機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第三十六話 想像と予兆

リーガンやリーマが、現場で苦心し続けている頃。デラーズも苦慮していた。

彼の基には、それまでに各サイドに駐留している部隊やグラナダからもたらされる報告書が引っ切り無しに届く。

いいものも悪いものも含めると、実に200以上にもなるためため息をつく間もなくなるほどであった。その中にはリーガン達駐留部隊の物からリーマ謹慎組まで種類は様々。

だが、そのなかで特筆すべきものは良し悪しを抜きにして3つほどに絞られるだろう。

 

 

まず一つ目。連邦軍の最新鋭にあたるMS機体を拿捕したことだ。

機体はグラナダにて解析されたが、特にビーム兵器のデータは今後の戦闘に影響があるものになると考えている。

現在、次期量産機として開発中の『ゲルググ』に搭載予定のビームライフルへ技術転用できる可能性が高い。機体そのものは既に、テストが完了しているので2か月あれば少数だが配備できると見ている。また、量産ラインが整ったグフへの搭載案も検討され始めているらしい。戦力増強は実にうれしい誤算である。

だが、今後は連邦軍のMSにも常備される可能性が高まったことを示唆している事案でもある。今後、さらに積極的なパイロット育成と新型機開発、量産ラインの確保が課題となる事は誰から見ても明らかだ。

 

 

二つ目。これは、連邦軍の動向についてだ。リーガン中佐が『サイド5』周辺の宙域で建設途上の敵拠点を破壊したという報告を受けた連邦軍は、より受け身の体制に入ったようである。さらに、リーマ艦隊による衛星破壊もそれを後押ししている。少なくない犠牲であったが、一応の成果には結びついたのだ。

『ルナⅡ』に近い『サイド7』に軍用コロニーを配備する方向で動いているようだ。

レポートによれば、本来は1つのコロニーだったものを二つに分断し、艦船駐留とサイド監視を行える軍港へと改装を進めているようである。

完成した場合、『ルナⅡ』以上の脅威になる可能性もあるため今後は破壊か無力化を模索していく必要があるだろう。

また、地球上では各地で軍関連の拠点が整備され始めているらしい。

現在は3か所が確認できている。

 

『キリマンジェロ基地』、『ベルファスト基地』、『キャリフォルニアベース』である。

特に、『キリマンジェロ基地』は宇宙への軍需物資の直接移送も視野に入れた拠点化が進んでいるらしく、今後は連邦軍の勢力強化が大幅に進む可能性が出てきている。

さらに未確定ではあるが、次世代兵士育成を目的とした『ローカスト研究所』なる代物も最近取沙汰されている。これは前世のオーガスタ・ムラサメ研究所に該当するものだと見ている。捨て置けない情報であった。

 

 

三つ目。これが一番問題だ。『サイド2』についての調査報告である。

連邦への秘密協力や『フォン・ブラウン』との裏取引、さらにはリーマ艦隊襲撃協力の疑いなどを受けて調査させたのだ。結果として内容はあまりよくない。

何でも『サイド2』では他のサイドと異なり、とある宗教主動の政権が樹立されているらしく、ジオンも連邦も同位の国として認めていないというものだ。

この意識は、国民全体に根強くあるらしく交易以外の接触は極端に少なく排他的な体制であることが解ったのである。さらに、戦闘用のMS開発も秘密裏に行っている可能性が高まっているのだが、どこから技術・資金を入手しているのかがまだ特定できていないらしい。引き続き、調査を行うと報告結果を結んでいた。

 

 

デラーズは以上の3点についての報告書を確認したのち、ため息をついた。

新体制において、ジオンはサイド全体の共存・共栄を図りつつ自治独立を求めて連邦と戦っている。無論、自治権確立を連邦に認めさせるのが目的であるが、戦後のことも視野に入れるなら各サイドとの良好的関係維持は重要だ。

戦後、全サイドをはじめ地球も疲弊していることは容易に想像できる。そんな時に、地球と宇宙双方でそれをまとめられる体制が必要となる。

その宇宙側をジオンが作るために現在苦心している。だが。

 

(サイド2は今後も油断できないな。まだ、確定情報はないが軍を作っている可能性が出てきている。・・こうなると、前世でギレン閣下が他のサイドに対して冷酷な策を実施したのには別の理由があった可能性も出てくるな。)

 

デラーズは前世のギレンが行った蛮行にも裏があったのではと考えるようになっていた。

多くの人間が知っていることであるが、ジオン公国は『コロニー落とし』に際して毒ガスによる大量虐殺を行ったのは有名だ。

他にも反抗的なサイドコロニーにも同様の処置が行われたといわれている。だが、改めて考えてみると本当にあれは無意味な虐殺だったのかと訝しむこともできる。

もしや、前世でも後世同様に他のサイドに野心的な考えを持った場所があったのではないかと。そのような視点が加わると、前世のUC0069年に起きた『サスロ・ザビ』暗殺事件にも別の見方ができる。

 

この事件は、ザビ家の一人であるサスロ・ザビが何者かによって暗殺された事件だ。

事件の首謀者は特定できなかったが、前世ではキシリアによる謀殺説や連邦の暗躍説が有力だった。これによって、ザビ家内の関係がより緊張したのは間違いない。

サスロはドズルやキシリアを抑える役割をしていたとも言われており、ギレンと同様にザビ家内で緩衝剤の役割を持っていたのではと考えられている。

 

もしかしたら、あの暗殺は他のサイドによるものだったのではないだろうか?

だからこそ、ギレンは他のサイドに対してあそこまで無慈悲なことを実行することもいとわなかったのではないだろうか?

それに、ギレンが最初に『サイド2』のコロニーを作戦に用いたのも気になる。

前にも話したかもしれないが、コロニーを手早く調達するなら自分たちの物を使った方が迅速にできた可能性があるのだ。なのに、サイド2のコロニーを用いた。これは個人的な恨みも絡んでいたのではとも推察できるのである。ズバリ、サスロ暗殺犯たちへの制裁として。

 

(改めて考えると恐ろしい仮説だ。もっとも、この後世は前世とは違う。必ずしも、前世でもそうだったとは限らないし、確証もない。)

 

デラーズは自身の想像をとりあえず中断し、来客を待つことにした。

ここは普段の執務室ではない。リーガンとも利用した『黒鉄会』御用達の料亭である。

 

「閣下。お客様がお見えです。」

「通してくれ。」

 

その言葉を受けてすぐに、『客』が入ってきた。

ジオン軍の制服ではなく、スーツ姿にサングラス。さらに、キャリーバックを持って入ってきた姿は、仕事のできるキャリアウーマンでも十分通用するだろう。

 

「よく来てくれた。大佐。」

「デラーズ閣下の頼みでなければ無視しているところです。」

 

礼儀的に話しかける上司に、礼を失しているとも取られる受け応えで返す女。

リーマ・グラハム大佐。現在では『リーマ艦隊』の指揮官として知られるようになってきている女軍人である。もっとも、現在は謹慎処分中であるがデラーズから呼び出されたので問題はない。おそらく、根回しも済んでいるとリーマは容易に想像できていた。

 

「このような場所で非公式に会いたいといわれた時にはデートのお誘いかとも思いましたが、そんな事とはもっとも遠い人種だと思い出したので。」

「それにしては似合っているよ。まあ、普段の軍服姿の方が年期が入った感があるがな。」

 

そのようにリーマの服装についての意見を互いに言い合ったが、すぐにリーマはデラーズを急き立ててきた。

 

「このような場所で時間を無駄にするのは私の気質に反するので、さっさと話を進めてくれないかい。」

「わかった。確かに、お互い忙しい身だ。本題に入ろう。近々、連邦との間に交渉の席を設けることになった。」

「ほう。場所は『フォン・ブラウン』といったところかい?」

「いや。小惑星『ペズン』でということになった。予定では2日間の日程で行う予定となっている。だが、その前の1週間で実務者協議が行われるので実際は約10日間。その間、全宙域で双方交戦は避けることになるだろう。」

「少なくとも目立った交戦はするなというわけかい。」

 

これは仕方のないことだろう。連邦もおそらく同様の命令を各所で出すはずだ。

ジオン軍内部でも二週間前には伝達され、交戦厳禁の命令が出されるはずである。

 

「でも、それと私をここに呼び出すのと何か関係があるのかい。」

「直接は無い。だが、問題はその後にあると言える。」

「その後?連邦軍の監視でもしてろと?」

「ある意味ではそうだろう。約80隻の艦隊を率いて『ルナⅡ』を攻撃してもらうわけだからな。」

「!!」

 

その発言はリーマを純粋に驚かせた。

デラーズの今までの発言からして連邦と和平を結びたがっているように聞こえたのに真逆のことをしろと言われたのだから無理もない。そこまで言って、デラーズはより正確な補足を加えてきた。

 

「無論、和平交渉はするつもりだ。だが、恐らく決裂するだろうというのが参謀部、『黒鉄会』という私の勉強会双方が出した結論だ。」

「つまり、その場合に攻撃しろということかい?ですが、いささか無謀に過ぎると子供でも分かる内容だよ。」

 

ある意味もっともだろう。ルナⅡは後世連邦が誇る最大の宇宙拠点だ。

要塞化がなされた結果、今では200隻を動員しても落とせるか怪しい。そこに80隻程度で攻撃しろとは正気とは考えずらいだろう。

 

「その無謀な作戦を行ってほしい。表向きは連邦軍最大拠点の無力化という名目で。」

「つまり、裏があると。」

 

つまり、陽動をしろと言っているに等しい。だが、なぜ自分なのかリーマはいら立ちを覚えずにはいられなかった。衛星攻撃に際して、裏で利用されていたことを考えると『またか』と思えてならない。だが、デラーズはそこで言葉を足してきた。

 

「誤解しているようなので言っておきたい。私は、君と君の部下たちを捨て駒にしようとは考えていない。生きて帰ってきてほしいと思っている。故に、無理をする必要はない。だが、一定期間だけ連邦軍主力をできるだけ多く『ルナⅡ』に引き留めておいて欲しいのだ。一番適任なのは君だと思っている。だからこそ任せるのだ。」

「私はあくまで大佐だよ。本来は少将や中将クラスが率いる戦力を私にゆだねるなんてどうかしてるとしか言えないね。・・正気かい?」

 

リーマはそうデラーズに話しながら目を見ていた。その眼には真面目な顔に決意の炎が宿ったように爛々と光っているように見えた。

結局、リーマは善処することを約束したが保障はできないと念押しして引き受けた。

本来なら出世の話が出てもいい内容であるのに、それが出なかったことは双方これがかなり無茶な内容の要請だと理解している故であっただろう。

近い将来、連邦との激戦が起きることをジオン軍高官は薄々感じていた。

 

 




誤字を修正しました。
×衛生⇒○衛星

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