「私がここに来たのは8年ほど前のことだよ。」
デラーズによれば、彼自身がこの世界に来たのはUC0062年である。
その頃は、まだザビ家の地盤が確立されていなかった頃であったはずだ。その時から、独自の人材集めと転生者探しを進めていたらしい。そこに俺が引っ掛かったというのだ。
「しかし、なぜ私が転生者であると考えたのですか?特に変わった行動をした覚えはありませんし、無作為というわけではないでしょう。」
「さすがにいくつかの理由があった。主に二つが転生者に共通した部分だ」
デラーズの主な転生者探索基準は以下の2点らしい。
①転生者の大半は、後世転生時に入れ替わるのか記憶が統合されるかに分かれるため、記憶が混濁し たり、記憶喪失気味になることが多いらしい。
②前世経験者の大半が入れ替わった後と前とでは態度や行動が劇的に違うことが多いらしく前後の経 歴と成果を比較すると意外に絞りこみやすい。
言われてみればわかる気がする。俺自身もあるレポートを書くようになったのは転生後のことだ。
『MS hope』と呼んでいるもので、熱心な後輩からは続きが欲しいと強請られることもあるモビルスーツの展望と次世代の考察概案をまとめているものだ。・・たぶんこのあたりがデラーズの探索網に引っ掛かったということだろう。ただ、どこから漏れたのかは不明だが。
俺もデラーズも基本的には生粋のジオン軍人である。
それ故に、祖国への忠誠も強固な覚悟も疑う余地がないため話はすぐに重要な内容とそれに関連する確認の話しになっていったのは自然であったかもしれない。
それは、今後起きるだろうジオン公国を破滅に導く『一年戦争』についてであった。
デラーズは前世の記憶をもとに、この世界の歴史が前世よりもかなり早く進んでいると話始めた。
確かに、その傾向はあったのだ。
前世ではドズル・ザビとキシリア・ザビが政治と軍事で主張が分裂し『宇宙攻撃軍』と『突撃機動軍』が生まれたのはUC0078年のことである。だが、この世界ではすでにその兆しが見え始めていたのだ。この後世では、リシリアが『戦機隊』の規模拡大に乗り出しているし、ロズル・ザビはそれとは別に『襲撃専門部』なる部署を立ち上げようと人材を集めていると聞いていたのだ。
(名称にはいろいろ突っ込みたかったが、そこは我慢したのを覚えているぞ。かなり厳しかったが)
だが、さらに驚くべきことをデラーズが話したのはその後であった。
「実は私も、ジレン閣下の基で『黒鉄会』という人材交流会を開いている。」
正直驚いた。前世でギレンは『ペーネミュンデ機関』というプロパガンダ専門部署や親衛隊はもっていたと聞いていた。だが、人材交流会という話は一切出ていなかった。
一部兵士の間では親衛隊以外に子飼いの実行部隊を持っているのではという憶測もあったが、確証はなくデマと割り切られていた。
「ジレン閣下も私兵設立に動いているのですか?」
「厳密には少し違う。私がジレン閣下に進言した。リシリア派、ロズル派双方の仲介と情報収集を行いやすくなるので是非と。」
そう言えば、史実でもギレンがキシリアとドズルの仲介を行ったといわれている。その結果、先に述べた2つの軍ができることになったと。だが。
「仲介だけでしたらそのような交流会はむしろあってもなくても変わらないと思います。それに、情報収集に関してもいささか危険です。曲がりなりにも、ザビ家親族がそれぞれトップの派閥にスパイまがいの行為を推奨する場を公然と設けるというのは。」
この世界ではわからないが、前世のキシリアはア・バオア・クーで実の兄であるギレンをその手にかけている。父殺しを行った相手とはいえ戦争中、まして指揮を執っている時に平然とそれをやるような女だ。正直、暗殺・謀殺の機会を与える可能性のほうが高いと考えてしまう。
「先に話した会の目的は設立のための建前みたいなものだよ。それは副産物のようなもので実態は違う。」
デラーズは声を低くしながら話を続けてくる。
少し、気になる流れだ。転生前のデラーズは熱烈なギレン信者と思っていた。
『ブリティッシュ作戦』への理解やギレン暗殺への憤りがそれを如実に表している。だからこそ、ジレンにすら建前を使い分けてまで『黒鉄会』を設立したデラーズの話が気になった。
「この会の参加者は大半が君や私と同じ者たちだよ。」
「転生者はそんなにいるのですか!?」
「君が思うより実は多いのだ。ただ、自覚がある者もいればない者もいる。」
さらに話を聞くと、時代までまちまちであるらしい。前世では整備士だったもの、地上戦参加組、果てには私が知っているよりはるか先の未来から転生してきたものまでいるという。
しかも、我々みたいにUC0083から来たものだけでなく、UC0100年以降の者までいるから驚きである。
「その者たちの話を分析・検討した結果、このまま時が進み連邦との開戦となれば勝敗とは関係なく我がジオンは滅びる公算が高いという結論に至った。」
「な!?」
「君には隠さずに話すが、我々が行った『星の屑』が問題を助長させたといってもいい。」
デラーズの話は衝撃的なものであった。
私たちが死んだあと『星の屑』はジオン残党、ひいてはコロニー居住者の抗議としては認知されなかった。
連邦政府はコロニー落下を輸送中の事故と発表、観艦式への決死の核攻撃は宇宙移民者への監視・弾圧が不十分であったという世論をねつ造する材料に使われたという。しかも、これを契機に地球に残っていたジオン残党勢力は苛烈な掃討・殲滅にさらされることになる。いわゆるティターンズの台頭である。
アクシズが戦力を結集・決起する頃にはほとんど組織として活動できる力を失ってしまったらしい。
しかも、そのアクシズを率いるミネバ・ザビは摂政であるハマーン・カーンの傀儡。その後、新態勢での支配権を巡り内部分裂が起きたために自壊した。その後、『シャアの反乱』が起きて一時は盛り返したが結局、失敗したらしい。
「そんな。では、私たちの行動は無駄だったというのですか?」
「無意味であったとは思わない。だが、今考えるとやり方がまずかったというのが我々の見解だ。私もそれを知ったときはショックだったよ。・・ある転生者には、『ほかに方法はなかったのか』と罵倒交じりに泣かれてしまった。あれは堪える。」
確かにショックであった。
無意味だったとは思わない。当時の連邦政府は勝者としておごり高ぶっていた。
それを体現するように作り出されたのが『核弾頭搭載型ガンダム』であったと考えている。
そして、コロニー市民を軽視した行動としては核攻撃の対象とされた観艦式があげられるだろう。
軍や艦船、モビルスーツの維持費は決して安くない。であるにも拘わらず、一年戦争終結から3年ほどしかたっていないのに軍を見せびらかすようなパフォーマンスを行う理由。
コロニー居住者・ジオン残党への脅しと傲慢。見過ごせばどうなるか、予想はつくし我慢できることではなかったと思う。そう、思いたい。
それでも、自分たちの行動が差別や弾圧の呼び水になったことを聞かされた俺は立ち直るのに少し時間が必要だったと思う。だが、デラーズは話を続けて俺の精神を現実に立ち返らせた。
「いつまでも後悔していても建設的ではない。ならば、反省してこの後世に生かすべきと私は考えている。そのために、君の協力がいるのだ。」
「私は、前世も今も一パイロットにすぎません。」
「だが、前世で経験したことを覚えているのは大きい。現に君が後輩に与えている『レポート』はうちの会でも好評だ。謙遜することはない。」
どうやら、『レポート』は後輩から技術者経由で各所に出回っているらしい。・・内緒にしろと言ったのに!かわいい顔して迷惑を呼び込んでくれたと思う。心中でその後輩のことを考えた。
(あいつは後でシバキ倒す!)
「私も一読させてもらったが、君の考察は興味深かった。それに時代加速気味のこの世界でこそ実現可能な内容も多い。だからこそ、君と話している。」
「私にその『黒鉄会』に入れというのですか?」
「『入れ』とは言わない。見に来るだけでもいい。決して君の損にはならないと考えている。」
今までは、『変えていきたい』と考えてはいても、『何をするか』は思いつかなかった。
故に先ほどのデラーズの言葉には魅かれるものがあったと思う。
(『後悔』より『反省』か)
ひとまず見学という形で俺は『黒鉄会』とやらを訪ねることにした。
あ、ちなみに軍務に関してはデラーズから事前許可という形で解放されたので会話の後、直接向かうことになったのは蛇足であろう。
戦術機動大体⇒戦機体 と略しました。
後、誤字を修正しました。
wi○○や他所のサイト情報の鵜呑みは危険ですね(-_-;)。