スリザリン生の優雅な生活   作:モンコ

10 / 13
総じて分かること:女運最悪。

「あ、そうだ。ねぇラーニャ」

 

それはいつもと何ら変わらない、例えば「この服可愛いよねー」とか「新しくお店ができたらしいよー」とか、そんな下らない話題をふるのと大差ない気軽さでの、

重大な報告だった。

 

「あたし、たぶんこの学校退学になったよー」

「………え?」

「いやー、ついさっきさぁ、あたしってば窓を割っちゃったわけよ。なんかやたらと絡んでくるアホがいたから、ちょこっとこらしめたかったんだけど。まぁこれが失敗だったねー、やり過ぎて窓がパリーン!!」

 

大げさに腕を上にあげ、そのままばたりと後ろに倒れこむ。

 

「まぁ、退学になるだろ。あたし色んな……つーかほぼ全員の教師に嫌われてるし」

「そっ、そんな……!」

「仕方ないんだけどねー。完全に自業自得だし? それに、この学校で好きなものがラーニャだけってのも、ちょっとどうかと思ってたしさ。合わなかったんだね」

 

ロザリーはゆるゆると首をふり、肩をすくめる。

 

「あっ、でも唯一面白かったのがさぁ! あたしがマクゴナガル先生に叱られてる最中に、スネイプがきたわけよ! で、もうその顔がさぁ!

満ッ面の笑顔!

超楽しそうなさぁ! いくらあたしを退学にできるのが嬉しいからってwwwwあたしのせいで怪我した生徒いるのにwwwその笑顔wwwおいオッサン教師だろwww

つーかアンタ、そんな表情できたのかよ!とか、もうお腹痛くってさぁ!

笑いこらえるの大変だったんだから!!!

ラーニャにも見せたかっ……た…………あれ?」

 

ラーニャのいた場所を見ると、そこには誰もいなかった。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

スネイプ先生は、自分の部屋で薬品棚の整理をしていた。

 

「あの……、スネイプ先生」

「ん? おお、ギルティクか。どうした?」

「いえ、あの………」

 

ラーニャは、うつむいて上目づかいでスネイプをうかがう。

 

「ロザリー…えっと、ロザリオが、退学になるって聞いたんですけど……」

「ああ。彼女はあまりよろしくない素行をしていたものでね」

 

何をしたんですか、と私はしつこく食い下がる。

 

「生徒に危害を加え、窓を割り、その上に反省している様子も見られなかった」

「………やっぱり、」

 

瞳が涙で潤むのが感じられたが、気にしない。

 

「やっぱり、ロザリオは退学ですか?」

「…………」

 

視界が涙で歪んでいて、まともに先生を見られなかった。

たたずんでいる黒い影が、ゆらゆらと動いている。

 

「―――お前は。母親にそっくりな見た目だが、性格も似ているな」

「――………?」

「あの女は、とにかく嫌な女だった。揉め事を好み争いを愛す、そんな女だった。趣味は他人の喧嘩を鑑賞することだと言ってのけるような、傲慢で高慢な女だった。―――あの女、いつか覚えてろ」

 

ぼそりとつぶやいて、スネイプ先生は慌てたように咳払いをする。

 

……お母様いわく、「使い勝手のいい男でしたわ。わたくしの大っ嫌いな女に傾倒してさえいなければ、ずぅっとこき使ってあげましたのに」だからなぁ。

お母様や先生の学生時代はよく知らないが、スネイプ先生がお母様から逃げきれて本当に良かったと思う。

 

 

「………だが」

 

スネイプ先生の話には、まだ続きがあった。

 

 

「あいつは、仲間のことを、大切にする女だった」

 

 

スネイプ先生の声音からは、何も感情が読み取れない。

くすん、と鼻をすすりながら、私はまだ下を向いていた。

 

「………あいつには、お前の母親には、借りがいくつもあってな。できれば早く返したい。娘であるお前の望みを聞いたとなれば、そのうちの一つは消えるだろう」

「!!! 本当ですか!!?」

「一度だけだ」

 

嫌そうな顔をして、後ろを向くスネイプ先生。

どうやらよほどロザリーを退学にしたかったらしい。

 

「ありがとうございます、先生! 大好きです!」

「…………媚びを売るのはあまり良くないな」

「本心ですわ!」

 

何度も「ありがとうございます!」と頭を下げながら、寮に戻った。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「あ、ラーニャ。どこ行ってたの? 心配したんだよぉ?」

「やった、やったぁ! えへへ、ロザリー、退学しなくてもよくなったんだよ!」

「……何言ってるの? 励まそうとしてくれなくても、あたし平気だよ? そりゃ、たまには手紙とか送ってほしいけど……」

「嘘じゃないわ! スネイプ先生に許可とったもの!」

「ふぇ?」

 

ぽかんと口を開けるロザリーに、ぎゅうぎゅうと抱きつく。

ロザリーはあっけにとられたまま突っ立っていた。

 

「なんで? どうやって?」

「スネイプ先生の部屋に行って、直接お伺いを立てたの! そしたら、一度だけ見逃してくれるって!」

「はぁあ!? あんな育ちすぎコウモリの巣に一人で行ったの!? 自殺行為じゃんか!」

 

そんなことなかったけど、と言わないうちに、ロザリーの顔がどんどん曇っていった。

 

「あたしのせいで、ラーニャがそんな危ない目にあったんだ……」

 

さっきからロザリーの中でのスネイプ先生はなんなの?と言いたいのだが、ロザリーが半泣きなのでそれも言えない。

 

「ごめん……あたし、ラーニャは気にしないと思ってたのに……。まさか、そんな危険なことするなんて……。全然、考えてなかった……、ごめん」

「そんな……謝らなくていいよ、ロザリー」

「ううん。今、すっごく反省してる」

 

え、遅くない?

 

「あたし、もう面倒事起こさない。絶対、絶対だよ。約束する。もう二度とラーニャをあんなコウモリのところへ行かせたりはしないから」

 

手を握られてそうも熱く語られては、スネイプ先生に対する認識へのツッコミもできない。

 

「あ……でも、これ、どうするの?」

「うん?」

 

ロザリーは、私が指差した方向を見て、ピシリとかたまる。

 

そこには、乱雑にたたまれた服が煩雑に散らかり、トランクに無理やり詰め込まれていた。

 

「………ラーニャ」

「………なぁに?」

「………もうさんざんお世話になった後で、あれなんだけどさ」

「…………うん」

「手伝って?」

「はいはい……」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。