第二十二話 任地と哨戒
連邦内で生贄の儀式に似た謀略が繰り広げられていた頃、リーガン達はそれぞれの任地についたところであった。
リーガンが配属されることになった第05哨戒艦隊は、サイド5宙域の駐留艦隊の一つである。
構成は以下の通りで、MSと新旧戦艦の混成艦隊と言っても過言ではない。
旗艦 ムサイ級巡洋艦改修型『メルバルン』
随行① ムサイ級巡洋艦(未改修)『レキサス』
随行② ムサイ級巡洋艦(未改修)『バードシック』
MS ドムB型 2機
リーガン専用機 1機
ザク改修型 9機
である。ちなみに俺は旗艦随行部隊の隊長として配属されている。肩がこるので嫌だったが、仕方ない。随行艦2隻が改修されていないことは最初訝しんだが、理由を聞いて納得した。
この2隻は、もともと軍の練習艦として使われていたらしいのだが、各所に警備・駐留目的で艦船を振り分けた結果、改修した艦だけでは不足する事態となった。
そこで、まだ未改修の船を回したらしい。
無論、随時改修が行われるし鹵獲した敵艦も利用予定なのでそれまでの辛抱とのことだった。
それに、『メルバルン』の艦長はリーガンの先輩が認めている人物の一人だ。
名前は『ベルゼ・スズキリ中尉』。今回、リーガンの副官も兼任しているが、かなり堅物な男で冗談が通用しないのが初日で判明している。上官であるリーガンに佐官が何たるべきかを永延と3時間説教するほどの怖い者知らずでもあると既に艦内では有名だ。
もっとも鹵獲した艦艇の内、マゼラン1隻とサラミス2隻はグラナダに曳航されたと聞いていた。
それを知った時、また、後輩が何か企んでいると容易に想像できたがデラーズからも快諾されていると聞いたので文句は言えない。今日では、必死に忘れるよう努めている。
ただ、それを脇に置いても現状は平穏そのものだ。俺たちは戦場からやや離れた宙域の警備を行っているが、今のところは接敵が無い。
(今はこんなだが、今後はこのあたりの警備体制を考えていかなくてはならなくなる。人員もそうだが、艦船をどのように割り振るかも問題だな。・・いっそMAあたりを随所に配備するとかも妙案かもしれない。技術的な方面は後輩と協議だな。直接は関わりたくないのでガトー経由で案を流してみよう。)
連邦軍が本格的に動けないこの半年が重要であるため俺もついつい考えてしまう。
「隊長。そろそろ『レキサス』のMS部隊と交代の時間です。」
「ああ、そうだな。向こうのMS収容前に発艦して周辺の警戒を行う。準備をさせておいてくれ。」
「了解です。」
戦争中に警戒することは連邦だけではない。典型的な海賊もいる。
特に多いのは連邦軍兵士の残党が敵前逃亡後にこのあたりに居座り、海賊化することだ。
俺の配備箇所ではまだないが、他の艦隊では2、3度ほど戦闘になっている。注意が必要だ。
「全員搭乗完了。いつでも行けます。」
「各自発進後、周囲警戒を開始せよ。場所はミーティング通りに。」
「隊長。定時偵察は今回誰がやりますか?」
定時偵察。本来は小型艇やモビルワーカーで代用したい作業であるが、戦時下である以上偵察がそのまま戦闘になる事も多い。そこで、この艦隊ではMSを常時3機周辺警戒させ、1機を次に移動予定のポイントに事前偵察として出すことにしている。それを定時偵察と我々は呼んでいるのだ。
「今回は俺がいこう。俺抜きでも周囲警戒任務ぐらいはできるようになってもらわんといかんしな。」
「十分できていると思いますが。」
「それは周囲警戒中に監視ポイントを間違えないようになってから言え。昨日だけでそれぞれが2回ほど誤認していたんだ。その反省もかねて今回はお前らに任せる。」
「すいません。・・ただ、定時偵察は本来は僕たち部下の役目なのですが。」
「気にしているなら仕事をこなしてくれることで帳消しにしてやる。それに、機体の試し乗りも兼ねている。とにかくここはしばらく任せたぞ。」
「了解」
俺はそう言って、旗艦からMSを駆って前方宙域に機体を進める。
改めて乗ってみると今の俺が乗っている機体の加速・旋回は申し分ない。
現在使っている機体は、後輩制作の機体ではない。あれは破損がひどいためにまだ修理中とのことだ。嫌な予感がするが目を瞑っている。
そんな俺に代用として軍が送ってきたのが次世代型の試験機だった。あくまで性能追及型の試作モデルなので量産目的ではないらしいが現状では軍内部で最高クラスの基本スペックを持つ機体とのことだ。
前世では遅すぎた配備が惜しまれ、今少し早く量産されていれば戦争の結末が変わっていたといわれるMSである『ゲルググ』である。
もっとも、この後世ではまだビームライフルは装備されていない。性能は以下のようになっている。
ゲルググA(アサルト)
主武装 ヒートサーベル
120mmマシンガン
補助 ナックルシールド(簡易装甲)
前世のシーマ艦隊随伴MSであるゲルググMに近い機体である。
実弾装備系統にすることでザク系装備との共有が容易であり、整備面が大幅に簡略できると期待されている。また、ヒートサーベル喪失時に両腕の増設簡易装甲を用いた近接格闘も可能となっている。
本来はヒートナギナタの採用が考えられていたが、実用性と量産性を考えてヒートサーベルを採用することになった。だが、機動力は例の『リックドムモドキ』と同等。
いや、それ以上にまで引き上げられている。
(火力は落ちたみたいだが、機動力は断然こっちが上だ。実にいい!)
ジグザグ運動や武器の切り替えを繰り返してみるが基本動作が非常にスマートに行える。
これが量産された時の状況は大きいと正直に感じていた。
そんな時、モニターの一つが奇妙に気になった。そこにはデブリがあるのだが、問題はその後方だ。
近くにサラミスの残骸があるのだが、MSらしき影が見えるのだ。
(海賊か?いや、それにしては)
そう、それにしてはものすごい腕の持ち主だったのだ。
デブリを避けながら移動しているようなのだが、避ける瞬間にその機体がデブリと接触しているように見える。だが、激突ではなく機体はさらに加速して同様の動作を繰り返しているではないか。
(・・嘘だろう。デブリを足場にして高速移動と方向転換を行っているのか!?)
ついボー然とそれを見ていたらその機体が突然止まった。よく見ると発光信号が見える。
我に返ってそれを自動解読プログラムにかけるとそのメッセージが画面脇に表示される。
『我、友軍。任務の邪魔を謝す。現在、ジオニック社の実験機運用テスト中。これよりただちに宙域より離脱するので容赦願いたい。 第零実験小隊』
第零実験小隊。その名称には聞き覚えがある。
俺が、転生したときにジオニック社の試験パイロットとして一時所属していた。
軍内部での知名度はそれほどではないが敵味方識別では友軍と認識されている。
(ジオニック社の連中。ここまで出張って試験してたのか。だが、ここは最前線にあたるので帰還後に注意するように連絡を入れておくべきだな。・・ただ、すごい腕だったな)
あれがパイロット自身かMSの性能による補正があったかは特定できないが、恐ろしい腕前なのは違いない。どこの誰かを調べる必要があると俺は心に留めておくことにした。
後にそのパイロットが、隊内で『スピードホリック』という渾名で知られているパイロット『ドゥーエ・ブリューナク』であると教えられた。
ドゥーエはイタリア語で2を意味するらしい。
さらに後、デラーズからこの名前が偽名であり、彼の本名が『キャスハル・レム・ガイクン』。
つまり前世ではシャアだった人間だとわかるのは少し後のことであった。
後世シャアの名前に関して返信をいただいたので補足させていただきます。
後世では キャスハル ⇒ ドゥーエ と偽名を変えています。
作成の過程で原作と同様、本名 ⇒ ウーノ ⇒ ドゥーエ と偽名変更ごとにしていこうかとも考えましたが、後世では彼の認識部分から違っているとしています。
結果、彼の認識では 本名(一番目) ⇒ ドゥーエ(二番目) と本名を含む番号付をしているということにしました。そこを含める話題は別話でも考えていますのでご期待いただけると幸いです。