咲-Saki-《風神録》   作:朝霞リョウマ

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一ヶ月近く振りのこっちの更新。最新話というわけではないが。


日常編・東四局『五人目の部員・部室編』

 

 

 

「………………」

 

 俺は今ほど、かの有名な赤い人の『若さ故の過ち』という言葉を実感したことは無い。

 

「『俺は、君が欲しい』!」

 

「だあああ!! もうリピートするのは止めて下さい!!」

 

「ワハハー、なかなか情熱的なプロポーズだったなー」

 

「マジで勘弁してくださいって部長!!」

 

 昨日からずっとこの調子である。

 

 昨日、探していた『Default Player』をようやく見つけることが出来た。それはいいんだ。見つけることができたことに関しては何の問題は無い。問題は、教室のど真ん中で俺がやってしまった行動だ。

 

 い、いくら周りが見えていなかったからって、まだまだ人が残っている教室であんなことを叫んでしまうとは……!!

 

「あ、あの、わ、私は嬉しかったっすよ?」

 

 止めてくれ! 俺の心の点棒はもう無いんだ! とっくにハコなんだってば!!

 

 

 

咲-Saki-《風神録》

 日常編・東四局 『五人目の部員・部室編』

 

 

 

「それじゃあ、改めて自己紹介しとこうかー?」

 

「そ、そうっすね」

 

 ひとしきり俺を弄っていた部長は、ようやく満足してくれたらしい。改めて向き直った部長の言葉に、彼女はコクリと頷いた。

 

「一年A組の東横(とうよこ)桃子(ももこ)っす」

 

 ペコリとお辞儀をしながらの丁寧な挨拶。それに応じて俺たちも挨拶を返す。

 

「部長で三年の蒲原智美だ。よろしくなー」

 

「二年の津山睦月だ」

 

「三年、加治木ゆみ。ほら、いつまでも項垂れているな」

 

「はい……。えと、昨日も言ったけど、一年B組の風祭御人。これからよろしくな」

 

「はい、よろしくお願いしますっす!」

 

 いい笑顔だ。というか……。

 

(結構……というか、すごく、可愛い……!)

 

 昨日は『Default Player』が見つけられたということに感激していて全然気が付かなかったが、かなりの美少女。やや前髪が長く目にかかってしまっているため、一目ではやや暗い印象を受けてしまいそうになる。だがしかし、僅かに覗くその瞳、醸し出すその儚げな雰囲気。

 

 ハッキリと言おう。完璧に俺の好みの女の子である。

 

 なんというか、後付けの形ではあるが以前佐賀と話していた内容が実現してしまった。最悪『Default Player』が男の可能性も考えていたのだが、まさかここまで俺の好みドンピシャな女の子だとは予想もしてなかった。ただそのせいで昨日の俺の台詞が今更になって自分自身に対する大ダメージとなって跳ね返ってきているのだけれども。……いやまぁ、ヤローに対して「お前が欲しい」なんて言うことにならなかっただけマシだったと考えるべきか。

 

 閑話休題。

 

 しかし、こんな俺好みの美少女と言っても過言ではない容姿しているというのに、彼女は影が薄いらしいのだ。これはつい先ほどの出来事である。

 

『し、失礼しますっす』

 

『あ、こ、こんにちわー』

 

『ん? 御人、誰に向かって挨拶してるんだ?』

 

『……え?』

 

 とまあ、こんな感じで俺以外の部室内にいた部員全員が彼女の入室に気付くことができなかったのだ。

 

 彼女曰く。

 

「まぁ、皆さんが気付かないのも無理ないっす。私は昔から存在感がなかったっすから」

 

 とのことらしいのだが。

 

「それじゃあ、私たちが気付かなかったのはともかく、何故御人には気付けたんだ?」

 

 確かに、ゆみ姉の言うとおりだ。あの時、東横の存在はあのクラスにいた彼女のクラスメイトにすら認識されていないような状況だったらしいのだ。それになのにも関わらず、何故か俺は東横の存在を認識し、気付くことができた。

 

「そ、それは、私にも分からないっす」

 

「俺にも分かんない」

 

 不思議なことがあったもんだ。

 

 ……いや待てよ。A組の教室で東横を見つけた時と夕暮れの教室で人影を感じた時、両者共に似たような『揺らぎ』のようなものを感じた。そこに存在するはずなのに存在を認識することができないものを認識することができた、と……。言葉にすると若干ややこしいが、何となく心当たりがあるような……。

 

「ま、そこら辺の細かいことは気にしなくても大丈夫だろー」

 

 おおう、人が長々と考察していたというのにバッサリですか部長。いやまあ、そうなんすけどね。

 

「麻雀部員がやることと言ったら、一つしかないだろー?」

 

 そう言って部長が指差すのは、もちろん雀卓。

 

「君の実力、直に見せてもらっていいかな?」

 

「もちろんっす」

 

 その申し出を東横は快諾。

 

(……よっしゃ!)

 

 その返事に、俺は心の中でガッツポーズを決める。

 

 これでようやく東横と、あの『Default Player』と対局することが出来るのだ。元々それが目的で頭を悩ませ、様々な協力と労力を支払ったのだ。今の心境は小学生の頃、クリスマスイブの夜に翌朝のプレゼントを心待ちにしたときと同じ心境である(ちなみにゆみ姉は毎年毎年違う観葉植物をくれた。ああ見えて室内ガーデニングが趣味なのだ)。

 

「メンツは……私と蒲原、あと――」

 

(ワクワク)

 

「――津山か」

 

「異議有り!!」

 

 バンッと机を叩きながら勢い良く立ち上がる。きっと俺の頭上にはギザギザな吹き出しが浮かび上がっていることだろう。それぐらい気迫と気合いが篭った一言であったと思う。

 

「ちょっとゆみ姉!? そこは俺をメンツに入れてよ! 俺超頑張ったでしょ!?」

 

 そのために今まで頑張ってきたと言っても過言ではないのだから。

 

「あ、あの、加治木先輩、私は別に後でもいいので……」

 

「ありがとうございます津山先輩!」

 

 今まで地味な先輩だと思っててごめんなさい!

 

「……何やら不快な思考を感じ取ったのだが……」

 

「しょうがない、津山もこう言っているわけだし――」

 

「――ジャンケンだな」

 

 どうにも((ゆみ姉と部長|この二人))は俺を苛めたいらしかった。ちくせう。

 

 

 

   †

 

 

 

 んで、公正なるジャンケンの結果。

 

「……(血涙)」

 

「あ、あの、いいんすか?」

 

「ああ、気にしなくて大丈夫だ」

 

「ワハハ、我が部にもこういう弄られキャラ(ポジション)が欲しかったところなのだよ」

 

 麻雀の神様はどうにも俺を嫌っていたようだ。結果は俺だけグーで全員パーの一発負け。どうにも作為的なものを感じざるを得ない。

 

 しかしいつまでも血涙を流しているわけにもいかない。卓を囲めないならば、後ろから観戦するしかない。それに、半荘が終了すればまた俺にチャンスが巡ってくるかも――!

 

 ガラッ

 

 すると突然、部室の扉が開けられた。

 

「失礼しまーす。……あ、やっぱりここにいた!」

 

「うげ」

 

 扉から顔を覗かせる来訪者、それは我がクラスの学級長様だった。

 

「風祭君! 君、今日掃除当番でしょ!? さっさと戻って来る!」

 

 三つ編みにメガネという典型的な委員長スタイルの彼女は、如何にも「私怒っています」といった形相でツカツカと詰め寄ってきた。どうやらコッソリと掃除をサボってきたことがバレたらしい。

 

「い、いやー、うっかりしちゃってて……で、でももう流石に終わってるでしょ? 今から行ったところで――」

 

「大丈夫です。ゴミ捨てという名誉の仕事を全員一致で君のために取っておいてあります」

 

「心優しいクラスメイトたちだよ畜生!」

 

 掃除サボった俺が言う台詞ではないが、わざわざ仕事を残してまで押し付けるとは何て奴らだ。

 

「で、でも今俺部活中――」

 

「――ではなさそうですが?」

 

 振り返ると、そこには既に卓を囲んで麻雀を打つゆみ姉たち。俺の居場所は、現在この部室の中には何処にもない。

 

「ほら、さっさと行きますよ!」

 

「ぬあー……!」

 

 ドナドナよろしく首根っこを掴まれズルズルと連行されていく。

 

 まあ、なんというか、今日は厄日だったらしい。

 

 

 

   †

 

 

 

「………………」

 

「……どうした東横、連れて行かれた御人が気になるのか?」

 

「へ!? い、いや、そんなことないっすよ」

 

 トン

 

「あ、それロンです」

 

「え!?」

 

「リーチ相手に生牌(ションパイ)のドラ切りか」

 

「それで気になってないって言われても信憑性に欠けるなー」

 

「う、うう……」

 

(せ、先輩たちは何の話をしてるんだろう……?)

 

 

 

 《流局》




 みんなのアイドル東横桃子参戦!

 彼女とオリ主とのイチャイチャを描くこの小説はここからが本編といっても過言ではない。

 というわけで次回は青春回。



   †



“風祭御人は称号『弄られキャラ』を手に入れました”
『弄られキャラ』
集団の中に、必ず一人は生まれる道化役。
本人は不本意かもしれないが、それはもはや宿命である。

“加治木ゆみは称号『S』を手に入れました”
“蒲原智美は称号『S』を手に入れました”
『S』
人を弄って楽しむ人へ送られる称号。
決して悪趣味なんかではない。全ては愛故に。 

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