オーバーロード ~たっち・みーさんがインしたようです~ 作:龍龍龍
たっち・みーたちはのんびりと森の周囲に沿って道を歩いていた。馬車を中心に据え、それぞれ適した位置で御者でもあるンフィーレアを囲んで守っている。
時折、馬車の前で周囲の警戒に当たっているルクルットが、馬車の後ろにいるモモンガに声をかけてくる以外は特に問題なく移動していった。もっとも、モモンガも一晩かけてルクルットへの対応の仕方を決めたらしく、そつなくつれない形で対処していた。
(特に大きな問題もないし……彼らとの会話で色々な情報も得られた。彼らと行動したのは間違っていなかったな)
魔法や武技、冒険者や周辺国家のことなど、知りたい情報はかなり多く得られた。知ることが出来た分、さらにたくさんの知識が必要になったが、それでも確実に順調に進んでいることは実感できた。
一番情報源になると考えていたルクルットは周囲の警戒に気を割いていたため、あまり聞くことはできなかったが、代わりにニニャとダインからは多くのことが聞けた。特になぜかニニャの方は進んでたっち・みーの質問に答えてくれて、非常に助かった。
(妙に話が早かったのはなぜなんだろう? やはり、町の外で実力の一部を見せたからか?)
たっち・みーとモモンガは、町の外に出てすぐ、自分たちの実力が口だけではないことを示すために軽いデモンストレーションを行っていた。モモンガが<
口だけではない確かな実力を確認できたからこそ、協力的になったのかとたっち・みーは考えていた。実力が高い相手に敬意を示すのは納得のいく理由だ。
「この辺りからカルネ村までが『森の賢王』のテリトリーなんですか?」
そうモモンガが確認すると、ンフィーレアが頷いて見せた。
「はい。強大な力を持つ魔物です。ですから、めったなことでモンスターは姿を見せません。森の賢王そのものにあったら最悪ですけど、他のモンスターがでて来ないという意味では安全ですね」
「まだ結構な距離があるというのに……ずいぶんと強大な存在のようだな」
たっち・みーは呟く。果たしてどんな魔物なのか。少し興味があった。
(会ってみたいものだな。長寿で賢いということは、驚くべき知恵を持っているかもしれない……もしかすると、元の世界に繋がるヒントも……)
たっち・みーはその魔獣に夢を馳せた。
その意識の空白に差し込むように、ルクルットが調子のいい声でまたモモンガに話しかけている。
「モモちゃん、仕事を完璧にこなす俺の姿を見ててくれよな! 頼りになるってところを見せてやるから!」
「そうですか。頑張ってください」
モモンガは一見柔らかそうだが、その実全く感情の籠っていない声で返した。ただ無視したり、強烈に反発したりするよりも、はっきりと拒絶の空気を感じさせる。
もっとも、ルクルットは「その冷たい対応……それはそれでいい!」などと言って、ますます周囲を呆れさせるのだが、ルクルットに懲りる様子はない。
モモンガも平然と受け流せるようになってきているし、ひとまず言葉でどうにかしようとしているうちは放っておいていいだろう。触れないで欲しい領域に触れようとした時に改めて警告を発すればよい。
(やれやれ……なんで味方を一番警戒しないといけないんだか)
たっち・みーはルクルットの気性自体は嫌いではなかったが、大事な仲間が関わってくることなので若干面倒に思っていた。
黙々と歩を進めているうちに疲れて口数が少なくなればいいと思っていたのだが、ルクルットはどこまでも元気に軽口を続ける。
「みんな、そんなに警戒しなくても大丈夫だぜ。俺がしっかり気配を探っているからな! モモちゃんなんか俺を信じてるから超余裕の態度だぜ」
「タツさんがいて不安になる理由がありませんよ」
さらっと放たれる言葉は、モモンガの本心なのだろうが、たっち・みーは若干困ってしまう。別にたっち・みー自身は気にしないのだが、いまのモモンガの姿が姿なだけに、余計な誤解を加速させているような気がした。
「……なぁー。モモちゃんとタツさんって、やっぱり恋人関係なの?」
案の定、ルクルットはそんなことを聞いてきた。モモンガはその問いにかすかに眉をしかめる。
「ありえません。大事な仲間です」
外見はともかく、実際は男同士だ。ありえない。そういう意味でもはっきりとした答えに、ルクルットは納得している様子はなかった。
「うーん。どう見ても仲良しなんだけどなぁ……」
「ルクルット。詮索はそれくらいにしてくれないか?」
たっち・みーは少しだけ真剣みを増して声をかける。
「あー……失敬。警戒に戻りまーす……」
その声に込められた意志に気づかないほど鈍くはないのか、ルクルットは素直に引く。それでもあきらめようという気はなさそうなあたり、本当に懲りない男だった。実際、女性と付き合うにはそれくらいの意気込みは欲しいところではあるが、相手が悪い。
「タツさん、仲間が申し訳ない。他人の詮索をしないのが冒険者の不文律だというのに」
ぺテルが謝ってくるのを、たっち・みーは鷹揚に受け取る。
「いや、今後気を付けてくれればいい。というか、仕事に集中してくれればな」
「へーい……っと。どうやらお客さんみたいだぜ」
突如、緩み切っていたルクルットの声が引きしまる。モモンガに言いよる時のおちゃらけた様子はなく、彼から感じるのはプロとしての矜持と誇りだった。
(いつもそうしていればいいのに……)
たっち・みーはそう思いつつ、ルクルットの指し示す方向を見る。当然全員が武器を構えてそちらを見ていた。
「ルクルット、どのあたりだ?」
「あのあたりだ。どんどん近づいてくるな。これは戦闘を避けられそうにないぜ」
たっち・みーはぺテルとルクルットがそう声を交わすのを聞きながら、特殊技術を発揮する。
<殺意感知>に引っかかったのは全部で21体。6体ほど大きな存在を感じた。と、言っても感じる力が強いのではなく、単に質量的に大きそうというだけだったが。
「……ふむ。確かに近づいてくるな」
そう呟くたっち・みーの言葉に、かすかにニニャが反応したが、森からモンスターが続々と現れたことで、声をかける機会は失われた。
ゲームと違ってそれぞれに特徴があり、リアルに生きている分の差異が感じられた。
(とはいえ……)
たっち・みーがその気になれば片手間どころか、ついでともいえないレベルの気軽さで殲滅できる程度のものしかいなかった。
一気に殲滅してしまうのもありかと思ったが、それでは漆黒の剣という一般的な冒険者がどの程度できるのかわからない。後学のためにも、当初の予定通り半分ずつくらい受け持つことにした。
「タツさん、半分受け持ってもらえるということでしたが……どのように分けましょうか」
「……そうだな。私が適当にオーガを屠る。相手の突撃を真正面から蹴散らすから、溢れたゴブリンの処理を頼む」
あまりに豪快な、戦法ともいえない戦法。漆黒の剣の面々はそれに驚いたが、その言葉に込められた自信を感じたのか、何も言わなかった。
「了解しました。では、私たちはできる限りの戦闘支援をさせてもらいます」
「支援魔法は……」
漆黒の剣は、ぺテルが指示を行い、それに対して他の者が一度頷くことで了承する、というそれだけで作戦会議を終了していた。それは互いにできることをよく熟知し、何度も連携を繰り返してきたゆえのスムーズな決定だ。まさに、阿吽の呼吸という言葉が相応しい。
たっち・みーとモモンガはほぼ同時にほう、と感嘆の息を吐き、そして、二人で顔を見合わせてひそやかに笑った。お互い、何を感じて感嘆の息を吐いたのかわかってしまったからだ。
たっち・みーの脳裏には、ユグドラシル時代のことが蘇っていた。アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーたちと行った狩りの数々。互いに互いを支援して、時に囮になり、敵を釣り、ブロックに回っては攻撃対象を上手く切り替える。互いの能力を熟知しているからこそできるチームプレイを発揮していた。
身内びいきではあるだろうが、あれほどのコンビネーションはそうできるものではなかった。漆黒の剣の連携はそれには劣るが、片鱗のようなものは感じられた。
このチームは成長すればきっともっといいチームになる。
感慨深い目でったち・みーが漆黒の剣を見ていると、リーダーのぺテルが最後の確認に来た。
「タツさんたちの準備は大丈夫ですか?」
「ああ。いつでも大丈夫だ。……もしどうにもならない危機に陥ったら私の名前を呼べ。助けてやる」
そうたっち・みーは言って、漆黒の剣を優しい目で見つめるのだった。
ルクルットの矢が戦闘の開始を告げる。
遠距離にあるうちに少しでも数を減らすため、ルクルットの矢はゴブリンたちを次々射抜いていた。壁役のぺテルにニニャが魔法による強化を飛ばし、ダインの魔法は植物を操ってオーガの一体をその場に足止めする。
たっち・みーとモモンガはそんな中、のんびりと前に歩き出した。ごく自然な足取りで、二人は魔物の突進に立ち向かう。
オーガとの距離が縮まる中、たっち・みーは腰にさげた剣を鞘から抜き、その白刃を晒す。まるで宝石のように白く輝くその剣は、シンプルな形ではあったが、業物であることが一目でわかる。オーガが持つ棍棒に比べればサイズはずいぶん小さいのに、その存在感はその戦場にあるどんな武器よりも大きかった。
極々普通の剣と盾。そのはずなのに、同じ種類のものを構えているはずのぺテルのそれが玩具にしか感じない。
威風堂々とした足取りで、たっち・みーは突進してくるオーガを正面から迎え撃った。
オーガが走る勢いそのまま、棍棒を大きく振り上げ――そのまま後ろに倒れていった。
「!?」
まるで糸が切れた操り人形のごとく、オーガの体から力が抜けて、崩れ落ちたのだ。気づけば、オーガの喉がぱっくり割れていて、そこから血が噴出していた。
「い、いつのまに……!?」
たっち・みーがオーガが棍棒を振り下ろす前に斬ったのだと、その状況から類推してようやく把握することが出来た。当然、たっち・みーの歩みは自然な速度のまま、止まらない。
知性の低いはずのゴブリンたちが、慌ててその進行方向を避けるように、広がりつつぺテルたちに向かう。もう一体のオーガがたっち・みーに向かって突撃をしようという構えを取った。勢いの乗ったオーガの巨躯は仮に斬られたとしても、もはや止まらない。その勢いそのまま、目の前の敵を押しつぶすことだろう。そこまで考えてはいなかったが、結果的にオーガの行動は正しかった。
もっとも、たっち・みーにそんなことは何の意味もないのだが。
肩を突き出し、ラグビーのタックルのようなオーガの突進を、たっち・みーは無造作に蹴り飛ばしたのだ。凄まじい音がして、オーガの全身がへしゃげながら押し戻され、爆散する。
避けるわけでもなく、ただ真正面から力任せに蹴り飛ばすという暴挙に、もはや驚きの声すら大きくは上がらない。
「嘘だろ……?」
微かに誰かが漏らした小さな呟きが響き渡るほど、戦場は静まり返っていた。
あまりにありえない光景に、決して知能が高いわけではない残りのオーガですら、突進をためらって動けなかった。
「さて、来ないのか? こちらから行くぞ?」
ゆっくりとたっち・みーが歩みを進める。オーガはたじろぐだけで、その場から動けなかった。そのオーガの脇を、無造作としか思えない自然な動きで、たっち・みーがすり抜ける。その間にオーガの体は斬り裂かれており、上半身と下半身が永遠の別れを告げながら、その体の中に詰まっていた臓物が地面に散らばった。
一刀両断。ごく普通にしか見えない剣でそれを成し遂げたのだから、たっち・みーの技量は底知れない何かを感じさせた。
「タツ氏は……化け物か……?」
思わずと言った様子で声を漏らしたダインの言葉を、否定するものは一人もいなかった。
「さて、こんなものか?」
そう言いながら戦いを続けるたっち・みーを避けていったモンスターが、漆黒の剣の方になだれ込む。完全に傍観者と化していた漆黒の剣も、即座に気を引き締めて戦いに入った。
チームワークの取れた連携でゴブリンたちを迎え撃った漆黒の剣たちは、順調にゴブリンの数を減らしていく。ゴブリンの数は11体ほどだったが、数に圧倒されているような気配はない。それはたっち・みーが猛威を振るっているために、ゴブリンたちの足並みが大きく乱れているからに他ならなかった。
そして、ついに残る3匹のオーガの内、1体が地面に倒れ伏した。
すでに残るオーガはダインの魔法で足止めを受けている1体と、たっち・みーの前で怯える1体だけだ。
鮮やかすぎるたっち・みーの技に、確実な死を見たのか、目の前のオーガが武器を放り捨てて遁走する。追いつこうと思えばいくらでも追いつけたが、自分だけで倒してしまうのも問題だ。
「モモさん。あとは任せます」
「了解です!」
たっち・みーの鮮やかで派手な戦闘を見ていたからだろうか、少し高揚した様子で、モモンガがたっち・みーの前に出る。
(オーガを倒した程度のことで、そんなに機嫌よくならなくても……ん?)
モモンガが右手を空高く構える。その手に雷がまとわりついた。それは、明らかに<電撃>の構えではない。
「モモさん、ちょっ、まっ――!?」
「<
振り下ろしたモモンガの腕から迸った雷光が、逃げようとしていたオーガの全身を背後から焼き、そしてうねりながら進んだその雷の龍は、ダインの魔法で足止めされていたオーガをも骨の髄まで焼く。当然二匹とも即死であり、肉の焼き焦げる臭いが戦場に広がった。
唖然、とはこのことをいうのだろう。あまりにすさまじい魔法の放出に、漆黒の剣もゴブリンたちも思わず戦いを中断している。
たっち・みーは思わず天を仰ぎたくなったが、即座に切り替える。
「……さっ、さすがはモモさん! 少し本気を出すと、ただの<電撃>が<電撃>とは思えない破壊力になりますね!」
苦しいのは理解していたが、あれはただの<電撃>だったのだと押し通すことにした。モモンガも思わず使わないと決めていた第五位階の魔法である<龍電>を使ってしまったことに気づいて、顔を青ざめさせていたが、なんとかそのたっち・みーの言葉に乗る。
「あ、あはは。すみません。つい必要以上の魔力が入っちゃって……っ」
それで疑問もなく納得してくれるほど、さすがに漆黒の剣も馬鹿ではなかったが、ひとまずは、目の前のゴブリンのことだ。完全に硬直して、戦意を失っているゴブリンたちは瞬く間に斬り伏せられていく。
「ニゲル! ニゲルゾ!」
そんな風にゴブリンは叫んだが、もはや遅い。
すべてのモンスターは討伐され、あとにはただの死体の山が残された。
死体が生臭い臭いを放つ中――焼け焦げた臭いも混じっている――ダインがぺテルやルクルットの傷を癒している間に、ニニャがゴブリンたちの耳をはぎ取って回っていた。それがそのモンスターを討伐した証となるらしい。
その様子を傍で見ながら、たっち・みーとモモンガはこっそり会話を交わしていた。
『すみません……たっちさん……柄にもなく、テンションがあがっちゃって……』
第五位階の<龍電>を使ってしまったことに対する謝罪に対し、たっち・みーはさすがに苦笑しながらではあったが、気楽に応じた。
『モモンガさん、謝らなくてもいいですよ。大きな問題はないでしょう。彼らもあれは<電撃>を強化した魔法だと思ってくれたみたいですし』
ニニャ辺りはさすがに妙に感じているようだが、それを追及してくる様子はない。
落ち込むモモンガを慰めるたっち・みーだったが、モモンガの暗い雰囲気は晴れない。
『最近ちょっと感情の動きが激しすぎますね……精神安定しても、一瞬だけで全然追いつかなくて』
それはそれだけモモンガがギルメンと、たっち・みーと一緒に冒険ができる現状を楽しんでいるという証拠でもある。
モモンガはずっと一人だったのだ。ユグドラシルのサービス終了までの数年間、一人でずっとアインズ・ウール・ゴウンを維持するために、ソロでひたすら狩り続けていた。
誰かと話そうにもギルメンは一人もおらず、ギルドの悪名のせいで他のプレイヤーとも交流しにくい。いまでこそ命を持って動くNPCたちも、その頃はただのNPCでしかなく、話す相手にはなりえない。
誰もいない寂しさや空しさに涙したこともあったはずだ。
そんな彼が再びギルドメンバーと、それも自身の恩人としてもっとも大事に思っているたっち・みーと、また一緒に冒険できているという現実に、ついはしゃいでしまうことを誰が責められるだろうか。
当然、モモンガの気持ちを理解するたっち・みーも、モモンガを責める気は微塵もなかった。
『気にしないでいきましょう。どうせいつかは第三位階の魔法以上も使えることを明らかにする予定ではあるんですし、仮に彼らからそれが伝わったとしても、ちょっと予定が早まる程度のことです』
単純に第三位階までと決めているのは、あまり名が知られていないうちから極端な位階の魔法を使っていては、人となりがわかっていない周囲の人間が、自分たちを恐れてしまいかねないという懸念からだった。
冒険者のタツとモモが人々のために活動する存在であり、危険がないことを理解してもらってから、徐々に強力な魔法を使えるということを喧伝していく予定なのだ。そうすれば余計な争いごとに巻き込まれなくて済むし、問題なく英雄の名誉を得られると判断してのことだ。
だから、もし最悪ここで第五位階の魔法を使えることがばれたとしても、究極的には問題ない。漆黒の剣の面々はたっち・みーやモモンガに対して好意的なため、悪い形で噂が広がることはないだろう、とたっち・みーは考えていた。
なんとかモモンガの抱いている暗い雰囲気の一部だけでも払拭することができたと感じた頃、回復魔法をかけ終わったのか、ぺテルら三人が口々にたっち・みーやモモンガに言葉をなげかけてくる。
「しかし、タツさんの剣技、すごかったですね! 腕に自信のある戦士なんだとは思っていましたが、まさかあれほどまでの実力とは!」
「モモちゃんの魔法もすごかったよな。雷がすっげえ音立ててさ。オーガが一瞬で丸焼きだもんなぁ」
「あの剣はどこぞの逸品であるか? あれほど価値のありそうな剣は見たことがないのである」
「噂に名高い王国最強の戦士すら凌駕しているんじゃないかというレベルの腕前でしたね……モモさんが自分を遙かに凌駕する戦士だといった言葉が、しみじみと実感できましたよ……」
モモンガはたっち・みーが褒められていることに気分を良くしたようだった。
たっち・みーは口々に投げかけられる称賛の言葉に対し、大きく手を横に振った。
「別に大したことはしていない。それに……きっとお前たちなら、この程度軽くこなせるようになるさ。私が保障しよう」
それはお世辞ではなかった。漆黒の剣の面々はもっと強くなるという確信があった。
ニニャはその中でも成長株だが、他の三人だって全く成長の見込みがないわけではない。軽い物腰のルクルットも、その野伏の技術はプロとして十分なものだし、ダインの落ち着いた判断力や動じない精神力は得難いものだ。
リーダーのぺテルも、メンバーのことを理解し、チームの力としてそれを上手く引き出していた。
彼らが今後も慢心することなく修練を重ねていけば、いつかは非常に強力な冒険者チームになるだろうという確信がたっち・みーの頭にはあった。
「がんばってくれ。私たちはお前たちのような冒険者のチームに出会えて本当によかった」
ぺテルたちからすれば、それは最高の褒め言葉だった。
たっち・みーもモモンガも、漆黒の剣からすれば極限の高みにいる人物だ。そんな彼らと共に旅をし、そんな言葉をもらえたという事実は、ぺテルたちの心に暖かな光を灯した。たとえこの先、どんな辛く苦しいことが待っていたとしても、その灯された光があればそこまでも進んでいけるような、そんな気さえする。
人の心にそんな光を灯すことのできるたっち・みーは、間違いなく自らも光り輝く英雄であり、その光を人に分け与える救いの存在だった。
自分たちが共に旅している人物は、いずれこの世界のどこにいても必ずその名を聞くほどの、大英雄に必ずなる。
そんな確信を漆黒の剣は胸に抱いたのだった。