そこまで考えがまとまったところで、敵機が再びこちらに敵意を向けたのを感じた。

先程のような小細工をする可能性もあるが、それを抜きにしても敵がエースであることをイマクルスは感じていた。それ故に対処できたといえるだろう。

敵機からバルカンが斉射されたのだ。だが、放たれた場所は地面ばかりだ。しかし、直ぐに盾で防ぐ姿勢を取りながら後方へと下がった。その直後、バルカンが当たっていた箇所が爆発し、大きくえぐれたのが見えた。

 

「!あいつ、友軍機の弾薬に引火させて」

 

最初の攻撃で破壊された友軍のマシンガン、地上仕様のバズーカの弾薬があったのだろう。

即座にそれに目をつけてこちらを攻撃するのに利用してきたのだ。

恐ろしく頭の回転が速い敵であるとイマクルスは推測した。だからこそ、長期戦の難しさを感じ、逆に攻勢に打って出た。

基地仕様のジムには簡易的にではあるが、バズーカが装備されている理由を基地勤務のパイロットで知る者は少ない。無論、手持ち弾数は重量の関係で一発限りというものだ。

その理由は、拠点攻撃や対戦艦などの予備兵装という意味合いが強い。だが、同時に戦場でより選択しの多い戦いができるようにという配慮である。少なくとも、彼は常々そう考えている。

 

イマクルスはバズーカを敵機に向けて放った。

もっとも、打った方も当たることなど考えていない。狙いは別にある。

放ったバズーカは敵機後方で炸裂したが、機体へのダメージはほとんどない。だが、爆風によって態勢は崩れたのが見て取れた。

すぐに、彼はバズーカを手放しビームサーベルを抜き放つ。

もう一方の腕にはシールドを前方に構えつつ、彼は機体を急速に前進させる。敵機は突っ込んでくるイマクルスに対して何か感じたのか、直ぐにバルカンとライフルを撃ってきた。

バルカンが当たる衝撃とビームによってシールドが焦げ、熱せられているのが容易に想像できた。

だが、それでも彼は前進をやめずに突っ込んでいく。

 

(仲間たちの待つ場所に貴様も行ってもらおう、宇宙人どもめ!)

 

イマクルスの意地をかけた攻撃がガトーに向けられていった。

 

 




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テロリストどもめ ⇒ 宇宙人どもめ
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