問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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三、四巻 そう……巨龍召喚&十三番目の太陽を撃て
一話


 《黒斑模様の魔王(ブラック・パーチャー)》とのゲームから早一ヶ月。《ノーネーム》一同は今後の方針を話し合うために今まで使われることのなかった本拠の大広間に集まっていた。

 

「どうした? 俺よりいい位置に座ってるのに随分と気分悪そうな顔してるじゃねえか、御チビ」

 

 大広間中心に据えられた長机、一番奥の上座から一つ手前の席に腰を下ろしている十六夜はニヤニヤと笑う。

 

「だ、だって旗本の席ですよ? 緊張して当たり前じゃないですか」

 

 当然ながら最も奥の上座にはリーダーのジンがいる。強張った顔で十六夜に言い返すのだった。

 ジンは当然ながら、十六夜が次席に座るのも考えてみれば当然で、水神を倒しての水源の確保、レティシアの奪還、ついこの間のゲームでは謎解きだけでなく神格保持者となった悪魔、ヴェーザーをも倒した。

 黒ウサギを例外とするなら最もこのコミュニティに貢献しているといっていい。

 

「それで? 今日集まったのはどんな話し合いなのかしら?」

 

 そんな十六夜より一つ手前には飛鳥。彼女が従える新しい仲間、ディーンとメルンによって死んでいたコミュニティの土地が蘇りつつある。その功績が認められて彼女は二番目の席に座っているのだが、その顔に不満が見えるのはやはり一番でないことが理由らしい。それでも十六夜の凄さを認めているから、不満こそあれ納得はしている。無論いつまでもそこに甘んじるつもりがないのは明らかだ。

 そんな彼女の次にいるのは三毛猫を抱き抱えている耀。そこから順に黒ウサギ、メイドのレティシア、年長組み代表のリリ。そして、

 

「ふぁ……むにゃむにゃ」

 

 リリのすぐ脇で、長机から少し離れた所の椅子に腰掛けて大欠伸をしているのが信長だった。

 

 当初、彼が座る位置は飛鳥と耀の間だった。水源の確保、土地の再生といったコミュニティの生活に大きく関わるような目立った功績こそないものの、《ペルセウス》とのゲームのときも、《ハーメルン》とのゲームのときも、ここぞという場面で彼の力はコミュニティに多大な貢献をしている。特にペストとの戦いでは実質たった一人で彼女を追い詰めたといっていい。

 それに飛鳥も耀もレティシアも、そして黒ウサギも、誰もが彼に一度は救われている。直接的に命を救ってもらったこともあれば、心を救われたこともある。

 だからもし彼が飛鳥に代わって二番目の席に置かれても、きっと誰も異論は唱えなかった。それを断ったのは彼自身。

 

 この期に及んで彼はまだ自分は《ノーネーム》の正式メンバーではなく客分扱いで構わないと言うのだ。それはつまり正式な仲間であることを拒否したとも取られ、特に黒ウサギなどは悲しそうな顔をした。

 しかし、驚くことにそれを認めたのはジンだった。黒ウサギ達は知らないが、ジンと信長はかつて約束している。ジンが立派な将となったそのとき、彼は正式にジンの仲間になってくれると。そしてその言葉を信じているからこそ、たとえ立場は客分であってもジンは信長を正式なコミュニティのメンバーとして扱おうと決めている。

 

「――――つまりだ」

 

 リリによるコミュニティの現状報告を終え、話題は黒ウサギのあげた農園の特区に関することに移る。メイドであるレティシアが引き継いで話す。

 

「主達には特区にふさわしい苗や牧畜を手に入れて欲しいのだ」

 

「牧畜って、山羊や牛のような?」

 

「そうだ。都合のいいことに、南側の《龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)》連盟から収穫祭の招待状が届いている。連盟主催とあって収穫物の持ちよりもギフトゲームも多い」

 

「珍しいものや面白いゲームがいっぱいってことだね」

 

「その通りだ」

 

 信長の言葉に彼女は頷いて席に着く。《ノーネーム》も噂が噂を呼んで他にもいくつかギフトゲームへの招待状が届いている。今レティシアがあげたものなど、前夜祭からの招待であり、さらに費用は全て主催者持ちという破格の待遇。十六夜の立てたコミュニティ復興の作戦が早くも効果を現していた。

 

「方針については一通り説明は終わりました。……ですが、一つ問題があります」

 

「問題?」

 

 黒ウサギはとても言い難そうに目を泳がせて、

 

「この収穫祭ですが、二十日間ほど開催される予定で、前夜祭を含めれば二十五日。約一ヶ月行われることとなります。この規模のゲームはそう無いですし、出来れば最後まで参加したいのですが、コミュニティの主力が長期間不在なのはよくありません。なのでレティシア様と一緒にせめて御一人残って欲しい――――」

 

「「「「嫌だ」」」」

 

 ですよねー、と苦笑いを浮かべる黒ウサギ。楽しいこと間違いないお祭りを、この問題児軍団がお預けなど耐えられるはずがない。視線でジンに助けを求める。

 

「では日数を絞らせてください」

 

「というと?」

 

「前夜祭を二人、オープニングセレモニーからの一週間を四人、残りの日数を前夜祭に参加出来なかった二人で参加するというのはどうでしょう」

 

 これなら平等の日数を全員が過ごせる。

 

「悪くはないが訂正がある」そこに口を挟んだのは十六夜「俺は是非とも全部の日数を過ごしたい。お嬢様達も同意見だろ?」

 

 視線で窺うと三人共に頷く。

 

「前夜祭と、本祭一週間後の人数は三人」

 

「それだと二人だけ全部参加出来るよね?」

 

 耀の疑問に彼は大仰に頷き両腕を広げる。

 

「ゲームで決めようぜ。前夜祭までの期間で最も戦果を挙げたものが優先的に日数を決められる」

 

 それはとてもわかりやすく、何より不満もあがらない。行きたければ権利を勝ち取れ、という彼の挑発に飛鳥も、耀も、もちろん信長も承諾したのだった。

 

 

 

 

 

 

「その草履素敵ですね」

 

「うん? ああ、白ちゃんにこの前のギフトゲームで活躍したご褒美として貰ったんだー。履きやすくて僕も気に入ってるの」

 

 にへらと笑いながら片足をあげてみせる。ペストをたった一人で食い止めた褒美として白夜叉の方から信長に願いを訊いてきた。それに対して彼が求めたのは着物に次いで履物。とはいっても、着物のような特殊な素材で作られた物が早々あるわけもなく、これはそれなりに丈夫ではあるがただの草履。彼はそれで充分だと言ったが、白夜叉の方がそれでは働きに対して不足過ぎるとして褒美は後々ということになった。『おんしには借りばかり増えていきよる』とは、草履を受け取った後の彼女の弁だ。

 

 複数の神の恩恵を得た着物に草履、腰に差した刀の形をとったレーヴァテイン。彼の姿はそのまま彼の世界の名残である和服姿で整えられていた。こちらに来て珍しい物にはいくつも気を惹かれたが、やはり服は自分にあったものがいいと思ってのことだ。

 

「あ、あの信長様!」

 

 大通りを空を見上げながら歩いていた信長は呼びかけに応じて視線をそちらへ。隣を歩く狐耳の少女、リリが不安そうにこちらを見上げていた。

 

「いいんですか?」

 

「なにが?」

 

「な、なにがって……」

 

 問い返されて思わず困惑するリリ。二人は今街に買出しにきている。買出しはいつもリリを含めた年長組一人と、大人が一人付き添う。たとえ慣れ親しんだ街でもガルドのように人攫いがないとも限らないからだ。

 いつもならその役目は黒ウサギかメイドのレティシアなのだが、二人共少し手が離せない様子で声をかけられずに途方に暮れていたリリを見つけた信長が自分がついていくと言ってくれたのだ。

 

「信長様のお気持ちは嬉しいですけど、今信長様達は大切なゲームの最中じゃないですか」

 

 それを邪魔してしまうのは心苦しい、と少女は俯く。

 

「なに言ってるんだい。リリちゃんみたいな可愛い女の子と買い物に行く以上に大切なことなんてないよ」

 

 信長の言葉に思わず赤面してしまうリリは再び顔を俯かせる。そんな反応を楽しみながら彼は続ける。

 

「それに実は僕、今回のゲームはあんまりやる気ないしねー」

 

「え!?」

 

「だってどっちにしたって本祭の一週間と前後どっちかには行けるわけだし。それに」

 

 ――――今回は魔王と楽しく愉快に戦えるわけでもないし、なんて過激な発言はさすがに幼いリリの前では言えない。不自然な間に少女が首を傾げるので笑って誤魔化す。

 

「ま、とにかくそれだけあれば僕は充分楽しめると思うから。今回は他の三人に譲ることにしようかなって」

 

「はぁ……」

 

 それでも理解の出来ない少女は生返事する。それも仕方ない。彼の考えることを理解出来るものなど、ここ箱庭でも何人いることやら。

 彼女にしてみれば一日でも早く、一日でも多く祭典に参加したいと思うのだからその反応も当然だった。

 

 そんなとき、角から飛び出してきた小さな人影がちょうど角にさしかかろうとしていたリリとぶつかった。

 

「きゃっ!」

 

「おっと」

 

 背中から倒れそうになる少女の背を支える。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

 よほど驚いたのか目をまん丸にしながら感謝の言葉を口にするリリ。本当に律儀な女の子だ。

 リリを立たせて、信長は目の前へ視線をやる。リリとは逆に跳ね飛ばされたようでしりもちをついて打った腰をさすっている少年。彼が角から飛び出してきた人影の正体だろう。そんな彼の頭部にはまだ小さいながら牛の角が生えている。いわゆる牛のギフトを得ているリリと同じ獣人の子供だ。

 

「おいおい子牛君、元気なのは結構だけど気をつけないと駄目だよー」

 

 信長はたしなめながら少年にも手を差し伸べる。少年は差し出された手を見て、信長の腰に差した刀を見て、最後に顔を見上げた。

 

「た、助けてくれ!」

 

 はてさて、少し面倒なことだろうかと思いながらも、信長はゆるみきった微笑みを浮かべて少年の言葉に耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 少年は名前をミルと名乗った。事情を聞いてみれば、彼はあるギフトゲームで敗れたらしい。正確には彼の母親が。

 

「家の土地は少し特別なんだ」

 

「特別?」

 

「普通、畑に種を植えれば芽を出して実を作ったり花を咲かせるだろ。けど家の畑は――――種を生むんだ」

 

 種を植えて種を生む、ミルの説明に信長とリリは首を傾ぐ。

 

 詳しい話を聞いてみると、ミルの土地は種、もしくは苗を一つ植えれば翌日にはそこに十の種が。十を植えれば百の、といったように植えたものを生むものらしい。希少なものになると日数が必要であったり増える数が少なかったりするらしいが、それでもその価値は計り知れない。希少なものになれば一つ手に入れるだけでも大変な苦労がかかる。それを無条件で増やすことが出来るのだ。たとえ希少でなくても、わざわざ金銭を払って新しい種や苗を買わずともいいというのだから。

 

「あいつらはそれを狙ってやってきたんだ」

 

 『あいつら』。ミルがそう呼ぶ奴等を信長に倒して欲しいと彼は頼んできたのだ。

 

「あいつら、俺を人質にして母ちゃんに無茶なゲームをさせて無理矢理土地の利権を奪ったんだ」

 

 今やその《種を生む土地》は彼らの物となっているらしい。しかも彼等はその土地で違法な植物の種子を増やして売りさばいているのだと、ミルは悔しそうに言った。それに文句を言おうとした母親は大怪我を負わされ、今は床に伏せっているらしい。

 

 ――――正直、信長には関係もなければ興味も無い話だった。たとえその連中がどんな卑怯な手を使ったのだとしても負けた方が悪い。

 だから信長は彼を助けるつもりなどなかったのだが、

 

「信長様お願いします。ミル君を助けてあげてください!」

 

 必死にリリは頭を下げる。それにはミルも驚いていた。赤の他人に過ぎない自分のことで少女が必死に頭を下げる理由がない。理解が出来なかったのだろう。

 

 しかし信長は以前リリの過去を聞いている。彼女は、彼女の一族は稲荷の神に連なる豊穣の一族。代々《ノーネーム》の土地を任されているのはそれが理由だ。そんな彼女も魔王によって土地を失い、母親を連れ去られてしまっている。そんな自分とミルを重ねてしまったのだろう。

 そして、可愛い女の子からの頼みをはたして信長は無碍に出来るだろうか。出来るはずもない。

 

 

 

 

 

 

「ここだ」

 

 緊張した面持ちである建物の前でミルは立ち止まる。賑わうペリベッド通りからやや離れた裏手は雰囲気は暗く、雰囲気も淀んでいるように思える。常日頃から黒ウサギに街の裏手には行かないようきつく言われているリリはかなり強張った表情で信長の手をぎゅっと握っている。つまりここはそういった連中の吹き溜まりだということだ。

 ミルが一歩前に出て扉を開く。中から流れてきた淀んだ空気にリリが思わず顔をしかめた。

 

 ここは元々酒場だったのか、中にはいくつもテーブルとイスが乱立している。そのうち数脚に男達が座っている。灰色の煙が部屋に充満し、空の酒瓶が床に打ち捨てられ、荒れ果てた店内に相応しい荒んだ者達が店を占拠していた。

 すると一番奥で煙草のようなものをふかしていたサングラスをかけた男がミルの来訪に気付いた。

 

「よー、誰かと思えばこの間の牛のガキじゃねえか。んん? 後ろのお二人は見覚えがないなぁ」

 

「今日はうちの土地の権利書を返してもらいに来たんだ!」

 

 ピクリと、男の瞼が跳ね上がる。

 

「……ほほう、そりゃあつまりなんだ」

 

 ゆっくりと椅子から腰を上げる男の姿が見る見るうちに変貌していく。完全に立ち上がる頃にはオオトカゲの姿へ変わっていた。

 

「母ちゃんの仇討ちってわけかぁ」

 

 トカゲ男は腹を抱えて笑い、呼応するように仲間達も下卑た哄笑を上げる。

 

「なにが可笑しいんだ――――がはっ」

 

「ミル君!」

 

 トカゲ男の蹴りが深々とミルの腹に突き刺さりその場に崩れ落ちる。

 

「ケッケッ、舐めんなよ糞ガキ。お前にはもう賭けるもんなんざねーだろうが。それとも」男の目が信長に向く「そこの兄ちゃんが代わりになにか賭けるか? こんな何も持ってねえ糞ガキのためなんかによー」

 

「うん。いいよ」

 

「「は?」」

 

 一瞬、部屋にいる者達の時間が止まった。

 

「く、ケッキャキャキャキャ! こりゃ面白え! なにを賭ける? 金か? 土地か? それともギフトか?」

 

「僕の命」

 

「の、信長様!?」

 

「言ったな小僧! もう取り返しはつかねえぜ!」

 

 信長とトカゲ男、二人の頭上に《契約書類(ギアス・ロール)》が出現する。

 

『ギフトゲーム名《偽者を暴け》

 

 プレイヤー一覧、織田 三郎 信長。

 ゲームマスター、ザイル。

 クリア条件、偽者を暴き真実を掴め。

 敗北条件、プレイヤー側が偽者を暴けなかった場合。上記の条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 《フォレス・リザード》印』

 

 信長が《契約書類》を確認した直後、光が視界を潰した。再び目を開いたとき目の前には――――リリが二人いた(・・・・・・・)




>二巻の耀ちゃんキスエンドが知りたい人は二月十八日の感染爆発さんの感想を見るとちょろっと書いてありますですよ!なぜ最初に書いたかって?こんな私の独り言に等しいあとがきを読んでくれている奇特な方が果たして何人いるかわからないからですッッ!!

>あとがきの前に今週のアニメより……今までで一番楽しかった(感涙)
白夜叉のエロ素晴らしさと女の子達の素肌タオル着物見れただけで感無量でありました!

>本当にあとがき。
閲覧ありがとうございましたー。ぼちぼち忙しくなりつつあり、仕事が始まったら今回ぐらいか、もしくはもっと遅い執筆ペースになるのかなぁといった感じでした。まあ、今回は慣れないオリジナルを書いているから、妄想はあってもそれを整理出来ずに四苦八苦というのも原因でしたが。

まま、出来れば五巻の水着回まではなんとか四月前に終わらせたい。というか書きたい!……という願望と欲望と皆様の応援を糧に頑張りたいです。

ぴーえす>花粉症が辛いです。

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