新生したジオン国内。円卓議会では現在、閣議の最中であった。
戦時下で初となる全閣僚の顔合わせである。
当初、軍改変後に顔合わせを行う予定であったが、『ルウム戦役』を円滑に進めるために軍から延期を進められていた故の今日である。議会の司会進行役としてデラーズが口を開く。
「みなこの国のために働く心ある同志としてまずは俺を言わせていただきたい。忙しい中、時間を割いていただき感謝いたします。今回は、閣僚全員の定時連絡会と考えていますので軍・民関係なしで自由に発言していただきたい。と言っても最初の取っ掛かりが無いでしょうからまずは私から。ミノフスキー博士。各教育機関の様子はどうでしたか?」
「やはり優秀な方が多いです。科学者として新しい考えに触れる機会が多く刺激になります。今後が楽しみな若者ばかりですよ。」
「それは何より。ビシバシ、若い連中を鍛えてやってください。ライリー代表。各コロニーの治安はどうですか?」
「新たに導入した『平和維持警察』が機能しています。暴動やテロは起きておりません。ただ、警察内から名称変更の要望は多いようですが。改変案を一般に求めますか?」
ライリーは苦笑しながら、議場内に報告する。
名称に関しては時間がなかったのでライリー代表に決めさせたのだが。
「それは国が落ち着いてから決めればよいでしょう。機能しているなら今はそれでいい。カーン代表が提案してくれた国内維持機構は参考になりましたな。」
「私は内政に関連する政務を受け持つ身です。一番、各所と関わりあうことが多いだけです。特に軍の支出はもっとも頭の痛い悩みの種です。」
カーンの一言はデラーズには痛い一言だが、戦時下ではどうしようもない。
「それは本当に申し訳ない気持ちですが、戦時下である以上は」
「わかっております。我々の給与を大幅に削減したり税金を上げる方針です。無論、それだけでは『焼石に水』ですから、貿易や資源採掘などの平均収入を上げるようにしていくべきだと考えています。」
「その際、一部の役職や職業だけでなく国民全体の収入も上げるよう調整してください。生活が困窮しているという圧迫感は閉塞感につながり、ひいては経済全体の混迷につながります。」
「承知しております。現在、資源代表と協議して対策を立てております。」
「では、そのグライド代表。国内資源の確保はどうなっていますか?戦争が長引けば自給自足できるものはしていかなくてはなりませんが。」
「鉱物資源は資源衛星の開発を進めており、一部の鉱物資源は余裕があります。食糧確保に関しては、現存するコロニーから農業用コロニーへの変更調整をすることで補う算段を立てる計画です。他の物資については他のサイドとの交易で互いに循環させるべきと相手と交渉していただいております。」
前世において、コロニーの中には廃棄されたものや環境調整の問題がある場所もあった。
たとえば『テキサスコロニー』などはその最たるものだろう。
荒廃した砂漠が広がるコロニーにどのような生産性があったのか謎である。
そのように残るくらいなら調整・改修を進めて食糧生産用に利用したほうがまだしも生産性があるといえる。前世と違い人員もある。
「では、ロスター代表。各サイドとの外交状況はどうですか?軍の駐留や物資交易など多分に負担があると思いますが。」
「『サイド5』の各代表たちは意外に好意的です。自分たちのコロニーに軍を駐留することまで許可してくれました。ただ、やはりもっとも遠い『サイド7』は」
『サイド7』は『ルナⅡ』にもっとも近い。連邦にとっては管理が容易なサイドの一つだろう。その結果、『サイド7』は連邦よりの態度をとることは予想できた。
「そうなると『サイド7』の連邦軍基地化の可能性が高まりますな。」
「私は軍のことはわかりませんよ。ただ、話を聞いていると『サイド7』の民間人は一定のコロニーへの強制移住をさせられたと聞きました。」
「強制移住?隔離でもしているのか?」
「いえ、どうやらいくつかのコロニーを連邦軍が整備目的で接収したと聞いています。」
『ルナⅡ』だけでは心もとないと考え、新たな軍拠点として接収したと考えた方がいいだろう。
そうなると、月の『フォンブラウン』に対しても警戒しておいた方がいいかもしれない。
あそこはアナハイムの拠点だ。中立をうたっているが、連邦よりに傾く可能性が高い。
『グラナダ』へ警戒するように働きかけておく必要がありそうな状況であった。
「とりあえず、他のサイドとの関係づくりと貿易の確保。それを続けてください。」
「ええ。あといささか気になるのが『サイド2』です。あそこは、完全に中立を貫く方針のようなのですが、こちらへの敵意が交渉中にもにじみ出ていました。あそことの貿易もかなり部分的なものに限定されると考えておくべきでしょう。」
『サイド2』。前世では『ブリティッシュ作戦』のコロニー確保で犠牲になったことで有名だ。ただ、この後世ではそこまで関係が悪くないはずである。だが、コロニー間の友好と貿易を推進している中で態度を逆に硬化させていっている。
(連邦からの自治権確立のためなら協力的になると思っていたのだが、いささか予想と違う。どうもあそこは別の思惑を抱いていると見た方がいいだろう。情報部やグラナダに詳細な追跡調査をさせるとしよう。)
デラーズは議会場の話をまとめながら思案を巡らせる。
ただ、連邦に対処するために進めていたことを確認しておく必要がある。
そのため、このメンバー最大の問題児に質問を投げかけた。
「ゲニアス代表。そちらが進めていた計画の進捗状況は?」
「はい。我が『アプサラス計画』は順調です。デラーズ代表が資金を回してくれたので開発そのものが非常にはかどっております。感謝してもしたりません」
「開発過程の技術は有用無用にかかわらず、軍部に報告していただきたい。MA技術は今後、別の使い道が出る可能性がある。またその際、逆に軍から計画に使える技術を提供できるかもしれない。」
「はい。むしろこちらからお願い致します。」
ゲニアスは心底うれしそうに笑顔を浮かべている。
だが、その眼には狂気の色が見える。
本来、この男に技術代表を任せるのは危険だが少なくともあるものが完成するまでは彼に任せる必要がある。デラーズは実質、その間は2部門の管理をしなければならないと覚悟を決めていたのである。
『アプサラス計画』。
前世ではギニアス・サハリンが行っていたMA開発の呼称だ。
このMAは連邦拠点であるジャブローを直接攻撃するために考えられていたものである。
宇宙から敵戦艦防衛ラインを突破。ジャブローに向けて大気圏へ降下後、大型のメガ粒子砲を用いて基地を破壊するというものだ。
だが、前世では結局間に合わなかった。機体事態は一応の完成を見たが電力不足の解消のためにドムのジェネレータ3機を無理やり直結して形にしたものだった。
だが、この後世では別の使い道が既に構想としてある。連邦軍との停戦交渉が進まない場合に考えている二次作戦である。
作戦名『七星作戦』。
デラーズと『黒鉄会』メンバーのごく一部で構想され、現在は細部を詰めている作戦だ。
ただ、それを可能とするためにゲニアスの知識が必要不可欠となり、現在に至っている。
もっとも、できれば避けたい作戦でもあった。
この作戦自体の効果は大なのだが、停戦そのものは遠のくものであるためだ。
だが、それでも進める必要もあるのが現実である。
(ジオンの存続とサイド自治を確固たるものにするために。連邦に屈服するわけにはいかないのだから。)
デラーズは政戦両面で難しいかじ取りを今後も迫られることを感じていた。