機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第三十七話 連邦サイド~マフティー考察~

 

ジオン内で、内政外政の整理が進んでいた頃。連邦でも大きな変化が生じていた。

『シーサン・ライアー』の降格と私設組織設立である。

 

実戦部隊将校達からの嘆願により、シーサンは軍上層部から切り捨てられることになった。

結果として、大佐への降格と地上基地である『オデッサ鉱山基地』建設の辞令を受けたのだ。それを薄々察知したシーサンは、独自に考えていた計画を前倒しして、成果を上げようとしたが結局失敗した。

それが、拠点建設計画でありシーサンが名づけるところの『縁の下』作戦であった。

もっとも、リーガンの機転によって思惑は水泡に帰すことになった。しかも、中継拠点化が完了していた衛星基地まで落とされるというおまけつきである。

勿論、それを事前に聞いていなかった上層部と現場指揮官たちはシーサンを痛烈に批判し、それを理由に責任を取るよう迫った。

喚き散らして反対していたシーサンであったが、サミトフからも露骨に批判された段になって自分には退路がないことを理解したようである。

シャトルに乗り込んで、地球に降下していくその後ろ姿は『ドナドナの子牛』のようだと佐官たちは笑いながら囁きあったと言われている。

 

(正直、俺も心の中で爆笑していたのだがな。もっとも、降格で済んだだけまだ甘い処分なのだから喚き散らすなと言いたい。)

 

マフティーはそのように感じたものである。だが、問題は今一つのことだ。

私兵組織設立。これは、サミトフ少将とエビル中将それぞれが行っている。

サミトフは『リターンズ』という組織を旗揚げした。名目はスペースノイドに対しての常駐的な監視と軍将兵・装備の大幅向上を唄っている。だが。

 

(これは前世の『ティターンズ』そのものだ。何より、前世よりも人材が集まっているのが余計にたちの悪い組織にしている。)

 

『リターンズ』にはかなり優秀な人員がそろいつつあるようだ。

わかっているだけでも、『マスク・オフ中佐』、『ヤザン・ローブ中尉』、『サツマイカン大尉』、『モアイ・ブルターク少尉』などが挙げられるだろう。

『マスク・オフ』は前世の『バスク・オム』。

『ヤザン・ローブ』は前世の『ヤザン・ゲーブル』。

『モアイ・ブルターク』は前世の『ブラン・ブルターク』。

『サツマイカン』は前世の『ジャマイカン』。

 

前世を知るものはこれを聞いて笑いをこらえたものもいたと言う。

 

(どんな漫才名だ。マスク・オフ(笑*1)。それとサツマイカン(笑*2)。名前なのだから笑うべきではないのだが、仕方ないことでもあるだろう。・・俺も最初は笑ったのだから。)

 

だが、名前の方はともかく性格や実力は前世と同様である感じだ。

アースノイド至上主義的な考えが全面に押し出ている。典型的なエリート組織となりつつあり、危険な兆候がちらほらと見えてきているのだが、同時に違和感のようなものも感じ始めていた。

 

(こうまで的確に人材を集められるものだろうか?まるで『クレイモア』の偏見組織版の体をなしつつある。)

 

マフティー達はそのように感じ始めてもいたが、現状はっきりした情報もないので保留となっている問題であった。

一方、エビル中将の組織は実験部隊を名目に組織を新設することになった。

連邦軍実験調査組織『クレイモア』。

人員やMSなどは地下で蓄えたものをそのまま流用し、人脈などもそのままに正規組織への変貌を遂げつつある。そして、新たに加入する非転生者もいる。

『ブレクス・フューラ中佐』や『エマ・シルゼン少尉』などが特にその代表格である。

ブレクスはエビルの後継者として目をかけられている。

もともと政治家に近い人間であったし、前世ではバスクやジャミトフとは反目していたこともあって『クレイモア』への加入に何の抵抗もないようだ。

エマは前世の『エマ・シーン』である。だが、この後世での経歴は前世と少し違うようだ。

後世では、『パイロット選抜カリキュラム』なるものが設けられている。それによってシュミレーター上位三名の一人として、連邦軍兵士に正式採用された。そして、エビル中将に引き抜かれてきたのである。

 

「このたび、ここに配属されることになったブレクス中佐とエマ少尉だ。これからは背中を預ける者同士だ。お互い、頼むぞ。」

「はい!よろしくお願いします。」

 

マフティーと3名の既存パイロットと二人はお互いに握手を固くかわしあった。

 

人員の整備・補充が進むにつれてMSの配備も今までより本格的に進むことになった。

その過程で、ジオンのMSに対抗できる機体開発が主眼となるのは当然だ。新規組と既存組の開発者たちは独自に意見を出し合ってある計画を開始した。

通称『クラスター計画』と呼ばれるもので、現在ベーシックとなっているザニーとは異なる量産目的機を作成し、そこから派生させて対抗できる物を作るという計画である。

 

「最初のベーシックはやはりジム・コマンド系ですか?」

「いや、ザニー開発時のプロトタイプからの方が都合がいいと思う。」

「それでは、部品等の規格・生産の問題がある。現実的じゃない。」

「・・アナハイムの技術者が考えていた計画などもいいかもしれません。」

 

などなど、意見は紛糾した。結果は、アナハイム社のある技術者が考えていた案を参考にしていく方針を採っていくことになる。

発案者は『テム・ゲイン』。前世の『テム・レイ』だ。

ガンダム開発者の一人であり、優秀な技術者として知られていたが家庭を顧みない傾向のある男でもあった。彼自身はガンダム完成後に、酸素欠乏症による影響と複数の理由から精神面に問題を抱えることになってしまった。

この後世では、アナハイム社のお抱え技術者として働いておりやはり優秀とのことだ。

だが、前世と違い彼は独身である。

 

(アムロさんがいない?生まれてもいないのか?!)

 

マフティーは最初、驚いたが彼とともに来た助手を見てさらに驚くことになった。

 

「こんにちは、アナハイム社MS第三研究室所属の『テム・ゲイン』です。隣りにいるのは、甥っ子で助手の『アムロ・ヒュームス』。エビル中将からの開発協力要請を受けてきました。」

「ご苦労さまです。地球の重力は慣れないと大変でしょう。2日間は長旅の疲れをいやしてもらうよう中将から言われておりますので、客人用宿舎にご案内します。」

「いえ、私も叔父も何年か前に地球に来たことがありますのでご心配は不要です。さっそく始めたいので技術者との顔合わせをさせてもらえませんか?」

 

そのようなやり取りがあり、二人は技術者との雑談を含む自己紹介を各所でしていたが、マフティーの動揺は大きかった。この後世のアムロはパイロットではない。技術者なのだ。

しかも、話を聞いていると『テム・ゲイン』と大差ないほどの腕前であるらしい。歳が若く経験が少ないため、粗削りなところはあるらしいが。

そして、到着早々に彼はMSに関する持論を開発部長をはじめとするスタッフに話し始めた。

 

「外装一体型であるモノコック型とは異なる開発を行ってはどうかと。」

「だが、ジオンをはじめとして連邦の機体にもそのような構造は用いていない。量産向きじゃないだろう。」

「あくまでテストベットとしてやってみるのもいいかもしれないと申しています。各所のフレーム構造を大幅に見直すことで今後の量産機の『雛型』を作れるかもしれません。」

 

現在、連邦もジオンも採用している設計の基本は外装とフレームの一部が一体となっているモノコック型である。だが、アムロはそれに一石を投じる提案を行っていた。

マフティーをはじめ、前世出身者などは驚いたものである。彼の提案した技術は前世で『ムーバブル・フレーム』と呼ばれるものだったのだ。

前世ではこれが完成した結果、ジオン・連邦を問わず、その後のMS設計に大きな影響を与えることになり、可変MSなどが誕生することになったのである。

だが、それが確立され一般化したのはUC0087年前後以降。

つまり、『グリプス戦役』が本格化する前後であった。この技術導入後、各勢力でこの技術が多様されるようになったのだ。MSの駆動性を高めた技術だったのである。

 

とはいえ、即量産機に採用するには成果もない技術なのでひとまず、試験的に一機作ることが承認され、独自のMS開発の取っ掛かりとすることになった。マフティーなどは、前世のガンダム以上の機体ができるのではとついつい夢想してしまうのであった。

 

 


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