機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第四十三話 退路無き婚活戦争③

突然、二人の人間に割り込まれた俺たちはMS格納庫に備え付けられているシミュレータ前にいる。このシミュレータは本来、パイロットの技術向上を目的に常備されているのだが、実はパイロット以外からも好評である。

曰く、『ゲーム感覚で暇つぶしができる』とか。

そういった奴がいるのでパイロット以外からは有料で使用させる方針をとるようになった。それでも利用者は多いので利益を上げているのはどうでもいいことだが。

 

それはさておき、なぜここにいるのか。理由は決着をつけるためだ。

何をとは知れている。俺、シュターゲン、ラカランの三人で誰が相手にふさわしいのかを決めるためだ。俺はどちらでもいいのだが、ロズルとモビーユ殿まで見に来ているので退路が無い。

 

「待っていてくださいユーリー殿!この男どもから私が解放して差し上げましょう。」

「勘違いここに極まれりだな。『騎士』ではなく『奇士』とでも名乗れ!」

「うまいこと言いますね中佐殿。私もこの男の妄想に付き合うのは御免です。・・ですが、モビーユ殿のご令嬢を守るためにも、ここは私がお二方に勝たせてもらいます。」

 

俺を含めて三人がそれぞれ言葉を紡ぐ。

もっとも、俺とラカランは冷静にシュターゲンをこの場から『退場させたい』と同じ思考状態の発言をしているが。そのようなことを言い合いながら、詳しい説明が始まる。

今回、予想外の事態で候補者が3人となってしまった。

なぜ、こうなったのかをモビーユ殿が先ほど耳打ちしてくれた。

 

何でも、キカン・ラカランはモビーユ殿がソロモンに来る前からの酒飲み仲間であったらしい。

ただ、若い方に入るので普段から聞き手になる事が多かったようだ。

そして、昨晩も仕事の後に二人で飲んでいたらしい。その時、つい今日のことを話してしまったようなのだ。そして、モビーユ殿は知らなかったのだが、ラカランはモビーユ殿のご令嬢に対して堅物ともいえるほど遠回しに交際を求めていたようなのだ。

・・ただ、当人はそれに気づいていなかったらしいが。

そんな性格の彼だが、お見合いのことを聞いてぶしつけだと感じながらも思い切ることにしたようだ。ただ、当初はそれとなく会話に入るだけのつもりだったようなのだが、そこにシュターゲンが入っていくのを見たために冷静でいられなくなったらしい。

 

(ああ、気持ちはわかる。自分が懸想している相手にシュターゲンなる『勘違い野郎』が寄り付けばそうなるだろう。)

 

俺はそのように納得してしまう。それほどにシュターゲンが異常だったからだ。

だが、事情は分かっても根本の問題は解決していない。

俺は上からの『命令』だからお見合い事態には参加しないといけない。

シュターゲンは引くなどあり得ない。

ラカランはシュターゲンが関わる以上、引くことはないだろう。

つまり、三者三様に引けない状態になってしまっているのだ。

特に、シュターゲンなどはこのまま有耶無耶にすると暴走しかねない。そこで、シュミレーターによる対戦で決めることになったわけだ。

当初は、互いに総当たり戦でもして決着をつけるかとも考えていたが、事態がこじれると不味いと思いユーリー殿に方法を一任した。

 

その結果、まずユーリー殿が入力した『ある人物』のパイロットデータをそれぞれ相手することになった。勝ち負けは問わないらしい。

だが、評価は脇に控える審査員によって公正に評価され、得点として表示される。

その得点でトップだった者にユーリー嬢との対戦権が与えられるというものだった。

なお、評価は審査員の独断と偏見に基づいている。

そして、問題の審査員は以下の通りだった。・・見た時にはいささか引いた。

 

審査員一同

①ロズル・ザビ中将

②モビーユ・カストナーズ

③ゲン・マツシタ大佐

④ノリス・ファルコン少佐

⑤ジョニー・シンデン少佐

 

 

以上の5名のメンツを見たときに恐ろしく豪華なメンバーだと感じた。

何しろ、要塞指令官とMS整備主任だ。さらに他3人もすごい顔ぶれである。

 

 

ゲン・マツシタは前世のシン・マツナガであろう。前世で名前だけは聞いたことがあるベテランパイロットで輝かしい戦果を挙げていたらしい。ただ、一年戦争後の経過が解っていない一人でもある。

 

ノリス・ファルコンは前世のノリス・パッカードだ。確か、前世同様にこの後世でもサハリン家に仕えていたはずだが、所用でここに来ていたらしい。前世ではアイナ・サハリンの思い人であるアマダ・シローとの戦闘で戦死している。それでも役目は最後まで果たしたまさに職業軍人代表の一人である。

 

ジョニー・シンデンは前世のジョニー・ライデンだろう。この後世においても『ルウム戦役』で敵艦隊追撃部隊の一人としてMSを5機も撃墜している実力者である。

前世でも活躍したエースの一人で、ア・バオア・クー攻防戦でもその実力をいかんなく発揮したと聞いている。

また、俺は実際知らないが、『グリプス戦役』時にも活躍していたとかいなかったとか話をちらほら聞く。ただ、少し思ったことがある。確かに腕は確かなのだが階級が中佐の俺を少佐クラスが審査って問題ないのか。疑問である。

もっとも、俺の思考を無視してシンデン少佐が話始める。

 

「それではさらに細かい補足を。それぞれの機体データは普段利用している自機のデータを使用して結構です。基本的に一人ずつ、シミュレータに入ってもらいます。他に質問は?」

「私はデータと戦う気はない!決闘が最もシンプルなやり方だ。その二人とそれぞれ私が戦えば自ずと誰がふさわしいか証明できる。なぜ、それをさせない!!」

「これは平等な処置ですよ。互いに直接戦うことには私も賛成ですが、今回は訓練でもない私怨絡みに発展しかねないものです。故に、決闘は妥当ではないと判断しました。」

 

(正確にはシュターゲンだけが私怨に走りかねない状態だがな)

 

俺はそう感じているし、審査員もどうやら俺と同意見の者が多いようにみえる。

いっそ、この茶番をやめる方向に持ち込みたいといろいろ思案していたのだが。

 

「それならば、シミュレータを使ったこのイザゴザ自体を止める方が効率的なのではないですか?当事者である私が言うのは変ですが、それが自然に感じます。」

「ラカラン大尉の意見はごもっともです。ただ、モビーユ殿たっての希望でもあり、このような形をとっています。ご容赦ください。」

 

(またか。またなのか、モビーユ殿。お願いですから、これ以上波風を立てるような事態に発展させないでくれ。)

 

俺が思考を乗せて、モビーユ殿を凝視すると彼は親指を上に向けてニッコリ笑うのだった。

俺の思いは伝わらないのかと項垂れるしかない。そして、それを見ていた残りの二人もそれを自分に向けられたものだと思い次のような思いを固めていた。

 

≪シュターゲンの思考≫

お父様が俺に期待を向けてくれている!ユーリー殿にふさわしいのは自分しかいないのだ。ジオンの騎士としてこの試練を乗り切って見せる。そして、どんなデータが相手でも一番は俺だ!!

 

≪ラカランの思考≫

うむ、シュターゲンのバカを揉んでいいといいう意思表示だな。

それともリーガン中佐との勝負を見たいという期待だろうか?

だが、中佐殿とシュターゲンのどちらであろうと俺は勝つ。中佐殿ならば軍人同士、正々堂々と!

シュターゲンとならあの妄想癖修正もかねて徹底的に自信をへし折ってやる!!

 

 

程度の差や方向性は違うが、双方共に微妙に勘違いをしているのであった。

 

 




次話はそれぞれの視点でシュミレーターバトルを書く予定です。

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