機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第六十話 困難な撤退①

 

ガトー達は何とかトリントン基地から離脱に成功していたが、安心できる状態では決してなかった。そもそも、潜入後は一定の破壊工作を行い、その混乱のさなかに離脱する予定だったのだ。

ガトー立案のザメルを使った奇襲も、潜水艦によるミサイル攻撃も本来はそれをより確実かつ効果的なものにするための布石。もとい、『万が一』のためのものでしかなかった。

だが、事態は予測よりも悪い方向で推移している。現状は、MSを使って基地からの離脱に成功したが、敵機の追撃は必ずあるはずだ。

 

「予定の合流地点まではどれくらいかかる?」

「敵機に悟られないようにしながらですので30分ほどかかります。」

 

ガトーはそれを聞いて密かに舌打ちした。

彼が使う機体は高性能機であるから単機であれば20分弱で予定地点に着く。

だが、他のメンバーが乗る機体ではそれぐらいはかかるだろう。だが、彼の予想ではその速度だと敵機に追いつかれる可能性があった。

敵には宇宙と違って何の制限も無い。機体も恐らく最も性能のいい機体をチョイスして部隊を編制してくるはずだ。

一方、こちらのメンバーは地上用に調整されていても所詮は旧式機の域を超えてないものばかりだ。

このままでは犠牲が出る恐れがある。非常にまずい事態だ。

 

「少佐。少佐だけでも先行して合流してください。その機体だけでも持ち帰れば我々の犠牲も無駄ではなくなります。」

「ふざけたことを言うな!先の政権時ならば名誉の戦死だが、新生ジオンではそれはただの犬死だ。そう心に刷り込んでおけ!」

「わ、解りました。ですが、このままでは」

 

仲間の言いたいことは理解している。

だからこそ、彼は即座に通信機を入れた。傍受されることは解っているが、それでもかまわない。・・それはそれで使い道もある。

 

「トロイの騎士より砲台へ。聞こえるか?我々は現在、ポイントF03A4地点にいる。基地から北上して15キロ。敵機の追撃状況とそちらの首尾を確認したい。どうぞ。」

『こちら砲台。現在、予定どおりに機体を放棄。合流地点に向かっています。現状、確認できる範囲では敵は2つの部隊で追撃する可能性あり。注意されたし。』

 

この通信にしても敵は確実に傍受したはずだ。だが、向こうの無事も確認できたし、種もまいた。敵が乗るかは不明だが、メンバーを逃がす時間を稼ぐことは可能だろう。

 

「少佐。北上していることは確かですが、ポイントが違いましたよ。」

「いや、間違っていない。お前たちはこのまま合流地点へ移動しろ。私はひと暴れしてから向かう。」

「何を言ってるんです、少佐!もし、万一のことがあれば犠牲事態が無意味になりかねない」

「大丈夫だ、考えがある。追撃してくる連中に生死をかけた戦場と模擬戦の違いを教えてやる。」

 

ガトーは追い詰められているにも関わらず自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

 

その頃、連邦軍の追撃B班を指揮するジョージ・イマクルス大尉は、僚機4機と共に基地の北方向に進路をとって探索を行っていた。

追撃A班は現在、B班よりもやや西よりに探索を行っている。万が一、敵が内陸を迂回しつつ空路での離脱を図る可能性を考慮に入れての配慮だ。

 

「隊長。A班の方は明らかにハズレなんじゃ。」

「私も同感ですね。空路での離脱となると大気圏からコムサイを降下させて離脱するということになるでしょう?」

「そうだな。MS搭載可能なら輸送機もありうる。だが、それだとこちらの制空MAに撃墜されるだけだしな。だからこそ、大気圏外への離脱されると我々の手が及ばないところに逃げられる。そうならないためにA班に」

「でも、不可能ですよね?だって主だった基地の軌道周辺は、随時我が軍の哨戒部隊が警備で回ってます。『基地襲撃』の報もあるからさらに強化されているはず。おまけに、『リターンズ』の部隊も演習にかこつけて獲物を探し回っていると聞きました。そんなところに武装の貧弱なコムサイ程度では的です。」

「だから、そんなリスクは冒さない。そう考えると俺たちの担当した進路が当たりでしょう。」

 

イマクルス大尉は部下たちを説き伏せつつも、恐らくそうだろうと心では同意していた。

部下たちの言うように、そんな危険なことはすまい。ならば、いかにして追撃から逃れるかを考えると答えは限られる。

 

(潜入時の方法を用いて離脱を試みると考えるのが一番妥当だ。恐らく、潜水艦か水上艦で離れたところから接岸・潜入したのだろう。ならば、離脱もそうする可能性は高い。)

 

当初、イマクルスは基地南方に敵が逃げた可能性も考慮したがすぐにないと考えた。

トリントン基地の南方には第二軍港がある。敵が離脱するならば、いやでもそちらの哨戒ラインにかかるはずだ。

それに、『トリントン基地襲撃』の報告を受けた第二軍港では今頃、駆逐艦やMAが発進して我々同様に敵を探索しているはずだ。最悪、敵は挟撃または包囲される可能性が高いルートになる。

だからこそ、追撃隊を北上させることを選んだのだ。

もっともこの時、イマクルスには第二軍港が敵潜水艦の攻撃を受けて機能不全状態に陥っているとは知る由もなかったが。

 

『隊長。ルント少尉が敵と思われる通信を傍受したと言っています。』

「何?!それで、内容は?」

 

ルント少尉とはイマクルス達と共にいるパイロットだ。最近、少尉になった現場からのたたき上げで、軍学校に通っていないものの一人である。

だが、その堅実さは頼りになり常に地上戦で戦果を挙げていた。

 

『どうやら我々の追撃を気にしているようです。ですが、うかつにも現在位置の話をしています。ここからさらに北に3キロほどです。』

「思ったよりも迫れているということか。だが、それならばレーダーにせよ君の耳にせよ敵を確認できるはずだが。」

「このあたりは内陸部から吹き荒れる砂塵によってレーダーが干渉されやすい。目視も同様でしょう。ですが、もっと厄介なのは夜明け前です。その前にたたかないと取り逃がしかねません。」

 

彼の話によると、内陸部からの砂には鉱物が多量に含まれているらしく、レーダーを阻害することが多いそうだ。さらに朝の3時から5時にかけて湾岸部では霧が発生しやすいらしく、目視での探索に支障をきたす可能性が高いというのだ。

 

「だが、この敵の通信はいささか臭い。これ見よがしに情報を聞かせている可能性がある?」

『同感ですね。そうなると、意図的に虚偽の情報を流して我々を撒くつもりですか』

「小賢しい。幼稚な上にひねりが無いな。ルント!敵の通信を傍受したのなら大まかな位置はわかるはずだな。」

『ですが、今からそこに向かっても敵が離脱している可能性が高いですよ。』

「いや、これは感だがまだ追いつける可能性がある。考えてみれば敵の乗る機体は大半がポンコツ機だ。まだ間に合うかもしれん、急げ!」

 

イマクルスはこれでも隊内では年長者であり、基地内でも最古参の軍人に数えられる。

その膨大な経験から導く感をフルに用いて彼はガトー達に迫ろうとしていた。

 

 

無論、この情報はすぐにジェイドの耳にも入った。

彼は、直ぐにB班と合流したいと飛び出しそうだったがカーリングにいさめられた。

まだ確実にいると決まったわけではないのだから、現場に待機しながら探索を続けた方がいいというものだ。

それに、位置が特定できれば敵の進路も予測しやすいし、先回りできるかもしれないと言われれば彼にはないも言えなかった。

 

(おのれ、手柄を上げなければならない時に!)

 

ジェイドはその後の探索中、ずっと不機嫌な顔でパイロットシートの画面を睨み続ける。

それゆえかは知らないが、彼の乗る機体からは非常に近寄りがたい空気が漂ってくるとカーリングに他の兵士から苦情が寄せられたのはどうでもいいことであった。

 

 

 




地上戦はまとめづらいと思いながら書いています。

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