咲-Saki-《風神録》   作:朝霞リョウマ

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 そういえば世間は受験シーズン真っ只中。

 受験生の諸君は息抜きもほどほどの勉強を頑張ってください。

 夜更かしして作者のように風邪を一週間も長引かせないように。


日常編・南一局『とある二人の麻雀技巧・前編』

 

 

 

 ……長かった……。

 

 この日を熱望し続けて、一体どれほどの時間が流れたのだろうか。俺はずっとこの日を待ち続けた。この日が来ることを待望し続けた。

 

 そして、ようやくこの日がやってきたのだ。

 

「ようやくモモと麻雀が出来る……!」

 

「と言っても、まだ私が麻雀部に入部してから二日しか経ってないっすけどね」

 

 そこら辺は突っ込んではいけない。

 

 

 

咲-Saki-《風神録》

 日常編・南一局 『とある二人の麻雀技巧(マージャンスキル)・前編』

 

 

 

 というわけで、念願叶ってモモと対局することが出来るようになったのだ。初日は泣いているモモを落ち着かせるためにお流れとなり、その次の日はゆみ姉と部長とクラスメイトに意地悪されて対局することが出来なかったが(クラスメイトのは自業自得である)、今日ようやく場が整った。メンツは俺とモモ、ゆみ姉と部長だ。

 

「……西か」

 

「東っす」

 

「南だな」

 

「北だ」

 

 席決めの結果、俺の対面がモモ、上家がゆみ姉、下家が部長となった。二つのサイコロを振り、仮仮親、仮親と決めていく。

 

「んじゃ親はーっと……左八か」

 

 起家はゆみ姉か。

 

 さて、対局開始だ。

 

 

 

   †

 

 

 

《東一局 親:加治木ゆみ ドラ:一筒》

 

 ニ向聴(リャンシャンテン)のなかなかの良手から五巡目。

 

 34589三四五参参肆肆伍 8

 

(よし、張った)

 

 理想的なタンピン三色だ。ここで勢いを付けておこう。

 

「リーチ!」

 

 九筒を切ると共にリー棒を出す。これで安く和了っても8000(マンガン)、五索が来れば12000(ハネマン)だ。

 

「ワハハ、残念だったな、風祭」

 

 へ?

 

「ツモ。メンゼン白ドラ1、1000・2000だ」

 

「うぼあ」

 

 俺がリー棒出した途端にこれだよ!

 

 なんとも幸先の悪い出だしだった。

 

東 加治木ゆみ 23000(-2000)

南 風祭御人  23000(-1000)

西 蒲原智美  30000(+5000)

北 東横桃子  24000(-1000)

 

 

 

   †

 

 

 

《東四局 親:東横桃子 ドラ:五萬》

 

南 加治木ゆみ 28600

西 風祭御人  17600

北 蒲原智美  33900

東 東横桃子  24900

 

 1345一ニ八陸漆玖玖白白 ニ

 

 八巡目のこの時点で三向聴(サンシャンテン)。親番だし、白を鳴いてさっさと和了りたいところではあるが、どうにも誰かに抱えられている気がする。

 

 引いてきたニ萬を手牌に加える。そして八萬を切り出そうとして、それが先ほどリーチをかけたモモの裏スジだということに気付いた。ベタオリするわけではないが、親リーの一発だけは避けたい。代わりに一筒を切る。

 

 異変に気付いたのは、その時だった。

 

 トンッ

 

(……へ?)

 

 下家の部長が切ったのは、ドラの五萬――モモの裏スジ。

 

「ロンっす」

 

「「は?」」

 

「リーチ一発ドラ1、裏が乗って11600(ピンピンロク)っす」

 

 ニッコリと笑うモモに対し、驚愕の表情を浮かべているゆみ姉と部長。まるで完全な安牌……いや、モモが和了ること事態を想定していなかったかのようだ。俺としては部長が親リー相手にこんなにも無警戒に振り込んだことが驚きなのだが。

 

「え、ちょ……」

 

「あー……東横、すまないが……キチンとリーチ宣言の発声はしたんだよな?」

 

 あまつさえそんなことを言う始末。

 

「何言ってんだよゆみ姉、さっきちゃんとリー棒出して『リーチ』って言ってたじゃん。ねぇ、津山先輩」

 

 俺にだってちゃんと聞こえていたというのに、両脇の二人がモモの声を聞き逃すはずがない。同意を求めて後ろから対局を見ていた津山先輩に同意を求める。

 

「……いや、私にも聞こえなかったのだが……」

 

「え!?」

 

 しかし帰ってきた言葉は、さらに俺を驚愕させるものだった。

 

「いやいやいや、いくらなんだって目の前に座っている人の声が聞こえないはずがないじゃないですか。皆さん一体どうした――」

 

 そこまで口にしてから、俺は昨日のモモとの会話を思い出した。

 

 

 

 ――私は、隣にいようが目の前にいようが、歌ったり踊ったりしない限り誰にも気付かれないっすよ。

 

 

 

「……モモ、お前ってもしかして……」

 

「御人君は気づいたみたいっすね」

 

 クスクスと笑うモモ。純粋に可笑しくて笑っていたのか、それとも自虐的なそれだったのか。

 

「私の気配はいわばマイナスの気配。そのマイナスは私の牌も巻き込むっすよ。……誰もアタシの捨て牌からは和了れないし、私は誰にも振り込まない」

 

「「「「………………」」」」

 

 思わず絶句してしまう俺たち四人。

 

「………………」

 

 そんな俺たちの沈黙とは別の沈黙と共に、モモは少し視線を下げてしまった。

 

「……あの――」

 

「そっかー、つーことは、モモから直撃を取るのは難しそうだなー」

 

 モモの言葉を遮るように、俺はわざとらしく声を大きくする。モモが何を言おうとしたのかは分からないが、それ以上言わせたくなかった。モモの口から、自分自身を卑下する内容なんて一切聞きたくなかった。

 

「でも、どうやら俺には通用しないみたいだけどな。いつもの調子で打ってると、逆に俺に直撃するハメになるぜ」

 

 ふふんと笑いながら、俺は人差し指を振った。

 

「……そうだな、我々もこれからは気をつけなければならないな」

 

「ワハハー、まるで黒ひげ危機一髪をやってる気分だなー。もしくは十七h「それは漫画が違います」」

 

 ゆみ姉たちもそう言って笑い出し、そんな俺たちにモモは呆気に取られた表情になる。

 

「さて、東四局一本場だ。……そのまま逃げ切れると思うなよ、モモ」

 

「……いーや、逃げ切ってみせるっすよ」

 

 やっぱり、モモは笑ってた方が可愛いな。

 

 それはさておき。よし、こっから巻き返す!

 

 ……というか今気付いた。

 

南 加治木ゆみ 28600

西 風祭御人  17600

北 蒲原智美  22300(-11600)

東 東横桃子  36500(+11600)

 

 俺、今最下位じゃん……。

 

 

 

 《流局》




 作者の風邪は鼻から来るタイプ。ちなみに母が熱で姉が喉。

 風邪でもホント個人差があるんだなーと思った。



   †



“東横桃子は称号『   』を手に入れました”
『   』
彼女は決して気づかれない。相手にされない。
それはコミュニケーションを断ってしまったが故なのか、それとも……。

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