【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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第六話。なのはさん(28)の衝撃

“――シロ、貴女が私の鞘だったのですね……”

 

「ん~。このセリフが下ネタにしか聞こえない私って、人としてどうなのかな?」

 

「……終わってると思います」

 

“一度、病院に行ってみた方がいいかと……”

 

「二人とも酷いっ!?」

 

 

 私の名前は高町 なのは。

 極々、平凡で普通な8歳の凄くピュアぴゅあな女の子です♪

 え? 何を気持ち悪いこと言ってるんだって? ……うん。確かに言ってはみたものの、正直これはないなって自分でも思った。

 

 でもでも、私って結構純情系ではないかとも思うんだ。

 ほら、脇目も振らずに彼一直線な感じとか? まさに尽くす女の体現とも呼べないこともないよーな気がしたりもする。まぁ、少し空回りしやすいことは完全には否定できないけどね、えへへ。

 さて。そんなことを考えている私は只今、天使のような白い服を纏いながら夜の空を華麗に舞っていたりします。しかし、それは当然彼氏との夜間飛行なんていうロマンティックなものでは決してありません。

 最近はちょっと忘れていた私のもう一つの顔、魔法少女のお仕事のためなのです。

 

「■■■■■■■――――っ!!」

 

 追って来るのは、犬なのか何なのか良くわからない四足歩行の黒い化け物。所謂、ジュエルシード暴走体。正直、もう少し可愛ければ良いのになぁと私は暴走体の突撃を避けながら思っていた。

 そう私の今日のダンスパートナーは彼なのだ。これがミっくんだったのなら一体どれだけ私のテンションが上がることか……。

 

「はぁ、世の中って本当に儘ならないよね……」

 

 深夜に突然現れたジュエルシード反応。

 流石に今回は寝過すわけにも行かず、眠い目を擦りながらの深夜出勤。

 前回の失敗があるから、起こしてきたユーノ君に八つ当たりも出来ないというジレンマ。しかも“彼氏育成計画”の作戦を練ってみたものの、行動を開始するのに後何年か掛かるという衝撃の事実に気が付いてしまった私は、かなり憂鬱な状態だった。

 とは言え、さっさとコレを片付けないと明日の学校に差し支えてしまう。前にも言ったけど、睡眠不足はお肌の敵なのだ。油断するとすぐに……ぶつぶつぶつぶつ。

 

「なのはさん! 後ろっ!」

 

 そんなことを空中で静止し暢気に考えていると、ユーノ君の大きな声が聞こえてきた。そして、それと同時に私に迫って来るジェルシード暴走体の凶悪な爪。……でも何も問題はない。寧ろ計画通りだ。

 

「砲撃に難しい事は何も要らないの。ただ、ぎゅっと敵の足を止めて……」

 

“Restrict Lock”

 

 まるで誰かに講釈するように私は言葉を紡ぎつつ、暴走体の四肢の動きを封じる。当然、暴走体はそれを外そうともがき、叫び声を上げるわけなんだけど……逃げ出す時間なんて与えない。

 はっきり言うと私はまだ眠いのだ。眠くて若干イライラしているのだ。それに子供は成長の為にも九時には寝なくちゃいけないとも思う……深夜アニメを見ていたことに関してはノーコメントで。

 

「どっかんと撃ち抜く!」

 

“Divine buster”

 

 だから半分くらい八つ当たりを込めて、私は砲撃をぶっ放した。私の声と共にレイジングハートが声を上げると、桃色の砲撃が暴走体を瞬く間に飲み込む。そして暴走体は苦しみの声を上げることもなく、ただ静かに消えていった。残されたのは、取りつかれた野良犬らしき姿と青く光るジュエルシードだけ……。

 はい、これで本日のお勤めは終了です。ちょっとというかかなり呆気ないけど……終了です!

 

「むぅ~、何か目が覚めちゃった」

 

 ジュエルシードをレイジングハートに収納した後、私はそう言葉を漏らした。早く帰って寝たかったからささっと終わらせたんだけど、逆に目が冴えちゃった。う~ん、砲撃を撃ったのは少し失敗だったかも。でもだからって、このままフェイトちゃんが来るのを待つのは面倒臭いから帰るけどね!

 

「それに、これでやっと六個目……」

 

 私が前の物を手に入れてからもう二週間以上が経っている。なのに、まだ私の収穫は一個って……はぁ、かったるい。そりゃ確かにフェイトちゃんも頑張って集めているわけだし、猫ちゃんの時は譲ったし、この前は私のミスで寝過したわけだから仕方がないのかもしれない。だけど、それにしたってこのペースは遅いと思う。

 何度か広域検索を試してみたけど、疲れるだけであんまり効果はなかったしなぁ。もうっ、本当に発動していないジュエルシードは見つかりにく過ぎだよ! ああ、早くアースラが来ないかなぁ。そうしたら、私があっちこっちを探すよりも断然効率が良くなるのに……。

 

“マスター、お疲れ様です”

 

「お疲れ様です、なのはさん!」

 

「ん~、二人ともお疲れ~」

 

 私がアースラの来訪を心待ちにしていると、二人が労いの声をかけてくる。それに軽く笑み向けながら返事をし、私は良い探索の方法を考えていた。何かないのかなぁ。三人で出来て、もっと効率の良い作戦……主に私が疲れないような作戦。

 メンバーは私、レイジングハート、ユーノ君の三人。私を除けば二人。でもレイジングハートはデバイスだから実質、ユーノ君一人。ってああ、なるほど~。

 

「うん、良い方法を思いついた!」

 

 私は思わずぽんと手を叩く。

 そう、私は思い付いてしまったのだ。私が疲れないで良く、しかも効率的な方法を。やばいっ、こんなことを思いついてしまった自分の頭脳が恐ろしいっ! でもこれは実行するべしだよ! というわけで……。

 

「ユーノ君、君に決めたっ!」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 さてさて。楽しいはずの温泉旅行ではちょっとしたアクシデントもありましたが、結果的にはお母さんや忍さんと仲良くなれたので良しとしました。というか、そうとでも思わないとやってられないっていう……ね。

 まぁ、今まで私達三人の仲が別に悪かったというわけではないんだけど、やっぱり裸の付き合い効果は絶大なのか、更に私達は仲良くなりました。具体的に言えば……。

 

「あっ忍さん、それロンです!」

 

「ええっ!? なのはちゃんまたぁ!?」

 

「な、中々やるわね、なのは……」

 

 あれからちょくちょく女子会的なノリでがーるずとぉーくが開催されるくらいに。あーちなみに偶に麻雀とかして遊んだりもしています。お母さんが三十代。私は(中の人)二十代、忍さんが十代。見事に年齢が皆バラバラです。だけど、それが何故かいい感じのハーモニー(と書いて暴走と読むかも?)を奏でてくれたりするから侮れない。勿論、アリサちゃんやすずかちゃん達とのおしゃべりも楽しい。でも、それと同じくらいに二人と話をするのが私は楽しいと感じていた。

 

 それに忍さんはお兄ちゃんと結婚すれば、私の義姉、お母さんの義娘になるのだ。仲が良くても何も問題はないし、寧ろ家族となるのだからこっちの方が良いとも言える。

 

「うぅぅ。私、ルール知らない……」

 

 何か隅っこでお姉ちゃんがしくしくと泣いているのが見えたけど……うん、気にしたら負けだね! ああ、ちなみにこんな感じでもジュエルシードについては何も問題はありません。

 だって、街には自動探索機フェレットサーチャーを放っていますからね!

 

「……(きゅぴーん)はっ、今誰かに期待された気がした!」

 

 私の考えだした作戦。

 それは自分で働くのが嫌ならユーノ君を働かせればいいじゃない! という素晴らしいものだった。これにより私の疲労度は軽減され、しかもユーノ君も活躍の場が増えるという正に一石二鳥なアイデア。ふふふ。我ながら自分の頭脳が心底、恐ろしいよ。

 

 

 

 

 連休が明ければ平日がやってくる。平日になれば小学生は学校に通わなければいけない。そんなこの世の理に従い、私はすこぶる低いテンションのまま今日も学校へと向かった。

 本当に小学生と魔法少女の二足の草鞋は大変だ。まぁ、昨日からはユーノ君が頑張ってくれているからかなり楽にはなったけれど。それでも私が毎回休むわけにもいかないので、結構大変なのである。しかし、そんな私の頑張りを神は見放さなかったらしい。

 アリサちゃん達と旅行中のことなど(ニ日目は普通に楽しみました)を話しながら昇降口に向かい、自分の下駄箱を開けてみると何とそこには驚くべき代物が置かれていたのだ。

 

「っ、これはっ!?」

 

 一瞬だけ呆然としてしまったけどすぐさま冷静になり、私はその代物をそっと鞄の中にねじ込んだ。……こ、これはアリサちゃん達にも見せられないっ。というか、なにこの素敵イベント!? 昔にはこんなのなかったよね!?

 

「ん? どうしたのよ、なのは?」

 

「どうかしたの? なのはちゃん?」

 

「にゃ!? にゃ、にゃんでもにゃいにょ!?」

 

 その様子を見て不思議そうな顔を向けてくる親友二人を私は華麗に誤魔化し、私は笑みを浮かべる。しかし、頭の中はかなり混乱していた……いや、フィーバーしていたとも言えるかもしれない。

 私の下駄箱の中に入っていたもの、それは何とラヴレターと思わしき手紙っ! ここで重要なのはラブではなくラヴな所。僅かな違いではあるが、個人的には凄く重要なポイントだったりする。いやいや、落ち着け私。まだラヴレターとは決まってないんだ。

 

「いや、明らかに動揺しまくりじゃない」

 

「なのはちゃん、噛み過ぎだよ」

 

「ふぇ!? い、いや、本当になんでもないよ、あ、あははは! あ、あー、私ちょっとお手洗いに行ってくるから、二人とも先に教室に行っててね!」

 

 私は二人にそう言うとすぐにトイレへと走っていった。無論、手紙を一人でこっそり読むためである。それにしても、あの華麗な誤魔化しを見抜くとは、幼いとはいえ流石私の親友達……侮れない。だけど、この手紙を二人に見せるわけにはいかないのだ。

 えっ? 何で見せれないのかって? ……だ、だって本当にラヴレターだったら恥ずかしいもんっ!

 

 

 急いで女子トイレに入り、個室の鍵を閉めるとゆっくりと鞄の中から白い封筒に入った手紙を取り出す。表にも裏にも残念ながら何も書いていなかった。つまり、開けなければ何もわからないということだ。

 

「やばい。何かドキがむねむねしてきた……」

 

 私は激しく音を立てる心臓を落ち着かせ、何処かのクレヨンな幼稚園児みたいなことを口走る。勿論、ラヴレターだったら私の答えは決まっている。何と言っても私には“ミっくん”がいるのだ。こんな所で浮気をするつもりなんて微塵もない。

 

「で、でもまぁ、読まないのは相手にも失礼だよね!」

 

 べ、別にどうしても読みたいわけじゃない。このままぽいっと捨ててもいいのだ。でもほらっ、やっぱり書いてくれた人に悪いもんね!

 私はそう誰かに言い訳をしながら恐る恐る封を切り、手紙を読むことにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

高町へ

高町に凄く大事な話があるんだ

放課後、屋上で待ってる

 

           田中山 太郎

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……ふふ、ふふふふっふふ♪ あは、あはははっはは♪」

 

 来た、来た、来たよ!! 私の時代が来た!

 学生なら誰も喜ぶ素敵イベント……下駄箱にラヴレターだったぁぁあああ!! えっ、マジで? なにこれ? やだ、超テンション上がって来たんですけど!

でもでも、これはやっぱりアレだよね? 昔にはこんなイベントはなかったってことは、今の私だからってことだよね? ということはつまり……。

 

「今の私からは何やらアダルトな雰囲気が滲み出てるのかも。大人の色気って奴とか。むむむ。お母さん、なのははモテ期に突入したようです!」

 

 人生に三回はあると言われているモテ期。はっきり言って“アッチ”ではそんなの時期があった覚えがない、つまりはコッチでは六回来るはずだ! そして、その一回目が今ということなんだね、わかります!

 しかし、電子化が進むこの時代にメールでなくラヴレターか。

 しかも呼び出し場所が屋上……田中山君、君はかなりわかっているね! こういう古き時代の良き文化を大事にしているその姿勢には凄く好感が持てるよ、えへへ。

 

「あーやばい。何か顔のにやけが直らないよ、ふふふ」

 

 結局、緩みっ放しの私の頬が直ったのはHRの本当にギリギリのことだった……。

 

 

 

 

「では、皆さん。最近は変質者が出るらしいので、くれぐれも気をつけて帰って下さいね」

 

『は~い!』

 

 帰りのHRが終わって、放課後となった。この後、屋上に行けば田中山君が私を待っていることだろう。確かにどうせ断るのだから私が屋上に行く必要は何処にもない。でも、私は行こうと決めていた。

 べ、別に告白されたいなーなんて思ってない。ただ、待ち合わせ場所に行くのはラヴレターを書いてくれた人への最低限の礼儀だからである。うん、それだけだもん。

 

「ごめん、なのは。今日、私達お稽古があるから一緒に帰れないのよ」

 

「なのはちゃん。先生も言ってたけど、変質者が出るらしいから帰りは気を付けてね?」

 

「うんっ! 二人ともお稽古頑張ってね!」

 

 私は笑顔でそう返し、二人を見送った。こう言っては大変アレだけど、正直ナイスなタイミングである。でも変質者、か。やっぱり春だから湧いて来ちゃったのかなー。教室でそんなことを考えながら五分程時間を潰した私は、ゆっくりと屋上へと向かうことにした。

 

 

「た、田中山君?」

 

 夕陽でオレンジ色に染まった屋上は昼休みとは何処か違った雰囲気を持っている。高い所だからか、少しだけ吹き抜ける風も強いと感じた。下を見渡せば、何人もの下校している生徒の姿がよく見える。

 

「あっ高町、来てくれたんだな」

 

 そんな屋上で一人、フェンスに背を預けている男子の姿があった。

 隣のクラスの男子。野球部のエース、田中山 太郎君。

 野球少年らしいイガグリ頭な彼は、よく朝にバス停前でシャドーピッチングをしている事で有名だ。えっ? 野球の腕前はどうなんだって? ……うん、ほらウチの学校は特にスポーツとかに力は入れてないから……察してあげて。

 

「う、うん。来ちゃいました……」

 

「そ、そっか……」

 

 私達はそれだけ言葉を交わすと、何とも言えない沈黙が訪れてしまう。あれれー? 何だろうこの空気。断る気満々なのに、何か非常に照れくさいよ? 何故か田中山君の顔を直視できないよ? というか、未だ嘗て私が体験したことがない様な学生特有の甘酸っぱい空気が流れてますよ!?

 ど、どうしよう……いざ、告白されると思うと凄くキンチョーしてきた。で、でもここは年上の私がリードしてあげないとダメだよね。

 

「そ、それで、今日はどうしたの? こんなの所に呼び出したりして……」

 

「あ、ああ。実は……」

 

 言葉の途中で大きく深呼吸をし出す田中山君。その顔はもう熟れたトマトのように真っ赤になっていた。かくいう私も若干頬が熱いかも。ご、ごめんね、ミっくん。でもこれは浮気ではないの! なのはの心は常に貴方と共にあるからっ!(注:相手は一歳である)

 

「あ、あのさ、高町。実は俺……好きなんだ」

 

 キ、キタ――――!!

 告白タイム、キタ――――!!

 キャー! やばい、何だろう、すっごく恥ずかしいよ、これ!?

 意を決した田中山君の発言で、私のテンションは急上昇の天元突破のリミットブレイク。今なら何の反動もなく、ブラスタースリーでバスターを連発出来る自信がある。しかし、それも続く彼の発言までの僅かな時間だった……。

 

「……バニングスのことが」

 

「ふぇ?」

 

 ぱたりと私の時が止まった。

 かちりと私の身体は石のように固まった。

 ぴゅーと私の心に冷たい木枯らしが吹き荒れた。

 一瞬だけ、私は刻が見えた。

 

「でも、直接言うのが恥ずかしくてさ――――」

 

「……………………」

 

「――――だから高町の方からバニングスに伝えてくれないか?」

 

「……………………」

 

「それから出来ればバニングスのアドレス教えてくれると嬉しかったり……って高町、聞いてる?」

 

 そして、世界は動き出す。

 何処かにいるカラスはかぁかぁと鳴く。

 何処かにいる黒猫はにゃぁにゃぁと鳴く。

 何処かにいるフェイトちゃんはなのはぁと啼く。

 ……うん、最後のは聞かなかったことにしよう。とりあえず今は、この目の前の馬鹿野郎のことである。

 

「……あのね、田中山君」

 

「な、何?」

 

 自分でも冷たいと思う声が喉から出てくる。うん、私の機嫌はすばらっに悪い。この機嫌を直すには好きなスイーツをやけ食いしても中々収まらないと思う。でも、それは別に私の幸福ポイントが天から地へと叩き落とされたからではない。元々、彼の事が好きだったわけでもないし、断る気だったのだ。まぁ、思わずレイジングハートに手を伸ばしてしまったけれど、流石に一般人に魔法をぶっ放したりはしない。

 

 私が不機嫌なのは田中山君の腐った根性が気に食わないからなのである。確かに最近は“代理告白”なるものも存在するとも聞く。だがしかし、それはメールの添削サービスとかそういう代物のはずだ。それに本当に好きな子に自分で告白もできないとか……はっきり言おう、私はこういう類の男が一番嫌いである。こいつは本当に○○コが付いてるのだろうかと不思議に思う。

 

「君って度し難い阿呆なんだね♪ もういっそのこと人生をやり直したらどうかな? ほら丁度、ここって屋上だし、飛び降りるには絶好スポットだと思うんだ♪」

 

「えっ?」

 

 満面の笑みを浮かべていう私の暴言に、田中山君は呆気に取られたような顔になった。我ながらとても酷い事を言っているような気もするけど、私の口は止まらない。というか、止める気が全く起こらないという罠である。

 

「まぁ、それは冗談だとしても……普通にあり得ないよね? 私の口からアリサちゃんに好きだって伝えてくれ? 君、バカじゃないの? そのくらいの気持ちで私の親友が好きだとか十年早いと思うよ、チェリー君」

 

「なぁ!?」

 

 そこで反応するってことは言葉の意味がわかったんだね。う~ん。やっぱり男子ってそういう知識を得るのが早いのかなぁ。個人的には女子の方が早いと思ってたんだけど……まぁ昔の私は全然そんな言葉は全然知らなかったけどね!

 

「チキン野郎はお家で泣きながら一人寂しくマスでもかいてなよ、その方がずっと建設的だから。大体、そんな安っぽい気持ちでアリサちゃんがOKしてくれるわけがないじゃない。想いは言葉にしないと伝わらない。声はただの振動で言葉はただ羅列に過ぎないけど、そこに想いが宿れば強い力となってくれる。……好きな相手に大切な自分の気持ちを伝えることが出来る」

 

「……っ……………」

 

 そう、大事な言葉は自分で言わないと伝わらない。

 行動で示すっていうのもカッコイイのかもしれないけど、結局はただの遠回りだ。本当に相手に何かを伝えたいと思うのなら、絶対に自分の口で言った方が良い。ましてや、告白を他人任せにするなんてぶっちゃけあり得ない。

 

「君の気持ちは君だけのものだよね。なのに、大切なそれを他人に伝えて貰うの? 恥ずかしいからって他人任せにしちゃうの? それじゃダメだよ。そんなんじゃ絶対に相手には伝わらない」

 

「っ、そ、そんなの言われなくても俺だってわかってるよ!」

 

 私の言葉に思う所があるのか、田中山君が声を荒げた。それがわかってるのなら、何で私に頼んだりなんてしたのかと小一時間。

 大体、紛らわしい手紙なんか書くんじゃねーよと心から言いたい。ちょっとドキドキした私の純情な感情を返せ、この馬鹿野郎。というか、三回程豆腐の角で頭を打って死ねばいいのにと本気で思う。

 

「わかってないよ。わかってないから、こんなことを頼んできたんでしょ? 本当にわかっているのなら、こんな回りくどい事なんてしないもん」

 

 そう言うと、田中山君は私から目を逸らした。だけど、彼は拳を固く握りしめ震わせている。どうやら、私にボロクソに言われて悔しいようだ。

 まぁ、そうでなかったらもう見限る気だったんだけど、ね。

 

「ねぇ、もう少しだけ勇気を出そうよ? 私にはちゃんと言えたんだもん。きっと田中山君ならアリサちゃんにも好きだって言えるよ」

 

「えっ、あっ、う、うん」

 

 田中山君の手をぎゅっと握り締めると、私はそう言葉を紡いだ。突然の私の行動に田中山君は、驚きの表情を見せる。実際、アレコレと結構酷い事も言ったけれど彼には頑張って欲しいとも思ってる。

 

「誰かを好きになるって素晴らしいことだと私は思う。確かに辛かったり苦しかったりすることもあるかもしれない。だけど、その感情はとても優しくて暖かいものだから……。もっとその気持ちを大事にしてあげてよ」

 

 そりゃ確かに今回の事は少し頭には来た。だけど、恋する少年をいじめるだけが私の仕事ではありません。……年上の私が迷える子羊ちゃんの背中を押してあげないとね! ふふん、今日から私のことは恋愛マスターとお呼びっ! ……なーんてね。ごめん、少し調子に乗った。

 

「……あっ………………」

 

「ん? どうかしたの?」

 

「い、いや、何でもない……」

 

 私が田中山君の手を離すと、ぽつりと彼は声を漏らした。しかも、ぼーと私の顔を見つめていて、少し様子が変である。顔の色は……う~ん、夕陽に染まってるからわからないや。でもまぁ、風邪とかではないと思うので、気にしないことにする。

 ちらりと校門の方に目を向けると、もう下校する生徒は少なくなっていた。さてと、もう田中山君には何も用事もないから帰ろうかな。そう思っていた私に田中山君が声を掛けてきた。

 

「……た、高町はさ。好きな奴とかいるのか?」

 

「……うん、いるよ」

 

「っっ!」

 

 その問いに私は満面の笑みを浮かべて答えた。多分、私の出来る最高の笑顔だったと自分でも思う。でも仕方がないんだ。ミっくんのことを考えるとどうしても笑顔になっちゃうんだもん。

 

「大好きな人がいる。今は遠くにいて会えないんだけど、ね」

 

「……そ、そっか」

 

 私が心から好きになった男性はミっくんが初めてだった。確かに少し焦ってもいたし、がっついてもいたかもしれない……。それでも、私は彼の事が大好きだった。あれが私の最初で最後の……たった一つの恋だったと胸を張って言える。

 

「……恋はきっと下り坂。一度、勢いがついたらもう止まらない。でもきっと愛は上り坂。辛い事や苦しい事があっても上らないといけないの」

 

 でも、もうそんな彼には会えない。

 確かにコッチにも彼はいる。けど、それは私が本当に恋した彼ではない。

 ……それでも私はまた彼を好きになりたい、彼に好きになって貰いたい。初めてこんな私を好きだって言ってくれた彼と私はまた恋を……いや、今度は愛し合いたいんだ。

 

「えっ?」

 

「ふふっ、私の好きな言葉だよ。さぁてと、田中山君。私は貴方の恋を全力全開で応援してるから! 頑張ってね!」

 

 田中山君にそう言い残し、私は屋上を出ていった。少しだけ歩くスピードが速いのは、きっと思い出してしまったからだ。今だから正直に言おう、私は帰れるのなら“アッチ”に今すぐ帰りたいっ。“アッチ”にいる皆に会いたい。この手でミっくんに触れたい。この腕でヴィヴィオを抱きしめたい。この口でフェイトちゃんと話がしたい。“アッチ”に私の未練が多過ぎるっ……。

 とは言え、もうそれは叶わないことだと悟ってもいるのだ。ずっと引き摺ってばかりはいられないってことはわかってもいる。

 

「でも、ならどうして涙が出るんだろうね……」

 

 階段の途中で足を止め、ぽつりとそう呟く。

 いや、これは涙ではない。多分、心の汗なんだ。

 鼻の奥が少しだけつんとするけど。何故か目からポタポタと零れてくるけど。それでも私は泣いてない。泣いてなんかいないんだっ。

 

“マスター、大丈夫ですか?”

 

「っ、な、なんでもないよ。私は大丈夫だからね、レイジングハート」

 

“………………”

 

 私はごしごしと袖で顔を拭う。

 そう、私はもう後ろは振り返らないのだ。前だけを向いて先に進んでいくのだ。

 そうしなければ、多分私は……。

 

「きっともう飛べなくなるから……」

 





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