咲-Saki-《風神録》   作:朝霞リョウマ

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続けて第二話。


日常編・東二局『鶴賀学園麻雀部』

 

 

「えっと、本日よりこの鶴賀学園に入学しました、風祭御人です」

 

 とりあえず自己紹介という流れになったので、よろしくお願いしますと先輩方に向かって頭を下げる。

 

「私は津山(つやま)睦月(むつき)、二年だ」

 

「三年で麻雀部部長、蒲原(かんばら)智美(さとみ)だー」

 

 黒髪ポニーテールが津山先輩で、赤みがかった髪が蒲原先輩ね。おk把握。

 

「それにしてもゆみ姉、どうして俺を?」

 

 いや、確かに野球やサッカーなどのメジャーな部活動以外において部活の勧誘は、運動系文系関係なく力を入れることだろう。部員が規定人数に届かなければ最悪廃部、良くても活動停止である。部の存続のために新入部員の勧誘をすることは、マイナーな部活動に所属するものならば一度は通らなくてはならない道と言っては過言ではないだろう。

 

 しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がる。

 

 現在、世界の麻雀競技人口は一億人を超えたと言われており、この数字は明らかにマイナーなどという括りに属するもののそれではない。それだけ麻雀はメジャーなものということだ。

 

 その麻雀の部活が、存続の危機などということがあるのだろうか? いや、確かに漫画や小説の世界において、廃部寸前の野球部やサッカー部などが題材になることはあるし、探してみればリアルの世界でもそのような出来事は存在するだろう。しかし、こと麻雀においてそれが当てはまるのだろうか?

 

 それらのこと簡潔に問いかけると、ゆみ姉は軽く溜息を吐いた。

 

「集まらない理由があるんだよ」

 

 

 

咲-Saki-《風神録》

 日常編・東二局 『鶴賀学園麻雀部』

 

 

 

「この鶴賀学園は知っての通り進学校。部活動よりも勉強に力を入れている。よって男子だったら裾花(すそばな)、女子だったら風越女子(かぜこしじょし)などの麻雀強豪校へと進学して行ってしまうんだ」

 

「あー、なるほど」

 

 ゆみ姉の口から語られた理由は、この学校の立地条件および偏差値的な問題だった。

 

 この鶴賀学園の近辺には、裾花高校と風越女子学園という二つの高校がある。この二校は、それぞれ男子と女子で麻雀強豪校。本当に麻雀がしたいっていう人がいるならば、こんな進学校に進学せずにインターハイ県予選優勝の常連であるその二校に進学するはずである。最も、風越女子の方が偏差値が高いが、麻雀がしたいならばもう少し頑張って勉強しようという話になるわけだ。

 

「そもそもこの学校には二年前まで麻雀部がなかった」

 

 あれー!? そもそも麻雀する環境がこの学校にはなかったの!?

 

「私と蒲原が創設して以来、わずかな人数で細々と活動をしていたわけなのだがな……」

 

「大会出場のための規定人数が五人のため、大会にも出場できず」

 

「大会どころか部活自体の存続の危機だったりするんだなー」

 

 ゆみ姉以下先輩方の分かりやすい状況説明ありがとうございます。なるほど、部活を存続させるため、たまたまこの学校に入学した俺に白羽の矢が立った、というわけか。

 

「こんな個人的な理由ですまないが、私たちも後がない状況なんだ。だから――」

 

「大丈夫だよ、ゆみ姉」

 

 今にも頭を下げようとしていたゆみ姉を止める。

 

「俺がゆみ姉の頼みを無下にするわけないでしょ?」

 

 それに。

 

「ゆみ姉が、部員確保のためとはいえ俺を頼ってくれたことが純粋に嬉しいんだ」

 

 昔から、何かとゆみ姉にはお世話になりっぱなしだった。そんなゆみ姉の役に立てるのであれば、俺は喜んで何でもしよう。

 

「だからそんなに気にしないで、ゆみ姉」

 

「……そうか。本当にありがとうな、御人」

 

「いやいや、良い子が入ってくれたねー」

 

「これで部活は存続できそうですね」

 

 おや?

 

「今部活の規定人数は五人って言ってたよね? それだとまだ足りないんじゃ……」

 

 俺が麻雀部に入部したとして、ゆみ姉、蒲原先輩、津山先輩で合計四人。規定人数に一人足りていない。

 

「それだったら問題ない」

 

「私の幼馴染を強制入部させるから、これで五人になるのだよ」

 

 なるほど、強制入部ですか。突っ込みべきところだったのだろうが、俺も似たり寄ったりな立場だから何も言わないでおこう。

 

「それで御人、改めて聞きたいのだが、麻雀部に入部してくれるか?」

 

 そんなことを尋ねてくるゆみ姉。まあ、特にやりたかった部活があるわけではないし、放課後もただゲームしたり漫画したりしているだけだし。たった一度きりの高校生活だ。麻雀とはいえ、部活に青春を捧げてみるのも悪くないだろう。

 

 というわけで、俺の答えは一つ。

 

「もちろん。一年、風祭御人、麻雀部に入部させてもらいます」

 

 こうして晴れて俺は鶴賀学園麻雀部の新入部員となり、新たな高校生活をスタートしたわけである。

 

 

 

   †

 

 

 

 ……なのだが、早速問題発生である。

 

「大会に出場できない?」

 

 全国高校生麻雀大会。夏に行われるこのインターハイと呼ばれるこの大会は、全国から一万人以上の高校生が目指して出てくる。本戦は毎年テレビ中継もされる、云わば『麻雀甲子園』。このインターハイの県予選が八月に行われるわけなのだが……。

 

「出場できないってどういうこと?」

 

 トンッと一索をツモ切りしながらゆみ姉に尋ねる。

 

「ロン、7700だ」

 

「げ」

 

「終了、だな」

 

 言い訳にするわけではないが、話ながら打っていたらゆみ姉に直撃してしまった。流石に焼き鳥ではないし、飛びもしなかったものの、結果最下位。長年家族や親戚で麻雀を打って腕には自信があったのだが、麻雀暦ニ年のゆみ姉に何故か勝てない。というか、普通にゆみ姉強いっす……。

 

 半荘を終え、一息吐いたところで先ほどの会話を再開する。

 

「それで、どうして大会に出場できないの?」

 

 部員はちゃんと五人集まった。これで部活は存続するし、県予選の団体戦にだって出場できるはずじゃ……。

 

「それが、単純な話だったりするんだなー」

 

「団体戦は男子と女子で別れてるんだ」

 

「……あー」

 

 本当に単純な話だった。そりゃそうだ。普通に男女別に決まってるよな。

 

 とりあえず、現状男子は俺一人しかいないから今年の県予選はほぼ絶望的だろう。そもそも男子生徒が少ないこの進学校の中で、今から男子部員を四人集めるのは若干厳しいものがあるだろう。

 

「一人は部長の幼馴染が入ってくれるとして、問題は最後の一人の女子部員ですね」

 

 牌を並べて片付け、点棒を整理しながら津山先輩は溜息を吐いた。昨今の各校の麻雀部であったら各部室に全自動雀卓が配備されているのだろうが、二年前に出来たばかりで規定人数ギリギリの我が麻雀部にそんな高価なものを買うほどの部費が落ちないため、普通に雀卓である。わざわざ自分で山を積まないといけないのは若干面倒ではあるが、こう、自分の手でジャラジャラとかき混ぜるのは個人的に好きだったりする。

 

「今までにも一応勧誘活動はしてきたんですよね?」

 

「ああ。地道に周りに声をかけたり、張り紙を貼ったりしてきたさ。ただ、最近はもっぱらこれだな」

 

 そう言ってゆみ姉たちがカバンから取り出したのは……ノートパソコン?

 

「それ、自分たちの?」

 

「ああ、全自動雀卓が買えないのに、ノートパソコンを三つも買う余裕があるものか」

 

 ……ごもっともでございます。

 

 というか、いいなーノーパソ。普段から漫画やらゲームやら買ってる俺にそんな高価なものを買う余裕など雀の涙ほどもございませんよ。

 

「麻雀部のサーバーを校内LANに繋いでプレイヤーを募っているんだ」

 

「それで、なかなか良さそうな人材がいたら勧誘って流れかなー」

 

 なるほど。校内を歩いて探すより、ネット麻雀で麻雀が出来てそれなりの人物を効率よく探せるわけだ。

 

「それで、今までの収穫は?」

 

「「「………………」」」

 

 いや、まあこの部活の現状を見れば言わずもがな、なんだけど。

 

「これからも地道に続けていくしかないんだろな」

 

 こればかりはどうしようもない。俺みたいにすんなり強制入部って流れの方がおかしいからな。

 

 普通、誰かに無理矢理入部させたところでいつ辞めるか分からない。夏の全国が終わるまでのその場しのぎって考え方もないこともないが、これから三年間部活を続ける身としては出来るだけ長く部活を続けてくれるような人に入ってもらいたいものだ。

 

「それで、先輩方がネット麻雀で新入部員を探している間、俺は一体何をしていればいいんでしょうかね?」

 

 一人だけノートパソコンを持っていないのですが。

 

「「………………」」

 

「……宿題でもしていればいいんじゃないかなー」

 

「……はい」

 

 ……まぁ、進学校だけあって授業のレベルが高く、出される課題が多かったりするのもまた事実。元々結構無理してこの学校に入学した身。少しでも勉強を怠ったら授業に置いていかれる上に、あっという間に補習塗れな日々。ちょっとでも課題を片付けることは大事だ。

 

 こうして、放課後麻雀部では半荘をやった後は一人寂しく課題や勉強をすることとなったのであった。

 

 

 

 《東三局に続く》




メインヒロイン本格参戦まであと四話!

   †

“風祭御人は称号『新入部員』を手に入れました”
『新入部員』
部活という新たなコミュニケーションの場へ進出した者へ送られる称号。
部活の種類によってその待遇は異なるので注意。

“蒲原智美は称号『麻雀部部長』を手に入れました”
『麻雀部部長』
競技として麻雀を行う、そんな部活の部長さん。
顧問の先生がいないため、部活の実質的なNo1となる。

“加治木ゆみは称号『部活の先輩』を手に入れました”
“津山睦月は称号『部活の先輩』を手に入れました”
『部活の先輩』
新入部員が入部したときに既にそこにいる存在、つまり先輩。
一年という年月の差は以外にも大きい。

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