機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第四十九話 火球の嵐

シミュレータに入ってもう一度、自分の機体データと戦場を確認する。

すると、画面上の戦場が変わっていた。先ほどの戦場設定と違いデブリなども少ない。

そして、最大の違いは機体が何かに引き寄せられるような感覚。

そう感じたところに通信がなった。シンデン少佐からの補足説明であるようだ。

 

『お二方とも機体チェックが終わった頃と思います。今回、将来有望な二人に対して起こり得る可能性がある戦場の一つを選択させてもらいました。場所は』

 

俺はそれを聞く前に既にどこか気づいた。

吸い寄せられるような感じ。落ちるような直感。そして、何よりも青い輝きを放っている傍らの光源。

 

『既に気づいているようですね。そう、地球の大気圏ギリギリの場所だ。』

 

なるほどと思った。現在は、宇宙空間でも各サイド周辺が主な戦場であるが戦況遺憾によっては地球低軌道や大気圏での戦闘もあり得る。

そして、その場合はより慎重な操縦と判断が要求されるのだ。何しろ、現在のMSでは大気圏突入は不可能なのだから。

勿論、コムサイなどの外部装備を用いれば可能だが突発的な戦闘で用意が無い場合も十分起こり得る。それに備えた戦闘シュミレーションとしてここを選択したわけだ。

 

「これを思いついたのはいったいどの審査員でしょうかね?人が悪い」

「初めての戦場です。望むところです!」

 

ユーリー嬢はどうやら相当やる気になっている。ちなみに、彼女の機体はどうやらグフのようなのだが、かなり変わっている。

グフの両肩に外部装甲のようにというより肩にかぶさるような厚みが持たされている。

色はグフよりも少し赤みのある紫。頭部は通常機の口のような排気口が排除され、角状の一本アンテナは垂直よりもやや前に傾いている。

そして、ゲルググ以前のザク・グフの象徴ともいえる動力パイプが見えない。どうやら内臓式を用いているようだ。

 

(なんか見たことあるようなシルエットなんだよな。前世だとは思うが、確か後期に新ジャンルにあたる『強襲型』というコンセプトで整理されていた)

 

俺のそのような思考を余所にして、ユーリー嬢はさっそく仕掛けてくるようだ。

彼女の機体は右腕を上げてくる。そして、その腕にはマシンガンがある。だが。

 

「ちょっと待て。俺の知る120mmマシンガンとは明らかに違うぞ!」

 

そう叫びながら反射的に回避運動をとる。そして、その途端に敵の武器から弾丸が嵐のごとく発射され始めた。形状こそ120mmマシンガンだが、連射速度が違う。しかも、ロックの追尾性が高くなっているようでかなりきわどい回避を強いられている。

 

「さすがリーガン先輩。私専用に養父が調整してくれた120mm対MS機関砲を初見でかわしている。」

「そんな武器、俺は知らないぞ!第一、開発担当者の俺の後輩からも連絡なかったし」

『それは当然じゃ。その武器は儂がこの要塞でチューンナップして最近装備させたばかりじゃからな。ハッハハハハハ!』

 

俺の当然の抗議に対して、モビーユの補足と高笑いが通信機越しに聞こえてきた。

そして、改めて思った。本当に余計なことをいろいろとしてくれるよ。あんたは!!

だが、連射力がある反面。搭載できる弾薬には限りがある。

そこを着けばいいことに変わりはない。

そして、案の定。機関砲の弾倉が切れたらしく弾丸の嵐が止んだ。

その隙をついて今度は俺が攻勢に転じる。110mm機関砲で敵機を牽制砲撃する。牽制とはいえ、威力もある武器で連射力もある。

だが、敵機は急激に上昇移動してそれを躱していく。面で相手をとらえる武器にあたる機関砲が一発も当たらない。

 

「速いな。赤い彗星並みだな。・・いや、直線速度のみのようだが通常のグフであの速度は無理だな。となると」

 

その時、俺はようやく思い出した。ユーリー嬢が現在乗っているグフの形状がある2機に非常に似ていると。それは、時期も製作元も違う故に最初は思い浮かばなかったものだ。

 

(待てよ。あのシルエットに機動性。もしかして、ガーベラやケンプファーの類似型か?)

 

俺は咄嗟に、そう理解した。

ガーベラテトラ。前世ではシーマ・ガラハウ最後の乗機である。もともとはガンダム試作4号機としてアナハイムでテストされていた。だが、テスト中止と裏取引によってシーマ側に譲渡され、外装変更がなされた機体である。

白兵戦を主眼に置いた強襲機として開発されていたためUC0083年当時としては最高クラスの近接戦能力と空間機動力を実現していた。

一方のケンプファーは、一年戦争末期に作られたジオン製の強襲型MSである。

初のNT用ガンダムにあたるアレックスを破壊するためにサイクロプス隊が用いた機体として有名だ。近接武器にビームサーベルを採用していたが、それ以外は実弾武器で統一し代わりにバズーカやショットガンなどの重火器を携行するように設計された。

そのコンセプトは目標物に肉薄して、重火器を集中導入するというもので高いジェネレーター出力を機動力に用いた機体である。

 

この両機は、その目的故か開発元が違うのに見た目が非常に似通ったものになっていた。

そして、今目の前にある機体はグフの原型は残しながらもこの2機との類似点が多い。ということはである。

 

「!!不味い、次が来る。」

 

俺は咄嗟に機関砲を乱射しながらもジグザグ運動をより急激にした。その直後、敵の武器が変わったことに気づく。

敵機の両腕にはバズーカが握られていた。しかも、その見た目に俺は誰よりも覚えがある。何しろ、俺の機体の背中にあるものと同じものだ。

 

「おいおい、冗談はよせ!!」

「先輩の実力。これで見極めさせていただきます。」

 

両方のバズーカからそれぞれ三連続、計6発が放たれて戦場に破壊の火球を生み出していく。直撃ではなく時限・近接信管を交互に用いているらしく俺の機体周囲に火球が生み出されていく。俺は先ほどデータ機が使っていた回避方法でそれを躱していく。

回転しながら攻撃を躱し、敵との間合いを詰めるというものだ。

 

(うん、違和感もあるし、かなり危ういが何とかできた!・・でも、要練習だな。吐きそう。)

 

俺は、のどまでせりあがってきた吐き気に耐えながら接近する。

だが、どうやらユーリー嬢は思ったより思い切った人のようだ。俺が接近するルート上に同じように直進してきた。バズーカは既にない。代わりというようにヒートソードを横に並べた武器を持っている。

確か、百年以上前のアニメで『連刃刀』と呼ばれるものがあるがそれと同じ感じだ。

俺も、サーベルを抜いて勢いを乗せながら敵機に切り付ける。

互いの武器が交錯し、エネルギーの火花が散るが、押され始めたのは俺の機体だった。

 

(おお、やっぱたいしたもんだよな。あれだけの速度に武器の性能もあるが、機体性能をしっかり引き出してる。さすがリーマの教え子といったところかな。)

 

俺の機体も半年前であれば最新鋭であるし、今も一般用量産機に比べればハイスペック機なのだが、総合性能ではユーリー嬢の機体とほぼ同等である。

それに加えて、武器の性能では向こうに分がある。さらに、腕も良い。結果、俺の機体がパワー負けし始めている状態である。だが。

 

「だが、簡単に後輩に負けるわけにはいかないのでそろそろ勝たせてもらいますよ。ユーリー嬢。」

 

押されているはずの俺は、既に勝算がある。

そろそろ、この戦いにけりをつけようと考え行動に移ろうとしていた。

 


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