【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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閑話。なのはさん小話集、そのいち

 

 ~聖夜の夜に~

 

 それは“アッチ”の世界でのとあるクリスマスのこと。

 私とフェイトちゃん以外の親友達が皆、結婚してしまっていた頃のこと。

 無論、私の教え子達にも皆パートナーが出来ていて、この聖夜を過ごしていた。

 私がミっくんと出会う、およそ三ヶ月程前の話だ。

 

「……何か寂しいね」

 

 二十代も折り返しを超えたというのに、何故かミニスカサンタのコスチュームを着ているフェイトちゃんがぽつりとそう呟く。女の私が言うのは間違いかもしれないけど、その姿はとても魅力的で似合っていた。

 まぁ、流石にこの年で生足を出しているのはどうなのかなと正直思わないでもなかったけれど。

 とはいえ、私も同じ衣装を着ているので何も突っ込むことが出来ない。

 

「そうだね。でも、まさかヴィヴィオが友達だけで祝うとは夢にも思わなかったよ。……もう少し早く連絡してくれればいいのに、あんにゃろうめ」

 

 私は目の前にあるちょっと手の込んだ料理達を見て、そう言葉を漏らす。

 ローストターキーとシチューをメインにサラダやオードブル、その他にも色々と作った。二日前から仕込みをしてた料理がテーブルを所狭しと彩る。というか、無造作に置かれている。

 はっきり言うと、とてもじゃないけど二人で食べきれる量ではなかった。

 なのに、ここまで来て愛娘の裏切りとは……うん、どうしよコレ……。

 

「と、とりあえず、シャンパンでも開けちゃう?」

 

「うん、そうだね」

 

 その言葉に頷くフェイトちゃんを見て、私はほっと息を吐く。

 別に意識する必要はないんだけど、良く考えればフェイトちゃんと二人の聖夜は初めてだった。去年までは親友がいたり、教え子や子供達がいたりして結構ガヤガヤとパーティをしていたのだ。

 なのに、今年は二人だけ。その事を考えるだけで自然と視界が滲んでくる。来年以降のことを考えると非常にビクビクだ。

 ……フェイトちゃんまで私を裏切ったりはしないよね、よね?

 

『乾杯~』

 

 グラスが高い音を奏で、女二人のいつになく悲しいクリスマスが始まった。別名涙混じりのやけ食いの大会ともいう。

 大体ね、本来クリスマスというのは恋人同士ではなく、家族と祝うものなのだ。それを最近の若者たちは全然理解していないよね。もう、本当にぷんぷんだよっ。

 それにこの翠屋特製クリスマスケーキを女二人で食べるとか、悲し過ぎるじゃない。二人で30cm級のホールケーキとか、明日の朝に絶叫すること間違いなしだしっ。

 一応ヴァルキュリーズの皆にも連絡はしてみたけど、全員丁寧な文章でお断りのメールが来たし……うん、こうなったら明日の訓練はいつもよりも気合いを入れて鍛えてやろうかな。

 どうせ皆、彼氏とイチャコラして楽し……げふんげふん、弛んでるだろうし、きっちりと気を引き締めてやらなくちゃね!

 そんな決心を秘かに宿しながら、私は上手に出来た自慢の料理へと箸を伸ばした。……うん、おいしいんだけど、何か妙にしょっぱいや。

 

 

 食事を終え、私は余った料理を専用のタッパに詰めて冷蔵庫に入れる。

 ヴィヴィオの裏切りのおかげで家の冷蔵庫はパンパンである。全くこれだとあんまり冷えないし、電気代も上がってしまうじゃないか。うん、あの娘にはきちんお仕置きしないといけないね。

 

「なのは、お茶が入ったよ」

 

「ん、ありがとう」

 

 明日の朝食とお弁当は確実に残りモノで決定だなぁなんて思いつつ、フェイトちゃんが入れてくれたお茶を飲んでほっと一息。当然ながらもうサンタの衣装は脱ぎました。誰も見てくれないのに着てても何か空しいだけだしね。

 というか、正直着る意味が全くなかったと思う。フェイトちゃん曰く、様式美という奴らしいけれど。

 

「あっ、雪降ってる」

 

 外を見れば、ちらちらと雪が舞っていた。

 どうやら今年の聖夜はホワイト仕様のようだ。

 どうせなら大雪になって皆、外に出られなくなればいいのに……。雪の重みでミッド中のラブ○が全部潰れたなんていうのもアリだね。私がそんな下らないことを考えていると、フェイトちゃんがカップに入っている紅茶に目を落としながら口を開いた。

 

「……エリオ達、大丈夫かな」

 

「大丈夫だよ、フェイトちゃん。もう二人とも子供じゃないんだし」

 

 しれっとルーテシアに情報を流した私は知っている、今年はエリオとキャロが二人っきりでデートをしているってことを。今頃はルーテシアに乱入されている可能性が大である、ふふっ。

 確かに二人もお年頃だからデートしても問題はないと思うけど、個人的には健全なお付き合いをして欲しいなってお姉さんは思うわけですよ。……別にリアル修羅場が見たいなぁとかって理由じゃないですよ? まぁ、面白そうだなぁとかは思ってるけどね。

 

「そう、だよね……。でも、やっぱり寂しいなぁ」

 

 そんな私と違って、二人のお母さんなフェイトちゃんはどうやら寂しいみたいです。う~ん、私はヴィヴィオに対して、寂しいというよりも“裏切ったなこの野郎”って気持ちの方が強いからフェイトちゃんの気持ちはよくわからないかな。

 

「仕方がないよ。子供の成長は親が思うよりもずっと早いって言うもん」

 

「うん、それはわかっているんだけどね。今年はエリオ達だけじゃなくて、はやて達もいないでしょ? だから、何か皆がどんどん離れて行っちゃったみたいな気がして……」

 

「フェイトちゃん……」

 

「あはは、ごめんね。何かしんみりさせちゃって……」

 

 フェイトちゃんは誤魔化すように笑みを浮かべるけど、長年の親友の目を誤魔化すには至らない。でも、誰よりも家族や友人との繋がり……絆を大事に思ってるフェイトちゃんなら、そう思うのも仕方がないのかな。

 簡単に消えたり、無くなったりするモノじゃないってわかってても、目に見えないあやふやなものだから不安になっちゃうんだよね。

 特にフェイトちゃんは子供の頃のことがあるから……尚更、そうなんだと思う。

 

「フェイトちゃん、私は変わらないモノもあるって思うよ?」

 

「えっ?」

 

 だから、私は言ってあげようと思う。

 不安になっている親友を助けるのも、私の役目だ。

 大体、どうせ見るなら嬉しそうな顔の方が断然いいもんね。

 

「時間が過ぎて色んなモノが変わっていく。それは個人だったり、周りの環境だったり。生きていれば本当に色んなモノが変わっていくよね。そして、きっとそれを止めることなんて誰にも出来ないんだって私は思う」

 

「……………………」

 

「だけどね、変わらないモノもあると思うんだ。例えば、そう。私とフェイトちゃんが親友だってことはいつまでも変わらないよね?」

 

 そう、それは絶対に変わらない。

 気が付けば、もう人生の半分以上の付き合いなんだよ?

 たとえ、どっちかが結婚して一緒に暮さなくなっても私達は親友だ。

 勿論、私一人が取り残されたら三日ぐらいは枕を濡らすことになると思うけれど。

 

「何時になっても、何があっても、それだけは絶対に変わらない。少なくても私はそう信じている」

 

「なのは……」

 

「確かに、二人だけのクリスマスはちょっぴり寂しいかもね……。でも、私はフェイトちゃんと過ごせて嬉しいって思ってるよ?」

 

 そう言って私はフェイトちゃんに笑みを向けた。

 クリスマスは恋人ではなく、友人や家族で過ごすもの。

 私の中ではそうと決まっているのです。誰が何と言おうとそう決まっているのですっ。だから、やっぱりヴィヴィオには後でちゃんとお仕置きしなくちゃいけないよね、うんうん。

 

「――――私も。私もなのはと聖夜を過ごせて嬉しいよ」

 

 私の言葉が届いたのか、フェイトちゃんの沈んだ顔はもうそこにはなかった。

 だけど、どうして涙目で少し顔が赤くなっているのだろうか。ああっ、わかった。ふふん、私達の素晴らしき友情に感動しちゃったんだね?

 まぁ、フェイトちゃんは結構涙脆いところがあるから仕方がないのかもしれない。この前も子犬のドキュメンタリーを見て、号泣してたくらいだし。

 とりあえず、フェイトちゃんがもう大丈夫みたいで良かったかな。

 

「……なのはは、なのはだけはずっと私の傍にいてくれるんだよね?」

 

「んぅ? フェイトちゃん、何か言った?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 んー、何か聞こえたような気がしたんだけど……まぁいっか。

 それにしても……はぁ。彼氏が欲しい、もう切実に彼氏が欲し~いっ。雪じゃなくて良い男とか振ってこないかなぁ。そんなことを思いつつ、私達のクリスマスは終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

~Ex-ep1 彼女がいない世界~

 

 

 しとしとと降り頻る雨の中。

 傘も差さずに私は一人、お墓の前で立ち竦んでいた。

 此処はママの故郷である海鳴市の集団墓地。

 この世を去った人達が永久の眠りにつく神聖な場所。

 此処に私のママが、なのはママが眠っていた……少し前までは。

 

「――――――――」

 

 だけど今、“高町家”と書かれているお墓は見るも無残な姿となっている。

 そう、なのはママが死んでから今日で一ヶ月。

 なのはママが眠っていたはずのお墓は何者かに荒らされ、なのはママの遺骨は奪われた。

 この墓地の管理者の人が発見し、この事件は発覚した。

 警察当局がすぐさま調査するも、手掛かりはなし。犯人の目星は当然まだついていない。だけど、私達はこの事件を地球の人の犯行ではないと考えている。

 確かになのはママは管理局員としてはもの凄く有名な人だった。しかし、この世界ではただの一般人なのだ。墓荒らしをする理由がない。つまり犯人は魔法関係者。

 そして、魔法関係者がなのはママの遺骨を奪ったとするのなら、きっと碌でもないことに使われてしまうだろう。それは子供でもわかることだった。なのはママの遺骨が犯罪者に使われる……そんなことは絶対に許してはいけない。それだけは絶対に阻止しなければならない。他でもないあの人の娘として私はそう誓った。

 

「――なんでこうなっちゃったんだろうね」

 

 だけど、破壊されたお墓を実際に目にすると無性に悲しくなってくる。ほんの一ヶ月前までは皆揃っていたのに、と思ってしまう。少し前まで私となのはママとフェイトママの三人、全員が揃っていた。

 全く男っ気がないなのはママを冗談半分で冷やかして、いつもなのはママ一直線なフェイトママに呆れて。笑い話をしたり、相談事をしたり、買い物に行ったり、料理を一緒に作ったり。

 そんな当たり前の日々もママ達と一緒だと楽しくて、安心出来て、暖かくて。本当に大好きだったんだ。でも、今はもう私しかいない。私は一人だけになってしまった……。

 

「……っ………………」

 

 運命のあの日。

 私は学校の帰りに友達と遊んでいた所為でちょっとだけ帰るのが少し遅かった。

 門限とかは特になかったけど夕飯に遅れるとなのはママが凄く怒るから、少し急がなくちゃなんて考えながら私は帰宅した。

 だけど、私が家で見たのは笑いかけてくれる二人の姿じゃなかった。

 家に帰るとそこには信じられない……ううん、信じたくない光景が目の前に広がっていた。

 

 真っ赤な血に染まって動かないなのはママとフェイトママ。

 もう二人とも呼吸をしていなくて、心臓も動いていなかった。

 身体に触れてみると、凄く冷たくて、凄く固かった。

 身体中の筋肉が固まっちゃってて、まるで作りモノの人形みたいに動かなかった。

 

 ……そんなママ達の姿を見て、私は暫く何もできなかった。

 目の前の光景がどうしても現実感が湧かなくて、私は呆然としたまま暫く座り込んでいた。

 

 

 結局、相棒のクリスが連絡を入れて救急車とはやてさん達が来るまでの間、私は何も出来ず、ただ座っていただけだった。そして、詳しい事情がわかってから私は死ぬほど後悔した。

 何で私はもっと早く家に帰らなかったんだろうと。

 何で私はこうなる前に何もしなかったんだろうと。

 そう何度も何度も何度も凄く後悔した、自分を罵った。

 勿論、私がいたからって大したことが出来たわけではないかもしれない。でも、少なくても何かは出来たはずなんだ。

 そうしたら、今もあの暖かな時間を過ごせていたはずなんだ。

 ――――フェイトママが最近少しおかしかったのは私もわかってたのにっ。

 

「……私って本当に馬鹿みたいだよね。一丁前に自己嫌悪なんかしちゃってさ。時間は元に戻すことは出来ないってことはわかってるのに、こうやって後悔ばっかりしちゃってる」

 

 ぼろぼろに破壊されたお墓を一撫でしながら、私は苦笑を浮かべる。

 本当に、本当に今更なことだ。

 どんなに後悔しても現実は変わらないし、覆らない。

 なのに、くよくよして、こうして立ち止まってしまっている。

 

「ねぇ、なのはママ。なのはママはこんな私を見たら何て言うのかな? 叱ってくれるのかな? 慰めてくれるのかな? ……抱きしめてくれるのかな?」

 

 きっとなのはママがいたら、こんな私を怒っているだろうね。

 だけど、多分、最後には慰めてくれて、抱きしめてくれるんだよね。

 私の大好きなママはそういう人だったから……。

 

「私ね、フェイトママが無理心中したって知った時にフェイトママのことを少し恨んじゃったよ。なのはママを殺して、自分も死んじゃって、私を一人ぼっちにして。フェイトママは私のことなんてどうでも良かったの? なんて思っちゃった」

 

 唇を強く噛みしめた。

 口の中に鉄臭い味が広がってくる。

 拳を強く握りしめた。

 掌に爪が食い込み、ぽたぽたと赤い雫が落ちてくる。

 

「――――そして、そんなことを考えた自分自身が凄く醜いって感じた」

 

 あんなに愛してくれたのに、あんなに大好きだったのに、強く恨みを覚えた自分自身が嫌だった。今でもそうだ。私はフェイトママを憎いと思ってる。だけど、同時に好きでもあるのだ。

 好きだけど憎い。憎いけど好き。

 ぐちゃぐちゃな感情が溢れて来て、胸が苦しさで一杯になってくる。

 しかし、その苦しさをぶつけれる人はもういない。支えてくれる人も、受け止めてくれる人も、もういない。

 

「……苦しいよ、ママ」

 

 感情の置き場がなくて、どうしたらいいのかわからなくて、凄く苦しい。

 そして何より、一人であの家にいるのが本当に苦しいよ。

 沢山の想い出が溢れる家に一人でいるのが、堪らなく苦しいよ。

 

「……悲しいよ、ママ」

 

 大好きな母が同時に二人もいなくなったことが凄く悲しい。

 まだ何も恩返し出来てないのに、もっともっと言いたい事ややりたい事があったのに。ちゃんと“育ててくれてありがとう”って言えてないのに。

 もうどれも出来なくなってしまったことが心底悲しいよ。

 

「また会いたいよ、なのはママぁ……」

 

 自然と涙が零れてきた。

 いや、違う。これはきっと雨なんだ。

 少しだけしょっぱいけれど、ただ雨が降っているだけなんだ。

 そう、これは全部は雨の所為なんだ。

 

「……う……ぁ……っ」

 

 お墓を荒らした犯人は私が必ず捕まえる。

 この胸の蟠りにもなんとか折り合いを付けて見せる。

 だけど、今は……今だけは泣いても良いよね、なのはママ?

 

「うぁ、あああぁああぁああああぁぁっ!」

 

 少女の泣き声が天空へと響いた。

 しかし、その曇りが晴れることはない。

 誰かの愛した空は彼女にはまだ少し遠かった……。

 

 


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