機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第三十三話 異教者 VS 『スピードホリック』

 

ブリューナクの乗る機体を見たマリジアはマナジリを釣り上げて狂ったような笑みを浮かべた。

そして、新たな獲物を刈り取るための行動をとり始める。

 

60mmバルカンを獲物に向け、予想される回避ルートを思考。さらに、今度は有線ではなく直接機体を穿ち抜こうとバーニアを吹かして接近を図ろうとした。

だが、ブリューナクは機体を逸らしながら機体を後方に回転させて逆さの体制へと変えながらマシンガンのトリガーを引いていた。

直後、マシンガンの弾丸がマリジア機に迫る。彼女は驚きながらも肩部スラスター出力をいっぱいにして機体を傾かせて回避した。

 

「!!」

「生憎とそちらの作業通りにはいかないことを教えてやろう。」

 

ブリューナクはそう呟くと同時に背面に背負わせていた武器を取り出す。

それは高機動力機専用にチューンされたビームライフルだった。ゲルググ搭載を視野に入れた試作兵装であったが、高速機動下での使い勝手を確認するべくブリューナク機に装備されていたものである。信頼性はまだ未知数であったが背に腹は代えられない。

ブリューナクはためらいなくトリガーを引いた。

その直後、ライフルからビームの閃光が敵機に向かう。咄嗟のことで予想できなかったのか、マリジアは避けきれずに左腕コンテナの一部を撃ち抜かれた。ブリューナクの狙い通りである。

 

(先ほどの戦闘で、あれが爆発物であることも確認が取れている。誘爆するかしないかは置いておくとしても、破損したままでは誤爆のリスクを背負うはず)

 

そう。先端部から次々と分離・接続できるとしても中間部分であればそうはいかない。

そう思ったが、その希望は裏切られた。なんと、肩との接合部分ごと分離したのだ。

そして、コンテナが次々と有線から自動で外れていく。そして、破損した部位を除去し終わるとまた戻りだしたのだ。

 

「無駄なことです。神の御業と英知によって生み出されたこの機体に欠陥はありません。」

「みすみす!」

 

ブリューナクは再びライフルを構えて敵機を撃ち抜こうとした。

わざわざ敵が万全の状態になるのを待つ理由はない。この隙に撃破してしまえばいいのだ。

だが、右側面からくる気配を感じてスラスターを逆噴射させる。そこに、腕が伸びてきた。

マリジア機と同様のシルエットを持つ別の機体からの攻撃である。

 

「そういえば一機ではなかったな。」

 

そういうと同時に敵機からさらに攻撃が放たれる。

60mmバルカンと残ったもう一方の腕を伸ばしてきたのだ。ブリューナクは弾丸を避けながら、もう一方の腕をヒートホークに伸ばし、敵の腕を弾く。そうこう応戦しているうちにマリジアは破損部分の除去と腕の再接続を終えたようだ。僚機援護のつもりかバルカンを放ちながら接近してくる。ブリューナクは苛烈な連携攻撃を避けながら舌打ちした。

 

(ええい。この2機、やる!)

 

状況は芳しくなかった。1対1であればおそらく勝てるだろうと感じているが、2機同時に相手取るとなるとマシンポテンシャルの差が露骨になり始める。

性能においてはブリューナクの試験機も決して低くない。だが、敵の機体も同等かあるいはそれ以上の基本性能だ。しかもパイロットは凄腕、さらに連携もやたらと練度が高いと来ている。そして、決定的な差を生んでいるのは加速性能であった。

 

前世において、ジオンは『ビグロ』と呼ばれる大型のMAを少数であるが実戦に導入している。

この機体がトータルバランスで高い評価を受けた最大の理由が、MSでは当時不可能だった加速性能を可能にした故であった。正式な戦果は不明であるが、ア・バオア・クーに配備された点から見ても高性能であったと考えられている。実際、ガンダムパイロットのアムロ・レイと交戦し、失神させたという記録も残っているのだ。

そして、現在の敵機はそれをMSクラスの大きさで部分的に実現している。それ故に、ブリューナクの腕でも倒しきれないでいる。だが、戦況はブリューナクに味方した。

 

「異教徒に死を!」

 

そう叫びながら、倒しきれないことに業を煮やした敵機が急加速しながら接近してくる。

接近してクローを穿とうというのだろう。確かに、そんなことをされればいかに高性能機でも耐えられない。仮に耐えたとしてもその後、腕を切り離して爆破されてしまうだろう。だが。

 

「そこだ!」

「いけません!離れなさい」

 

そういったマリジアの言葉は遅すぎた。既に状況は動いていたのだ。

ブリューナク機は下がったり避けたりするどころか向かってくる敵機に向けて前進してきたのだ。

それを愚行と思った敵機は、振りかぶっていた腕とは逆の腕を射出して貫こうとするが、ブリューナク機はそれをギリギリのところで躱す。

ヒートホークを持っていた方の腕を肩ごと持って行かれたがそれはある程度予想していたことだったので速度は緩めない。それを見た相手は振りかぶっていた腕をブリューナク機に突き出そうとしていた。だが、残った腕で敵の腕を弾きながら距離を詰める。だが、近距離用の武器は既にない。だからこそ、読めなかった。

 

ドゴッ!!

 

金属の重い衝突音が響いた。

コックピットそのものは無事だったが、敵機は胸部装甲を凹ませるほどの衝撃を受けたのだ。

その原因は、もっとも原始的な攻撃の一つ。キックだ。しかも、バーニア全開で突っ込んできた勢いも加算されたためか気を失いそうになる。鼻血まで出るほどだ。

 

「おのれ!異教徒風情が」

 

衝撃から立ち直った敵はモニターを確認したが、そこには既にビームライフルを構えたブリューナク機が見える。無論、狙いは自分。そう気づいたが、回避動作は間に合わなかった。

銃口からほとばしる閃光は自機を貫きコックピットを白一色に変えていく。

 

「マリアレス万歳―!!」

 

消える直前、彼はそう叫んだがそれを聞いた者は誰もいなかった。

 

 

「やっと一機。」

 

ブリューナクはそう呟いて火球に替わった敵機を見た。

だが、安心できる状態ではない。まだ、手ごわい方が残っている。しかも、苦戦しているのはここだけではない。一方の画面では、後続も別の敵と交戦しているのが解る。

見たところザニー2機と新型1機の混成だが、新型の性能が侮れない。ここを片付けて駆けつけたいが。それを現状が許さない。

 

「また、罪を重ねましたね。異教徒!」

 

マリジア機がバルカンを放ち、接近してくる。対して、ブリューナクは武器をマシンガンに切り替えて狙いをつける。ビームライフルは速射力と威力はあるが、この敵に対しては体制を崩さないと命中しない。ならば、連射できて信頼性もある120mmマシンガンの方がいいという判断ゆえである。

だが、敵の腕はやはり高い。弾幕を急制動・急加速で難なく躱していく。しかも、バルカンや有線クローを織り交ぜてくるので油断できない。しかも、彼の機体は片手喪失状態だ。

 

(まだか。まだ、ダメなのか!?)

 

そう思った時、敵機が弾き飛ばされた。

どうやら、実弾攻撃をもろに側面から食らったようで肩の一部が凹んでいる。肩部分の分離に影響もでているかもしれない。そして、それが待ちに待ったことだと理解した。

 

「大佐。」

「女々しい声を出すんじゃないよ。それとも、あんたがそうなるほどなのかい?目の前の敵は。」

 

リーマ達がようやく帰還したのだ。見た限りでは向こうは損害も出なかったようで半分がもう一方の救援に向かっている。

 

「新型かい?」

「そのようですが、ザニーとは別系統だと思います。侮れません。」

 

リーマと共に敵機に意識を向けると、さらに気配が濃密になっていくのがわかった。

戦場周辺がまるで極寒の地であるかのように肌に突き刺さるような圧迫感が強くなる。

だが、フッとその気配は霧散し機体は高速で下がっていく。

 

(ここで逃げ?!)

 

そう、戦場からの離脱を図ろうとしたのだ。

だが、リーマがそれを許すはずはない。右腕の80mmマシンガンを放つが敵は凹んでしまった方の腕部を肩ごと分離した。有線であるはずのコンテナもばらけさせている。

そして、気づく。これが意図して行っている行動ならば理由は一つ。

 

「大佐!下がってください。機雷です。」

 

そういうや否や、コンテナすべてが周辺宙域を覆うほどの爆発を引き起こす。

一つで機体を火球に変えるほどなのだからそれを複数同時に行えばこうなる。そして、爆発に巻き込まれないように後退し、閃光が収まった頃には敵機は既になかった。

 

 


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