【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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~また魔法少女、はじめました~
第一話。なのはさん(28)の絶望


 私の名前は高町 なのは。

 極々、平凡な普通の28歳の女性です。趣味は料理。特技は……魔法を少々、かな?

 さてさて、そんな何処にでもいそうな私ではありますが、実は今、凄くテンションが高かったりします。

 

「ふっふふん♪ ふっふふん♪」

 

 ほら。思わず、鼻歌も出ちゃうくらいに気分がハイです。まぁその理由は簡単なことで……実は私、今日彼氏が出来たのですっ! だから、とってもルンルンなのっ!!

 

 ああっ。思い返せば、辛い近年でありました。引きつった笑顔で包む数多くのご祝儀。その時にしか着ないのに増え続けるパーティドレス。力を込めて投げ付けたライスシャワー。ブーケを必死に狙うも魔法なしでは手に入らなくて、何度枕を濡らしたことか。

 

 28歳独身だけど、子持ち。そうシングルマザー。マザー。ママ。母。お母さん。

 この肩書きが私を何度も苦しめました。いや、別にヴィヴィオを娘にしたことは全然後悔してはいないんですよ? これは絶対の本気の完全のマジ。だけど、世の男性達はこの肩書きを見ると敬遠するのです。

 ……ホント世知辛いよ、世の中。

 

 えっ? お前にはユーノが居ただろうって? ……ユーノ君は三年くらい前に司書さんと職場結婚しました。何故かその報告を受ける時にずっと好きだったよとか言われたけど、そういうのはもっと前に言うべきだと私は思うんだっ、ぷんぷん。結婚前になって好きでしたとか言われても、ありがとうってお礼を言うしか選択肢がないじゃないっ! まぁ、全然気が付かなかった私も悪いんだけど……何か納得がいかないよね? あの小動物め、だから●●●に毛が生えてないんだ!

 えっ? 何でそんなことを知ってるのかって? 披露宴の二次会で大量のお酒をクロノ君が飲ませたら突然、脱ぎ出したんだ……私の目の前で。勿論、その汚いものはバスターで綺麗にお掃除しました。それからユーノ君とは一度も会っていません。私が無限書庫に行くといつも留守だし。まぁヴィヴィオによると元気にしているらしいですよ?

 

 アリサちゃんとすずかちゃんは、大学の同回生と結婚しました。今では二人とも立派なセレブマダムさんです。しかも、もう何人か子供も居たりしてとても幸せそうにしています。

 はやてちゃんは、なんとあのゲンヤさんと結婚しました。歳の差は凄くあるけど、二人はまったく気にした様子はありません。唯一困ったことと言えば、ゲンヤさんには娘たちが沢山いるのでもの凄い大家族になってしまったことくらい。今ではとても大きな家を新しく建てて皆で仲良く暮らしています。

 

 私の教え子だったスバルやティアナも最近、良い人を見つけたらしいです。二人とも休日はデートしまくりらしく、よく私に写真なんかをメールで送ってきたりします。特にスバル。毎回毎回のあれは私に対する当てつけなのかな? まぁ一度お話したら止めてくれたからいいんだけどね。

 エリオとキャロもずっと公私ともにパートナーを組んでいます。毎日仲良くやっているそうで何よりです。でも、ルーテシアがエリオを狙ってて、キャロがよく焼き餅を焼いているともっぱらの噂だったり……うん、いいぞ。もっとやれ!

 

 そして、遂に先日、あのヴィヴィオにも彼氏が出来てしまいました! もう毎日の様に砂糖を吐くような惚気具合を見せてくるので、私のライフはゼロ。思わず、空に向かってバスターしちゃった私は悪くないよね。てへへ☆

 

 とまぁ、私の周りの近況はそんなところです。ん? 誰か一人足らなくないかって? あー、フェイトちゃんのことかな。フェイトちゃんは、うん。最近家に居ることが多い気がするけど、大丈夫だと思う。よく一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝ているけど、大丈夫だと思う。寝ている時になのはぁとか言いながら抱きついてくるけど、大丈夫だと思うっ。大丈夫っ! 彼女にその気はないと思うっ! 多分、きっと、メイビー。

 

「ラン♪ ランララ♪ ランランラン♪ ラン♪ ランララ♪ ラン♪」

 

 さてさて、そんな周りのリア充共の精神攻撃を喰らいつつ、必死で耐えた辛い日々。

 どいつもこいつも愚痴という名の惚気か、報告という名の惚気ばっかりだった。ホント、何度爆発しろと思ったことか……。

 悔しいから私も相手が探すんだけど、周りにがっついているとは思われたくないし、出来れば素敵な人がいい。そんなことを思ってたら、不覚にも管理局のお局さんと言われ始めるし……。

 広報部の管理局のお似合いカップルランキングっ! にフェイトちゃんとノミネートされた時には、もう何か発狂しそうだった。しかも一位って何!? 一位って何なの!? 私とフェイトちゃんはそんな関係じゃないー!! そう叫びながら、広報部で久々にブラスター使っちゃったのは……うん、とても苦い思い出だ。

 

 ああ。こうして思い返してみても、はっきり言って私の毎日は灰色でした。

 しかし、それも今日でお終いなのですっ! だって今日から私もリア充さんへの仲間入りを果たしたのですからっ!! 今日からは私もバラ色生活っ! YES! バラ色! NO! 灰色!

 

「る~る~♪ る~る~る~♪」

 

 齢28にして初めての彼氏。茶色い髪で、ミッドの人なのに何処か日本人っぽい顔。身長は私よりも少し大きいくらい、あとは少し大きめの目が特徴的だ。ちょーと頼りないけど、凄く優しくて……。カッコいいけど可愛い所もあったりして……。あっ。でもでも、凄く頑張り屋さんなんですよ? えへへ。

 

 私が彼に会ったのは、去年の春の事になる。

 七つも年下の彼は、私が教えていた部隊に新任として参入してきた。

 私が提案した新たな教導官を育成するためのプロジェクト。その訓練部隊。通称、高町ヴァルキリーズ。その名の通り女性のみで構成されてて、当然、出会いなんてあるはずもなかった。別に男子禁制にした覚えはなかったのに……本当、どうしてこうなった状態だった。

 ――――私の出会いなんて職場しかないのにっ!

 だが、そんな絶望の淵に二年間もいた私の所にやって来た、我が隊初めての男性っ!

 当然、彼を満面の笑みで迎えた私の心境は狂喜乱舞でした。思わず、その日の訓練でスターライトブレーカーしてしまうくらいには……。

 

 えっ? そんなことして、引かれたんじゃないかって?

 ふふん、残念~。其処が彼の違うところなのでした! 勿論、次の日とかはかなり怖がっていたみたいだったから、皆にはこれくらい出来るようになって欲しいんだよとフォローを入れつつ、教導への熱意をアピール。そんなことを表向きは笑顔、内心は必死の形相でやっていたら、期待に応えられるように頑張ります! とか言って逆に張り切っちゃってた。正直、凄くほっとしました……。

 

 それからは、よく彼が質問に来ることが多くなっていった。

 そうなると自然に個人的なことも話すようになっていくから、どんどん距離も縮まっていく。私も彼と話している時間を楽しいと感じていたし、ちょっとずつ惹かれていった。そして、それは彼も同じだったようです。

 

 実は障害も沢山ありました。

 私が少し目を離すと、ヴァルキリーズの面々がすぐに彼を誘惑しようとしたり、何か試練とか言って、彼が旧六課メンバーと一人ずつ模擬戦させられたり。うん、色々と大変だった。

 六課の皆には、私の恋愛なのに何故に模擬戦? と聞いたら……。

 

 ヴィータちゃん曰く、なのはと付き合う奴は、なのはを守れるくらい強くなくちゃいけねぇ。いや、何それ?

 スバル曰く、私の拳に耐えられないような奴は、なのはさんに相応しくないっ! えーと、あの~?

 シグナムさんに曰く、模擬戦♪模擬戦♪ いや、目的がおかしいよね!?

 はやてちゃん曰く、ええね、おもしろそうや~。あの爆乳桃色を止めろよ、主っ!

フェイトちゃん曰く、バルバルバルバルバルバルバル……。何か怖いっ!?

 

 とまぁ、そんなこんなで色々あったけど、最後は何とか皆納得してくれました。

 ただ、フェイトちゃんの目からハイライトが無くなってたことが気になったけど……うん、気にしたら負けだね!

 ちなみに、別に模擬戦なんてする必要はないよ と彼に私が言うと。

“でも、許可が貰えれば皆が僕達を祝福してくれるんだよね? なら頑張るよ”と笑顔で言われました。うん、やっぱり私の彼氏様は最高だなぁ。

 

 

 ――――そして、遂に! 今日、私、高町なのはは彼に告白されたのですっ!

“結婚を前提にお付き合いしてくれませんか”

“はい、喜んでっ!”

 くぅ~、やばいっ! 思い出したら、また泣きそうになってきたっ!

 

 と、もう家に到着しちゃった。考え事していると時間って進むのが速いよね~。

 そんな事を思いながら、私は玄関の扉を開けようとした。

 まだ誰も帰って来ていないはずなので、当然鍵はかかって……?

 

「あれ? 空いてる? フェイトちゃん、今日も早かったのかな?」

 

 最近、早く帰って来て料理を作ってくれることの多いフェイトちゃん。

 だから今日もそうなのかな~と思い、私は普段通り家の中へと入った。

 

「フェイトちゃん、ただいま~」

 

「………………」

 

 ドアを開けて、私は声を掛けてみる。しかし、返事がない。

 それどころか、家の中は明かりすら付いていない。

 でも、確実にフェイトちゃんの靴はあった……。

 

「……どうかしたのかな? フェイトちゃーん?」

 

 部屋の明かりを付けつつ、私は声を出しながらリビングへと向かう。

 ……おかしいな、また返事がない。

 いつもならすぐに返事してくれるのに……。

 

「あっ。フェイトちゃん、やっぱり帰って来てたんだ」

 

「………………」

 

 電気も付いていない真っ暗なリビング。

 そんな中、フェイトちゃんは椅子に腰かけていた。

 

 でも、少し様子がおかしい。

 

「フェイトちゃん、ただいま」

 

「……おかえり、なのは」

 

 その事が少し気になり、もう一度声を掛けるとやっとフェイトちゃんからの反応があった。

 ただ、相変わらず様子が少し変だ。……どこか具合でも悪いのだろうか。

 

「体調でも悪いの?」

 

「ううん、別にどこも悪くないよ」

 

「そう? でも、あんまり無理はしないでね?」

 

「……うん」

 

 そんな会話をして、私は着替えの為に自分の部屋へと向かう。

 う~ん、やっぱりフェイトちゃんは疲れが溜まっているみたいだった。

 よしっ、今日の夕食は私が美味しいのを作ってあげよう。美味しいモノを食べると少しはフェイトちゃんも元気になってくれるはずだよね。

 そう気合いを入れつつ、私が自室で着替えをしていると背後に人の気配を感じた。

 

「っ! ……フェ、フェイトちゃん?」

 

 私が慌てて振り返るとそこに居たのは、フェイトちゃん。

 どうやら、私の後を付いてきていたらしい。思わず、ほっと溜息を吐く。

 今の今まで全く気が付けなかったから、凄く驚かされてしまった。

 

「もう。いきなり後ろに立たれると吃驚するよ……」

 

「………………」

 

 私は少し頬を膨らませてそう言うが、フェイトちゃんからの反応はなし。

 ……本当にどうしたのだろうか、此処まで変なフェイトちゃんは初めてだ。  

 ―――少しだけ、何とも言えない嫌な予感を覚えた。

 

「……ねぇ、なのは」

 

「……な、何?」

 

 フェイトちゃんの囁くような声を聞いて、私は少し腰が引けてしまう。

 今の彼女は明らかにいつもと雰囲気が違い過ぎる。

 前髪で目が隠れているから、そう思ってしまうのだろうか。

 

「……私達は親友、だよね?」

 

 何を聞いてくるのかと思ってみれば、そんな当たり前の問いだった。

 雰囲気に圧されて、思わず身構えてしまったけれど、別に警戒する必要はなかったのかもしれない。

 私は心から安堵し、気を緩めるとフェイトちゃんに胸を張って答える。

 

「うん、勿論っ! 私達はずっと親友だよ!」

 

 実際に五人いる親友の中で、フェイトちゃんとが一番仲がいいと思う。

 なにしろもう二十年来の付き合いなのだ。私達の友情は不滅だと言っても過言ではない。

 

「そっか、よかったぁ……」

 

「フェイトちゃん、本当にどうしちゃったの? そんな当たり前のことを聞いて……」

 

 しかし、後から思えば、それは誤った回答だったのかもしれない。

 いや、その他に答えようもなかったのだけれど……。

 

「なら、私と一緒に死んでくれるよね?」

 

「えっ……?」

 

 満面の笑みと共に私に向けられたのは、きらりと光る包丁だった。

 思わず、私は呆然とその凶器を見つめてしまう……。

 

「ずっと、ずぅぅと。なのはは私と一緒なんだ……!」

 

「……ぐっ……フェ、フェイトちゃん?」

 

 そして、それが決定的な隙となった。

 気が付けば、私のお腹に包丁が突き刺さっている。

 私がその現実が信じられなくて、フェイトちゃんに目を向ければ……。

 

「嬉しいなぁ。うん、嬉しいよぉ。なのはぁ」

 

 そう言いながら、私を包丁で滅多刺しにしてくるフェイトちゃんがいた。

 私の血で真っ赤に染まったフェイトちゃんの目には、もう狂気の光しか浮かんでいない。

 

「な、なんで……」

 

 震えた声でそう問いかける。

 ――――わけが、わけがわからない。

 なんで、わたしはふぇいとちゃんにさされているの?

 

「ふふふ。私のなのはは、誰にもあ~げない」

 

 フェイトちゃんはそう言って、にこやかに笑う。

 そんな姿を最後に視界に映すと、私の意識は完全に途絶えてしまった。

 

 

 

 

「只今、臨時ニュースが入りました。あのエースオブエースと名高い管理局の魔道師、高町 なのはさんが亡くなられました。現状から見て――――」

 

 

 

 

 

 

 

~~~♪~~~♪~~~♪

 

 

「……ん、ぅん?」

 

 何処か聞き覚えのある、懐かしい携帯のアラームの音が鳴り響く。

 その音を聞いて、私はゆっくりと目を覚ました。あれ……? レイジングハートの声じゃない? そのことを不思議に思いながらも、私の頭はゆっくりと覚醒していく。

 

 目を開けると辺りはもうかなり明るかった。

 ……どうやらもう遅い時間帯のようだ。朝食の準備もしなければいけないから、早く起きなくてはいけない。私が寝過すと朝食抜きとなるヴィヴィオが可哀想だ。あっ、あと今日からは彼にお弁当を作るんだったね。

 そんなことを思いつつ、私は急いで起きようとするが……おかしい。

 

 はて、こんなにも起きるのは辛いものだっただろうか。

 

 確か、二十歳を超えてからはすぐに起きれるようになったはずなんだけど……そこまで考えて、私は気が付いた。

 

「うそ……」

 

 此処がクラナガンの家ではなく、地球の高町家で。

 私の身体が小学三年生の頃に戻っていることに……。

 

 

 


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