火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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ある少女の視点です。


18話「英雄とわたし」

わたしが生まれた家は、名門といわれる炎術師の家系だった。

 

幼い頃は炎術師というものがよく分からなかった。

 

わたしは周りの大人達に言われるがままに修行をさせられていた。

わたしにあるのは修行だけだった。

そんな毎日だけど、わたしにはそれが当たり前だったから何も思わなかった。

 

ただ、部屋の窓から他所の子供達が楽しそうに遊んでいるのを見ると…

 

なぜか胸の奥が変な感じになった。

 

だから、窓はカーテンを閉めたまま開けなくなった。

 

 

ある時、伝説の炎術師の話を聞いた。

 

伝説は語る。一人の英雄の活躍を。

 

伝説は語る。一人の人間の苦悩を。

 

伝説は語る。一組の男女の物語を。

 

伝説は語る。精霊と人間の友情を。

 

後にわたしは知ることになる。

 

伝説は真実だということを。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

わたしの生まれた家は、アメリカでは名門といわれる炎術師の家系だった。

 

成長と共に少しずつ炎術師の世界を知るようになる。

 

わたしの周りにはたくさんの人達が集まっている。

わたしが新しい炎術を覚えるたびに周りの人たちは凄く褒めてくれる。

 

わたしの家はお金持ちだった。凄く大きな屋敷でたくさんの人達に囲まれている。

わたしの周りの人達は、皆んな楽しそうに笑っている。

だからわたしも一緒に笑う。

笑いながらわたしは不思議に思う。

 

どうして、人は楽しくもないのに笑うのだろう。

 

 

ある時、日本という国を知った。

 

英雄がいた国だった。

 

人が精一杯生きている国だった。

 

好きな人と結ばれることが許される国だった。

 

精霊と人が共存している国だった。

 

わたしは憧れる。

 

わたしは学ぶ。

 

彼の国の言葉を。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

わたしの生まれた家は、アメリカでしか名門といわれない炎術師の家系だった。

 

だけど、我が家が世界一と誇れるものがあった。

わたしが胸を張れるものがあった。

わたしが幼い頃から頑張り続けた結果があった。

 

わたしの、

 

 

たった一人のお友達。

 

 

「おはよう。今日もいい天気ね、アザゼル」

 

わたしが頑張ったから生まれてきてくれた、アザゼル。

 

わたしと共に戦ってくれる、頼もしいアザゼル。

 

わたしに撫でられて気持ちよさそうにする、可愛いアザゼル。

 

わたしは、わたしのお友達を英雄に見て欲しかった。

 

 

「わたしの誕生日パーティーにご招待すれば来てくれるかしら?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうして神凪家に招待状を送ってはいけないのですか?今までは交流がなかったとしても同じ炎術師の家なのだから友好を求める事は変な事ではないでしょう」

 

「同じではありませんよ、お嬢様。神凪家は炎術師として世界の頂点とされる家系なのです。火の精霊王の加護をうけた唯一の存在なのですよ」

 

「だからこそ友好を求めているのよ。わたし達新興の家ならばこそ、神凪家から学べることは多いはずよ」

 

わたしが神凪家に招待状を送りたいと口にすると家の者達が一斉に反対をした。

曰く、家格が違いすぎると。

 

「それに一方的に依存をしたいわけじゃありません。我が家にも誇れるものがあります」

 

そう。家の歴史ではたかだか200年しかない新興の我が家だけど、研鑽に研鑚を積み重ねてきたものがある。

 

「お嬢様、それは…」

 

我が家で家令を務める男性が、何故か口を濁す。

 

「日本では守護精霊の研究は殆どされていないと聞いています。確かに炎術師としての実力では、マクドナルド家は神凪家に遠く及ばないでしょう。ですが、守護精霊の研究ならばマクドナルド家は世界でも最高峰、他の追随を許しませんわ」

 

わたしは自負をもって胸を張る。

代々のマクドナルド家の者達が全ての情熱を賭して研究に没頭し、人生の殆どをその研鑚に捧げてきたのだ。

わたし自身も幼い時から守護精霊の術に触れ研鑚し練磨してきた。

 

「神凪家が世界の頂点の炎術師の家系ならば、我がマクドナルド家は世界の頂点の守護精霊研究の家系ですわ。たとえ神凪家の千年を超える歴史にも、我がマクドナルド家の研鑚の歴史が負けるなどと卑下するつもりはありませんわ」

 

わたしは神凪家に敬意と憧れを持っているけれど、だからといってマクドナルド家を下に見る気はない。

 

精霊と人が対等なパートナーであるのと同じように、神凪家とマクドナルド家も対等なパートナーになりたいからだ。

 

もちろん、不足する実力は努力で補おう。神凪家のパートナーとして足りぬと侮られぬように研鑚を積み重ねよう。

200年で足りぬなら400年。

400年で足りぬなら800年。

800年でも足りぬなら永遠でも積み重ねよう。

わたし達はそうやって生きてきたのだから、

これからもそうやって生きていく。

 

「ですから招待状を送ってみてもいいでしょう?ダメだったとしても無視されて返事がないだけよ。ダメ元でいきましょう!ねっ!」

 

「はぁ、お嬢様は妙な理屈を言い出されたときは絶対に引かれませんよね。分かりました。招待状は送っておきます。ただし、本当に無視されても日本に怒鳴りこみに行ったりしないとお約束して下さい」

 

「やあね。そんな淑女にあるまじき行為は致しませんわ。うふふふ」

 

 

わたしは勝利した。ぶいっ!

 

 

 




綾乃「私の出番が少ないわね」
操「私の方がもっと少ないですよ」
綾乃「あんたは武志の嫁候補筆頭じゃない」
操「武志は母親がいない分、お姉ちゃん子なだけですよ」
綾乃「あれ、武志の母親って生きているよね?」
操「子供を育てる気のない方ですから」
綾乃「あ…そうなんだ」
操「さすらいのギャンブラーなんですよ」
綾乃「何よそれっ!?」

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